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「何でも女の子が一人旅してるらしいぞ。保護して届ければ国から報奨金が出るって話だ」
「女の子が一人でって、それはちょっと無理があるだろう。誰かしらに掴まって今頃は奴隷商にでも売り飛ばされてるだろう」
国境近くの街の酒場で何気に耳に入った会話だった。
中途半端な時間だったけれど国境が何故か混み合っていたので明日の朝一番に並ぼうと決まり、マキシムさんとジョンソンさんは今夜は早めに休むことにして早い時間から酒場に入って今はかなりご機嫌だ。
私は相も変わらず気付かれないようにして当然居酒屋へも一緒に入った。もう既に休む時以外はなんとなくずっと二人に付いて回わるのが癖になっていた。
もっとも一緒に酒場に入ったからって酒場の食事は見ているだけで、結局亜空間にある料理を一人もくもくと食べるだけなのだけれど。
「それがどこかの貴族の隠し子か何からしくて、魔法も使えるし亜空間腕輪をもっているそうで、たとえ襲いかかっても返り討ちに遭うのが関の山らしいぞ」
「魔法が使えるったって子供だろう。それも女の子ともなれば油断するだろうからな。隙を見て捕まえるくらいはできるだろうよ」
「そう思うなら見つけて捕まえて見せろよ。報奨金はかなり出るらしいぜ」
どう聞いても多分絶対私の話だ。セイランは私が王都を出たのを既に察知して探し始めているようだ。
(それにしても女の子って私を何歳だと思っているんだろう。なんだかそれじゃぁかなり幼い印象を受けるじゃないか、せめて少女と言って欲しい…)
「貴族の隠し子なら高く売れるんじゃねぇか。国の出す報奨金なんてたかが知れてるだろう」
「それがそうでもないらしい。何でも一千万ゴルド出すって話だぜ」
「そんなにか!?」
(一千万ゴルド!!)
セイランは私に最高級ポーション三本買ってもおつりが出る報奨金を出すと決めたのだとちょっと驚いたが、考えてみたら絶対にそれ以上の働きをさせられるだろうし安いような気もしてきた。
「でも考えてもみろよ。国がそれだけ出すってことはそれだけの価値があるってことだ。もしかしたらもっと高く買う所があるかも知れないぜ」
「どこがそんな大金を出して買うって言うんだ。まさか貴族に売る気か?」
「貴族にツテなんかねぇよ。例の盗賊団が優秀な能力者は高く買うって言ってたぞ。そこならば国より絶対に金を出すだろうよ」
「それはそうかも知れねぇけどよ、相手は盗賊団だろう大丈夫なのか」
「大丈夫って何を心配してるんだ」
「盗賊団と関わって無事で済むのかって話だよ」
「それなら安心しな。俺にちょっとしたツテもある。それにヤツらはその辺はきっちりしている」
「ならいいけどよ。どっちにしても捕まえてから決める事だからな」
その探されている本人がここで話を聞いているなんて思いもしないから本当に好き勝手言っている。捕らぬ狸の皮算用とはこのことだ。
「どうやら国境を越える気らしいからここで待ち構えていれば絶対に姿を現す。あとは亜空間腕輪を持って豪遊している女の子を見つければいいだけだ。もうその辺は既に手を回してあるから俺はこうして情報が届くのを待ってるって訳だ」
「何だよ、じゃぁ俺たちはもう出遅れてんじゃねぇか。それなのに話を聞かせるなんてあんたもまったく人が悪いぜ」
「だからな。捕まえたら山分けってことで手を組もうって話をしたかったんだよ。どうだ乗る気はないか?」
「あんたが捕まえても俺達が捕まえても分け前は変わらねぇんだろうな」
「もちろんだ」
「でもそれだと話がうますぎるんじゃねぇか」
(うんうん、私もそう思う)
要は話を持ちかけて見つけさせておいて本当は女の子を連れて逃げるとか、報奨金を受け取ってから逃げるとか、実は情報を待ってるってのは嘘なんじゃないのかと思えるよ。
「俺が手を回せる所には限りがあるんだよ。そこであんた達もできるだけあちこちに手を回して情報を集めて貰いたい。国境では女の子を連れた親子連れさえも怪しまれて検査されてるって話だ。そこの所も踏まえて頼んで欲しい。あんた達はこの街では顔が広いんだろう?」
「ああまぁな。そこまで頼まれたら俺達の出番だな。任せときな。その代わり絶対に山分けの話は守って貰うぜ」
「勿論だ」
(信用しちゃうんだ。簡単すぎるよ。まぁ見つかる訳ないけど頑張ってね)
しかしまるっきり信じる訳じゃないけれどうっかり街を一人で散策し、いつものように豪遊していたら今頃私はこの人に連絡され絡まれていたのかと思うと、気付かれないようにマキシムさん達に付いて回っていて良かったとホッと胸を撫で下ろした。
それにしても国を出る気だとまでセイランにバレていたとは思ってもいなかった。
多分異空間腕輪があるのを良いことに豪遊しまくった話はとうにセイランの耳に入っていて、その購入履歴から推測したのだろうがそれにしても仕事が早すぎる。
マキシムさん達の荷馬車は私のお陰で普段よりかなり速い日程でこの街までたどり着いていると言うのに、既に国境にまで手が回っているとは思ってもいなかった。まさか移動手段までセイランの想定内ってことはないと思いたい。
しかしちょっと不安があるとしたら、国は国境さえ抜けてしまえばもう追っては来られないだろうが、この人達の話に上がった盗賊団に私の噂が届いたら今度は盗賊団に追われる気がしないでもない。
その盗賊団ってのがどれだけの規模でどれだけのものなのかは知らないけど、この間の街での窃盗未遂事件に関わっていた盗賊団だとするとちょっと厄介かもしれない。何しろ積み荷の情報を簡単に手に入れているみたいだったからね。できることなら執着されないことを願いたい。
とは言え、もし本当に私に絡んできたら、相手は盗賊団だ私も遠慮はしない。まぁあくまでも絡んで来たらだけれどね。
私はダンジョンに入れる手段を考えなくてはならないし、何より今は自分専用の魔導車を作らなくちゃならないからわざわざこっちから出向く気はない。それでなくても考えなくちゃならないことが山ほどあって本当に忙しいのだ。
こうなったらやはり最後までマキシムさん達に同行するしかないと改めて勝手に決めさせて貰うのだった。




