第30話 【閑話】鋼鉄の軍団の終焉と、竜公国への新たなる道
第30話 【閑話】鋼鉄の軍団の終焉と、竜公国への新たなる道
【閑話】
東の大陸の荒野を、地鳴りのような轟音と凄まじい土煙が覆い尽くしていた。
ガランド帝国が誇る最強の軍団――『第1機甲魔導師団』。総勢一万の精鋭魔術兵と、百体を超える巨大な『瘴気魔造兵』からなるその軍勢は、かつて数々の小国を一夜にして地図から消し去ってきた、帝国の武力と恐怖の象徴であった。
「フハハハハ! 見え透いたハッタリだ! 『大防壁』が突破されただの、エレンディルの街が一夜にして難攻不落の要塞と化いただの……。情報部の連中は、怯えすぎて幻覚でも見たに違いない!」
巨大な装甲馬車の特等席で、師団長であるヴァルデマール将軍がワイングラスを片手に傲慢な笑い声を上げていた。
彼の目には、前方にうっすらと見え始めた自由都市エレンディルの城壁が映っている。情報では、王都から来たという得体の知れない『安全第一商会』なる商人たちが街を占拠し、強固な防衛網を敷いたとされていた。
「将軍閣下。しかし、先遣隊からの通信が完全に途絶しているのも事実です。念のため、キメラ・ゴーレムを先行させて様子を見るべきでは……」
副官が冷や汗を流しながら進言するが、ヴァルデマールはそれを鼻で笑って一蹴した。
「臆病風に吹かれたか! 相手はたかが商人だぞ? 剣の振り方も知らんような連中が、我々帝国軍の誇る機甲師団に敵うはずがなかろう! いいか、エレンディルの街ごと、あの忌まわしい商人どもを灰塵に帰せ! 帝国に逆らった愚か者には、圧倒的な力による『死』あるのみだ!」
ヴァルデマールの号令により、一万の帝国兵が詠唱を開始し、百体のキメラ・ゴーレムが一斉に咆哮を上げてエレンディルの城壁へと突撃を開始した。
空を黒く染め上げるほどの無数の火球や雷撃が、エレンディルの街へ向かって放たれる。通常の都市であれば、この一斉射撃だけで城壁は崩壊し、街は一瞬にして火の海と化すはずであった。
しかし――。
ズガガガガガガガガガガッッッ!!!
帝国軍の放った数万の魔法攻撃は、エレンディルの街を覆うように展開された半透明の『絶対反射結界』に触れた瞬間、波紋ひとつ立てることなく空中で静止した。
「……な、なんだと!?」
ヴァルデマールがワイングラスを取り落とした。
次の瞬間、静止していた魔法攻撃のすべてが、放たれた時とは比べ物にならないほどの凄まじい速度と威力で、帝国軍に向かって『反射』されたのだ。
「ぎゃあああああっ!?」
「防壁陣形をとれ! 防げええっ!」
自らの放った魔法によって、帝国軍の陣形は瞬く間に大混乱に陥った。
だが、本当の絶望はここからだった。
エレンディルの東側城壁に沿って等間隔に配置されていた数十基の巨大なミスリル製『自動魔導砲塔』が、無機質な駆動音と共に一斉に帝国軍へと砲口を向けたのだ。
「撃て! あの塔を破壊しろ!!」
ヴァルデマールが絶叫するが、オート・タレットから放たれたのは破壊的なビームではなく、不可視の『重力網』と『広域麻痺閃光』であった。
ドォォォォォォォンッ!!
「ぐわっ……! か、体が……重い……!」
「目が……動けな、い……!」
殺傷能力を極限まで削ぎ落とし、その分を『制圧・捕縛』に極振りしたトウヤ特製の非致死性防衛兵器。その圧倒的な制圧力の前に、一万の精鋭たちは次々と地面に這いつくばり、白目を剥いて気絶していった。
頼みの綱であった百体のキメラ・ゴーレムたちも、タレットから放たれた『錬金分解光』によって、構成要素である魔獣の死体から「純粋な魔力鉱石」へと瞬時に還元され、ただの資材の山と化してしまった。
「ば、馬鹿な……。我が、我が無敵の機甲師団が……たった三分で……一人の敵兵と刃を交えることすらなく、全滅したというのか……!?」
装甲馬車の中で震え上がるヴァルデマールの前に、土煙を切り裂いて二つの影が降り立った。
赤毛の剣士ザックと、エルフの護衛シルフィであった。
「おいおい、帝国の最強部隊って聞いてたから少しは期待したのに、タレットの自動迎撃だけで終わっちまったじゃねえか。つまんねえの」
ザックが巨大な大剣を肩に担ぎながら、呆れたようにため息をつく。
「トウヤ様の構築した防衛インフラの前では、この程度の軍勢など虫けら同然です。……さあ、将軍。大人しく投降なさい。あなた方にはこれから、トウヤ様の指示により、エレンディルの街の『下水道清掃および次期インフラ整備の無給労働者』として、徹底的にこき使ってもらいますから」
冷徹なシルフィの宣告に、ヴァルデマールは絶望のあまり泡を吹いて気絶した。
こうして、ガランド帝国の威信を懸けた東方侵攻作戦は、安全第一商会の『防衛インフラ』の前に、文字通り手も足も出ずに完全崩壊を迎えたのである。
* * *
一方その頃、遥か西に位置するガランド帝国の帝都。
軍務省の最高機密会議室には、重苦しい沈黙と、底知れぬ恐怖が満ちていた。
「……第1機甲魔導師団が、壊滅……いや、『商会に労働力として丸ごと差し押さえられた』だと……!?」
軍務大臣バルバロスが、報告書を握りしめたままワナワナと肩を震わせている。
その隣では、筆頭宮廷魔術師ゼノンが、虚ろな目で宙を見つめ、ブツブツと狂気じみたうわ言を繰り返していた。
「あり得ない……。私のキメラ・ゴーレムが……資材に還元された? あの商人……トウヤは、魔法の理そのものを書き換えている……! リトライなどという次元ではない、神の如き万能魔法……!」
「ええい、黙れゼノン! お前の無能な計画のせいで、我が帝国の軍事力は崩壊したのだぞ!」
バルバロスが机を叩き割らんばかりの勢いで怒鳴りつけた。
「すでに、第1師団敗北の報は東の大陸全土に広まりつつある! 今まで帝国に怯えていた獣人の国『アニマリア』も、竜公国『ドラグニア』も、我々の弱体化を見て反旗を翻す準備を始めているという報告が入っているのだ!」
軍事力による恐怖政治で周辺諸国を支配していた帝国にとって、その要であった精鋭部隊の喪失は、国家の崩壊に直結する致命傷であった。
しかも、大防壁の魔力炉を奪われた影響で、帝都のエネルギー供給すら滞り始め、市民の不満は爆発寸前である。
「おのれ、安全第一商会……! 一介の商人が、我が帝国の歴史に泥を塗り、国を滅ぼそうというのか……!」
もはや武力でトウヤたちを止める手段を失った帝国上層部は、迫り来る経済的・軍事的な破滅の足音に、ただ震えることしかできなかった。
彼らの野望はじわりじわりと、しかし確実に、万能の商人が敷く『絶対安全圏』のインフラに飲み込まれ、窒息しつつあった。
* * *
帝国の絶望とは対照的に、自由都市エレンディルの商業ギルドは、かつてないほどの活気と希望に満ち溢れていた。
最上階の作戦会議室では、防衛タレットの自動迎撃による「勝利」の報告を軽く聞き流したトウヤが、巨大な地図を前にして次なるインフラ計画の立案を進めていた。
「よし、帝国軍の残党は全て労働力として回収完了したな。これでエレンディル周辺の安全は完全に確保された。これより、本格的に東の大陸の開拓を進める」
トウヤの言葉に、ギルド長のエルフ・エルランドや、新たに仲間に加わった竜人族のリュウガが真剣な表情で頷く。
「トウヤ会長。帝国の脅威が去った今、このエレンディルを拠点として、周辺諸国との貿易を再開する準備は整っております。ですが、道中の安全が……」
エルランドの懸念に、トウヤは『安全第一』のモットーを体現するような自信に満ちた笑みを浮かべた。
「だからこそ、俺たちが『道』を造るんだ。『安全第一』死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~……これが俺の究極の目標だからな。まずは、リュウガの故郷である『竜公国ドラグニア』へ向かう」
トウヤは地図の北東、険しい山岳地帯に位置するドラグニアを指差した。
「リュウガ、君の国の情報と、近隣の状況をもう一度確認させてくれ」
「はっ! トウヤ殿……いや、会長!」
リュウガが背筋を伸ばして地図の前に立つ。
「ドラグニアは、上質な魔力鉱石の産地として知られていますが、四方を険しい『断空の大渓谷』に囲まれた天然の要害に位置しています。そのため、通常の商隊が辿り着くには、魔獣が跋扈する危険な山道を何週間もかけて越えなければなりません。しかも現在は、帝国の工作によって渓谷にかかっていた唯一の吊り橋が落とされ、我が国は完全に孤立状態にあります」
「なるほど。食料不足で孤立している上に、インフラが物理的に切断されているわけだ」
トウヤは顎に手を当てた。
「その近隣には、何か危険な要素はあるか?」
「はい。渓谷の南には、獣人の部族連合国家『アニマリア』の領土が広がっていますが、彼らは縄張り意識が強く、許可なく領土を通過する者には容赦しません。ドラグニアへ向かうには、アニマリアの領土を迂回し、さらに断空の大渓谷を越える必要があります」
その時、応接室の扉が開き、猫人族のニャルロが一人の中年獣人を連れて入ってきた。
「トウヤ様! 街の市場で、腕利きの地図職人を見つけてきたニャ! 犬人族のマイロだニャ!」
「へへっ、お初にお目にかかります、トウヤ会長。あっしはマイロ。東の大陸の地形なら、目を瞑ってても歩けるってもんでさぁ」
犬の耳と尻尾を生やしたマイロは、愛想よくお辞儀をした。
「おお、それは助かる。マイロ、さっそくだがドラグニアまでの最短ルートの案内を頼めるか? もちろん、危険な場所でも俺たちが完全に安全を保証するし、報酬は弾む」
「会長の噂は聞いておりやす。あの帝国軍をポンコツにしちまうほどの力があるなら、どんな危険地帯もピクニックみたいなもんでしょう! 喜んで案内させてもらいまさぁ!」
新たな亜人の仲間(現地ガイド)であるマイロが加わり、トウヤたちのドラグニア行きのキャラバン編成は急速に進んでいった。
* * *
翌朝。
自由都市エレンディルの北門から、安全第一商会の特製魔導輸送車を先頭にしたキャラバンが出発した。
今回は、リュウガたち竜人族の戦士たちと、エレンディルから買い付けた大量の食料を積んだ大型のホバー式荷馬車も同行している。
「す、すげえ……。岩だらけの荒野なのに、馬車が全く揺れねえぞ……!」
リュウガが、魔導輸送車の後部座席で驚愕の声を上げる。
「当然です。トウヤ様が、走りながら『土魔法』で地面を平らに舗装し、『錬金魔法』で強度を上げているのですから。私たちが通った後には、半永久的に崩れない『絶対安全街道』が完成する仕組みです」
シルフィが誇らしげに解説する。
「マイロ、この先はアニマリアの領土を迂回するルートだな? 何かトラブルの種はあるか?」
運転席のトウヤが、助手席のマイロに尋ねる。
「ええ。ここから先は『風鳴りの荒野』と呼ばれてまして、凶暴な魔獣『サンド・ワーム』が地中から襲ってくる厄介な場所でさぁ。通常なら、振動を立てずに何日もかけてコソコソ歩くしかないんですが……」
「振動を立てなきゃいいなら、簡単だ。……フェルス、ゴランさん。輸送車と荷馬車の足回りを『ホバーモード』から『反重力モード』へ切り替えろ。地面から一メートル浮上して一気に駆け抜ける」
通信機越しの指示で、車列は完全に宙に浮き上がり、一切の振動を立てずに時速百キロ近いスピードで荒野を爆走し始めた。
地中に潜むサンド・ワームたちは、獲物の気配を全く察知できず、キャラバンは一度の戦闘すらなく危険地帯を突破してしまった。
「ひぃぃ……。あっしが何年もかけて覚えたサバイバル術が、魔法と技術で全部台無しでさぁ……」
マイロが半ば呆れ顔で呟く中、車列はついに、竜公国ドラグニアを隔てる最大の障害――『断空の大渓谷』へと到達した。
目の前に広がるのは、幅数百メートル、底が見えないほど深い絶望的な大渓谷である。
リュウガが言っていた通り、対岸へと繋がっていたはずの巨大な吊り橋は、帝国の工作によって無惨に切り落とされ、崖の下へと姿を消していた。
「ここが断空の大渓谷か……。確かに、これじゃあ歩いて渡るのは不可能だな」
ザックが崖の下を覗き込んで身震いする。
「リュウガ様! 橋がありません! これでは国に食料を届けられません!」
竜人族の戦士たちが絶望的な声を上げる中、トウヤは車から降り、崖の縁に立って大きく背伸びをした。
「心配いらない。橋がないなら、絶対に壊れない橋を『造ればいい』だけだ。……ゴランさん、エレンディルで回収した帝国軍の残骸(キメラ・ゴーレムの素材と装甲馬車の鉄屑)を、全部こっちのアイテムボックスに転送してくれ」
『ゲハハハ! 了解だ、トウヤの旦那! 最高の建材を送ってやるぜ!』
通信機から威勢の良いドワーフの声が響くと同時に、トウヤの目の前に莫大な量の鋼鉄やミスリルの廃材が山のように出現した。
「さて、インフラ整備の時間だ。……『全魔法創造』・『超広域錬金』!!」
トウヤが両手をかざすと、凄まじい黄金の魔力が大渓谷を包み込んだ。
山積みになっていた帝国の廃材がドロドロに溶け合い、空中で幾何学的な模様を描きながら、大渓谷の対岸へ向かって一気に伸びていく。
「なっ……!? て、鉄の塊が、勝手に組み上がっていくぞ!?」
リュウガとマイロが、信じられないものを見る目でその光景を見上げた。
ものの五分。
そこには、数百メートルの大渓谷を一直線に結ぶ、帝国の魔導砲すら弾き返すであろう強固なミスリル合金製の『安全第一大橋』が完成していた。
さらにトウヤは、橋の手前の広大な敷地に『土魔法』で平らな地盤を造り上げると、あっという間に清潔な休憩施設――トイレ、食堂、宿場を備えた『サービスエリア』まで建設してしまった。
「これでよし。橋の強度テストも完了だ。このサービスエリアは、今後エレンディルとドラグニアを行き交う商人たちの安全な中継地点として機能するだろう」
トウヤは額の汗を拭う(フリをしながら)、満足げに頷いた。
「か、神だ……。トウヤ会長は、創造神の生まれ変わりだ……!」
リュウガはついに膝をつき、トウヤに向かって深々と平伏した。マイロや竜人族の戦士たちも、それに倣って一斉に頭を下げる。
「大げさだな。俺はただ、安全に荷物を運びたいだけのしがない商人だよ。……さあ、急いでドラグニアへ向かおう。腹を空かせた竜人族の皆さんが、俺たちの食料と物資を待っている」
トウヤの号令で、キャラバンは完成したばかりの巨大な橋を渡り始めた。
橋を越えた先に見えてきたのは、険しい岩山を切り拓いて造られた堅牢な都市国家、竜公国ドラグニアの防壁である。
帝国が企てた陰謀と物流網の破壊は、トウヤの規格外のインフラ構築力によって次々と覆され、新たな「安全第一」の地盤へと塗り替えられていく。
未知の亜人たちが住まう東の大陸の深部にて、万能の商人による新たなる覇道が、今まさに本格的な幕を開けたのであった。
【現在のステータス状況】
名前:トウヤ
年齢:18
職業:商人 / 冒険者(ランクS)
レベル:65 (大渓谷への超巨大インフラ構築により上昇)
体力:450/450
魔力:82,000/100,000 (超広域錬金による大橋建設で消費・自動回復中)
固有スキル:『リトライ(発動可能)』
魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)
取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握
【仲間・後援者の状況】
・ミア(獣人の少女):荷馬車の中で、ドラグニア到着直後に振る舞う炊き出し用の巨大肉料理を仕込み中。
・シルフィ(エルフの護衛):周囲の警戒を怠らず、魔獣の気配を事前に察知してルートの安全を確保する。
・ザック(人間の冒険者):戦う機会がなくて暇を持て余しつつも、トウヤの魔法のスケールにただただ圧倒されている。
・ガリウス(人間の元帝国兵):エレンディルに残り、エルランドと共に捕虜となった元同胞(帝国軍)の労働管理と再教育を担当。
・ニャルロ(猫人族の商人):エレンディル支部で、ドラグニアからの魔力鉱石の先行予約を各国の商人に売り込み、相場を操作中。
・リュウガ(竜人族の戦士):【正式加入】祖国を救うための圧倒的なインフラを目の当たりにし、トウヤへの絶対的な忠誠を誓う。
・マイロ(犬人族の地図職人):【新規加入(現地ガイド)】東の大陸の裏道や各部族の勢力図に精通。商会の給与の高さに涙して忠誠を誓う。
・インフラ状況:エレンディル防衛網の完全自律稼働。エレンディル〜大渓谷間の「絶対安全街道」および「安全第一大橋」「中継サービスエリア」完成。
・資金:金貨52,000枚(エレンディルでの帝国軍の装備売却益によりさらに増加)
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