第13話 『ブリーフィング』
新縄島空港、出発ロビー。
人の流れ。アナウンス。スーツケースの音。
どこにでもある空港の風景。
仁十と星華は、並んで歩いていた。
会話はない。
必要がないからだ。
「……あれですね」
星華が小さく言う。
視線の先。
ガラス越しに見える駐機場。
少し離れた位置に、一機の機体。
767。
黒い機体に、緑のライン。
「……ああ」
仁十が短く答える。
少しだけ、その機体を見る。
「機材、変わったな」
「そうですね」
星華も短く返す。
「元は小型機だったはずだが」
「リアジェットと聞いてました」
仁十は一瞬だけ考える。
「……まあいい」
それ以上は言わない。
搭乗口の表示を確認する。
通常の搭乗口とは違う番号。
バス移動の案内。
「こちらです」
後ろから声がした。
振り返る。
見慣れない制服。
「……乗員か」
「はい。縄島航空の佐野です」
軽く頭を下げる。
「本日はご搭乗ありがとうございます」
丁寧だが、少しだけ硬い。
「佐倉です」
「霜月です」
星華も小さく頭を下げる。
「ご案内します」
佐野――大河が言う。
三人で歩き出す。
ターミナルの端へ。
人の数が減る。
音も、少し遠くなる。
バスに乗り込む。
乗客は他にいない。
ドアが閉まる。
ゆっくりと動き出す。
窓の外に、旅客機が並ぶ。
だが、進むにつれて数が減っていく。
やがて、開けた場所に出る。
一機だけ、離れて止まっている。
767。
「……あれか」
仁十が言う。
「はい。スポット201になります」
大河が答える。
バスが止まる。
ドアが開く。
外の空気。
少し強い風。
機体を見上げる。
大きい。
静かにそこにある。
「今回は機材繰りの関係で、こちらの機体になりました」
大河が言う。
「貨物も積載していますので」
「そうか」
仁十は短く返す。
それで納得する。
それ以上は聞かない。
タラップを上る。
機内へ。
中は静かだった。
広い空間。
人の気配が、ない。
「……貸切か」
仁十が言う。
「はい。そのような形になります」
大河が答える。
「また、本日は客室乗務員は同乗しておりません」
「そうか」
仁十はそれだけ返す。
「何かあれば、コックピットまでお声がけください」
「分かった」
案内され、前方へ進む。
ファーストクラス。
「……ここか」
「はい」
星華が座席に触れる。
「広いですね」
「そうだな」
仁十も座る。
深く沈む感覚。
普段とは違う。
だが、問題はない。
大河が一礼する。
そのままコックピットへ戻っていく。
機内は静かだ。
窓の外を見る。
地上スタッフが作業をしている。
特に変わった様子はない。
やがて、ドアが閉まる音。
機内アナウンス。
「本日は縄島航空をご利用いただき、ありがとうございます――」
落ち着いた声。
よく通る。
「当便は、新縄島空港発――」
行き先が告げられる。
星華は窓の外を見たまま聞いている。
仁十は座り直す。
機体がゆっくりと動き出す。
プッシュバック。
エンジン音が低く響く。
振動。
座席がわずかに揺れる。
いつもの感覚。
変わらない。
機体は滑走路へ向かう。
空は晴れている。
何も問題はない。
そのまま、離陸の順番を待つ。
静かな時間が流れる。
――やがて、機体は滑走路へと進入した。




