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荷物の積まれた馬車の中は狭く窮屈で身動きが取れず、ゆったり座るどころか車輪の振動がダイレクトに伝わってくるので思った以上に辛かった。
例えるなら満員電車の中を吊革に掴まることなく立っているようなものだが、ただ周りが人ではなく木箱なので遠慮無く寄りかかれるのはちょっとだけ救いだった。
しかしどう考えても長時間このままでいるのは辛い。本当に辛い。どうすれば楽になるかを考えて、いっそのこと荷馬車に積まれた荷物を亜空間に放り込んでスペースを作ろうかと思いつく。荷馬車を降りて歩くと言う選択肢は今のところ無い。
しかしもしバレた時は間違いなく窃盗犯罪で言い訳ができなくなる。まあその前に無賃乗車というか無断乗車の犯罪を犯しているので今さらなのだが、荷物が軽くなれば荷馬車を引く馬の負担が減って商人も助かるんじゃないのかと言う思いが過るがそれは後付けの言い訳にしかならないだろう。
取り敢えずどこか別の街へ着くまでの我慢かと考えながらふと荷馬車の上はどうだろうかと思いつく。
幌が掛けられた馬車だが意外にしっかりと骨組みされているようだし幌も丈夫そうで、私一人乗ったくらいでは壊れそうもない。
ただ問題は幌の上は目視できていないので瞬間移動できるかどうかだった。
目視できない場所だが言わば真上だし、一応イメージ的にはバッチリ問題ない。万が一失敗しても馬車から振り落とされるか幌に頭をぶつけるだけだろうから試す価値はありそうだ。
今回は悩むことなく即座に試してみると、案外簡単に瞬間移動できた。
近場なら目視できなくてもイメージさえできれば瞬間移動可能だと分かったのは良かったと言える結果だろう。
それに幌の上は思った以上に居心地が良かった。座っても寝そべっても適度に沈み込んだ幌が体を包んでくれるようで揺れもあまり気にならず、まるでハンモックにでも乗っている気分だ。
天気さえ良ければ寧ろこの場所が一番で、何より三百六十度パノラマ風景を楽しめるのも気分が良い。
街の外はあまり近代的な手を入れられていないので手つかずの自然が広がり、時折魔導機関車が走るのだろうレールが見えるのも長閑さに風情を加えていて、まるで日本の田舎を旅しているような気分になれた。
「そうだタダで乗せて貰うのは悪いわよね」
こんなに快適な移動手段を与えて貰いながら何もお礼をしないのも悪いと思い何かできないかと考えた。
そして荷物を軽くすれば馬の負担が減ると先程考えたことを実行してみようと思いつき、いまだに使ったことのない重力魔法を試してみることにした。
重力魔法は物を軽くしたり重くしたりできるだけでなく、時空間魔法と組み合わせた多分私は絶対に使わないだろう超絶グロテスクな圧縮という攻撃魔法がある。
歴代召喚者の記憶で見ただけでもちょっとしたトラウマになってるくらいに痛そうと言うかスプラッタ具合も激しくて、あれを実際に目にするのは本当に絶対に無理だ。
と言うことで、荷馬車だけが軽くなるように重力魔法を発動させる。軽すぎたら多分荷馬車が浮いて返って安定しづらくなるだろうからここは加減が大事だ。
荷馬車を引く馬が負担にならない重さと安定を兼ね備えた丁度いい具合を見極めるために少しずつ少しずつ軽くしていく。すると驚いたことに馬車のスピードが変わった。
「あれっ、この馬車なんだか早くなってませんか」
「そうですね。急に元気になったみたいですがいったいどうしたのでしょう」
さっきまでは競歩くらいのスピードで明らかに荷物を運んでいますといった感じだったのに、全力疾走とは言わないがちょっと早い人のジョギング程には早くなっている。
多分これ以上軽くしたら本当に全力疾走しかねないと思い慌てて魔法を安定させた。
「もしかして何か危険でも感じて急いでいるのではないですか」
「えっ、危険ですか! どんな危険が迫ってるというのです。この街道は安全な筈なのですがね。少し警戒しておきますか」
急に荷馬車が軽くなり馬の走りが速くなっただけなのだが、いらない心配をさせてしまったようだった。
(そうね、どうせなら護衛もさせて貰いましょう)
護衛らしい護衛を付けずに居るということはそれなりに安全に移動できると言うことなのだろうが、ここはファンタジーな異世界で何が起こるか分からない。私は神眼術のマップ機能と探知機能と危険察知を展開させ荷馬車の上から秘密裏に護衛の役割も果たすことにした。
(まるで忍者にでもなった気分ね)
何事もなく何の痕跡も残さず王都を出られたことでスッカリ気が緩み、復讐のことなど忘れたようにファンタジー異世界を楽しみ始めていた。




