#16 ソフィー救出戦 (1)
夕は意外と疲弊していた。
夕は元々魔力総量が少ない上に、探査魔法陣の連続使用、瞬動と風纒の長時間連続使用をしているからだ。
初級とはいえ、塵も積もれば山となるのだ。
「とはいえ、省エネもしてられないんだよな。時間との勝負だしね」
夕は走る。
探査魔法陣で探し出した奴らのアジトと思われる建物の中を。
夕が全力で走っているとき、「バタバタ」と足音が聞こえてきた。
夕は耳を澄ます。そして、舌打ちをした。
「前から……か。気づくのが少し早いけど、まぁ、今更仕方ない。真っ向から不意打ちしてやるさ」
夕は勢い良く走り出す。走りながら戦闘態勢を整える。
手早く印を結び、炎纒を拳に発動する。
夕の両手から炎が噴き出し、収束していく。
足音が近づいてくる。
夕はまた印を結び、今度は雷刃を作り出す。
足音は一番奥の曲がり角から聞こえる。
そこから一気に飛び出して雷刃を一斉に浴びせかける。
「オラァッ!! 喰らえ!! 外道共がぁっ!」
そして、先頭にいた男を殴り飛ばす。
その攻撃自体はギリギリで防がれたものの、炎纒で強化している拳だ。
炎を爆発させつつ、力任せに拳を振り抜いた。
そのおかげか、吹っ飛ばすことは出来た。
「ぐ……、コイツだぁ!! やるぞー!」
一人が叫び、敵は夕を囲んだ。
敵は一斉に魔術を放つ。
「チッ!!」
夕は急いでいくつもの印を結び、出来るだけ相殺する属性の魔術を行使するが、如何せん印は略式詠唱の類いのため、完全に防ぐことはできなかった。
夕は地面を転がったが、すぐに立ち上がり、軽く、手首と足首を回し、ダメージが少ないことを確かめる。
「ちっくしょぅ……」
「コイツ中々やるみたいだぜ?」
「さすがフェスを倒しただけはあるみたいね」
そこにいる二十人ほどの男女が口々に囁きあっている。
「うるせぇよ。さっさとかかってこいよ……!」
夕はそう呟き、構える。
「はっ! 袋叩きを御所望のようだぜ! やるぞ!」
一人の掛け声で、一斉に殴りかかってくる。
夕は素早く印を結ぶ。
創り出すのは風纒をかけた沢山の炎剣。
夕は宙に浮かべたそれを自分を中心にして振り回す。
「なぁっ!?」
敵が炎剣に翻弄されている間にもう一つ魔術を発動させる。
「炎龍の顎!」
複合魔術を修めた夕が作ったオリジナル魔術、威力は中級を優に超える。上級までは夕では無理だが。それに、発動までに時間が掛かるのが大きな欠点だ。
だが、それは夕の高い魔力操作による恩恵、魔術の多重展開によって解決させた。自分で時間を稼ぐのだ。
夕の右腕に大きな龍の頭を象った炎が現れた。
「おおおおおおおおおおおおッッッッッ!!」
正直言って、魔力消費が半端じゃない。腕に纏わせたのも少しでも魔力消費を抑える為だ。
夕は炎剣を捌くのに精一杯な敵に腕を向けた。
「行けえぇぇえっ!」
夕のその言葉と同時に龍の顎はあんぐりと大きく開けて、炎を吹き出した。
「うおぉわぁっ!?」
その炎は敵を巻き込み、燃え上がる。
「クッソ野郎がぁっ!」
辛うじて倒れなかった敵が夕に向かってくる。
「まだだ!」
夕はが思いっきり地面を殴りつけると、爆発を起こす。
男は爆風に巻き込まれ、壁にぶち当たる。
「出来れば、こんな乱暴はしたくはなかったけど、あまりにも人数が多すぎッ?! グハァッ!! グ……フ……」
突然夕の体が前に吹っ飛んだ。
夕はふらふらと立ち上がる。
「な……んだ?!」
次の瞬間背中に激痛が走り、夕は宙に浮かんだ。
そして、目の前に男が現れ、夕に向かって全体重を乗せた拳を振り下ろした。
「グフゥッ! グハッ!?」
夕は勢いよく地面に叩きつけられ、息が出来なくなる。息を吸おうとしても、喉が「ヒューヒュー」となるだけだった。男は夕の横に現れ、思いっきり蹴り飛ばす。
夕は壁に叩きつけられ、重力に抗うことなく地面に落ちる。
「ははは。意味がわからないというような顔をしているなぁ? そりゃそうだろうよ。全員倒したと思って決め台詞吐こうとしてたもんなぁ? はははっ! 俺はお前が最初に殴り飛ばした奴だよ。もしかして、あの程度で動けなくなると思ったか?
アホか? 俺はちゃんと防御してたじゃんよぉ~? こんなにもピンピンしてんぜ?
それによぉ、あの大技の後は隙だらけじゃねぇかよぉ~。 爆風と爆音で俺の瞬間移動が分からなかっただろ?フェスから聞いたぜ? さっきな。
お前、空気の振動を感じ取れるようだが、あの状態じゃあさすがに無理だろ。
じゃあな。お前は頑張ったよ。だから、死ね」
「ぐ……ぐ……ギ、ぐぉ……」
夕は必死に印を結び、同じ魔術を重ねて魔術を強力にしていく。
「ははっ! 悪足掻きも度が過ぎれば無様だぜ? 侵入者ぁ?」
「悪足掻きなんかじゃないさ……」
夕はそう言って印を結び続ける。
「ほう? じゃあ何だよ? 言ってみろ」
夕はニヤリと笑い、叫んだ。
「お前を倒す必殺の一撃だッッ!」
夕は右手を上に向けた。
男はバッと後ろに下がった。
が、夕は右手から霧を発生させただけだった。
男は瞬間移動をする。
「はっはー! どこがだぁ!」
「これがだ!」
夕は魔力を沢山込めた雷刃を出し、弾けさせた。
すると、雷刃から発生した雷が霧を伝ってこの部屋一帯にいる人間たちを感電させる。
瞬間移動した男も例外ではない。
「がああああぁぁぁあああぁぁああッッッッッッ!!?」
床に転がっていた男女たちと、夕を追い詰めた男がビクンッビクンッとのたうち回り、体からプスプスと煙をあげている。
「はあはあ……。流石の空間移動も雷は避けられなかったみたいだな。まぁ、所詮、反応するのは人間だ。反応速度が光よりも早いはずがないしな。
圧倒的有利という立場があんたを油断させたんだ。俺とおしゃべりなんかせずにちゃっちゃとトドメを刺せば良かったんだよ。
結果が、これだ……」
夕は気絶した男に語りかけたあと、印を結ぶ。
「待ってろ、ソフィー。今、そっちに助けに行くからなッッ!」
そう言った夕は、風纒を体にかけ、走り出す。
残り少ない魔力を酷使して……。
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レインコートの男が指で単眼鏡を作り、夕の姿を見ていた。
千里眼の魔術だ。
「頑張ってくれよ……。頼むから……!」
レインコートの男は、絞り出すように、心の底から辛そうにそう言って、姿を消した。
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「ほう。侵入者め、中々やりおるな。のう、ティスニ」
三幹部の一人が口を開いた。ティスニと呼ばれた男は無言で黙っている。
すると、代わりに三幹部の一人である女が話し出す。
「ダメよぉ~。ブマラトぉ。ティスニちゃんはぁ、緊張してるのよぉ。ボスの前でぇ、ヘマするのをぉ、びびってぇ。ねぇ~、ティスニちゃあん」
最初に口を開いた男、ブマラトはまたも口を開いた。
「おうおう。それもそうであったな。すまぬすまぬ」
ティスニは、かなり鬱陶しそうに口を開く。
「黙れよ、老いぼれ爺いに、お節介婆あ。お前らの方がよほどビビってんじゃねーかー? 急に口数が多くなってよー」
女は「ふふふ」と不敵に笑う。
「私、ホニエマはまだババアと呼ばれる年ではないわぁ。ティスニちゃあん? まぁ、確かにぃ、そこにいるブマラトはぁ、すんごい老けてるけどぉ、あぁ見えてぇ、まだぁ、四十代、らしいぃわよぉ~」
ティスニはどうでも良さげに生返事をする。
「あぁ、そう」
「のう、ホニエマ。その喋り方もうちっとどうにかならんのか? 聞き取りにくくてしょうがない」
ブマラトは全く関係ないことをのたまう。そこがまた爺い呼ばわりされる所以であるかもしれない。
それに対し、ホニエマは、
「まぁ、考えとくわぁ」
とやる気のない返事。
その時、ボスが戻って来た。ホニエマがすぐさま反応し、それに続いて二人もお辞儀した。
「クリゴード様ぁ。あいつらがやられてしまいましたわぁ」
ボス、クリゴードは驚いた顔もせず、無機質な声音だ。
「あァ、そうかァ。相手の様子はどうなんだァ? あいつらは捨て駒として、役に立てたのかァ? どうなんだァ?」
ホニエマは間を空けず、すぐさま答える。
「侵入者はぁ、だいぶ疲れているようですわぁ。多少なりとも役に立ったと考えて差し支えないと思いますよぉ。クリゴード様ぁ。大丈夫ですよぉ、貴方様の手を煩わせるようなことにはしませんわぁ。
ねぇ~、ブマラトにぃ、ティスニちゃあん?」
ホニエマがぐるりと振り返ると、二人は敬礼していた。
「当然です」
「当たり前じゃあ」
クリゴードは無表情で三人を見る。そして、口を開いた。
「下っ端供の補充はいくらでも出来るがよォ、三幹部は中々難しいからよォ、俺を失望させんじゃねぇぞォ」
三人は姿勢正し、びしって敬礼した。
「もちろんです」
「もちろんございますわぁ」
「もちろんですわな」
そして三人は侵入者の元へと向かって行った。
一人残ったクリゴードはソファーにどかりと座り、檻に入れられ、手錠もされているソフィーに話しかける。
「お前を助けに来た奴は頑張ってるなァ、あァ?」
猿轡は外され、奴隷服に着替えさせられたソフィーはキッとクリゴードを睨みつける。
「おとーさんは、おとーさんはぜったいにまけないもんっ!! ひとのためにここまでぼろぼろになれるひとがまけるはずないもんっ!!」
クリゴードはソフィーを見すらしない。
「そうかァ。あいつはお前の親がわりなのかァ。へェー。まァ、良かったなァ? 人扱いして貰えてよォ? そこはいいとしてもだァ、あいつはよォ、お前が何者か知ってんのかァ? お前を人扱いするなんざァ、もしかすると、知らねェんじゃねェのォ?」
クリゴードのその言葉にソフィーはビクッと震え、顔を痙攣らせる。
「やっぱりそうかァ。お前、出来るだけ、隠したそうだったもんなァ。ニット帽被るぐれェだし、調節すらできねェんだろ?
ククク。
さて、と、あいつはお前の素性を知って尚、助けてくれるのかァ?
あァ? お前の素性を知ったあいつの顔が思い浮かぶぜェ。
かわいそうになァ。
あいつはお前みたいな奴救う為に命張ってんだぜェ?」
ソフィーは涙目になり、叫ぶ。
「やめて! やめてやめてやめてっ!! ぜったいだめっ!! おとーさんにはしられたくない……。やっと……やっと……。うぅ。あなたはっ! あなたはっ! どうしてソフィーのたいせつをとるの?!
クリゴードは初めてソフィーの近くにより、同じ目線にまで近づく。
「ったりめェだろォがよォ。お前らに、人権があるとでも思ったのかァ? ある訳がねェだろォが。化物の種族がァ。人間様の生活なんてしていい訳ねェだろォ。この家畜がァ。いっちょ前の口聞いてんじゃァねェよォ、化物がァ。家畜を家畜らしく這い蹲ってりゃいいんだよォッ!! あァァッッッ!! イッライラするなァッッ!!」
クリゴードは思いっきりソフィーの入っている檻を蹴り上げる。檻は吹っ飛び、ソフィーは悲鳴をあげる。
「家畜がァッ!! 化物がァッ!! 鬼がァッ!! 魔物がァッ!! 俺はお前らとは違ェんだあァァァァッッッ!!!!」
クリゴードがガンガンと檻を蹴り続ける。
ソフィーは中で恐怖に震えながらも、小さく反論する。
「ちがうもんっ! おになんかじゃないもんっ!! ばけものじゃないもんっ!! ソフィーたちもひとだもんっ!! ちゃんとひとだもんっ!!!!」
クリゴードはギラリと目を光らせて、檻を掴み、持ち上げる。うるっせェんだよォッ!! もォしゃべんじゃねェェェッッ!! おらあァァァァァッッッッッ!!」
クリゴードは檻を振り回し、壁に投げつける。
ソフィーは悲鳴をあげるしかない。
「きゃあぁぁぁっっっ!!」
「思い知れェッ!! 化物のォ、鬼がァァァァァッッ!!」
クリゴードの絶叫が響く。
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夕はふらふらと歩いていた。夕は壁を手すり代わりに歩いている。よく見ると、それは夕の血のようだ。血色の手形がくっきりと残っている。
「はあ、はあ、はあ」
最早、魔力は限界だった。本格的に無駄遣いは出来なくなった。
その時、足音が微かに聞こえてきた。バタバタバタと。
「足音? 三人ぐらいか? くそっ。まだいたのか。もう、ほんの少しも無駄遣いは出来ないのに……! でも、やらなきゃ……」
夕は壁を伝いながら先へ進む。
曲がり角を曲がると、そこはちょっとした広場だった。
そして、その中心には三人の男女が並んでいた。真ん中に高慢そうな女。右に老けた男。左にダルそうな男。
「あらぁ? 侵入者ちゃあん。ぼろぼろじゃないのぉ。血だらけだしぃ、皮膚は割れてカサカサしてそうだしぃ、顔は青いしぃ、魔力欠乏症じゃないのぉ? ふふふ?」
夕は挑発に乗る気力もない。故に、
「余計なお世話だ……。お前らに構ってる暇はないんだ。すぐ終わらせてやる……!」
夕は、残り少ない魔力を練り上げ、戦闘態勢をとる。
道のりはまだ遠い。




