↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/80

第45話 【閑話】逃亡者たちの末路と、海を拓く海上魔導鉄道

第45話 【閑話】逃亡者たちの末路と、海を拓く海上魔導鉄道

【閑話】

かつて東の大陸において最強の軍事力を誇り、周辺諸国を力と恐怖でねじ伏せてきた覇権国家、ガランド帝国。

その首都である帝都ルミナリスは今、文字通りの『氷の墓標』へと変わり果てていた。

都市の心臓部であった巨大な主魔力炉は、とうの昔に燃料となる魔力鉱石の供給を絶たれ、完全に沈黙している。帝都を覆っていた温暖な気候維持結界は消失し、北の大地から吹き下ろす容赦のない猛吹雪が、かつて栄華を極めた美しい大理石の街並みを白く、冷たく塗り潰していた。

帝城の最奥、玉座の間。

そこには、分厚い魔獣の毛皮を何重にも着込み、それでもなお歯の根が合わずに震え続けるガランド皇帝の姿があった。

「……寒い……。誰か、火を持て……。余を温めるのだ……」

虚ろな声で呟く皇帝の呼びかけに応える者は、もはや誰もいない。

軍務大臣バルバロスは数日前に凍死し、近衛騎士たちも食料を求めて城を捨て、暴徒と化した市民たちに合流してしまった。窓の外からは、飢えと寒さに狂った群衆が、貴族たちの館を襲撃し、わずかな食料や燃やせる家具を奪い合う凄惨な怒号が響いてくる。

「なぜだ……。我が帝国は無敵であったはずだ。十万の精鋭と、最強の魔導兵器があったのだぞ……」

皇帝は凍りついた玉座にすがりつきながら、涙を流した。

彼らは外敵に侵略されたわけではない。ただ、周辺諸国への『道』を奪われ、物流のネットワークから完全に切り離されただけなのだ。

武力で他国を脅し、物資を不当に搾取することしかしてこなかった帝国は、自国でまともな食料を生産する基盤も、インフラを維持する技術も持ち合わせていなかった。

あのトウヤという一人の商人が、世界中に『安全で適正な物流網』を構築した瞬間、誰もガランド帝国という名の暴力装置と取引をしなくなったのである。

「金貨ならいくらでもある……。だから、パンを……温かいスープを……」

床に散らばった無数の金貨や宝石。しかし、物流が完全に死滅したこの凍てつく廃墟において、それらはただの冷たい石ころでしかなかった。

皇帝の意識は、底知れぬ後悔と絶望の中へ、ゆっくりと沈んでいった。

   * * *

一方、そのガランド帝国と裏で結託し、東洋最大の港湾都市ポルト・ノヴァを牛耳っていた悪徳商人ドネロと、黒鯱くろしゃち海賊団の残党たち。

トウヤの規格外のインフラ構築魔法によって港を瞬時に制圧された彼らの中には、混乱に乗じて小型のガレー船で外海へと逃亡を図った者たちがいた。

「ひっひっひ! ポルト・ノヴァの街はあの化け物商人に奪われちまったが、この船には俺が貯め込んだ金塊が山ほど積んである! これだけあれば、南の群島諸国で一生遊んで暮らせるぜ!」

船の甲板で下劣な笑い声を上げているのは、ドネロの右腕であった悪徳商人のゾラだ。

「おいゾラ、笑ってねえでさっさと南へ舵を切れ! あの黒い列車の連中が追ってきたら終わりだぞ!」

黒鯱海賊団の副船長ガリーが、苛立ちながら怒鳴りつける。

彼らの乗る逃亡船は、嵐が吹き荒れる『蒼大洋』の沖合を必死に進んでいた。

しかし、彼らは致命的な計算違いをしていた。

これまでポルト・ノヴァ周辺の複雑な海流と暗礁地帯を安全に航行できていたのは、彼らが鎖で繋ぎ、無理やり奴隷として酷使していた水棲亜人セイレーンやマーフォークたちのナビゲートがあったからこそなのだ。

トウヤによって水棲亜人たちが全て解放された今、素人の海賊と商人だけでこの荒れ狂う海を渡ることなど、自殺行為に等しかった。

「お、おい! 前方に巨大な渦潮だ! 舵が効かねえ!」

操舵手が悲鳴を上げる。

「馬鹿野郎! 右に切れ! 岩礁にぶつかるぞ!」

ガリーが慌てて舵輪を奪おうとするが、すでに手遅れだった。

メキメキメキッ!! ガシャァァァァンッ!!

船底が鋭い暗礁に激突し、船体が真っ二つに裂けた。

「ぎゃあぁぁぁっ! 俺の、俺の金塊がぁぁっ!」

ゾラが海へと転がり落ちていく金塊の箱に手を伸ばすが、次の瞬間、海中から巨大な触手が伸びてきて、ゾラの体を金塊ごと海中へと引きずり込んだ。

海路の安全を金と暴力で支配してきた者たちは、自らが手放した『真のインフラの価値』を理解できぬまま、冷たい海の底、海の魔獣の胃袋の中へと消えていったのである。

   * * *

帝国と悪党たちが自業自得の凄惨な末路を辿っている頃。

彼らから解放された港湾都市ポルト・ノヴァの跡地に建造された、安全第一商会の『海上グランドターミナル(メガフロート)』は、嘘のような平和と活気に満ち溢れていた。

「はい、皆さん並んでくださいねー! 今朝のメニューは、ポルト・ノヴァ近海で採れた新鮮な魚介をたーっぷり使った、『メガロ・シーフードパエリア』と、海藻と貝の旨味スープですよ!」

広大な純白のプラットホームに設置された魔導キッチンの前で、獣人の少女ミアが元気な声を響かせる。

巨大な平鍋パエリアパンからは、黄金色に輝くサフランライスと、大振りのエビ、肉厚のホタテ、そしてマクラカ・ステーションから運ばれてきた極上の香辛料が混ざり合った、暴力的なまでに食欲をそそる香りが立ち上っていた。

「うおおおっ! うめえ! なんだこの飯は! ほっぺたが海に落っこちそうだ!」

「温かい……! 奴隷として冷たい檻に閉じ込められていたのが嘘みたいだ。神様、安全第一商会様……!」

昨日まで重税と暴力に苦しんでいた市民たちや、鎖から解放された水棲亜人たちは、涙を流しながらパエリアを頬張っていた。彼らは今、トウヤの商会が提供する『安全な居住区』と『適正な労働環境』を手に入れ、心からの笑顔を取り戻していたのである。

【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~。トウヤの掲げるこの理念は、ただ建物を造るだけではない。そこに住む人々の胃袋と心を満たし、生活そのものを根底から豊かにすることに真髄があるのだ。

ターミナルの中央にそびえ立つ、ガラス張りの管制塔。その最上階にある特設オフィスでは、トウヤと特務チームの面々が、朝食のコーヒーと食後の特製デザートを楽しみながら、次なる作戦会議を開いていた。

人間の冒険者ザック、エルフのシルフィ、竜人族のリュウガ、虎人族のガレス、犬人族のマイロ、鳥人族のピピト、鼬人族のリン、狼人族のヴォルグ、豹人族のファラ。

そして今回から新たに加わった、青い鱗と美しいヒレを持つセイレーン族の少女、セレンである。

「セレン、君たち水棲亜人が無事で本当に良かった。ミアのご飯はどうだい?」

トウヤが優しく微笑みかけると、セレンは頬を桜色に染めて深く頷いた。

「はいっ! あんなに美味しくて温かいお料理、生まれて初めて食べました! トウヤ様が造ってくださったこの海上ターミナルも、波の揺れを全く感じないほど頑丈で、魔法の空調で水槽のお水も常に綺麗……ここは天国です!」

「それは何よりだ。俺の商会で働く以上、衣食住の完璧な保証は絶対のルールだからね。……さて、皆。このポルト・ノヴァを制圧したことで、東の大陸側の地盤作りは完了した。いよいよ我々は、海を渡って新たな市場を開拓する」

トウヤがテーブルの中央にホログラムの立体海図チャートを展開した。これは、マイロとセレンが協力して一晩で作成した最新の海域マップである。

「セレン、マイロ。近隣の海の状況と、我々が次に向かうべき『安全な街』の候補について報告してくれ」

トウヤの言葉に、セレンがスッと真剣な表情になり、ホログラムの海図の一部を指差した。

「はい、トウヤ様。この蒼大洋を南へ数日進んだ先に、無数の島々からなる『オセアニア群島諸国』が存在します。その中でも最大の貿易拠点であり、最も美しく安全な街と呼ばれているのが、水の精霊に守られた水上都市『コーラル・エデン』です」

「コーラル・エデンか。名前からして美しい街だな」

ザックが腕を組んで頷く。

「しかし、問題があります」と、情報屋のリンが割って入った。

「あっしが独自に集めた情報と、セレン嬢の海流データを照らし合わせると……現在、そのコーラル・エデンは完全に孤立状態にあるようです。街の周辺海域で異常な海流の変化が起き、さらに『シー・サーペント』や『クラーケン』といった超大型の海洋魔獣が大量発生して、海路を完全に塞いでしまっているんでさぁ。物資の搬入が滞り、街は深刻な危機に瀕しているとのことです」

「海流の異常に、大型魔獣の大量発生か。……厄介だな。船で近づくのは困難だろう」

リュウガが眉をひそめる。

「普通の船なら、ね。だが、俺たちの『安全第一エクスプレス』なら話は別だ」

トウヤは不敵な商人の笑みを浮かべ、ホログラムマップのポルト・ノヴァからコーラル・エデンへ向けて、一本の光の線を引いた。

「船が通れない海なら、海の上に『道』を造ればいい。俺たちはこれから、このターミナルからコーラル・エデンまで海を横断する、『海上魔導鉄道』を敷設する」

「か、海上魔導鉄道!? 海の上に線路を造るって言うんですかい!?」

マイロが驚きで耳をピンと跳ね上げた。

「ああ。大河ルビコンを凍らせて橋を架けた応用だ。海面を特殊な錬金魔法で平坦に固定し、波の影響を一切受けない絶対安全なレールを敷きながら進む。魔獣が襲ってきたら、列車の防衛システムと君たちの武力で蹴散らす。……物資が届かず困っている街があるなら、どんな場所であろうと道を繋いで助けに行く。それが俺たち安全第一商会の使命だ」

トウヤの揺るぎない決意に、仲間たちは一斉に力強い笑顔を浮かべた。

「ふふっ、トウヤ様と一緒なら、海の上を走る旅も素晴らしいものになりそうですね」

シルフィが風の杖を優しく撫でる。

「おう! クラーケンが出ようが何だろうが、俺の剣でタコ焼きの具にしてやるぜ!」

「海獣狩りか、腕が鳴るわ!」

ザックとガレスが拳を打ち合わせる。

セレンも両手を胸の前で組み、目を輝かせた。

「私がお供します! 海流の乱れも、魔獣の巣も、すべて事前に察知して安全なルートへご案内します!」

「よし、決まりだな。ミア、長旅になるから、食料の積み込みを頼む。他の皆は列車の点検と出発準備だ。オセアニア群島諸国、コーラル・エデンへ向けて、海のインフラ開拓を始めるぞ!」

「「「おおーーっ!!」」」

かつてない規模のインフラ構築――海を渡る鉄道の敷設という前代未聞の大工事に向けて、安全第一商会の特務チームは動き出した。

帝国や悪徳商人たちが自らの欲で身を滅ぼしていく中、トウヤの敷く『安全と豊かさのレール』は、いよいよ大陸を飛び出し、広大な海原へとその手を伸ばそうとしていた。

【現在のステータス状況】

名前:トウヤ

年齢:18

職業:商人 / 冒険者(ランクS)

レベル:98 (メガフロートの運用安定により経験値継続獲得中)

体力:900/900

魔力:100,000/100,000 (完全回復。海上鉄道敷設に向けて魔力を充填完了)

固有スキル:『リトライ(発動可能)』

魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)

取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握

【仲間・後援者の状況】

ミア(獣人の少女):ポルト・ノヴァの市民たちにパエリアを振る舞い、今度はタコやイカを使った新メニューの構想を練っている。

シルフィ(エルフの護衛):海上鉄道の運行に向けて、海風の精霊たちと交渉し、追い風を確保する準備を整える。

ザック(人間の冒険者):クラーケンを切り刻むイメージトレーニングを欠かさず行っている。

リュウガ(竜人族の戦士):海の魔獣に対する竜の覇気の有効性を確認するため、静かに闘気を練り上げている。

ガレス(虎人族の戦士):船酔いならぬ「海列車酔い」をしないか少し心配しているが、決して顔には出さない。

マイロ(犬人族の地図職人):海図チャートの作成ツールをアップグレードし、未知の群島諸国のマッピングに備える。

ピピト(鳥人族の飛脚):海風に乗って長距離を飛ぶための特殊な飛行用ゴーグルを新調し、上空からの監視を強化。

リン(鼬人族の情報屋):コーラル・エデンの政治体制や商業ギルドの内情など、事前情報の収集を完璧にこなす。

ヴォルグ(狼人族の傭兵):真新しい商会の制服(夏用・海仕様)に袖を通し、少し照れながらも気に入っている。

ファラ(豹人族の女戦士):揺れない海上ターミナルの快適さに感動し、次の鉄道旅への期待を膨らませている。

セレン(セイレーン族の海先案内人):トウヤから支給された特製の「水陸両用魔導車椅子(浮遊型)」に乗り、陸上でも快適に移動できるようになって大喜びしている。

ポルト・ノヴァの市民たち:【後援者スポンサー】悪政から解放され、トウヤに絶対の忠誠を誓う。彼らがターミナルを管理することで、物流は完全に自立稼働している。

インフラ状況:海上グランドターミナル(メガフロート)完全稼働。これより、オセアニア群島諸国へ向けた「海上魔導鉄道」の敷設を開始予定。

資金:金貨250,000枚(変動なし。次なる街での大規模インフラ投資に向けて温存)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。