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私が召喚された国はグルング国と言って今居る大陸の西北端に位置していて、領土としてはそれほど小さくもないが領土の三分の一は寒く凍りついた国だった。
なので位置的にも大きさ的にも他国に相手にされていないというか忘れられている国で、実際鎖国的風潮もあって禁断の召喚に手を出すことができたのだと思う。
そして私達は今無事に東南に位置する国境を抜けてマーリアと言う国に入った。
このマーリアはグルングとは別に三カ国と隣接してはいるがそれほど領土は広くもなく、また何かの産業が盛んと言うこともなく、交易商人相手の通行税が主な国の収益になっている。
この世界はダンジョンがあるので領地を争っての戦争が起こることは滅多になく、昔はそのダンジョンの奪い合いが戦争になることもあったがダンジョンを育てる技術が確立してからはどの国も奪うよりも育てる事に力を入れるようになったそうだ。
そんな背景もあって国はダンジョンに入る者を徹底的に自国で管理している。だから冒険者が他国に移ったからと言って簡単にはダンジョンには入れず、やはりその国の許可を得なければならなかった。
何しろきっちり育て上げられたダンジョンを奪おうと思ったらダンジョンの杭を抜くだけで簡単に奪えるし、相手国を弱らせるために杭を壊すと言う手段も取れるからだ。
だからどの国も高レベルの冒険者になればなるほど国から出したがらないし、また高レベル冒険者も他国へは迂闊に行けなくなる。
それは自国のダンジョンを守る目的もあるが、他国のダンジョンを狙っていると疑われ拘束される事もあるからだ。
そんな話をマキシムさん達が話しているのを聞いた時には冒険者とは何と不自由な職業だろうかとうなり、嫌がらせにグルングのダンジョンの杭の一つでも抜いてくれば良かったとちょっとだけ思ってしまった。
もっともそんなことをしたら実際に困るのはあの国の人達で、私が隷属させたアイツらはたいした影響も受けずに困っている民から変わらずに税を毟り取るのだろう。
そんなことは私の望むところではないし、もしそうなったらきっと血の契約が良い仕事をしてくれるはずだと信じたい。
そしてマキシムさん達はこのマーリアをさらに東に抜け、イーリアランドへと向かうそうだ。
イーリアランドは領土も広く大きな港を持ち、他の大陸との交易も盛んなので切っ掛けさえ掴めれば商人として成功するのも夢ではないらしい。
それにイーリアランドは日本で言うところの特許をいち早く導入し、研究者や発明家にあたる魔導具師や薬師の権利を守り、また商人に対しても窓口を広げ多くの商人を受け入れていた。
マキシムさん達は今までグルングで成功したらいずれはと考えていたが、結局成功する前に国が転覆するかもしれないと言う噂を聞きつけイーリアランドへ拠点を移すことを決意したそうだ。
そして無事イーリアランドに拠点を築け商売が安定路線に入ったら、グルングに置いてきた従業員や家族を呼び寄せる予定らしい。
私としてはここでマキシムさん達と別れ他の国へ行く事も可能なのだが、ここまで一緒に行動して来た慣れと言うか安堵感みたいなものからこの先もイーリアランドまで一緒に行くことに決めた。
何しろあの盗賊騒ぎ以降護衛らしい護衛もできていない。それでは無事にグルングを出られ、ここまでたいしたストレスもなく楽に旅をさせて貰ったお礼がまったくできていないことになり、なんとなく納得いかない気持ちもあった。
実際には会話を交わすこともなくただ幌の上に乗せて貰っているだけなのだが、それがどれだけ心強く安心していられたことか。多分一人で歩いての旅だったならきっともっと不安で大変だっただろう。
もしかしたらどこかの街でセイランが差し向けた追っ手に見つかり一騒動も二騒動も起こし、いまだに国を出ることもできていなかったかも知れない。
セイランはその辺はけして侮れない人だったし、いくら追っては追い払えるとは言ってもきっと私の頭では太刀打ちできていなかった。
そう思うとあの時マキシムさん達に出会えたのは最高の幸運だったと言っても良いだろう。
それに二人の会話の端々にはとっても役に立つ情報が多く、書庫で得た情報よりも分かりやすく有益だった。
荷馬車を少しばかり軽くし馬に回復魔法を掛けて少々進行速度を速めるくらいでは本当にお礼が釣り合わない。
もしイーリアランドで少しでもマキシムさんの役に立てることがあったなら、私は何を置いても最優先で力になろうと思うのだった。




