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「ここにカレンロゥズと言う者が泊ってはいないか」
街の繁華街へと行き宿を探していると私を探している者がいた。
騎士や兵士ではないところを見るとまだ指名手配されてはいないようだがそれにしても仕事が早い。きっとセイランの差し金だろう。
城を抜け出したのがバレて探されているとなると悠長に宿に泊っている時間は無いようだ。
それに似顔絵が案外似ている。いったいいつの間に誰に書かせたのだろう。もしかしてセイランはだいぶ前から私が城を抜け出すのを想定していたのかやっぱりどこか侮れない人だった。
「仕方ないダンジョン攻略は後回しにするしかないか」
折角色々考え目論んだのにセイランの仕事の速さには敵わず、掴まることは無いと思いたいが、ここで下手に粘って揉め事厄介ごとに関わり合いたくはない。
これ以上この国の人達に関わるのも面倒だし、この国というかあの王や王子に貴族達がこの先どうなろうともう私には関係ない。
「しかしそうなると公共交通機関を使っての移動ももしかしたら難しいか?」
宿で似顔絵を見せての捜索をされているとなると、同じく公共交通機関でも同じだろう。歴代召喚者の記憶にはまったく無かったが、この世界には辻馬車の他にもお金が出せれば魔導車や魔導機関車に魔導飛空艇という交通手段がある。
魔導飛空艇は友好国間の国交のためにしか使われていないようなので一般人は乗ることもできないが、魔導機関車は国内の主立った街を繋いでいるので辻馬車に比べとにかく移動が早い。その代わり料金はそれなりに取られる。
魔導車は貸し切りタクシーみたいなもので、行き先がどこだろうと目的地まで乗せてくれるが長距離となるとやはりかなり料金がお高くなるので街の中を移動する程度にしか使う人はいない。
そうなると魔導機関車を選びたいところだが、きっと乗り込むときに身分証明が必要となるだろうから無理だろう。隠密術を使い乗り込むのも多分難しいと思われる。
ここでやってみて無理だったらなんてそれこそわざわざ自分がそこに居ると知らせることになる危険を冒す気にはなれない。ここは安全主義でいこう。そのために色々と準備もした訳だしね。
「やっぱり歩いて移動するか。風の向くまま気の向くままってね」
全力疾走と瞬間移動でこの街を抜け、歩いて別の街へ行ってから様子を見て何か公共交通機関を利用するのが賢明かと考えていた。
全力疾走と瞬間移動を延々と繰り返すのはさすがに集中力的に無理があるし、どうせならその時の気分で行き先を決めるのも悪くはないだろう。
「それではあとは頼みましたよ。くれぐれも様子を見て危ないとなったら迷わずに逃げるのですよ」
「分かっています。お任せください」
「店に残した商品など君達の命には代えられません。君達さえいてくれれば店を再建することもできるのですから絶対に店を守ろうなどと考えてはいけませんよ。本当ならすべて持って撤収したいところですがそれではこの街の人に迷惑を掛けることになりますし、もし何事もなかった時に新たに許可を得るのは難しいですからね」
「さすがにこの国は危ないという噂だけですべてを撤収させるのはまだ早いですから仕方ありません。今までご主人様の判断でここまで来たのですからきっと今回の判断もいいように行く信じています」
いち早くこの国のゴタゴタした雰囲気を察した商人が、大事な物だけを別の国へ持ち出そうとしているのだろう。
これから何が起きるかまでは予測はしていないようだが、最悪暴動が起こるとでも考えているのが会話から分かる。
(これってもしかしてチャンスってやつ? 申し訳ないけどこれを利用させて貰おうかしら)
商人が大事なものを運び出す国ならばきっとこの国より断然安心で安全な国に違いない。そこまでこっそり馬車に乗って一緒に連れて行って貰おう。そうすれば歩く必要も公共交通機関を使う必要も無く手配に引っかかる心配も無いと考えていた。
きっとこれは神様のお導きと言うやつに決まっていると即座に決断し、そして動き出した荷馬車の荷物の隙間に瞬間移動して乗り込むのだった。




