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第36話 獣王都への進軍と、大断層の巨大トンネル開通

第36話 獣王都への進軍と、大断層の巨大トンネル開通

商業都市フェリアでの反乱軍完全制圧と、それに伴うインフラの復旧、そしてフェリア商業ギルドとの専属契約を無事に終えた『安全第一商会』の一行は、獣人国家アニマリアの首都である『獣王都(ビースト・キャピタル)』へと向けて出発した。

漆黒の魔導輸送車は、トウヤが直前に敷設した『絶対安全街道』の上を、一切の振動を感じさせることなく滑るように走っていく。車内は空調魔法によって常に適温に保たれ、特注のふかふかなシートが長旅の疲れを全く感じさせない。死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~というトウヤの理念をそのまま体現するかのような、まさに究極の移動空間であった。外の荒涼とした荒野の景色とは裏腹に、車内は高級ホテルのラウンジのような快適さに包まれている。

車内の広々としたラウンジスペースでは、トウヤを中心に、エルフのシルフィ、人間の冒険者ザック、竜人族のリュウガ、虎人族のガレス、犬人族のマイロが、テーブルに広げられた立体マップを囲んで今後のルートと周辺情報の確認を行っていた。獣人の少女ミアは、備え付けの魔導キッチンで手際よく全員分の軽食を作ってくれている。

「マイロ、この先のルートとアニマリア全土の現在の状況について、もう一度おさらいしておこうか」

トウヤが、淹れたてのコーヒーを一口飲みながら口火を切った。

「へえ、会長。現在我々がいるフェリアから獣王都までは、通常なら馬車で十日ほどの道のりでさぁ。アニマリアの地理について改めて説明しやすと、北は我々が拠点の一つとしている竜公国ドラグニアと国境を接し、西にはあの忌まわしいガランド帝国が控えておりやす。そして南には未開のジャングル地帯が広がり、好戦的な爬虫類系の亜人部族が独自のテリトリーを築いていると言われてやすね」

マイロが立体マップの各地域を指し示していく。その手つきは、トウヤの魔法によって地形がポンポンと変わる現実に追いつこうと必死だった。

「反乱軍の首魁レオーネはフェリアで自滅し討ち取られましたが、首都である獣王都は現在、主を失ったことで各部族の思惑が入り乱れ、事実上の無政府状態に陥っていやす。さらに厄介なのが、帝国が裏で放っていた工作員の残党です。奴らは反乱軍の敗北を知り、証拠隠滅とアニマリアの復興を妨害するために、獣王都に至る主要な街道や橋を次々と破壊しているという情報が入っておりまさぁ」

「なるほど。帝国らしい陰湿なやり方だな」

トウヤは忌々しげにため息をついた。

「物流を支えるインフラを破壊するということは、人々の生活そのものを根底から脅かす行為だ。俺の商会が目指す『安全で完璧な物流網』の構築において、最も許しがたい害虫どもの仕業だよ」

「トウヤ様、道中の安全確保は私にお任せください。風の精霊たちの声を聞き、いかなる罠も事前に察知してみせます。帝国の小賢しい罠など、精霊の目の前では無意味ですから」

シルフィが、エルフの誇りにかけてとばかりに胸を張り、美しい金の髪を揺らした。

「おう! 罠でも魔獣でも、出てきた端から俺がぶっ飛ばしてやるぜ! 新しいバスターソードの試し斬りにはちょうどいいってもんだ!」

ザックが大剣を叩いて豪快に笑う。

「それで、最初の難所はどこになるんだ?」

リュウガが腕を組みながら問いかけると、マイロの表情が少し曇った。

「ここから数十キロ先にある『大断層ガラン』でさぁ。大地がパックリと割れた巨大な渓谷で、底には凶悪な魔獣がうごめいている危険地帯です。そこを渡るための唯一の石橋があったんですが……昨晩、帝国の工作員の手によって完全に爆破されちまったそうです」

「大断層か。迂回ルートはあるのか?」

ガレスが巨体を身を乗り出して聞く。

「迂回するとなると、魔獣の巣窟である『迷いの森』を数日かけて抜けるしかありません。ですが、今のこの車のスピードと会長の魔法なら……」

「迂回なんて非効率なことはしないさ。道がないなら、造ればいい。それが俺たち安全第一商会のやり方だ」

トウヤの力強い言葉に、仲間たちは頼もしそうに頷いた。

「お待たせしました! ミア特製の『三種のチーズと魔牛のホットサンド』です!」

ミアが焼きたてのホットサンドと温かいスープを運んできた。こんがりと焼けたパンの間からとろけ出す濃厚なチーズと、肉汁たっぷりの魔牛肉の香りが車内に広がり、一同は緊張を忘れて至福の食事タイムに突入した。サクッとした食感の後に広がる極上の旨味に、ザックやリュウガは無言で貪り食っている。腹が減っては戦も、インフラ整備もできないのだ。

   * * *

数十分後。

魔導輸送車は、アニマリアの荒野を切り裂くようにして『大断層ガラン』の縁へと到着した。

車から降りた一行は、目の前に広がる圧倒的な絶景と、絶望的な地形に息を呑んだ。

「こりゃあ……すげえな。底が全く見えねえぞ……」

ザックが崖の下を覗き込み、思わず一歩後ずさる。

大断層は幅数百メートル、深さは計測不能なほどに暗く、まるで大地そのものが神の剣によって一刀両断されたかのような威容を誇っていた。冷たい風が谷底から吹き上げ、不気味な唸り声を上げている。

対岸までは遥か遠く、本来架かっていたはずの巨大な石橋は、無残にも爆破され、瓦礫となって深い谷底へと消え去っていた。橋脚の一部だけが、悲しげに崖の縁に残されている。

「見事にやられているな。これだけの規模の石橋を一瞬で破壊するには、相当な量の爆裂魔力弾が必要だったはずだ」

トウヤが冷静に状況を分析していると、シルフィがハッと顔を上げ、上空を指差した。

「トウヤ様! 上空から何か落ちてきます!」

シルフィの声に反応し、リュウガとガレスが即座に武器を構える。

上空から猛スピードで落下してきたのは、帝国軍の飛竜部隊……ではなく、一人の鳥人族(バードマン)の青年であった。

彼の背中には美しい猛禽類の翼が生えているが、その翼は無残に傷つき、血を流している。さらに、彼の身体には帝国の魔導具である鈍色の『重力枷』が取り付けられており、本来の飛ぶ力を完全に奪われていたのだ。

「助け……て……!」

青年が絶望の悲鳴を上げながら、大断層の暗い谷底へ向けて一直線に落下していく。

「危ない!」

ミアが叫ぶと同時、トウヤはすでに動いていた。

「『風魔法・浮遊(レビテート)』、ならびに『空間魔法・転移(テレポート)』!」

トウヤの指先から放たれた不可視の魔力が、落下する鳥人族の青年を正確に捉え、その凄まじい落下速度を瞬時にゼロにする。そして次の瞬間、青年の身体はトウヤたちの目の前、安全な大地の真ん中へと空間転移で引き戻された。

「ぐっ……はぁっ、はぁっ……!」

地面に倒れ込んだ青年は、全身の痛みに顔を歪めながらも、信じられないものを見る目でトウヤを見上げた。

「あ、あんた……俺を、空間魔法で……?」

「怪我はないか? ……いや、ひどい傷だな。ミア、ポーションを」

トウヤの指示で、ミアが空間収納から取り出した最上級のポーションを青年の口に運ぶ。

数秒で傷が完全に塞がり、折れていた翼の骨もパキパキと音を立てて元通りになり、青年はよろよろと立ち上がった。

「あ、ありがとう……。俺は鳥人族の飛脚、ピピトだ。帝国の連中に捕まって、この断層に放り込まれたんだ……」

「飛脚? 帝国の工作員に捕まったのか?」

ガレスが訝しげに尋ねる。

ピピトは悔しそうに拳を握りしめた。

「ああ。俺は獣王都の連邦会議からの密書をフェリアに届ける途中だったんだ。だが、空を飛んでいたところを、帝国の『対空魔導砲』で撃ち落とされた。奴ら、この大断層の対岸に陣取って、俺たち鳥人族の通信網すらも物理的に破壊しようとしているんだ!」

「なるほど。橋を落とし、空の便も遮断する。獣王都を完全に孤立させるための徹底した封鎖作戦というわけか」

トウヤは対岸の崖上を見つめた。エルフの驚異的な視力を持つシルフィが、その言葉を裏付けるように報告する。

「トウヤ様、対岸の崖の陰に、帝国軍の残党と思われる部隊が身を潜めています。数は約三百。対空用の魔導砲と、数台の装甲戦車(チャリオット)が確認できます。どうやらここを通る者を片っ端から排除するつもりのようです」

「三百か。あの数で、獣王都への道を完全に塞いでいるんだな」

ザックが大剣を引き抜き、臨戦態勢をとる。

「どうするんだい、あんたたち? 橋はないし、空を飛べば撃ち落とされる。あいつら、対空防衛に関しては徹底してるぞ!」

ピピトが焦燥に駆られた声で叫ぶ。

しかし、トウヤの表情には微塵の焦りもなかった。

彼は振り返り、仲間たちに向かってニヤリと商人の笑みを浮かべた。

「橋が落とされ、空がダメなら……『地下(トンネル)』を通ればいい」

「地下!? この大断層の下を掘るってのか!? 無茶苦茶だ! 何年かかると思ってるんだ!」

ピピトが驚愕の声を上げる中、トウヤは両手を断層の地面へと突き立てた。

彼の持つ『万能魔法』と『リトライ』の力は、世界を救うための圧倒的なインフラ構築にこそ真価を発揮する。軍隊を壊滅させることよりも、道を作ることにその莫大な魔力は注がれるのだ。

「『全魔法創造』――『超広域土魔法・岩盤穿孔(ロック・ドリル)』、ならびに『錬金術・魔導コンクリート変成』!!」

ゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!!

大地が激しく震動し、トウヤの足元の地面が凄まじい勢いで抉り取られていく。

ただ無秩序に穴を掘るのではない。トウヤの放つ莫大な魔力は、大断層のこちらの崖の側面から、暗い谷底のさらに下層を通り、対岸の崖の奥深くへと向けて、直径三十メートルに及ぶ美しい円形の『巨大地下トンネル』を、瞬く間にくり抜いていった。

さらに、掘り出された莫大な量の岩石と土砂は、トウヤの錬金魔法によって一瞬にして『絶対防壁仕様の純白魔導コンクリート』へと変成され、トンネルの内壁を分厚くコーティングしていく。

ものの数分。

トウヤの足元から対岸へと続く、完璧に舗装された巨大な地下トンネルが完成したのである。トンネル内には一定間隔で魔力光の照明が灯り、漆黒の闇を真昼のように照らし出している。換気システムすら魔術的に組み込まれており、息苦しさは微塵もない。

「な、なんだこれは……。山が、一瞬でくり抜かれた……!?」

鳥人族のピピトが、腰を抜かしてその場にへたり込む。

「驚くのはまだ早いぜ。トウヤのインフラ整備は、ここからが本番だからな」

ザックが自慢げに胸を張る。

「さて、道はできた。対岸で道を塞ぐ虫食いどもを駆除しに行こうか」

トウヤは魔導輸送車の運転席に乗り込み、仲間たちと呆然とするピピトを乗せた。

漆黒の車は、完成したばかりの巨大トンネルを、エンジンの咆哮と共に猛スピードで駆け抜けていく。

トンネル内は一切の凹凸がなく、まるで氷の上を滑るような快適な乗り心地であった。

   * * *

一方、大断層の対岸で陣を張っていた帝国軍の残党部隊。

彼らは、橋を落とし、空の脅威も排除したことで、完全に油断しきっていた。

「これで獣王都は完全に孤立した。あとは反乱軍がフェリアを落とせば、我々の任務は完了だ。このまま国が疲弊するのを待てばいい」

部隊長が葉巻を燻らせながら、下劣な笑みを浮かべていた。

その時だった。

ズドドドドドドォォォォンッ!!!

彼らの陣地の真下、強固な岩盤が凄まじい爆発音と共に吹き飛び、大地に巨大な大穴が開いた。

「な、なんだ!? 地震か!?」

「隊長! 穴の中から、真っ黒な鉄の箱が飛び出してきました!」

もうもうと舞い上がる土煙の中から、トウヤの乗る魔導輸送車が、見事なジャンプを決めて帝国軍の陣地のど真ん中へと着地した。

「なっ!? どこから現れた!? 対岸から飛んできたというのか!?」

パニックに陥る帝国兵たち。

車のドアが開き、中からトウヤと、戦闘態勢を整えた仲間たちが降り立つ。

「お待たせしました。安全第一商会、これより不法投棄されたゴミの清掃作業を開始します」

トウヤの冷酷な宣告と共に、反撃が始まった。

「オラァァァッ!! 橋を落とした恨み、その身で味わいやがれ!」

ザックがミスリル・バスターソードを振り回し、帝国軍の分厚い装甲戦車をまるで紙切れのように真っ二つに両断する。鋼鉄が裂ける甲高い音が荒野に響く。

「風の精霊よ、彼らの動きを封じなさい。『風縛の鎖』!」

シルフィの放った無数の風の矢が、逃げ惑う帝国兵の持つ武器を弾き飛ばし、手足を正確に見えない風で地面に縫い付けていく。

「竜の怒り、思い知れェェッ!」

「虎の牙を舐めるなァッ!」

リュウガとガレスの竜虎タッグが、圧倒的な膂力と武技で敵の密集陣形を次々と粉砕していく。闘気の乗った拳と斧の一撃は、帝国兵の防具を容易く打ち砕いた。

「ヒィィッ! ば、化け物どもめ! 対空魔導砲を水平に構えろ! 撃て!」

部隊長が半狂乱になって叫ぶ。

数門の魔導砲が、トウヤに向けて赤黒い爆裂の閃光を放った。

しかし、トウヤは一歩も動かなかった。

「物流とインフラを破壊するような兵器は、世界に不要だ。『空間魔法・断絶』」

トウヤが指を鳴らした瞬間、魔導砲の砲身の目の前に見えない空間の断層が出現。放たれた光線はそのまま空間に飲み込まれ、次の瞬間、魔導砲を撃った兵士たちの背後から飛び出し、彼ら自身を吹き飛ばした。

「あ、ありえない……。こんな魔法、筆頭魔術師のゼノン様でも……」

部隊長が絶望に顔を歪めた直後、ガレスの戦斧が彼の持つ武器を粉砕し、強烈な峰打ちで気を失わせた。

戦闘開始からわずか三分。

三百人の帝国軍残党は、誰一人死者を出すことなく、しかし完璧に無力化され、大断層の土に這いつくばっていた。

「ふぅ。お掃除完了だな。……さて、この荒れ果てた陣地を再利用して、新しいサービスエリアを造るとしよう」

トウヤは、気絶した帝国兵たちを空間魔法で一箇所に集め、強固な魔力檻に閉じ込めると、再び両手を広げた。

「『拠点再構築(ベース・リノベーション)』・防衛拠点モード!」

大地の形が再び変わり始める。

帝国軍の陣地があった場所には、先ほど掘り抜いたトンネルの出口に直結する形で、強固な白亜の防壁に囲まれた巨大な『中継サービスエリア』が瞬く間に建設されていく。

清潔な宿泊施設、魔導キッチン完備の食堂、さらには疲労を回復させるための巨大な『魔力温泉』までが完備された、まさに旅人にとっての夢のオアシスである。

「すげえ……。あんた、本当に神様か何かなのか……?」

一部始終を見ていた鳥人族のピピトが、震える声で呟いた。

「だから、ただの商人だよ。……ピピト、怪我の治療代と、この安全な道を造った恩義として、君の持つ『情報網』を俺たちの商会に提供してくれないか?」

トウヤが笑顔で手を差し出す。

「も、もちろんだ! あんたたちがいなきゃ、俺はあの底なし谷の底でペシャンコだった。鳥人族の誇りにかけて、安全第一商会の空の目として働かせてもらうぜ!」

ピピトはトウヤの手を力強く握り返した。

こうして、獣王都への道中最大の難所であった『大断層ガラン』は、トウヤの圧倒的なインフラ構築魔法によって、安全で快適な『巨大トンネル&サービスエリア』へと生まれ変わった。

帝国の妨害工作をものともせず、新たな亜人の仲間と後援者を加えながら、トウヤたちの進軍は続く。

獣王都の混乱を鎮め、アニマリア全土に完全なる物流網を敷くための旅は、いよいよ佳境に入ろうとしていた。

【現在のステータス状況】

名前:トウヤ

年齢:18

職業:商人 / 冒険者(ランクS)

レベル:79 (大断層の巨大トンネル穿孔、および帝国残党の制圧により上昇)

体力:620/620

魔力:92,000/100,000 (超広域岩盤穿孔・拠点再構築により消費、現在回復中)

固有スキル:『リトライ(発動可能)』

魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)

取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握

【仲間・後援者の状況】

ミア(獣人の少女):新設されたサービスエリアの食堂で、早くも新メニューの試作を開始。

シルフィ(エルフの護衛):空間魔法で敵を圧倒するトウヤの姿に見惚れつつ、周囲の警戒を怠らない。

ザック(人間の冒険者):帝国製の装甲戦車を一刀両断できたことで、自分のレベルアップを実感し大満足。

リュウガ(竜人族の戦士):ガレスと共に、圧倒的な突破力で敵陣を崩壊させた。

ガレス(虎人族の戦士):同胞を苦しめる帝国軍を叩き潰し、トウヤへの忠誠心をさらに深める。

マイロ(犬人族の地図職人):大断層にまさかの地下トンネルが開通したため、地図の「地下階層」を慌てて追記中。

ピピト(鳥人族の飛脚):【新規加入(特務通信員)】帝国の罠から救われた鳥人族の青年。空からの広域索敵と、各都市への迅速な情報伝達を担う商会の「目」となる。

インフラ状況:大断層ガランを貫く「絶対安全地下トンネル」開通。対岸に防衛結界・温泉付き「大断層サービスエリア」完成。

資金:金貨89,000枚(帝国残党の野営地から没収した物資および軍資金を資産に追加)

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