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ダンジョン管理人が現れたのは朝日が昇りきってしばらく経ってからで、活動の早い冒険者達が既に何組もダンジョンに入って行ったあとだった。
何度冒険者達に付いていこうと思ったことか、待っている時は本当に時間が経つのが遅い。
そしてダンジョン管理人がダンジョン入り口の扉の脇にある行き先を指定する装置の脇に立つと、あっという間に日本の通勤ラッシュのような行列ができた。
どういう操作でそうなったのかダンジョン入り口の扉は開きっぱなしになり、五人の管理人が点呼を取った者達から順に次々と扉の奥に姿を消して行く。
私も隠密術を使いその合間を縫って一緒にダンジョンへと入ると、驚いたことに中には本当に長閑な農耕地帯が広がっていて、麦や野菜や豆や芋といった作物の畑がそこかしこにあった。
ダンジョンの中なのに地上と同じように開拓し畑を作れるというのは本当だったようだ。
ダンジョン内に畑を作るなんて書かれた文章を読んだ時は何かの間違いかと思ったが、この世界のダンジョンはこれが普通らしく、開拓に成功したらダンジョンに取り込まれることはないらしい。
そしてもっと驚きなのは、一度畑を作り作物を根付かせると、私が知るダンジョン同様新たに開拓し直さない限り永遠に作物が実り続け一日に一度決まって確実に収穫できる
地上は季節や天気が移ろうがここは気候も変わらず一定。そして水を与える必要もなく永遠に収穫できるとなれば地上に畑を作るなんてしなくなるのは当然に思えた。
さらに驚きなのは開拓された場所に魔物が現れることはなく、魔物を相手にする冒険者はまだ未開拓の奥地へと向かって行く。
ダンジョン内全域を開拓すれば良いだろうと思うがすべてがそう上手くは行かず、開拓できる範囲はどうもパーセンテージで決まっているらしく、ある程度の範囲を開拓するとそれ以上できなくなる。なので国は育てる作物に合った環境のダンジョンを見つけるのに必死になっているのだろう。
他にも酪農や畜産をしているダンジョンもあるだろうし、もしかしたら田園や竹林なんてのも作れるのかと思うと私もダンジョン開拓をしてみたいとちょっと思ったくらいだ。
しかし一カ所に設定できるダンジョンの数は限られていて、ダンジョン入り口にある装置の限界数まで設定させていると新たなダンジョンが見つかってもそこに登録することはできない。
なので必要無いとされたダンジョンはダンジョン最奥にある杭と呼ばれる物を壊すことで消滅させるか、杭を抜いて他の場所に移植するしかない。
しかしこの移植もダンジョンのすぐ近くにはできず、ある程度の距離が離れていないとならないため、ダンジョンの移植となると新たに街を作る必要があった。
と言うか寧ろダンジョンの無い街にもダンジョンを作るべく国は必死なのだろう。
開拓したダンジョンが有るか無いかで食糧問題が変わってくるし、それに関連した仕事に関してもかなり苦楽が違ってくる。
となれば誰だってダンジョンのある街に住みたいと思うだろう。どう考えても仕事が楽だしね。だから尚更に国がきっちりとダンジョンを管理しなくてはならないのかも知れない。
できることなら開拓方法も実際に見てみたかったが、このダンジョンは完全に開拓が終わっているのでそれはどう考えても無理だ。
私は収穫の始まった『落穂拾い』のような畑の様子をしばらく眺めてから魔物が居るという未開拓場所へと向かう。
実際に魔物と戦ってみるのも経験だし、どんな魔物が出るのかも興味がある。取り敢えずサクサクッと何戦かしたら他のダンジョンにも入ってみようと考えていた。
多分外ではまだ別のダンジョンへ入るための採取人の行列がある筈なので急げば間に合うだろう。全力疾走と瞬間移動を繰り返し明らかに未開拓と思われる森林へとたどり着く。
するとそこにはラットビット言う名のネズミなのかウサギなのか良く分からない中型犬ほどもある大きさの魔物が居た。
充血しているかのように目を真っ赤にしてこちらを威嚇する様子にはちょっとビビるが、私はレベルがMAXに達していない魔法を使って行く。どうせならすべての能力値をレベルMAXで揃えた方が気持ちが良いからね。
《ライトアロー》一番簡単で発動の早い光属性の攻撃魔法を発動させると光の矢はあっけなくラットビットを貫く。するとその姿はあっという間に黒い靄となりその場にドロップ品を残して消える。
魔物が残すドロップ品は通常一つの筈なのに、そこにはなんだか良く分からない素材で真空パックされたラットビットの肉と宝箱が残されていた。それもまるで松竹梅とでもいうかのように明らかにランクが違う宝箱が三つも。
この世界のダンジョンの宝箱に罠は存在しない。私は迷うことなく宝箱を開けてみる。
まず一つ目の木箱には銀色の板状の物、通常のここと同レベルのダンジョンに入れるカードキーが入っていた。これは歴代召喚者が何度も手に入れた物なので見間違うことはなく私もよく知っている物だった。
次に何かの金属で作られた宝箱を開けてみる。中には金色の同じく板状の物、一度限りで消滅してしまう特別ダンジョンへと入れるカードキーが入っていた。
この特別ダンジョンのカードキーはそう簡単には手に入らない物だが、歴代召喚者の記憶には何度か残っている。それにしてもドロップ率が良いのかそもそも三つも宝箱が残ったのにも驚きだがその中身の希少性を考えても普通じゃないと思える。いったいどうなっているのか。
そして最後に宝石で彩られた見た目も豪華な宝箱を開けてみる。ここまで来たら次に出るのは何かの予測くらいできる。と言うか期待で心臓が超ドキドキしている。
ゆっくりと蓋を開けるとそこには光の当たり具合で螺鈿細工のように七色にも見える板状の物、そう新しいダンジョンへと入れるカードキーが入っていた。
びっくりだった。もしかしたら最高級ポーションかと思っていたのにまさかの新しいダンジョンのカードキーだったとは。
これを手に入れるために歴代召喚者達がどれだけ苦労したか分からない。なのにまさかの初戦でこんなにもあっさりと手にしてしまうとは思ってもいなかった。
すると驚いたことに脳内に響く声。優しく穏やかな印象を与える女性の声だった。
『初回ダンジョン攻略特典を授けます。他にも色々と特典を用意していますのでどうぞダンジョン探索をお楽しみください』
どうやらこの世界の何かの意思は私にダンジョンを攻略させたがっているようだった。




