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朝一番なら空いていると思っていた国境は意外にも検問待ちの列が既にできていた。どうやら徹夜で列に並んだ人もいたようだ。
「随分と厳重ですね。いつもはこんなに厳しい検問ではないんですけどねぇ」
「宿の女将が話してたアレじゃないんですか」
「女の子の一人旅ですか。本当なんですかね」
「本当だから報奨金が出るんでしょう。女将も情報を持って行くだけでもかなり貰えると何気に張り切ってましたからね」
考えてみれば当たり前だが商店どころか宿にまで既に手配が回っているようだ。荷馬車預かり所で寝泊まりしておいて本当に良かったと自分の判断を改めて感心していた。
「でもその報奨金の額も実は噂が一人歩きし勝手に大きくなっただけなのじゃないかと思ってるんですよ私は。だから国が何か事情があって女の子を探しているのは確かだとしても全部を信じる気にはなれませんね」
「えぇ~、それじゃ報奨金は出ないかも知れないんですかぁ。三千万ゴルドあったら魔導車を手に入れる足しになると思ったんですけどね…」
「地道にコツコツですよ。第一私達はその女の子を見かけてすらいませんからね」
私の報奨金が三千万に上がっている。本当に噂だけでどんどん話が大きくなっているようだ。と言うことは、セイランは本当はいくら出す気なんだろうか。と言うか報奨金の設定が本当かどうかも疑わしい。
それにしてもマキシムさんは見かけていないと軽く流しているが、もし王都からずっと一緒に居たと知ったらどう思うんだろう。
やっぱり報奨金目当てに突き出すのだろうか。それとも事情を聞いて見逃してくれるのだろうか。そこの所がちょっとだけ気になる。
今までずっと一緒に居て話を聞いていただけとはいえ嫌な気分になったことはない。だから悪い人ではないと思えるし、こうして厚かましくも同行し続けていられる。だから気分だけで言ったらすっかり仲間のつもりだ。ただし目的地に着くまでの一方的な臨時だけれどね。
(護衛だけじゃお礼が釣り合わないかも知れないわね…)
一時間以上待たされてようやくマキシムさん達の番が回って来た。
検問官は荷馬車の中を丹念に調べながら私の似顔絵を見せ、どこかで見かけなかったかと聞いている。やっぱりちょっと似ている気がしないでもない。本当にいつの間に用意したんだろうか。
と言うかアレはいつの私で誰が書いたのか本当に気になるというか知りたい。まさかあの召喚の間でのあの時の私じゃなよね。もっとも貴賓室でだらけている私だったらもっと嫌だけれど。何にしても他国へ着いたらちょっとイメチェンをした方が良いかも知れないと考えていた。
そうして無事検問も終わり、いざ国境を越えようとした時だった。私を目がけていきなりナイフが飛んで来た。危険察知が咄嗟に発動しギリギリ避けることができたが私は心底驚いた。
ナイフは幌馬車の上を通り過ぎ街道脇に植えられていた街路樹にズブリと突き刺さった。そこからしてかなりの威力で飛んで来たことが分かる。
完璧に殺る気満々って感じで、マジで当たり所が悪かったら怪我だけじゃ済まなかったと思う。
私の危険察知が上手く仕事してくれたから良かったものの、一瞬でも遅れていたらきっとあのナイフは私のどこかしらに刺さっていただろうし、それにもし警戒して防御結界を張っていたら結界がナイフを弾き私がここに居るのがきっとバレていた。
ナイフを投げた本人は私の気配をなんとなく察知してはいても姿を確認できていないらしく首を傾げ難しい顔をしている。
「何かありましたか」
「いや、何か居た気がしたんだが気のせいだったようだ」
「ナリス様の投げナイフから逃れられる者などそうはいませんからな。セイラン様は少々の怪我は許すと申しておりましたから、ナリス様でしたらきっと捕らえることができるでしょう」
「そうだと良いんだけどね…」
セイランが隷属魔法をどう掻い潜ってそんな命令を出せたのかという驚きもあったが、怪我をさせてまでも捕らえようと必死なのが伝わってくる。
それに保護じゃなくて捕らえるって言い方が何とも面白くない。愛想を尽かして逃げ出しただけだというのにまるで犯罪者扱いだ。
でもそりゃそうか。隷属魔法を解いていないのだから私の居場所はきっちり把握しておきたいだろうし、欠損まで治せる治癒魔法師はまだ現れていないだろうから最高級ポーションを手に入れられなかったら隷属魔法を掛けた者達の命にも関わってくる。
もし王や王子にあの貴族達が血の契約のせいで命を落としたらある意味殺人者だ。
もっとも私からすれば血の契約が発動さえしなければ何の問題もないのだけれど、あの人達がそう簡単に改心できるとは思えないからセイランも必死にならざるを得ないのだろう。
(それでも掴まる気はないけれどね)
私の隠密術がここまで無事だったことから考えてもそう簡単に見破られるとは思ってもいなかったので、薄らとでも気配を察知できる能力があるのだと知ることができたのは襲われたとは言え僥倖だった。
これからはもっとちゃんと警戒しもっと隠密術を磨こうと考えることができたのだから、ナリス様と呼ばれている彼にもセイランにも一応は感謝しておこうと思うのだった。




