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お飾り妻の危機

次回で最終回です。

本日の12時に予約投稿済みです。

少し長くなりますが感動の最終回。

よろしくお願いします。

「シェイラ嬢、ここでなにを?盗賊が出たらしい。早くホールに戻るんだ」


 ヴァージルとふたりで手分けしてアーデンを探すルーカスは廊下を優雅に歩いているシェイラ嬢を見つけた。

「ルーカスお兄様、走ってどうされたの?良かったらわたしとダンスを踊ってくださらない?」

 シェイラ嬢は甘えるようにルーカスの腕に自分の腕を素早く回した。

 

 「シェイラ嬢、すまないが離してくれ。私は急いでいる」

 ルーカスから腕をすぐ振り払われた。

 思わずシェイラ嬢は顔を歪める。

 ずっと走っていたのか息が荒いルーカスの額からは少し汗がにじんでいる。

 

(アーデン様を必死に探しても無駄なのにね。ルーカスお兄様おかわいそうに。アーデン様はいまごろ私が手配した荒くれ者の慰み物になっていますわよ。ルーカスお兄様が二度と抱きたくなくなるような女になっていますわよ)

 そんなアーデンの姿を想像したシェイラは楽しくて仕方がない。


「アーデン様はお見かけしませんでしたわ。お庭にもいらっしゃらなかったわ。他を探されたら?」

「……わかった。シェイラ嬢、ありがとう。他を当ってみる」

 「アーデン様を早く見つけて、私と一緒に踊ってくださいね」

(アーデン様はもう手遅れよ。ルーカスお兄様、早く私の元に戻ってきてくださいね)


 ルーカスは再び走り出すと庭の方に向かって行った。


 アーデンを襲うように自分が手配した荒くれ者がいまごろは良い仕事をしているだろう。

 シェイラ嬢はとても良いことをした気分になっていた。



☆☆☆


 アーデンは何者かに背後から羽交い絞めにされ、そのまま引きづられ草むらに連れ込まれた。

 草むらにはもう一人の人間がいた。

 顔を見てやろうとするが、相手は覆面をしているのでどんな人間なのかはわからない。ただ体躯から間違いなく男性だとわかる。

 足をバタつかせるアーデンを大人しくさせようと、アーデンは髪を掴まれ、顔を殴られ、腹を殴られた。


 アーデンは一瞬気を失いそうになるがそれでも必死に抵抗をすると、一発の蹴りが上手く相手の腹に当り、ひとりの男が少し吹っ飛んだ。

 もう一人の男にも暴れるアーデンの腕が上手いこと顎に当り、悶絶しだした。

 アーデンはその隙に立ち上がると走りだす。


 今日はヒールを履いているので上手く走れない。

 すぐさま脱ぎ捨て、裸足で門の中に駆け込もうとするが復活した男たちに道を塞がれた。

 すぐに方向転換し、草むらの先に逃げるしかないが、そこは崖だ。


 それでもアーデンは自分がルーカスに一度も抱かれずにこんな男たちの慰み物になるぐらいなら、死んだ方がマシだと思えた。

 アーデンは崖の方に向かって駆け出し、飛び込むのではなく、崖を駆け下りる。

 しかし崖は急で、途中からは木々が生い茂り、その先はどうなっているかわからない。裸足になっているので足の裏が痛いが気にしていられない。

 急な崖を駆け下り、3歩進んだところで案の定、姿勢を崩して派手にこけると、そのまま崖を転がり落ちていく。

 もうスピードが乗り出すと、転がり落ちるのはどうにも止められない。天地がぐるぐると回る。

 

 男たちはさすがに崖に飛び込んでまではアーデンを追ってくる気はないようだ。

 転がり落ちていくアーデンを崖の淵で唖然と立ち尽くして2人で見ている。


 木々が生い茂るところまで転がり落ちると、ようやく木のおかげでアーデンは止まることができた。

 かなりの距離を転がり落ちたので、アーデンの目では上の方にいる男たちの姿を確認することはできない。

 なんとか立ち上がり、ヨロヨロと少し下ると気づけばすぐそこは山道だった。


「領主夫人?」

 そこには荷馬車を走らせるオーウェン司祭の姿があった。

「えっ?オーウェン司祭?」

 裸足でボロボロの姿で呆然と立ち尽くすアーデンを見て、只事ではないとオーウェン司祭は慌てて荷馬車を止めて、アーデンの傍に駆け寄った。

「領主夫人はなんてところから出てくるんですか?崖から来たのですか?今日は物産展の激励会ですよね?」

 アーデンは、今日は急な葬儀が入ってオーウェン司祭は急遽、欠席になったことを思い出す。

 

「お忙しい…ところ、ごめん…なさい。オーウェン、司祭、わたし、知らない、男に、追われています。匿って、ください」

 いつもは聡明で歯切れよく話すアーデンが、片言片言を絞りだすように話す姿を見て、いつものように察しの良いオーウェン司祭はすぐに事態を把握したようだった。


「領主夫人、どんなところでも隠れる自信はありますか?そして、どこにお連れすれば良いですか?」

「わからない…でも、旦那様の、元にも…帰れない」

「わかりました。あとは私に任せてください。ではここに隠れてください」

「ここ?」

「ばっちり隠れられて、尚且つ寝心地最高ですよ」



☆☆☆


 盗賊出没したと報告があってから、アーデンの姿が見当たらなくなって、半時が経とうとしていた。

 屋敷中を探したがアーデンは見つからず、あとは外の捜索をするしかない状況だった。

 ルーカスとヴァージルは騎士団に捜索を要請しようと準備を整えていたその時、騎士団が急ぎ物産展が行わている屋敷に到着し、どこから情報を得たのか不審者2名を捕まえていた。


「この者達が奥様を襲撃したと供述しました」

 あまりにもの騎士たちの仕事の速さにルーカスは驚きを隠せない。


「えっ…と、騎士団長のダンだったか?久しぶりだな。なぜ、もうすでに盗賊が出たと知っている?そして、捕まえられたのだ?」

 ダン騎士団長はニヤリと笑った。

 「私達は領主夫人にご提案いただいた「訓練をしながらも稼ぐ方法」でいまは公爵領地全土にすばらしい情報網を敷いています。領主夫人からも説明をお聞きでしょう?」

「ああ…。平和な時代だから、乗馬の訓練を兼ねて運送業を始めたとか…その運送網を網目のように張り巡らしてあると聞いている」

 「そのとおりです。領主夫人は素晴らしい提案をしてくださいました。その網目のような情報網からすぐに情報を得て、こいつらの確保となりました」

 誇らしそうに他の騎士たちもダン騎士団長の言葉に頷いた。

 「では、アーデンの行方も?」

「もちろんです。ただ…」

 ダン騎士団長はそう言うと目を伏せた。そして、他の騎士たちも俯いたのだった。

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