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第21話:【古代遺跡のカップ麺と、証明したかった正義】

 港町の宿屋で迎えた朝、私の頭はカイの言葉でいっぱいだった。

『君の節約は、誰の懐を温めるんだい?』

『死蔵された金は、石ころと同じだよ』


 一睡もできなかった。これまで絶対の正義だと信じてきた道が、ただの自己満足で、誰のためにもなっていない「死んだ価値」だと言われたのだ。そんなはずはない。私の『端福流』は、もっと崇高なもののはずだ。


 結局、あれだけ執着した海王魚のアラは、私一人では持て余してしまった。ユイもシオンも手を付けようとしない。私はその巨大な頭を、宿の主人に銀貨数枚で買い取ってもらうしかなかった。価値を見出し、手に入れたはずの宝が、私の手の中ではうまく『循環』せず、わずかな銅銭に変わっただけ。カイの嘲笑が聞こえた気がした。


 三人の間の会話は、もうない。

 私たちはただ、次の目的地である古代遺跡を目指して、無言で歩き続ける。

 私の頭の中は、カイへの反発心と、仲間たちの冷たい視線、そして焦りが渦を巻いていた。


(違う。私のやり方は、間違ってなんかない。価値あるものを、無駄なく使う。それが一番正しい道のはずだ。あの商人のように、ただ金をばら撒くだけの、中身のないやり方とは違うんだ!)


 そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、足元が崩れていくような不安に襲われた。


 そんな最悪の精神状態で、私たちは古代遺跡に到着した。

 風化した石柱が並ぶだけの、寂しい場所。以前と同様、貯蔵庫で、私は再び「それ」を発見した。

 白い容器に、古代語が記された、「カップ麺」。


 その瞬間、私は暗闇の中に一条の光を見出した気がした。

 そうだ、これだ!

 これこそ、私の『端福流』の原点であり、正しさの証明だ!

 あの商人が語るような、金で未来を買うなどという薄っぺらい思想ではない。古代から受け継がれてきた、質素だが確かな、本物の知恵。


(これを皆で食べれば、二人もきっと分かってくれるはずだ。私の道の正しさを。これが、本当の価値の共有なのだと!)


 私は、もはや仲直りのためではなかった。カイに突きつけられた疑問符を、自分の信じる「正義」で塗りつ潰すために、必死だった。

 私は意気揚々と三つのカップ麺を準備し、湯気の立つそれを、二人の前に差し出した。


「さあ、二人とも! これを食べてください! これこそが、本物の価値です!」


 その必死な形相が、逆に二人を怯ませていることにも気づかずに。

 ユイとシオンは、差し出されたカップ麺を、複雑な表情で見つめていた。

 やがて、ユイが絞り出すように言った。


「……リナちゃん。私が欲しいのは、これじゃ、ないの……」


 シオンも、冷ややかに続けた。


「物を与えれば、人の心が動くとでも思っているのか」


 その言葉に、私の心の箍が外れた。


「どうしてですか!? これこそが本当の価値です! あの商人のように、ただ金をばら撒くだけの偽善なんかじゃない! 古代から続く、本物の知恵なんです! この価値を、この正しさを分かち合えないなんて、間違っているのは、あなたたちの方です!」


 私の叫びは、もはやユイとシオンには届いていなかった。

 それは、この場にいないカイという男の幻影に向けて放たれた、空虚な咆哮だった。

 そのあまりに独りよがりな姿は、二人の心を、さらに深く、絶望の底へと突き落とした。


 結局、誰もカップ麺に手を付けなかった。

 三つの容器から立ち上っていた湯気は、いつの間にか消え失せていた。


 カイによって植え付けられた迷いと焦り。それを振り払おうとした私の必死の行動は、最悪の形で、仲間との絆を破壊してしまった。

 自分の正しさを証明しようとすればするほど、大切なものが遠ざかっていく。

 その地獄のような悪循環の中心で、私はまだ、一人で立ち尽くすことしかできなかった。

リナ

カイの言葉に焦り、自らの正しさを証明しようと暴走する。思い出のカップ麺を「正義の象徴」として仲間に強要し、関係をさらに悪化させてしまう。


ユイ

リナの独善的な行動に、深く傷つき、絶望する。彼女の言葉は、もはやリナには届かない。


シオン

リナの行動に、わずかに残っていた仲間意識も消え失せる。彼女が説く「正義」の空虚さを見抜き、完全に失望している。


カイ

リナの心に「死蔵された価値」という呪いの言葉を植え付けた張本人。彼の存在が、リナを焦燥と暴走へと駆り立てている。

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