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お飾り妻の自覚

「なんだって?」

 ルーカスは自分の耳を疑うように、もう一度ヴァージルに聞きなおした。

「だから盗賊がすぐそこで出たんですよ。守衛の者から報告があったんですよ」

 ヴァージルは部屋をのぞき込み、アーデンの姿を確認するがいるはずもない。


「アーデンはどこにいるんですか?どうして今日ぐらい、アーデンと一緒にいてやらないのですか。さっきだって、アーデンは泣きながらダンスを踊っていましたよね」

「そ、それは…」

(どうして、ヴァージルにはアーデンが泣いていたとわかったのだろうか。まさか、アーデンをずっと見ていたのか?やっぱりヴァージルとアーデンは恋仲なのか?)

 ルーカスは自分の心の奥から湧いてくる黒い感情を抑えられない。

 脳裏には先日、ヴァージルの胸の中で泣いていたアーデンが浮かぶ。あれからずっとあの光景が頭にこびりついて離れないのだ。


「ルーカス殿、なんて顔をしているのですか。貴方でも俺に嫉妬をする心ぐらいは持ち合わせているんですね。あなたのいまの顔をアーデンに見せてやりたいですよ」

 ヴァージルは小さく苦笑いする。


 ルーカスは自分の右手で右頬を左頬をと順に触れてみるが、普段となにも変わらないように感じる。ヴァージルの言っている意味がさっぱりわからない。

「ヴァージル殿はなにを言っているんだ?私はいつも通りだぞ?」

 そんなルーカスを見て、ヴァージルは大きくため息をついた。


「アーデンもアーデンだけど、ルーカス殿もルーカス殿だな。もう大概にしてくださいよ。ふたりともまるで自覚していないなんて」

 呆れながらヴァージルはこれが王都では冷酷・冷淡・冷静の冷〇活用形のような氷の次期宰相候補と噂される男だとは信じがたいなと思ってしまう。

 ルーカスを見ていると「朴念仁」という言葉さえ浮かんできてしまう。

 

 そして、ルーカスが左手で大事そうにずっと握っている小さな箱に目がいった。

 成り行きを見守っていた宝石商と目を見交わすと、宝石商はにこやかにヴァージルにひとつ大きく頷いた。


「そういうことですか。ルーカス殿、急いてアーデンを探しに行きましょう。アーデンに万一があってからでは遅いです」




☆☆☆



 その頃、アーデンは気持ちを切り替えるためと、涙で赤くなった瞳を誰にもバレないようにと、人のいない庭先で花を見るフリをしながら、あてもなくぼんやりと歩いていた。

 

(わたし、シェイラ嬢に嫉妬なんてみっともない。きっと酷く醜い顔をしていたに違いないわ。それに旦那様の前で涙を流すなんて。自分でわかっていなかった。わたし、旦那様のことが好きなのね)


 さっきの旦那様とのファーストダンスの時のことを回顧しながら、アーデンは何度も羞恥心に駆られる。

 あの時の涙は、旦那様にヴァージルとの関係を疑われて悲しかった。そして、シェイラ嬢のほうが旦那様のことを多く知っているようで悔しかった。なにも旦那様に話してもらえない自分が情けなかった。

 その涙だった。


(でも、泣くなんて…もう、旦那様に合わせる顔がないかも。どうしよう)


「アーデン様」

 可愛い小鳥のさえずるような声で後ろから名前を呼ばれて振り返るとそこには、イメージどおりのフリルがいっぱいのピンクのドレス姿のシェイラ嬢の姿があった。

 庭園にピンクのバラが咲いたように可憐で華やかだ。


(わたしもこれぐらい華があれば、泣かずに済んだのかしら。旦那様にお飾り妻扱いをされなかったのかしら?)

 アーデンはシェイラ嬢を見ながら、また嫉妬しそうで悲しくなる。

 

 今朝は準備に追われていて、シェイラ嬢とは顔を合わせていない。

 それにずっとシェイラ嬢に避けられていたから、こうやって面向かって顔を合わせるのは、あの先日以来だ。


「シェイラ嬢、どうされましたか?」


 アーデンはシェイラ嬢にだけは自分がシェイラ嬢に嫉妬して涙しただなんて、絶対に知られたくない。

 普段通りを装うように口角を上げた。


「実は…ルーカスお兄様のことなのです」

 アーデンはまた、シェイラ嬢にルーカスの妻に相応しくないと言われるのだろうかと身構えた。

「どのようなことでしょうか?」

 自分で顔がこおばるのがわかった。


「以前、このモルガン公爵家に仕えていたルーカスお兄様の乳母が門の外のところまで来ております。ぜひとも新しい領主夫人にご挨拶をしたいと。それと、ルーカスお兄様の秘密を話しておきたいと」

「わたしに?」

(旦那様が陛下の隠し子であることかしら?乳母をされていたなら知っていてもおかしくないことよね。どんな方かお会いしておいた方が良さそうね)

 

 シェイラ嬢はこれ以上にないぐらいの綺麗な微笑みを返す。

「ええ。アーデン様に」

「わかったわ。お会いしてきます」

「そうして頂けると助かります。門の外にいらっしゃいます。アーデン様、お願いしますね」


 そう言うと、シェイラ嬢はニッコリと微笑むとその場からすぐに離れたいのか、やや駆け足気味でその場を去る。

(今日のシェイラ嬢はご機嫌ね。ある意味怖いわ)


 アーデンは門の前にいる守衛に外に出ることを告げて、門の外に出る。

 そこには誰もいなかった。

 いや、誰もいないように見えたのだが、アーデンは背後から忍び寄った者に羽交い絞めにされ、声すら上げるタイミングを失ったのだった。

 

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