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「それにしても荷馬車で貴重な魔導具を運ぶだなんて信じられませんよね。不用心というか何というか。私だったら心配で荷馬車を離れられませんよ」
「そうですね。そんな貴重なものは肌身離さず持ち運ぶか魔導便に預けるかするでしょう普通は。私だってもっとも貴重な物はこうして肌身離さず持っています」
マキシムの鞄は見た感じそれほど大きくもなく、変わった様子もないのでそんな貴重な物が入っているようには到底思えない。あれに入る貴重品となると宝石の類いの小さい物なのだろうか。
何にしても他国に持ち出さなくてはならないような貴重な物だと言っていたからには相当な品なのは間違いないだろう。
もっとも明らかに貴重な物が入っているように見えたらそれはそれで狙われやすくなるから警戒するのも大変だ。
それにしても魔導便って何だろう。もしかしたら日本で言うところの宅配サービスとか郵便パックみたいなものなのだろうか。
荷馬車預かり所の倉庫での騒動では一応無くなったものはないかなどの点検や簡単な聴取などされたが、それ以外では足止めされることもなく案外簡単に解放された。
なのであの盗賊達がどうなったのか、また手引きした者や情報を流した者がどうなったのかは私には分からない。ただただ衛兵に仲間がいないことを願いたいところだ。
「うちもいずれは魔導車欲しいですよね」
「そうですね。魔導車は商人の夢ですし、成功の証ですからね。できれば亜空間ボックス搭載の最新型なんて良いですよね」
「最新型ですか。いったいいくらするんです。確か亜空間ボックス搭載してない物でも五千万ゴルドはくだらないと聞いてますよ。本当に夢は大きくですね。ハハハ」
(亜空間ボックスが搭載された最新型って…。確か時空間魔法を使える人は少ないって話だった筈。でも魔導車に搭載されているのならそういう物が開発されたってことだよね)
ダンジョンから発掘されるマジックバックは結構あるらしいので珍しくないって話だったけれど、容量はそんなに大きくないって確か誰かが言ってた。
魔導車に搭載された亜空間ボックスはいったいどの位の容量を収用可能なのだろう。もうちょっと詳しく知りたい。もしかしたら私にも同じような物が作れるかも知れないからね。
(ああそうか。どうせ作るなら亜空間ボックスじゃなくて魔導車ごと作れればこの先の旅が随分と楽になるのか)
私がマキシム達の話を聞き流し魔導車を作れないかと考えていると突然馬がいななき荷馬車が停止した。
「どうどうどうどう」
「魔導車ですね」
いったい何事が起こったのかと思っていると、後ろから結構なスピードで黒い戦車のような無骨でゴツい物が近づいて来ていた。多分あれが噂の魔導車らしい。
ジョンソンは馬を落ち着かせようと宥め始める。どうやら魔導車は馬や獣が嫌がる音を発しているようで、いち早く気付いた馬が魔導車を避けるように止まったのだろう。
(あれが魔導車か。全然お洒落じゃないね)
日本の自動車をイメージしていたのでちょっと意外というか、その見た目に心からガッカリした。
もし私が自分専用に造るとしたらもっとお洒落でコンパクトな形にしたい。できれば車内にも亜空間を作り広くしてキャンピングカーみたいにするのも良いかも知れない。
(でも、亜空間内は時間が完全に停止してしまうから無理なのか)
私は亜空間を作るのとは別にただ単に空間を広くすることはできないものかと考え、そしてあの魔導車がどうやって動いているのか是非知りたいと強く思い始めていた。
だって本気で自分専用の魔導車が欲しいと思ってしまったのだから仕方ない。
マキシムの荷馬車の幌の上に同乗させて貰うのも悪くはないが、自由気ままな雰囲気でないのがどうも窮屈だ。
他国へ出るまでの付き合いだと思えばマキシムとジョンソンの会話を聞いているのも悪くはない、と言うか結構な情報を貰えて退屈凌ぎにもなっているけれど、やっぱりどうせなら気の向くままに自由に旅してみたい。
(よし、次の目的は魔導車開発よ!)
魔導車が走り去り、動き出した荷馬車に揺られながら、他国へ行ったら最優先で自分専用の魔導車を作ると決意する。
(そのための情報収集はどうすれば良いんだろう…。まぁ情報がないなら一から自分で作る事を考えれば良いのか)
新たな目的ができたことで、魔導具開発の復習をしながらあれこれと設計を考え始めるのだった。




