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お飾り妻の嫉妬

「旦那様、ご心配なく。わたしとヴァージルはただの従兄弟です。旦那様が心配されるような関係ではありません」

「でも、アーデンはヴァージルといる時の方が笑っている」

 ルーカスはアーデンを責め立てるような言い方をしているのに、瞳には不安を映す。

「それは…幼い頃から知っている仲ですので気心が知れているだけのことです」

 アーデンには、ルーカスはアーデンが嘘を吐いているのではないのかと疑るようにじっと見つめているように見えた。

 そして、ルーカスはダンスでつないでいた手を痛いほど、ぎゅっと握ってきた。

 

(まるでわたしが浮気をして、嘘を吐いているみたいね。ヴァージルはただ、シェイラ嬢にまとわりつかれ、それを断らず付き合うルーカスがわたしを放置しているのを気遣って傍にいてくれるだけなのに)

 


「では、旦那様もずっとシェイラ嬢と一緒におられるではありませんか。シェイラ嬢に呼ばれたらすぐに彼女の傍に行かれるではありませんか。旦那様はお飾り妻であるわたしではなく、本当はシェイラ嬢と結婚したほうがよかったのでしょう?シェイラ嬢が妻のほうがよかったのでしょう?」

 アーデンは捲し立てるように言い放った。

「おか…お飾り妻?アーデンが?」

「今更なにを。しらじらしい。そうでしょう。わたしは最初からお飾り妻でしょう?それに旦那様が前公爵夫妻が亡くなられてから、公爵領地に帰って来られなかった理由をわたしは聞かされておりませんが、シェイラ嬢はご存じのようでしたよ。夫婦だったらなんでも話さなければならないとは考えませんが、せめてそういうご事情ぐらいは、他人もご存じのようなことでしたら、お飾り妻のわたしにもお聞かせいただけていると、今後のお飾り妻としてのお役目の参考になり、助かります」


 アーデンの頬を一筋の涙が伝う。

 「アーデン、どうして泣いているんだ?」

 「わかりません」


 ぽろぽろとアーデンの瞳から涙が溢れだすが、いまはダンスで手をつないでいるために涙を拭ってやることができない。

 アーデンはルーカスの瞳を見つめながら、声を上げることもできず、静かに涙をこぼす。


「アーデン…」

 ルーカスはアーデンの涙を拭ってやりたいが、いまはどうすることもできない。

 途中でダンスを止めれば不審に思われるし、せっかく盛り上がっている激励会の雰囲気を台無しにしてしまう。

 ただ、アーデンが悲しそうに自分の瞳を見つめて涙を流す姿に心をぎゅっと掴まれたように苦しい。


 きっと、周囲の人にはアーデンのこの涙は見えていないはずだ。


 しかし、これ以上話をすると、険悪な雰囲気になりそうだと判断したふたりは1曲目が終わるのをひたすら無言でダンスをしながら待つ。

 そこに情熱もなにもなく、ただ長く感じる時間が早く過ぎることを各々祈りながら、完璧に踊りこなすふたり。


 そんな事情を知らない周囲は領主夫妻の完璧なダンスに感嘆をもらす。


 そして、ようやく曲が終わった。

 ふたりで一礼をして長かったダンスの時間が終わった。


「旦那様、外で気持ちを整えてまいります」

 まだ瞳にいっぱいの涙を残しているアーデンが、痛々しいほどの笑顔でそう言うと、ルーカスの手を離した。

「アーデン、待っ…」

 アーデンを止めようとするルーカスにタイミング悪く話しかける者がいた。


 「失礼、モルガン公爵、出展する商品を見ていただきたいのですがよろしいでしょうか?」

 物産展に出展してくれる宝石商がルーカスに声をかけてきたのだ。無下には出来ない。 

 「旦那様、お待たせしたら申し訳ないわ。私達はあとでお話しましょう」

 そういうとアーデンはルーカスから小走りで離れた。


 アーデンを追いかけたいのに、いまはこの宝石商がルーカスに見せたいという宝石を見なければならない。

「モルガン公爵、お待たせいたしました」

 別室に場所を移し、宝石商が自慢気に持ってきたのは、たくさんの指輪やネックレスなどだった。


「どれも素晴らしい細工がされた品ばかりだな。物産展に全部これを?」

 並べられた指輪やネックレスをまじまじと見ていると、ある指輪にルーカスは気づいた。

 


「これはまるで私の瞳の色のような宝石の指輪だな」

「本当にそうですね。まるでモルガン公爵の瞳のような水色ですね。これはブルートパーズという宝石です。奥様とご結婚されたときはどのような宝石がついた指輪を贈られたのですか?やはりモルガン公爵様の水色ですよね?」

「えっ?」

 宝石商に当然のように聞かれてルーカスは、はっと気づかされた。


(アーデンに指輪のひとつも花のひとつも贈ったことがない…)


 先ほど、ぽろぽろと静かに泣くアーデンの表情が思い出される。

 彼女はなんと言った?自分のことを「お飾り妻」と。

 

(…アーデン!!)


 ルーカスは胸が潰されるような思いだった。

 「あの、ここはひとつ相談があるのだが、どうか聞いてもらえないだろうか?」

 ルーカスは宝石商にひとつの提案をした。


 その時、部屋の扉がノックをされ、ヴァージルが顔をのぞかせた。

「ルーカス殿、アーデンと一緒か?」

「?いや、アーデンは気分転換に外の空気を吸いに出ているが、なぜだ?」

 ヴァージルの表情が曇る。眉間にしわを寄せた。


「まずいな。すぐそこで盗賊が出たらしい。アーデンはいまどこにいるんだ?」


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