#18 ソフィー救出戦 (3)
「うぐあはははははっ!!! 三幹部も簡単にやられちまったなァ! ヒャハハハッ! どうするよォ? 商品ちゃんよォッ!! 正体がバレるなァッ!」
クリゴードがニヤニヤイヤらしく笑いながら、ソフィーに問う。
「ど、どーもこーもないもんっ!! おとーさんはたすけにきてくれたってことだもんっ!! おまえなんかにまけたりしないもんっ!!」
クリゴードは「クカカカ」と笑う。
「ハハハッ!! そりゃあ、良かったなァッ! 化物さんよォ。 テメェはアイツに感謝するんだなァ、せいぜいよォ。夢を見させてくれてありがとうってなァッ!! ヒャハハハハハッ!!」
そのとき、後ろから声が聞こえてきた。
「残念ながら、夢じゃなさそうだよ、クレイジーおじさん。
そして、ごめんな、ソフィー。遅れちゃったよ……」
「テメェ……いつから居たンだァ?」
クリゴードはそう言いながら夕を睨みつけると、夕もクリゴードを睨み返した。
「お前が、ソフィーのことを化物だとか言ってたあたりからだよ……。どういう了見だ……。人の家族を化物扱いしやがって……!」
ソフィーは急に泣きそうな顔になり、懇願するように叫んだ。
「おとーさん……。しらないで……。きかないで……。おねがい……」
クリゴードはそれを見てニヤリと笑った。
「ククク。本っ当に知らねェみてェだなァ。ハハッ! なら、教えてやるよォ。コイツのことをなァッ!!」
ソフィーはクリゴードの方を向き、泣き叫ぶ。
「やめてっ!! やめてやめてやめてっ!! おねがいだからっ!! やめてっ……。これいじょうとらないでよ……ソフィーのたいせつなもの……」
クリゴードはとても顔を歪ませ、笑い声をあげる。
「ヒャハハハッ!! ヒャハハハハハッ!! やっぱ! やっぱ! 最ッ高だなァッ!! 誰がやめてやるかってのォッ!!
言ってやるよォッ! アイツになァッ! ハハハッ!
おいそこのお前、よォく聞いておけェ。コイツはなァ」
「やめてっ!!」
ソフィーの叫びをクリゴードは当たり前のように無視する。
「コイツはなァッ!!」
「やめろ。聞きたくない。お前の汚い口からだけは聞きたくない……!!」
夕はクリゴードを睨みつける。
それを見たクリゴードはたじろぐ……はずなく、哄笑する。
「ヒャッハァーッ!! ヒャハハハッ!!」
クリゴードは背中を思い切り反らし、笑う。
「お前、最ッ高に面白いなァッ!! ナニ善人ぶってんの? 『聞きたくない』だァ? チョーカッケェーーッ!! だが残念ンンンッッッ!!
そんなんで止めるかっつうのォーッ!! ヒャハハハハハッ!!」
夕は何も言わず、クリゴードを睨み続ける。
「ヒャハッ! おォ、怖ェ怖ェ。怖ェじゃんよォ~。ンで、コイツはなァ」
「おねがいだからやめてよぉ!」
「それ以上、口を開くな外道がぁあぁぁっっ!!」
夕は瞬動を使い、一気に距離を詰めてクリゴードに迫り、喉に右腕を伸ばす。
しかし、クリゴードはそれを掴み、グイッと引き寄せ、地面に叩きつける。
「ぐふぁあ!」
クリゴードは夕の耳元に顔を寄せる。
「やめて、やめてやめて……」
「コイツは……鬼族なんだよォッ!! コイツはなァッ!!」
「あぁ、あぁ、あぁ……」
ソフィーが檻の中で崩れ落ちる。もう、見捨てられた子犬のようになっている。
「……」
「どうだァ? ン? これでもまだ助けるッてのかァ?」
「……鬼族だからなんだ。いくらこの世界で鬼族が嫌われていたとしても、俺には関係ない。俺には、関係ないんだよ……。
だから俺は……俺は、俺の正義を貫くだけだッ!!」
夕はクリゴードを振りほどき、向かい合う。
当のクリゴードは青筋を立てて、口元をヒクヒクさせている。
「ああン? なんなんだよォ。そンの薄ら寒い反応はよォ!? 『鬼族だからなんだ』だとォッッ!! 善人ぶってんじゃねェよォッッ!! コイツらは、コイツら鬼族は化物だろォがよォッ! 鬼族はハーフエルフ以下のゴミクズだろォがよォッッッッ!!!!
奴隷当然ッ!! 家畜当然だろォがァッ!! 何自分にゃ関係ねェとかほざいてンだァァアアァァァッッッ!!」
夕はクリゴードの目をしっかり見つめた。
「ソフィーは、返してもらうぞ。クレイジー野郎」
「ククク。クハハハハハハッ!! そうかァ。そうかそうかそうかァッッッッ!!」
夕は詠唱を始める。
「出来れば、代償魔術は使いたくはなかったけど、仕方ないッ!
我が流血を讃え、我が糧となれ。
我が手に剣を、我が手に剣を……」
夕の詠唱の終わりと同時に、夕の足元に魔方陣が現れ、文字が浮かび、夕の周りを回り始める。
そして、夕から流れ出ている血、流血と、出来かけていたカサブタがベリベリと剥がれ、魔力へと還元していく。
「ううぁ……うぐぁ……。い、痛ってぇ……。ちっくしょ、だから、この魔術は使いたくなかったんだよ……。 だけど、だけどほんの少しあとほんの少しだけ……魔力を得た」
夕の右手からほのかに光が集まり、剣の形を象っていく。これは、気剣という、気を剣の形に収束したものだ。
そして、夕はソフィーの檻に近づいていく。
「今、助けてあげるからね、ソフィー」
夕がソフィーの入れられている檻に手をかけ、気剣を当てた。
そして、刃を進ませると、まるで、豆腐を切るかのように滑らかに切れていく。
「はぁ、ふぅ。切り……終わったよ。ソフィー、出ておいで」
「チッ! 誰がおとなしく待つかよォッ!!」
クリゴードはバネの仕掛けのように唐突に飛び出してきて、夕に肉薄する。
「おらァァァァァッッッ!!」
クリゴードの拳が夕の腹にめり込む。
「おぐ……ぐあぁぁぁ……ッ!」
夕は血を撒き散らしながら吹っ飛び、壁に激突する。
「あがぁ……ッッ!!」
クリゴードはそのままソフィーの方を向き、ソフィーの手を背中に回し、持ち上げた。
「ううぅっっ……。いたいっ!! やめてっ!!」
叫ぶソフィーをクリゴードは完全に無視する。
「だろォなァッ!!」
クリゴードがそのまま投げようとしたとき、夕が手をソフィーに向けた。
「クソッ! 気剣に魔力を使いすぎたか!
我が流血を讃え、我が糧となれ。
対象を水牢で包まん」
夕の体から流れ出る血が魔力へと変わり、夕は対象に狙いを定める。
しかし、撃つ前にクリゴードはソフィーを壁に向けて投げた。一瞬遅れて夕が水牢を撃つ。
その水牢はソフィーの方へと飛んでいき、壁にぶつかる直前に、ソフィーを水牢が包み込んだ。
「ソフィー、安心していいよ。息は出来るから」
「テメェッ!! どォいうことだァッ!!」
クリゴードはあまりのわけわからなさに大声を張り上げる。しかし、夕にとっては当然の行為で、いたって冷静だった。
「どうもこうも、ソフィーを保護しただけだよ。ふぅ。危なかったよ。……やってくれるじゃあないか人の家族をさぁ」
クリゴードは腕に力を込め、大声で叫ぶ。
「糞野郎がァッ!! どいつもこいつもどいつもこいつもお前もあいつもォッ!!
どォしてどォしてどォしてッ!! 俺は二の次なンだよォッ!!
俺がァッ! 俺が取るに足らないッてかァァァァッッッ!!」
「ん? あいつ?」
と夕が思ったのもつかの間、次の瞬間、夕は上向きに吹っ飛んでいた。すぐに天井にぶつかり、上昇は止まる。
「ガハッッッ……!」
しかし、そのすぐ下には、夕の腹に目掛けて両足を揃えて飛び蹴りしてくるクリゴードの姿があった。
夕が気がついたときにはもう、天井にめり込んでしまい、身動きが取れなかった。
夕がクリゴードの姿を探そうとしていると、横から「ズガガガガガガッッ!!」と爆音が聞こえてきた。
「な……んだ……」
夕がそう思った瞬間、夕の横腹に拳が沈みこんでいた。
「ぐふっ……。がはぁっ……。なん……なんだ……」
地面に落ちた夕にクリゴードが踵落としを叩き込む。
「呑気に考え事してる場合じゃねェんじゃねェの? おォい?」
「グハッ……。アレは……なんだよ。アレは……」
地面に倒れ伏した夕が見たものは、一直線に亀裂が走っている天井だった。いや、アレは、亀裂というよりは、溝といった方が正しいかもしれない。
「どんな魔術を使ったんだよ……。いや、直接殴られた感触からいくと気術か? でも、魔力は感じられない……。なんなんだよ、お前……!」
クリゴードは立ち上がろうとしている夕の頭を、足で踏みつける。
「クハッ、クハッ、クハハハハハハッ!!」
クリゴードは夕の頭をグリグリと地面に擦り付ける。
「あぐ、ぐは、ああぁッ!!」
「クハ、クハ、クハ。魔術だァ? そンなもん俺が使えッかよォッ」
クリゴードはより一層、足に力を入れる。
一方、夕はクリゴードの言葉に困惑していた。
「魔術が、使えない……だと? そんな馬鹿な?! 今は、魔術道具だってあるんだぞ……! 誰だって、魔術を使えるはずじゃ……」
クリゴードはつま先で顎を軽く持ち上げ、夕に上を向かせる。
「ははははッッッッ!! 魔術道具ゥ? そんなもん俺が持ってるように見えンのかァ?」
「……」
「誰でも魔術が使えるだァ? 皆が皆お前と同じとか思ってンじゃねェだろォなァ? 人間だって魔術道具使ったって魔術使えねェ奴ぐらい居ンだろォがよぉ。種族ぐるみで使えねェのも居ンだろォがよォ。お前もお子ちゃまじゃねェんだ。なンにも知らねェはずがねェだろォ? お前も知ってンだろォ? あアん?」
夕の表情が予想外の情報に凍りつく。
ーーありえないありえないありえない!! そんな馬鹿な、はずが、ない……。
「まさか、お前も、鬼族、なのか……?」
クリゴードは夕の頭から足を離し、顔を歪ませ哄笑する。
「クハハハハハハッッッ!! はッはァッ!! そのォ! そのまさかだぜェッ!! 俺も鬼族なんだぜェッ!! 驚いたかよォ!? 俺も鬼族とか関係ねェんだろォ? 鬼族だからどォしたとか言ってくれるンだろォ? えェェ?」
夕はフラフラと立ち上がり、クリゴードを見据える。
「あァん? なンだよォ? 俺は化物だッてかァ? 俺は人じゃねェッてかァ? ン?」
「……。お前は、お前は同族だろうっ!? お前は同族なのに、同族のくせにッ!! どうしてッ!! どうしてソフィーを!! ソフィーたちを傷つけるんだよッ!? 何奴隷にしようとしてんだよ……。意味がわからないッ!! わからないよ……。 お前は、何がしたいんだよ。一体何がしたいんだよッ!?」
クリゴードは顔をさらに歪んだ笑みでいっぱいにする。
「どォして? どォしてだとォ? クハッ! クハハッ!! 何がしたいかだとォ? 知りたいかァ?」
夕はクリゴードを無言で見据える。
「クハ、クハ、クハ。そうかそうかァ。なら教えてやるぜェ? そンなにしりてェんならなァ。……。ぐ……」
クリゴードがそう言ったとき、崩折れる。
「なっ?!」
「なンかァ、語ンなきゃいけねェ。そンな気がする……。語ンなきゃ、言わなきゃ、いけねェ……」
クリゴードの目から光が失われる。何やら、強迫観念にかられるかのように、何かに語らせるかのように、クリゴードは語り出す。
とりあえず、これで改稿作業が終わりました。
次からは、投稿が少し遅くなってしまいますが、
ご容赦ください




