第22話:【祭りの半額屋台大戦と、砕け散る絆】
古代遺跡での一件以来、私たちの旅は、心が死んでしまったかのように静かだった。
あの後、誰も手を付けなかったカップ麺は、私が一人で喉に流し込んだ。味はせず、ただ胃の中に冷たい塊が沈んでいくだけだった。
そんな最悪の雰囲気のまま、私たちは次の街へとたどり着いた。
偶然にも、街は年に一度の収穫祭の真っ只中。陽気な音楽と人々の笑い声で満ち溢れている。だが、その祝祭の光景は、私たちの間の深い断絶を、より一層、残酷なまでに際立たせるだけだった。
夜になり、祭りの終わりが近づくと、広場に並んだ屋台が一斉に『半額』の札を掲げ始めた。
焼き鳥、リンゴ飴、揚げパン……。半額市の熱気を凝縮したようなその光景に、私の心臓が再び、強く脈打ち始めた。
(そうだ、これだ……! これこそが私の世界だ!)
カイの言う『投資』や『循環』など、実体のない、口先だけの戯言だ。
本当の価値は、ここにある。自分の目で見て、自分の技術で手に入れる、確かな価値。これこそが、揺るぎない正義のはずだ。
カイへの反発心と、自分の正しさを証明したいという焦りが、私を再び、あの過ちへと駆り立てた。
「リナちゃん……」
ユイの、か細い声が聞こえた気がしたが、私はもう振り返らなかった。
仲間との問題を考えることから逃げるように、私は半額戦の渦の中へと、その身を投じた。
私は、もはやただの節約家ではなかった。自分の正義を証明しようと躍起になった、孤高の戦士だった。
人の流れを読み、店主のクセを見抜き、最適なタイミングで次々と半額品を狩っていく。その動きは、もはや芸術の域に達していた。
「おおっ、あの嬢ちゃん、すげぇ!」「まるで踊ってるみてぇだ!」
周囲の見物人から、いつしか歓声が上がる。
そうだ、これが正しいのだ。これこそが、私の価値なのだ。
私は、仲間の冷え切った視線から目をそらし、この一時的な賞賛の光に、必死ですがりついた。
やがて、私の両腕は、抱えきれないほどの戦利品で満たされた。
私は、その勝利の証を誇示するように、仲間たちの元へと戻る。
「見てください! これが、私の『端福流』です! これだけの価値を、私はこの腕で掴み取ったんです!」
その顔は、「どうです! これが私の正しさです!」と、見えないカイに向かって叫んでいるかのようだった。
しかし、私の言葉に、ユイとシオンは何の反応も示さなかった。
ユイは、ただ静かに、一度だけ、ゆっくりと首を横に振った。その瞳には、もはや悲しみすらない。ただ、深い、深い、諦観の色が浮かんでいるだけだった。
そして、シオンが、吐き捨てるように、一言だけ、言った。
「……もう、好きにすればいい」
その言葉は、鋭い刃となって、私の高揚した心を切り裂いた。
自分の「正しさ」の証明が、仲間との間に残っていた、最後の細い糸を、完全に断ち切ってしまった。
腕に抱えた、温かいはずの食べ物が、ずしり、と鉛のように重くなる。
あれほど心地よかった祭りの喧騒が、嘘のように遠くに聞こえた。
私は、自分の勝利と引き換えに、すべてを失ってしまったのかもしれない。
その恐ろしい事実に気づいた時、私の足元で、築き上げてきたはずの絆が、音を立てて砕け散るのが、はっきりと見えた気がした。
リナ
カイへの反発心から、自らの正しさを証明するために半額戦に没頭する。技術的な勝利を得るが、仲間との絆を完全に破壊してしまったことに、ようやく気づき始める。
ユイ
リナの独善的な行動に、もはや言葉もなく、深い諦観に沈んでいる。彼女の心は、限界を迎えようとしていた。
シオン
リナに完全に見切りをつけ、突き放す。護衛としての義務は果たすが、仲間としての関わりを放棄した。




