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第33話 【閑話】反乱軍の焦燥と、次なる商業都市への道

第33話 【閑話】反乱軍の焦燥と、次なる商業都市への道

【閑話】

ガランド帝国の帝都ルミナリスは、かつてないほどの暗黒と寒波に包まれていた。

夜になれば魔法の街灯が太陽のように街を照らし、冬でも魔力炉の恩恵で温暖な気候が保たれていたはずの絶対的な大都市。しかし現在、その街並みは不気味なほどに静まり返り、冷たい風が吹きすさぶゴーストタウンのような様相を呈していた。

帝都の中央にそびえ立つ軍務省。その最上階にある薄暗い執務室で、軍務大臣バルバロスは血走った目で机上の報告書を睨みつけていた。

「……魔力炉の出力が、ついに通常の二割を切っただと? 街の暖房機能はおろか、防衛結界すら満足に張れない状態ではないか!」

バルバロスの怒鳴り声が、冷え切った部屋に虚しく響く。

「も、申し訳ありません閣下! 東の大防壁に設置されていた『主魔力炉』がかの安全第一商会に奪われた影響が、ここにきて完全に表面化しております。さらに、竜公国ドラグニアからの魔力鉱石の輸入が完全にストップし、我が国の備蓄は底を突きかけておりまして……」

副官が震えながら報告する。

帝国は、圧倒的な軍事力で周辺諸国を脅し、資源を安く買い叩く(あるいは奪う)ことでその巨大なインフラを維持してきた。しかし、トウヤという一人の商人の登場によって、その前提が完全に崩れ去ったのだ。

大防壁はトンネルで貫かれ、東の国境に派遣した精鋭『第1機甲魔導師団』は一兵卒の死者も出さないまま「捕虜兼、インフラ整備の無給労働者」として根こそぎ奪われた。

「ゼノン! 貴様、この状況をどう説明するつもりだ! 貴様が『絶対に成功する』と豪語したアニマリアでの代理戦争プロキシ・ウォーはどうなっている!」

バルバロスが部屋の隅の闇に向かって叫ぶ。

そこには、かつての冷徹な天才の面影を完全に失い、爪を噛みながらブツブツと狂気じみた計算式を呟く筆頭宮廷魔術師ゼノンの姿があった。

「おかしい……計算が合わない……。私がアニマリアの反乱軍に供与した魔導銃と装甲戦車があれば、あの獣人の国など三日で制圧できるはず……。なのに、なぜ反乱軍の進軍が止まっている? なぜ、彼らの兵站が崩壊しているのだ……?」

ゼノンの虚ろな目には、もはや現実が見えていないようだった。

帝国がアニマリアの内戦を裏で操っていた理由は明確である。直接的な軍事行動が商会によって阻まれるなら、内戦を引き起こして国を疲弊させ、大量の難民と混乱に乗じて漁夫の利を得る。そしてアニマリアの資源を帝国に強制的に流し込む傀儡政権を樹立するはずだった。

しかし、その目論見は今、想像を絶する形で頓挫しようとしていた。

   * * *

同じ頃。獣人国家アニマリアの南部、過激派部族が占拠した巨大な岩山の砦。

『獅子王』を名乗るライオン獣人レオーネは、謁見の間の玉座を怒りに任せて蹴り砕いていた。

「どういうことだッ! 北のオアシスに向かった追撃部隊との連絡が途絶えただと!? 帝国から貰った無敵の兵器を持たせたはずだぞ!」

レオーネの怒号に、屈強な肉食獣人の幹部たちが震え上がる。

「は、はい! 生き残った斥候の報告によりますと……追撃部隊がオアシスに到達した直後、空から『真っ黒な鉄の箱』が降ってきて、瞬く間に我が軍の武器を破壊し、部隊全員を見えない力で地面に叩き伏せたとのことです!」

「馬鹿な! そんな魔法、聞いたこともないわ!」

さらに別の伝令が、血相を変えて駆け込んでくる。

「レオーネ様! 大変です! 兵糧部隊からの報告です! 北部の村々を襲撃し、食料を徴発しようとしたのですが……村には誰一人おらず、もぬけの殻でした! それどころか、家屋から井戸に至るまで、完全に解体されて更地になっておりました!」

「なんだと!? 民がいなければ、どこから食い物を奪えばいいのだ!」

これこそが、トウヤの仕掛けた『インフラ・ジワジワざまぁ』の真髄であった。

反乱軍は自ら生産する力を持たず、弱者から略奪することで軍を維持している。ならば、その『略奪される側』を全て安全な場所へ避難させ、物資を根こそぎ移動させてしまえば、反乱軍は戦う前に飢えて自滅する。

トウヤは『拠点再構築』の魔法を応用し、難民たちを救出するだけでなく、彼らの故郷の村の資材ごとオアシス要塞都市へ「お引っ越し」させていたのである。

「レオーネ様、お言葉ですが……このままでは我が軍は数日以内に飢え死にします。帝国からの追加の食料支援は……」

幹部の一人が、部屋の隅で冷や汗を流している人間の男――帝国から派遣された死の商人ギドを睨みつけた。

「ひっ……! い、いや、私に言われましても! 帝都からの補給線は、謎の結界や魔獣の妨害に遭って完全に寸断されておりまして……!」

ギドは懐から通信魔道具を取り出しながら震えていた。彼は気づき始めていたのだ。この異常な事態を引き起こしている存在が、西の大陸で帝国軍を次々と葬り去っていると噂の『万能の商人』であることを。

「ええい、役立たずの人間め! 補給がないなら、力ずくで奪うまでだ! 全軍を出撃させろ! 次の標的は、中立を気取っている商業都市『フェリア』だ! あそこの巨大な食料庫を奪えば、戦況は覆る!」

レオーネの狂気に満ちた号令により、飢えと焦燥に駆られた反乱軍数万が、アニマリア最大の商業都市へと進軍を開始した。

だが彼らは知らない。その道の先には、彼らの想像を絶する『絶対に壊せない壁』と『規格外のインフラ』が待ち構えていることを。

   * * *

場面は変わり、トウヤがわずか数分で築き上げた『オアシス要塞都市』。

白亜の防壁に囲まれたその街は、すでに数万人の獣人難民を受け入れ、活気に満ちた一大避難所として完璧に機能していた。

中央広場では、ミアの指導の下、獣人の女性たちが笑顔で大量のスープを作り、清潔な上下水道が完備された居住区では、子供たちが元気いっぱいに走り回っている。

その中心にある商会仮設支部の会議室で、トウヤは穏健派の狼人族ウルフマンムル長老や、虎の戦士ガレスたちと共に、アニマリアの広域地図を広げていた。

「なるほど。つまり、反乱軍が次に狙う可能性が一番高いのは、この『商業都市フェリア』というわけですね」

トウヤが地図の一点を指差す。そこは、アニマリアの中心部に位置し、東西南北の街道が交わる交通の要所であった。

「はい、トウヤ会長。フェリアは高い城壁に守られた中立都市ですが、現在はレオーネの軍勢に周囲を封鎖され、孤立無援の状態です。あそこには、我が穏健派の重要な後援者でもある狐人族フォックスマンの商人たちが多く暮らしており、彼らが倒れれば、アニマリアの経済は完全に息の根を止められます」

ムル長老が沈痛な面持ちで語る。

「経済の息の根を止める……それは商会として絶対に見過ごせない『インフラ破壊行為』だな」

トウヤは淹れたてのコーヒーを飲み干し、力強く立ち上がった。

「フェリアの住民と経済を救出し、そのままフェリアを我が商会の『第2要塞都市』として改装する。……シルフィ、ザック、リュウガ、マイロ。出番だ」

「おう! 待ちくたびれたぜ!」とザックが大剣を肩に担ぐ。

「道中の安全は、我が風の魔法にお任せを」とシルフィが優雅に微笑む。

「トウヤ殿、俺も連れて行ってくれ! 同胞を救うためなら、この命、盾にでも何にでもしてくれ!」

虎人族のガレスが、巨大な戦斧を掲げて志願した。

「命を盾にする必要なんてないさ。俺たちは『安全第一』だからな。全員、快適な車移動だ」

トウヤの言葉と共に、一行は漆黒の魔導輸送車に乗り込み、オアシス要塞都市を出発した。

魔導輸送車は、トウヤの魔法によって敷設される『ステルス安全街道』の上を、時速百キロを超えるスピードで滑るように進んでいく。

外からは完全に透明に見えるこの道は、周囲の岩山や荒野を最短距離でぶち抜き、一切の振動を車内に伝えない。ガレスやムル長老は、窓の外を飛ぶように流れていく景色にただただ口をパクパクさせて驚愕していた。

「しかし、会長。フェリアへ向かうには、どうしても越えなければならない難所がありやす」

助手席のマイロが、地図を指差しながら険しい顔をした。

「この先にある『蟻地獄のすりアントライオン・ベイスン』でさぁ。巨大な流砂の盆地でして、普段は細い石橋が架かっているんですが……偵察の報告によると、反乱軍がその橋を爆破しちまったそうで」

「流砂か。魔獣はいるのか?」

「ええ。砂の中には、体長数十メートルにもなる『砂喰いサンド・イーター』がウヨウヨしておりやす。橋がない状態で足を踏み入れれば、一瞬で砂に引きずり込まれて骨も残りやせん」

トウヤがアクセルを踏み続けると、やがて視界が開け、マイロの言葉通り、直径数キロに及ぶ巨大な流砂の盆地が現れた。

すり鉢状になった盆地の中では、無数の巨大な顎が砂の中から突き出し、不気味な鳴き声を上げている。そして絶望的なことに、こちら側の岸には、橋を落とされて逃げ場を失った数百人の獣人難民たちが、身を寄せ合って震えていた。

「おい、見ろ! 難民だ! しかも、後ろから反乱軍の別働隊が迫ってきてるぞ!」

ザックが身を乗り出して叫ぶ。

後方の土煙の中から、数十の装甲戦車に乗った反乱軍が、難民たちを流砂へ追い落とそうと迫っていた。

「ガレス様! それにムル長老!」

難民の一人、豪華な絹の着物をボロボロにした美しい狐人族フォックスマンの青年が、こちらに気づいて叫んだ。

「クラマか! 生きていたか!」

ムル長老が叫び返す。彼こそが、商業都市フェリアの豪商の一族である狐人族のクラマであった。

「長老、申し訳ありません……フェリアはもう持ちません。我々は商人のネットワークを使って逃げ出しましたが、ここで足止めを……っ!」

クラマが絶望の涙を流す中、反乱軍の魔導砲が容赦なく難民たちへ向けられた。

「やらせるか!」

ガレスとリュウガが車から飛び出そうとしたが、トウヤはそれを片手で制止した。

「戦闘は二の次だ。まずは『安全な避難経路』の確保が先だ。……あの流砂の盆地、邪魔だな。丸ごと『舗装』してしまおう」

「は……? 舗装、って……この数キロの流砂をですか!?」

クラマが呆然とする中、トウヤは車のサンルーフから身を乗り出し、両手を広げた。

万能魔法と『リトライ』を駆使する彼にとって、インフラ構築に不可能の文字はない。

「『全魔法創造』――『超広域錬金グランド・アルケミー』・ならびに『土魔法・岩盤変成』!!」

カッ……!!!

トウヤの全身から放たれた黄金の魔力が、太陽のような光となって巨大な流砂の盆地全体を覆い尽くした。

次の瞬間、世界が震えた。

流砂の中で蠢いていた無数の巨大魔獣『砂喰いサンド・イーター』たちの悲鳴が上がったかと思うと、彼らの体液と魔力が砂と融合し始めたのだ。

「な、なんだ!? 砂が……ガラスみたいに固まっていくぞ!?」

ザックが目を丸くする。

トウヤの放った錬金魔法は、数キロに及ぶ流砂と魔獣をまるごと素材として練成し、圧倒的な強度を誇る『魔導ガラスコンクリート』の巨大な一枚岩へと変えちまったのである。

さらにトウヤの指先の動きに合わせて、その巨大な岩盤の上に、片側四車線の広大な『安全第一・高架大橋スカイウェイ』が瞬く間に組み上がっていく。

橋の上には、等間隔に美しい街灯が並び、さらには休憩用の巨大なサービスエリア(トイレ、食堂、防御結界付き)までが数秒でポツン、ポツンと生え揃った。

「ば、馬鹿な……。数キロの流砂が、一瞬で巨大な道に……神の奇跡だ……」

狐人族のクラマが、腰を抜かしてその場にへたり込む。

追撃してきていた反乱軍の部隊も、目の前で起きたあまりにも規格外の地形変動に、恐怖で完全に戦意を喪失し、武器を放り出して逃げ出していった。

「ふぅ。これでインフラの地盤作りは完了だ。橋の強度も申し分ない」

トウヤは満足げに頷き、呆然としている難民たちにスピーカーで呼びかけた。

『安全第一商会です。これより、皆様を安全なオアシス要塞都市へとピストン輸送します。怪我人はサービスエリアの救護所へどうぞ。……ああ、そこの反乱軍の逃げ遅れた皆さんは、橋の清掃業務に就いてもらいますので逃げないように』

トウヤの容赦のない(しかし血は流さない)圧倒的な問題解決能力を前に、難民たちは歓喜の涙を流して橋へと駆け込んだ。

数時間後、橋の上に新設されたサービスエリアの清潔な食堂で、トウヤは狐人族のクラマと対面していた。

クラマは、出された温かい紅茶とサンドイッチを一口食べ、その美味さに再び涙ぐんでいた。

「トウヤ会長……。貴方様の噂は、西の大陸の商人仲間から聞いておりましたが、これほどまでに規格外だとは……。我々狐人族の商隊は、帝国の圧力と反乱軍の暴力の前に全てを失いました。ですが、貴方様の造り上げたこの『道』を見ればわかります。貴方様こそが、真に世界を導くお方だと」

クラマは深く頭を下げた。

「フェリアの街には、まだ数万の住民と、反乱軍に抵抗する同志たちが残っています。トウヤ会長、どうか私を貴方様の手足としてお使いください。この命に代えても、フェリアの市場を『安全第一商会』に献上し、アニマリアの物流を貴方様の元に統一してみせます!」

「契約成立だ。よろしく頼むよ、クラマ。君の持つ商業ネットワークは、この後の復興に必ず役立つはずだ」

トウヤが手を差し出すと、クラマは両手でしっかりとそれを握り返した。

人間の仲間、亜人の戦士、そして強力な情報網を持つ商人の後援者。

トウヤの周りには、彼の『絶対に安全なインフラ』に惹きつけられた者たちが次々と集い、強固な絆を築き上げていく。

「さて、流砂の難所は越えた。次はいよいよ反乱軍が包囲する商業都市フェリアの本丸だ」

トウヤは窓の外、広大な高架大橋の先に広がる荒野を見据えた。

「レオーネとかいう獅子王と、その後ろで糸を引く帝国の害虫どもに、本物の『物流と経済による暴力ざまぁ』を教えてやろう」

【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフを目指す青年の快進撃は止まらない。

内戦の炎に焼かれる獣人国家に、規格外の平和とインフラをもたらすための、次なる巨大プロジェクトが今、幕を開けようとしていた。

【現在のステータス状況】

名前:トウヤ

年齢:18

職業:商人 / 冒険者(ランクS)

レベル:72 (超広域の地形変動および巨大高架大橋の構築により大幅上昇)

体力:550/550

魔力:91,000/100,000 (超広域錬金により消費・爆速で自動回復中)

固有スキル:『リトライ(発動可能)』

魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)

取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握

【仲間・後援者の状況】

・ミア(獣人の少女):オアシス要塞都市の総責任者として、難民の食料管理と精神的ケアを見事にこなす。

・シルフィ(エルフの護衛):新設された高架大橋スカイウェイの風の防壁を調整し、魔獣の侵入を完全にシャットアウト。

・ザック(人間の冒険者):橋の掃除を命じられた反乱軍の捕虜たちの現場監督として、大剣を片手に睨みを効かせる。

・リュウガ(竜人族の戦士):ガレスと共に先陣を切り、フェリア包囲網を突破するための突撃陣形を練る。

・マイロ(犬人族の地図職人):トウヤの魔法によって地図が全く意味を成さなくなったため、新たに「トウヤの道」専用の最新マップを作成開始。

・ガレス(虎人族の戦士):トウヤの圧倒的な力に心酔。同胞を救われた恩義から、絶対に引かない不沈の盾となる。

・ムル長老(狼人族):オアシス要塞都市にて、穏健派部族を再結集し、商会への全面的なマンパワー提供を行う。

・クラマ(狐人族の商人):【新規加入・後援者】アニマリア最大の商業都市フェリアの豪商一族。情報網と交渉術に長け、商会のアニマリア支部長候補として忠誠を誓う。

・インフラ状況:「オアシス要塞都市」稼働中。流砂盆地を完全無力化する「安全第一・高架大橋スカイウェイ」および中継SA完成。ステルス安全街道の延長完了。

・資金:金貨71,000枚(流砂の魔獣を魔導ガラスに素材変換し、一部をドラグニアに売却して利益確保)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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