第15話 『テイクオフ』
滑走路手前。
短い停止。
「縄島国際航空6278便、離陸許可」
「離陸、了解」
雷華が応答する。
スロットルに手をかける。
「スラスト、セット」
エンジン音が低く唸り始める。
機体が震える。
「エンジン安定」
「確認」
加速。
滑走路が流れていく。
「80ノット」
「チェック」
「V1」
「ローテート」
操縦桿を引く。
機首が上がる。
機体が浮く。
「ポジティブレート」
「ギアアップ」
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客室。
微かな浮遊感。
星華が窓の外を見る。
地面がゆっくりと遠ざかっていく。
「……離陸しましたね」
小さく呟く。
仁十はシートに深く座ったまま、前を見ている。
「そうだな」
短く答える。
機体が傾く。
旋回。
街が斜めに流れる。
普段乗る列車とは違う感覚。
だが、不快ではない。
むしろ静かだ。
広い客室。
人がいない。
エンジン音だけが響く。
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コックピット。
「フラップ、リトラクト」
「フラップ、アップ」
機体は上昇を続ける。
「上昇、安定」
「確認」
雷華は前を見たまま言う。
「オートパイロット、オン」
「オン確認」
操作が自動に移る。
だが、視線は外さない。
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客室。
ベルトサインが点灯したまま。
星華は少しだけ体を預ける。
「広すぎません?」
ぽつりと。
仁十がわずかに視線を動かす。
「貸切だからな」
「……贅沢ですね」
「そうだな」
会話は続かない。
それでいい。
窓の外。
雲が近づく。
やがて、白に包まれる。
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コックピット。
雲の中。
視界が一瞬消える。
だが計器は変わらない。
「姿勢、安定」
「確認」
「上昇率、正常」
「了解」
短い確認。
それだけで足りる。
やがて、雲を抜ける。
光。
視界が開ける。
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客室。
急に明るくなる。
星華が目を細める。
「……すごい」
下は雲の海。
何も見えない。
静かな世界。
仁十も窓の外を見る。
「……高いな」
それだけ言う。
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コックピット。
巡航高度へ。
機体は安定している。
「順調ですね」
大河が言う。
「ああ」
雷華は短く答える。
変わらない声。
変わらない表情。
すべて予定通り。
何も問題はない。
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客室。
静かな時間。
エンジン音だけが続く。
星華はシートに身を預ける。
仁十は目を閉じる。
揺れはほとんどない。
空の上。
完全に隔離された空間。
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コックピット。
雷華は前を見続ける。
何も変わらない景色。
計器も正常。
すべてが、正しい。
――ただの、フライトだった。




