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「予定より早く到着できましたね。このペースなら次の街へ今日中に着くのも可能そうですがどうしますか」
「そうですねぇ。警戒していた危険もありませんでしたし、馬を休憩させて様子を見てから決める事にしましょう」
馬を馬屋に預け商人達も休憩を取るようなので私も幌から降り、馬にお礼代わりに回復魔法を掛ける。本来の予定ならこの街で一泊する筈だったらしいがどうなるのか私も気になるところだ。
幌の上が思った以上に快適だったのでこのまま同行させて貰う事にしたからには彼らの予定はちゃんと把握しておきたい。
かと言って折角ならこの街もちょっと散策してみたいし、彼らに付いていくべきか置いて行かれないようにこの場で待つか、または一人で適当に散策するか悩むところだ。
まぁでも一人での散策ならいずれ嫌というほどできるしこの街は王都ほど変わったことも無いだろう。となれば今は彼らに付いて回り商人の持つ情報や知識などを得るのが一番の得策だ。
そう判断した私は念のために隠密術を発動させてから彼らと少し距離を取って後を付いていく。彼らは商人だけあって顔も広いのか知人に会う度に挨拶をしながら宿屋に入っていった。
「お邪魔するよ」
「あらマキシムさん今日はまた随分とお早い到着ですね。今日もお泊まりですか?」
どうやら彼らはこの街ではここを定宿にしているらしい。
「今それを思案中でしてね。時間的に次の街へ行くのも可能だとジョンソンが言うもので挨拶だけでもと思い寄らせて貰いましたよ」
「それはまたお急ぎですか? 念のために部屋は取っておきますか?」
「そこまで急いではいないのですが、早く到着できればそれに越したことはありませんからね。馬の元気次第といったところなんですが一応お願いできますか」
彼らは案内されることもなく当然のように宿の食堂らしき場所に入り席に座ると宿の女将らしき人も当然のようにカウンターでお茶を淹れ始めていた。
隠密術で気付かれていないのはいいが、お茶は私もちょっと欲しい。こういうところは断然不便だ。
仕方なしに二階へと続く階段の途中に座り亜空間からお茶の入った水筒を取りだし私もお茶を飲む。淹れ立てのお城のお茶なので香り高く美味しいのはいいが、もしかしたら匂いでバレるかもとビクビクしたが驚いたことに気付かれることはなかった。
まさか隠密術で匂いまで消せるとは思えないので、もしかしたら彼らの鼻が悪いのかと疑いながらももしかしたらもしかするかもと言う思いも消せなかった。
何にしても自分では確かめようがないので答えは分からないが、このまま気付かれないのならそれで今のところは十分だろう。
「食事はどうします。お昼はやってないんですが特別にお作りしますよ」
「それはありがたい。是非お願いします」
「メニューはどうしますか。すぐにお出しできるものとなると限られてしまいますが、時間をいただけるのなら手の込んだ物でも構いませんよ」
「いやいや、時間外にお願いするのに無理は言いませんよ。簡単なもので結構です」
「そうですか? では朝の残りに少し手を加えましょう」
どうやら昼食をここで取ると決めたようだ。
さて、じゃあ私はどうしようかと考えて亜空間の中身を確認していく。勿論私もここで一緒に食事にさせて貰うためだ。
今さら姿を現して一緒にとお願いする訳にも行かないし、かと言って他の店を探しに行くのも面倒だ。それにその間に逸れることになったら目も当てられない。
こんな時のためにしこたま準備してあるので何の問題も無いのだが、気合いを入れすぎて料理にしろ食材にしろ色々揃えすぎていて選ぶのに一苦労と言った感じだった。
何にしろ王都で見かけた出来合の料理を味も見ずに片っ端から購入している。屋台で売っていた物だけでなく商店や食堂などで売っていた物もその場で買えるだけ購入しているので結構な量だ。
時には器ごと売って貰うなどの暴挙もお金があってできること。日本ではテイクアウトは使い捨て容器が当然だったがこの世界でのテイクアウトは自分で器を用意するのが一般的なのでそれも仕方ないことだった。
亜空間腕輪があるから大丈夫だと言って無理に購入した時にはかなり驚かれたが、向こうも多分かなり吹っ掛けた値段を言ってきたので私の暴挙も許されたと言うことだ。
私は無難にサンドイッチのような物を亜空間から取りだし食べ始める。ちょっと固めのフランスパンみたいなパンをスライスし、そこに薄切りにしたキュウリのような野菜を挟んだだけの物だ。
マヨネーズも無いしツナも照り焼きチキンもハムもハンバーグも卵も他には何も挟まっていないが、パンでパサつきそうな口の中にふんわりと野菜の香りが漂い少しだけ水分も与えてくれる。それにシャキシャキとした食感もパンの食感にアクセントを与えていてちょっと面白い。
でもやっぱり日本のコンビニサンドイッチが食べたいと考えながら溜息を吐くのだった。




