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第70話 閑話:飢餓に沈む白亜の王都と、見捨てられた枢機卿の末路

第70話 閑話:飢餓に沈む白亜の王都と、見捨てられた枢機卿の末路

神聖王国ルミナリアの中心であり、大陸のすべての信仰と富が集まる場所。

白亜の城壁に囲まれ、中央には教皇が住まう壮麗な大聖堂がそびえ立つ『王都ルミナス』。

かつてこの街は、国土全体を覆う『大聖結界』の最も強固な恩恵を受け、いかなる魔獣の脅威も、他国の侵略も寄せ付けない「地上の楽園」として君臨していた。

しかし今、その王都を包んでいるのは、神聖な祈りの声でも、市場の活気ある喧騒でもなかった。

街の至る所で燃え上がる略奪の炎、飢えに狂った暴徒たちの怒号、そして、かつては民を見下していた特権階級の貴族や高位神官たちが、自らの屋敷を破られて発する無様な悲鳴だけであった。

王都の中心、大聖堂の最奥に位置する、枢機卿ルキウスの豪華絢爛な執務室。

分厚い防音扉に守られたその部屋の中で、神聖王国の実質的な支配者であるルキウスは、血走った目で自身の権力の象徴であった白銀の杖を床に叩きつけていた。

「なぜだ……! なぜ食料が届かんのだ!! 豊穣の平原のグリーンヒル村には、王都の軍を差し向けてすべての作物を没収するように命じておいたはずだぞ!」

ルキウスの怒号が響き渡るが、目の前で平伏する伝令の神官は、恐怖でガタガタと震えながら絶望的な報告を口にするしかなかった。

「も、申し訳ございません、ルキウス枢機卿猊下……! グリーンヒル村に向かった徴税部隊は、誰一人として帰還しておりません。偵察に赴いた飛竜部隊の報告によれば、平原一帯の農業村はすべて、正体不明の『巨大な白亜のドーム』によって完全に覆い尽くされているとのことです!」

「ドームだと……? 馬鹿なことを言うな! あの広大な平原を覆うような建造物が、この世に存在するはずがなかろう!」

「し、しかし、現実なのです! 軍がドームを破壊しようと魔法を放ちましたが、傷一つ付けることができず……逆に、ドームの防衛システムと思われる光の雨(レーザー)によって、一瞬にして部隊の半数が蒸発させられました。もはや、我々があの平原から一粒の麦すら徴収することは不可能です……!」

ルキウスは、目眩を覚えて豪華な椅子に崩れ落ちた。

王都の食料の七割を依存していた穀倉地帯が、完全に独立し、不可侵の領域と化した。それはつまり、百万の人口を抱える王都が、完全に「干上がった」ことを意味している。

「ならば、サンクタムだ! 城塞都市サンクタムのマクシミリアン司教は何をしている! 奴のところには備蓄の食料と、魔力鉱石が山ほどあるはずだ! なぜ王都への支援物資を送ってこない!」

ルキウスが縋るように叫ぶと、別の情報武官が、もはや死人のような顔色で前に出た。

「……サンクタムは、すでに陥落いたしました」

「な、なんだと……!? あの難攻不落の城塞都市が、他国の軍に攻め落とされたというのか!?」

「いえ、攻め落とされたのではありません。……『買収』されたのです」

情報武官の言葉に、ルキウスは自身の耳を疑った。

「サンクタムの周囲には、いつの間にか巨大な『魔導高架橋』と『地下鉄網』が張り巡らされ、都市は完全に包囲されていました。そして、西方大陸から来たと名乗る『安全第一商会』なる組織が、外街のスラムに無償で莫大な食料を配り始め……内街の経済を完全に崩壊させたのです。マクシミリアン司教が極秘に開発していた戦略級兵器も、たった数人の特務部隊によって一瞬で破壊され、司教は捕縛。サンクタムは現在、商会の手によって新たな結界が張られ、誰もが平等に安全に暮らせる『絶対安全圏』として生まれ変わったとのことです……!」

「安全第一商会……だと……?」

ルキウスの脳裏に、かつて邪魔者として西方大陸へ追放した聖女エレナの顔と、彼女を拾ったという得体の知れない異端の商人の報告がフラッシュバックした。

「馬鹿な……。たかが商人どもに、この神聖王国が、神に選ばれし私が、兵糧攻めにされているというのか!?」

ルキウスは信じられないというように頭を抱えた。

武力で攻め込まれたのであれば、王都に残された数万の聖騎士団と大聖結界の力で迎え撃つこともできた。

しかし、安全第一商会の会長トウヤは、王都の城壁には一切の攻撃を仕掛けてこなかった。彼はただ、王都の周囲にある「インフラ」と「物流」を完璧に掌握し、王都への補給線をすべて物理的・経済的に切断しただけなのだ。

水が流れなければ、人は死ぬ。

食料が届かなければ、国は飢える。

結界を維持する魔力鉱石が掘れなければ、安全は崩壊する。

トウヤの敷設した【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~ という名の絶対的な物流ネットワークは、王都という巨大な檻の中にいる特権階級たちを、真綿でじわりじわりと、しかし確実に絞め殺すための、最も冷酷で完璧な包囲網であった。

「猊下! さらに悪い知らせです! 王都の地下水道から、大量の『ビラ』が街中にばら撒かれています! そこには、我々枢機卿が魔力鉱石を独占していた証拠や、民を見捨てていた事実が詳細に記されており……! これを見た市民や下級兵士たちが、ついに暴徒と化して大聖堂へと押し寄せてきています!」

鼠人族のジジが率いる地下工作部隊による、完璧な情報戦。

もはや、ルキウスの権威を信じる者は、この王都には一人も残っていなかった。

「ええい、おのれ、おのれぇぇっ!!」

ルキウスは立ち上がり、執務室の隠し扉を乱暴に開けた。

「こうなれば仕方がない! 王都の地下には、有事の際に教皇聖下と枢機卿のみが逃れるための『古代転送陣』が隠されている! 私の莫大な個人資産と、国庫に残されたすべての金塊を持って、東の隣国へ亡命する! そこで軍隊を金で雇い、必ずこの国を取り戻してやる!」

ルキウスは、最後に残された少数の近衛騎士たちを引き連れ、大聖堂の地下深くにある極秘の巨大金庫へと急いだ。

そこには、彼が長年にわたって民から搾取し、溜め込み続けてきた数百万枚の金貨と、国宝級の魔導具が山のように積まれているはずだった。

「開けろ! この金さえあれば、私は何度でもやり直せる!」

ルキウスが震える手で幾重もの魔法鍵を解除し、分厚い鋼鉄の扉を押し開けた。

しかし。

「…………な、なんだ、これは……」

広大な地下金庫の中に広がっていたのは、眩い黄金の輝きではなかった。

金庫の中は、文字通り『空っぽ』であった。

金貨の一枚、宝石の一粒すら残されておらず、代わりに置かれていたのは、ただの石ころと、一枚の羊皮紙だけであった。

ルキウスが震える手でその羊皮紙を拾い上げると、そこには美しい達筆な文字で、こう記されていた。

『神の愛とは、等しく分け与えられるべきものです。貴方が不当に搾取した財産は、安全第一商会の公正な市場を通じて、飢えた民の食料へと変換させていただきました。――商会経済顧問・カルロより』

「あ、あああ……。私の、私の金が……! すべて、すべて奪われたというのか……!?」

小人族の豪商カルロと情報屋のリンによる、徹底的な金融工作。

彼らは、王都が物理的に封鎖される前に、すでに暗号通貨や為替、そして地下組織を通じて、ルキウスの資産を完全に吸い上げていたのだ。

「ルキウス猊下。……どうやら、我々に支払う恩賞は、もはや一銭も残っていないようですね」

背後から、ひんやりとした声が響いた。

ルキウスが振り返ると、彼を護衛していたはずの近衛騎士たちが、冷ややかな目で彼を見下ろし、その手に握られた剣の切っ先を、一斉にルキウスの喉元へと向けていた。

「き、貴様ら! 何をしている! 私を誰だと……!」

「貴方はただの、金を持たない無能な老人だ。……それに、街で撒かれていた商会のビラには、こうも書かれていた。『腐敗した枢機卿を捕縛して商会に引き渡した者には、一生遊んで暮らせるだけの報酬と、絶対安全な街での居住権を保証する』とな」

近衛騎士の隊長が、残酷な笑みを浮かべた。

飢えと絶望に支配された王都において、トウヤの提示した「確実な安全と食料」という対価は、どんな神の教えよりも、どんな国家への忠誠よりも重く、絶対的なものであった。

「ま、待て! やめろ! 私は神の代理人だぞ! 私を害すれば、神罰が下るぞぉぉぉっ!!」

「神は、俺たちにパンをくれなかった。だが、あの商会はパンをくれるそうだ。それだけのことだ」

「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!」

地下金庫に、枢機卿の無様な悲鳴が響き渡った。

自らの権力と安全に固執し、民を飢えさせた男は、自らの富を失い、自らが雇った兵士たちの手によって、最も惨めな形でその地位から引きずり下ろされたのであった。

   * * *

王都の城壁の遥か外側。

黄金色の麦畑が広がる、完全密閉式の『絶対豊穣ドーム』――グリーンヒル農業ターミナル。

その巨大なガラスドームの展望デッキから、トウヤは黒煙を上げる王都ルミナスの姿を、冷徹な商人の瞳で静かに見下ろしていた。

「会長。王都の内部から通信が入りました。暴徒と化した市民と、寝返った近衛騎士たちによって大聖堂は完全に制圧され、枢機卿ルキウスとその派閥の者たちは全員捕縛されたとのことです。……我々は一切の血を流すことなく、神聖王国の心臓部を停止させることに成功しました」

情報屋のリンが、手元の端末を操作しながら淡々と報告を上げる。

「上出来だ。インフラと物流を断たれた都市など、ただの巨大な石の棺桶に過ぎない。自分たちだけが安全な場所に引きこもり、周囲から搾取し続けるという歪んだシステムは、いつか必ず内側から自壊する。……俺はただ、その崩壊の時計の針を、ほんの少し早めてやっただけだ」

トウヤが熱いコーヒーを口に運び、満足げに息を吐く。

「トウヤ様。……これで、私の祖国は、あの腐敗した体制から解放されたのですね」

隣に立つ聖女エレナが、安堵と一抹の寂しさが入り混じった表情で、黒煙の上がる王都を見つめていた。

「ああ。破壊のフェーズはこれで終わりだ。これからは、俺たち『安全第一商会』が、あのボロボロになった王都のインフラを根底から作り直し、誰もが平等に飯を食い、絶対に魔獣に怯えることのない『真の安全圏』へと再構築する」

トウヤは、エクスプレスの巨大な車体を振り返り、特務チームの面々に向けて力強く宣言した。

「さあ、最後の仕上げだ。エクスプレス、王都へ向けて発車! 絶望に沈むあの街に、俺たちの最強のインフラと、腹一杯の食料を叩き込んでやるぞ!」

「「「おおおおおっ!!!」」」

西方大陸を制覇し、荒れ狂う海峡を越え、ついに神聖王国の腐敗した体制をも完全に打ち砕いた安全第一商会。

彼らの敷く鋼鉄のレールは、いよいよ大陸全土のインフラを一つに繋ぐ、新たな歴史の夜明けへと向けて、力強くその歩みを進めていくのであった。

【現在のステータス状況】

名前:トウヤ

年齢:18

職業:商人 / 冒険者(ランクS)

レベル:167 (変動なし。武力を行使することなく、経済とインフラの力のみで一国を完全に降伏させたため、管理者権限の熟練度が極限まで上昇)

体力:2150/2150

魔力:100,000/100,000 (地脈エネルギーとの接続により完全回復を維持)

固有スキル:『リトライ(発動可能)』(※ルキウスの逃亡ルートを完全に先読みし、カルロとリンに資産の差し押さえを指示するために使用)

魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)

取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握、海洋環境制御、砂漠環境制御、要塞建築術、経済掌握術、毒物浄化制御、大規模地下掘削術、国家間交渉術、古代技術解析、広域インフラ防衛術、超高架建築術、深海・湖底インフラ構築術、地熱・極地環境制御術、古代機巧制御術、海上浮体建築術、超広域気象制御術、全自動採掘網構築術、超広域環境浄化術、地下空間再構築・鉄網敷設術、地脈エネルギー完全制御術、絶対豊穣領域構築術

【仲間・後援者の状況】

ミア(獣人の少女):王都解放の報を聞き、王都の民衆数十万人のための「超特大炊き出しプロジェクト」のメニューを徹夜で考案中。

シルフィ(エルフの護衛):王都の澱んだ空気と残留した魔力を完全に浄化するため、大精霊との交信を行い、超広域浄化結界の準備を進めている。

ザック(人間の冒険者):戦わずして王都が陥落したことに少し拍子抜けしつつも、「まあ、腹減ってる奴を斬っても面白くねえしな」と剣の手入れをしている。

リュウガ(竜人族の戦士):己の富と権力に溺れ、自滅していった枢機卿の末路を聞き、「人間の欲深さこそが最大の毒だな」と鼻で笑っている。

ガレス(虎人族の戦士):王都の治安を速やかに回復させるため、商会の自警団を率いて王都へ先行突入する準備を整えている。

マイロ(犬人族の地図職人):王都の古い市街図と地下水道網の地図を統合し、新しいインフラ整備のための完璧な都市計画図を作成中。

ピピト(鳥人族の飛脚):王都の制圧完了の報を、西方大陸のゼフィラス王国やグレイシアの拠点へ光の速さで伝達するために大空を飛び回る。

リン(鼬人族の情報屋):ルキウスの個人資産を完全に合法的な手段で商会に吸収し、神聖王国の経済を商会の完全なコントロール下に置いた。

ヴォルグ(狼人族の傭兵):投降してきた王都の近衛騎士たちを再編し、商会の防衛部隊として厳しく鍛え直す計画を立てている。

ファラ(豹人族の女戦士):王都の影に潜むルキウスの残党や隠れた暗殺者たちを掃討するため、ジジの部下たちと共に情報網を広げている。

セレン(セイレーン族の海先案内人):王都には海がないと聞いて少し不満そうだが、巨大な噴水があると聞いて「そこで歌う!」と張り切っている。

ルミナ(ドワーフの機関技師):王都の古いインフラをすべて商会の最新魔導設備に置き換えるため、膨大な設計図を引きまくっている。

ニア(猫人族の魔導具技師):王都の市民全員に行き渡るような、小型で安価な生活用魔導具の大量生産ラインを構築中。

アリア(古代機巧メイド):「敵対的指導者の自滅を確認。マスターの進行ルート上に障害物は存在しません」と完璧なメイドの礼でトウヤを出迎える。

エレナ(神聖王国ルミナリア聖女):祖国の腐敗が取り除かれたことに感謝し、トウヤの築く新しい安全な国で、真の聖女として民を導く決意を新たにする。

レオン(聖騎士団長):アイリスと共に王都へ帰還し、腐敗した教会ではなく、民の安全を守るための真の聖騎士団を再結成する。

アイリス(元・第一聖騎士団長):かつて自分を陥れた枢機卿の末路を見届け、過去の因縁に決着をつける。商会の最強の剣としての誇りを胸に王都へ凱旋する。

セレス(半人馬族のリーダー):絶対豊穣ドームで生産された莫大な食料をエクスプレスに積み込み、王都の民を飢餓から救うための指揮を執る。

ジジ(鼠人族の裏リーダー):ビラ配りと情報操作によって王都を内部崩壊させた最大の功労者として、トウヤから特大のチーズと報酬を受け取りホクホク顔。

カルロ(小人族の豪商):ルキウスの財産を合法的に奪い取った手腕を振るい、神聖王国の新たな経済大臣(商会出向)として君臨する準備を進めている。

インフラ状況:神聖王国ルミナリアの王都ルミナスへの『経済的兵糧攻め』が完了。枢機卿ルキウスの派閥は内部崩壊し、商会による王都の無血開城とインフラ完全掌握が決定。

資金:金貨15,000,000枚(ルキウスの隠し財産と国庫の残存資金をすべて商会のシステムに吸収し、大陸全土を覆う超巨大インフラ企業としての莫大な資本を確立)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作もよろしく(*´∀`)ノ

しがらみだらけの人生に疲れたので、記憶を消して無人境へ転生します〜無限魔力の【万能創造】で理想の拠点を作ってたら、最強の魔獣たちが勝手に懐いて最高の家族になりました〜

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