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黒騎士物語  作者: 神
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第30話 冒険者パーティー

第30話 冒険者パーティー


 翌日の朝。


 一年A組の教室へ入ってきたニーニャの姿を見て、話していた生徒たちが一斉に口を閉ざした。


 赤黒い魔物革で作られたビキニアーマー。


 手足には金属板で補強された革製の防具を装着し、腰から伸びた巨大な尻尾を堂々と揺らしている。


 昨日の模擬戦で制服を焼失したため、冒険者として活動するときの装備を着てきたのだ。


「何を見てるニャ?」


 集まった視線を声援だと勘違いしたのか、ニーニャは得意げに胸を張った。


「やっぱり昨日の戦いで、私の実力が学園中に知れ渡ったみたいだニャ!」


挿絵(By みてみん)


「服装を見られているのよ」


 席に着いていたクロエが冷静に指摘する。


「これしか着る物がなかったんだから仕方ないニャ。放課後になったら、新しい制服を買いに行くニャ……」


 制服代を思い出し、ニーニャの犬耳と尻尾が力なく垂れ下がった。


「それは好きで着ているんじゃないのか?」


 ジンが尋ねる。


「動きやすいから気に入ってるニャ。でも、学園には制服を着てこないと駄目なんだろうニャ?」


「誰がそんなことを言った?」


 いつの間にか教壇へ立っていたシルベスターが、気怠そうに煙草へ火をつけた。


「ニャ?」


 ニーニャが顔を上げる。


「服装規程に書かれているのは、黒騎士学園の紋章を見える位置につけることだけだ。服そのものは自由だぞ」


「初めて聞いたニャ!」


「今、初めて教えたからな」


「だったら昨日のうちに教えるニャ!」


「聞かれなかった」


 悪びれる様子もないシルベスターへ、ニーニャが詰め寄る。


「私は一晩中、制服代をどうやって稼ぐか悩んでたんだニャ!」


「悩みが一つ減ってよかったな」


「絶対に知ってて黙ってたニャ!」


「言い掛かりだ」


 シルベスターは紫煙を吐き出し、ニーニャのビキニアーマーを眺めた。


「その格好でも構わねえ。購買部で学園章だけ買って、胸か肩につけておけ」


「本当かニャ?」


「ああ」


「だったら、新しい制服は買わないニャ!」


 先ほどまで垂れ下がっていた耳と尻尾が勢いよく持ち上がる。


「やっぱり、動きやすいいつものビキニアーマーが一番だニャ! 浮いた金で美味しい肉を食べるニャ!」


「立ち直るのが早いわね」


「いつまでも過ぎたことを悩んでも仕方ないニャ!」


「ついさっきまで一晩中悩んだと訴えていたぞ」


「ジンは細かいことを気にしすぎだニャ!」


 ニーニャは上機嫌で自分の席へ向かった。


 担任が服装自由と認めた以上、周囲の生徒たちも何も言えない。ただし、男子生徒たちの視線だけは、授業が始まってもしばらくニーニャへ集まっていた。


 その日の放課後。


 新人戦の代表選抜へ出場する五人は、訓練場の片隅に集まっていた。


 ジン、クロエ、ニーニャ、イアン、そしてアグニス。


 申請書に名前を連ねたとはいえ、まだ全員が互いを信頼しているわけではない。


「選抜戦の申請期限まで一週間しかないわ」


挿絵(By みてみん)


 アグニスが腕を組み、集まった面々を見回す。


「少なくとも、それまでに一度は五人で戦っておくべきよ」


「訓練用ゴーレムを借りるかニャ?」


「それでは敵の動きが単調すぎるわ。対人形式の方がいいでしょう」


「いきなり同じ一年生に手の内を見せるんは、もったいないんと違うか?」


 イアンが細い目を閉じたまま笑う。


「選抜戦で当たるかもしれへん相手に、能力の弱点まで教える必要はないやろ」


「では、どうするの?」


 四人の視線が、自然とジンへ集まった。


 ジンは少し考えた後、腰の刀へ手を添えた。


「冒険者の依頼を受ける」


「依頼?」


「ああ。訓練場の敵は、俺たちを殺そうとはしない。本当の魔物を相手にした方が、五人がどう動くか分かる」


「随分と乱暴な訓練方法ね」


 アグニスが眉を寄せる。


「だが、戦闘経験と報酬を同時に得られる。それに魔石も手に入る」


「魔石、ね」


 クロエの黄金色の瞳が、僅かに細められた。


「あなた、本当に魔石が好きなのね」


「強くなるために必要だからな」


「それだけかしら?」


「それだけだ」


 ジンは平然と答えた。


 自分が魔石を喰らい、悪魔の力へ変えられることは話せない。まして、二体の黒騎士を秘密裏に動かし、毎日のように魔石を集めさせていることなど知られるわけにはいかなかった。


「私は賛成だニャ!」


 ニーニャが勢いよく手を上げる。


「依頼を達成すれば報酬がもらえるニャ。浮いた制服代と合わせれば、しばらく肉には困らないニャ!」


「ワイも異論はないで。学園の訓練より、冒険者の仕事の方が稼ぎになるからな」


 残る三人の視線がアグニスへ向けられる。


「私は、あなたを隊長と認めたわけではないわ」


 アグニスはジンを睨む。


「分かっている」


「腹が立たないの?」


「信頼されていないのは事実だ。なら、行動で判断すればいい」


 アグニスは何か言い返そうとしたが、結局言葉を呑み込んだ。


「……いいわ。あなたが仲間をどう扱うのか、見せてもらう」


 五人はその足で、首都ザザンの冒険者ギルド本部へ向かった。


 夕方の受付は、依頼を終えた冒険者たちで混雑していた。武器と酒の臭いが漂う中を進み、ジンは見慣れた受付へ向かう。


「ジンさん?」


 書類を整理していたナーベが顔を上げる。


 ジンの後ろに並ぶ四人を確認し、僅かに目を見開いた。


「今日は随分と大人数ですね」


「五人で受けられる討伐依頼を探している」


「もしかして、学園のお友達ですか?」


「友達ではないわ」


 アグニスが即座に否定した。


「これから友達になる予定や」


「勝手に決めないで」


 イアンの軽口へ冷たい視線を向ける。


 ナーベは複雑な関係を察したのか、それ以上追及せず、依頼書の束を取り出した。


「ジンさんが責任者となるなら、皆さんも同行者として参加できます。黒騎士学園の生徒証もありますから、Cランク相当までの共同依頼を紹介できますが……」


 何枚かの依頼書を確認したナーベの手が、一枚の前で止まった。


「ちょうど、五人向けの討伐依頼があります」


 机の上へ置かれた依頼書には、巨大な背びれの絵が描かれていた。


「豊穣の海に出没した《ギガントシャーク》の討伐です」


「サメかニャ?」


「普通のサメではありません。推定全長は十五メートル以上。すでに三隻の漁船が襲われ、七人が行方不明になっています」


 豊穣の海は、王国最大の漁場だ。


 ここで漁ができなくなれば、周辺の漁村だけでなく、首都の食料事情にも影響が出る。


「報酬は金貨八百枚。討伐後の魔石と素材も、依頼を達成した方々へ譲渡されます」


「受ける」


 ジンは迷わず答えた。


「即決ですか!?」


「魔石も手に入る」


「やっぱり、それが目的なのね」


 クロエが小さくため息をつく。


「待ちなさい。海の上で、どう戦うつもり?」


 アグニスの指摘に、全員が黙った。


 ニーニャの雷は、海中へ放てば味方や船まで巻き込みかねない。


 アグニスの炎も、大量の海水を相手にすれば本来の威力を発揮できない。


 重い全身鎧を纏う黒騎士に至っては、水へ落ちればそのまま海底まで沈むだろう。


「まあ、何とかなるニャ!」


「考えることを放棄しないで」


「黒騎士は呼吸を必要としない」


 ジンが答える。


「水面では戦えなくても、海底を歩くことはできる。使い道はある」


「ワイの悪夢なら、血の臭いも獲物の動きも再現できる。サメを誘い出すことはできるはずや」


「私の魔銃なら、船の上から狙撃できるわ」


 三人の視線がアグニスとニーニャへ向けられる。


「炎が海へ通じないと決まったわけではないわ」


 アグニスが赤い髪を払う。


「海水ごと焼き尽くして、水面へ追い出してあげる」


「それなら、最後は私の雷で丸焼きにしてやるニャ!」


「船ごと沈めるなよ」


「分かってるニャ!」


 ニーニャの返事に不安を覚えながらも、ジンは依頼書へ署名した。


 翌朝。


 豊穣の海。


 五人はギルドが手配した漁船に乗り、沖へ向かっていた。


 空は青く、風も穏やかだった。


 ニーニャは船首から身を乗り出し、初めて見る広大な海へ目を輝かせている。


「すごいニャ! どこまで行っても水しかないニャ!」


挿絵(By みてみん)


「落ちるなよ」


「子供扱いするなニャ!」


「さっきから尻尾が濡れているわよ」


「ニャッ!?」


 慌てて巨大な尻尾を抱え上げるニーニャの後ろで、イアンが船員から周辺の被害状況を聞き出している。


 アグニスは船酔いを悟られまいと、青い顔で水平線を睨んでいた。


 そのとき。


 上空を飛んでいた海鳥たちが、一斉に鳴き声を止めた。


「静かになったわね」


 クロエが海面へ黄金色の瞳を向ける。


 船の下を、巨大な黒い影が通過した。


 端から端まで、船体よりも長い。


「依頼書には、十五メートルと書いてあったわよね?」


 アグニスが剣の柄へ手を伸ばす。


 海面から突き出した背びれだけで、ニーニャの背丈を超えていた。


「どう見ても、十五メートルでは済まへんなあ」


 イアンの笑顔が引きつる。


 直後。


 船底を、凄まじい衝撃が突き上げた。


「ニャアッ!?」


 船体が大きく傾き、五人の身体が宙へ浮く。


 海面が爆発したように盛り上がる。


 白い水飛沫の向こうから、無数の牙が並んだ巨大な顎が姿を現した。


「来るぞ!」


挿絵(By みてみん)


 ジンが刀を抜く。


 五人で挑む、最初の実戦。


 その相手は、漁船さえ一口で噛み砕く海の怪物だった。

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