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第25話 【閑話】崩れ去る東の陰謀と、狂乱の帝国

第25話 【閑話】崩れ去る東の陰謀と、狂乱の帝国

【閑話】

東方貿易都市オストの領主館。

街の中心にそびえ立つその豪奢な建物は、スラム化し腐敗していく街の中で唯一、悪趣味なほどの輝きを放っていた。

しかし今、その館の最上階にある執務室では、かつてないパニックが巻き起こっていた。

「ど、どういうことだ!? 一体外で何が起きている!」

でっぷりと肥え太ったオストの領主、バルド卿は、窓の外に広がる信じられない光景を前に、持っていたワイングラスを床に取り落とした。高級な赤ワインが絨毯に染みを広げていくが、彼はそれに構う余裕すらなく、ただ窓ガラスに顔を押し付けていた。

つい数分前まで、街を囲む城壁は崩れ落ち、街路には汚水が溢れ、スラムの住人たちが飢えに苦しんでいたはずだった。それがバルドにとっての「理想的な状況」であったのだ。

なぜなら彼は、ガランド帝国から莫大な裏金を受け取り、意図的に街の防衛予算を横領してインフラを崩壊させていたからである。オストが完全に機能不全に陥り、魔獣や盗賊の脅威が頂点に達したタイミングで、「帝国の庇護下に入る」という名目で街を売り渡す手はずになっていた。

だが、夕暮れの空を黄金色の魔力が覆い尽くした直後、街は一変した。

崩れていた石の城壁は、眩い光と共に自己修復し、以前よりもはるかに分厚く強固な、ミスリルコーティングの防壁へと進化を遂げた。悪臭を放っていたドブ川は清流に変わり、半壊していた家屋は真新しい木造住宅へと姿を変え、街全体が清潔な石畳で舗装されたのだ。

「バルド卿! これは一体何の冗談だ! 街の防壁に、帝国の魔導砲すら弾き返す『絶対反射結界』が張られているではないか!」

部屋の隅から、黒いローブを着た男が血相を変えて飛び出してきた。彼はガランド帝国から派遣された工作員であり、東の国境における物流麻痺作戦の責任者であった。

「わ、私に聞かれても困る! 魔法だ! 神か悪魔か知らんが、規格外の魔法がこの街全体を瞬時に『修復』してしまったのだ!」

「馬鹿なことを言うな! 街ひとつのインフラを一瞬で造り替えるなど、帝国の宮廷魔術師が百人束になっても不可能だ! このままでは、数年がかりで進めてきた『オスト無血開城作戦』が完全に水の泡だぞ!」

帝国工作員が激昂し、バルドの胸ぐらを掴み上げたその時、執務室の分厚いオーク材の扉が、凄まじい轟音と共に吹き飛ばされた。

「なっ、何者だ! 警備兵! 警備兵は何をしている!」

バルド卿が悲鳴を上げるが、廊下にはすでに彼の雇った数百人の私兵たちが、無傷のまま白目を剥いて気絶し、積み重なっていた。

土煙の中から、黒い作業着の上に防塵コートを羽織った青年――トウヤが、数人の仲間を引き連れて悠然と足を踏み入れる。

「やあ、バルド領主。それに帝国のネズミさん。街のインフラが急に直ってしまって、さぞお困りだろうね」

トウヤはポケットに手を入れたまま、冷ややかな視線で二人を見下ろした。

国家間の力関係や種族間の軋轢が物語の背景に存在し、主人公たちの選択がやがて世界の均衡に影響を与えていく。彼がオストの街のインフラを修復したことは、単なる人助けではなく、帝国の東方侵略計画を根底から粉砕する決定的な一撃であったのだ。

「き、貴様は誰だ! ここをルミナス王国貴族の館と知っての狼藉か!」

バルドが震える指でトウヤを指差す。

「俺は『安全第一商会』代表のトウヤ。……そして、こっちの彼は君たちもよく知っている人物じゃないかな?」

トウヤが横にずれると、その後ろから、同じく商会の作業着を着た元帝国兵、ガリウスが進み出た。

「ガ、ガリウス隊長!? なぜ特務部隊のあなたが、そんな商人の格好をしてここに……! まさか、南のエルフの森での作戦は……」

帝国工作員が、信じられないものを見る目でガリウスを凝視する。

「黙れ、下劣な工作員め! 私は今や、トウヤ会長の偉大なる『絶対安全圏』構想に心酔する安全第一商会の一員だ! ゼノン様の……いや、ゼノンの立てた小賢しい作戦など、会長の万能魔法の前では児戯にも等しい!」

ガリウスは胸を張り、商会のロゴを誇らしげに見せつけながら言い放った。

「ば、馬鹿な……帝国の誇り高き特務部隊長が、ただの商人の下働きに成り下がったというのか!?」

工作員が絶望の声を漏らす中、トウヤの後ろから猫人族の商人ニャルロが顔を出し、バルド領主を睨みつけた。

「バルド領主! アンタが防衛予算を横領し、帝国とグルになって盗賊を野放しにしていた証拠は、さっきこの屋敷の地下金庫から全部見つけさせてもらったニャ! これでアンタは終わりニャ!」

「ひぃぃっ! ま、待ってくれ! 私は帝国に脅されていただけだ! 金ならいくらでも払う! だから見逃して……!」

醜く命乞いをする領主に、トウヤは一切の同情を向けなかった。

「あいにく、俺は『安全第一』を脅かす不良債権バグには容赦しない主義でね。君たちには、我が商会のインフラ整備のための『強制労働要員』として、その身をもって罪を償ってもらう」

トウヤが指を鳴らすと、エルフの護衛シルフィが神速の動きで工作員の魔力封じの首輪を取り付け、ガリウスが魔法でバルド卿を簀巻きにした。

圧倒的な力とインフラ構築力による、一瞬の制圧。

トウヤが時間を操る禁術『リトライ』を使うまでもなく、彼の規格外の行動は、敵の綿密な計画を物理的かつ概念的に破壊し、彼らをどうしようもない絶望へと叩き落としたのである。

一方その頃、遥か遠く離れたガランド帝国の帝都。

軍務省の地下最深部にある、冷たく薄暗い研究室で、筆頭宮廷魔術師ゼノンは、もたらされた報告書を握り潰し、ワナワナと肩を震わせていた。

「……あり得ん。あり得んぞ……!! 西の骸骨島に続き、南のエルフの森の『世界樹の呪い』が完全に浄化されただと? しかも、ガリウス率いる特務魔術部隊が、一人残らず消息を絶ったというのか!?」

ゼノンは怒りのあまり、机の上の貴重な魔導具を次々と床に叩きつけて破壊した。

彼の紫色の瞳は血走り、長年かけて構築してきた完璧な計画が、得体の知れない「一人の商人」によって次々と粉砕されていく現実に、狂気すら帯び始めていた。

「ゼ、ゼノン様! お怒りをお鎮めください! それに、さらに悪い報告が……」

部下の魔術師が、震えながら新たな羊皮紙を差し出す。

「東の国境都市オストで進めていた『無血開城作戦』ですが……たった今、オストの街全体が謎の大規模魔法によって完全に修復され、強固な防衛結界で覆われたとの報告が入りました。工作員からの定期連絡も途絶え、国境沿いの盗賊団も一夜にして壊滅した模様です」

「なんだと!? オストの街のインフラが、一日で修復されただと!?」

ゼノンは部下の胸倉を掴み上げ、激しく揺さぶった。

「馬鹿なことを言うな! 街ひとつの建築と結界構築を瞬時に行うなど、神の領域の魔法だぞ! どこの誰が、そんな真似を……!」

「報告によれば……それを行ったのも、『安全第一商会』を名乗る黒髪の青年だそうです」

「また奴か……! トウヤとかいう、あの忌まわしい商人!!」

ゼノンは部下を放り投げ、天を仰いで絶叫した。

西の海竜の呪いを解き、南のエルフの森に道を架け、そして今度は東の国境都市を一瞬で絶対安全圏へと変えてしまった。

帝国が各方面に仕掛けていた「じわりじわりと国を蝕む陰謀」は、万能の商人がもたらす圧倒的な「インフラの暴力」の前に、ものの見事に瓦解しつつあった。

「おのれ……おのれトウヤ! 帝国の……私の完璧な計画を、これ以上邪魔させるものか! こうなれば手段は選ばん! 軍務大臣に直訴し、東の国境へ帝国の主力軍を進軍させる! 奴の造ったインフラごと、あの街を灰燼に帰してやる!!」

ゼノンの狂乱の声が、地下研究室に空しく響き渡る。

しかし、帝国上層部もまた、突如としてルミナス王国のインフラが劇的に強化され始めたことに動揺を隠せずにいた。トウヤの規格外の行動は、帝国の内部にすら疑心暗鬼と亀裂を生み出し始めていたのである。

そして、視点は再び東方貿易都市オストへと戻る。

領主と帝国のスパイが排除され、安全第一商会の直轄管理地となったオストの街は、翌朝には信じられないほどの活気を取り戻していた。

「号外だ、号外! 東の国境沿いの盗賊団が全滅し、オストまでの街道が完全に『安全第一商会』の管理下に入ったぞ!」

「マジかよ!? あの難攻不落のスラム街が、たった一夜で王都並みの清潔な街に生まれ変わったって噂は本当だったのか!」

「西の海も南の森も、全部あの商会が安全にしたらしいぜ! こりゃあ、オスト経由で東の大陸との貿易が爆発的に儲かるぞ! 急いで荷馬車を手配しろ!」

東の大陸からやってきた商人たちや、王都から噂を聞きつけて集まってきた行商人たちが、新しくなったオストの街の関所へと続々と押し寄せていた。

彼らの顔には、長年の恐怖から解放された安堵と、新たなビジネスチャンスへの歓喜が満ち溢れている。

「いらっしゃいませニャ! オストの街へようこそニャ! 今なら安全第一商会の特製ポーションが、開通記念価格でお買い得だニャ!」

関所の入り口で、すっかり商会の制服が板についた猫人族のニャルロが、満面の笑みで客引きをしている。彼の横では、獣人の少女ミアが、長旅で疲れた商人たちに温かい炊き出しのスープを振る舞っていた。

活気づくオストの街の一角では、かつてスラムの住人としてその日暮らしを強いられていた人々が、商会の真新しい作業着に身を包み、笑顔で働いていた。

彼らはトウヤの提案により、商会の正式な従業員として雇用され、街の美化活動や荷運びの仕事に従事することで、安定した給与と安全な住まいを手に入れたのだ。

「おい、そこの木箱は第三倉庫へ運んでくれ! 丁寧に扱えよ、西の大陸から届いた高級香辛料だからな!」

「了解だ! しかし、まさか俺たちみたいな浮浪者が、こんな真っ当な仕事をもらえる日が来るなんてな。トウヤ会長には足向けて寝られねえよ」

「まったくだ。それに、この街の防壁……帝国軍が何万で押し寄せてきても、絶対に破られないって噂だぜ。俺たちはもう、誰にも怯えなくていいんだ」

その様子を視察していたトウヤは、満足げに頷いた。

インフラの整備は、単に建物や道を造るだけではない。そこに住む人々の心に「安全」という絶対的な安心感を与え、前を向いて生きる活力を生み出すことこそが真の目的なのだ。

「見事なものですね、トウヤ様。たった数日で、この街が東の最大の物流拠点として蘇るとは」

オストの街を見下ろす高台に新設された『安全第一商会・東方支部』の執務室で、シルフィが感嘆の声を漏らす。

窓際に立つトウヤは、活気に満ちた街並みを見下ろしながら、淹れたてのコーヒーを啜った。

「ああ。治安が回復し、インフラが整備されれば、経済は自然と回り始める。これで王国の東西と南、主要な物流ルートは全て俺たちの『絶対安全圏』に組み込まれた。……だが、帝国の連中もこのまま黙ってはいないだろう」

トウヤの『空間把握』スキルは、東の国境の遥か彼方、帝国の領土内で不穏な軍隊の動きが活発化しているのをすでに捉えていた。

「帝国が本隊を動かしてくるなら、こちらも相応の『おもてなし』を準備しないとな。……ゴランさん、フェルス。オストの防衛システムの最終調整を急いでくれ。ここから先は、インフラ構築と並行して、帝国との全面的な『陣取りゲーム』になる」

万能の商人は、不敵な笑みを浮かべて東の空を睨みつけた。

ゲームのようなステータスが存在する異世界へ転移した青年は、一度も『リトライ』の力を使うことなく、その圧倒的なインフラ整備力で世界の均衡を大きく変えつつあった。

「本当の強さは仲間との絆から生まれる」というテーマの通り、新たに加わったニャルロや更生したガリウスといった仲間たちと共に、彼の商会は国家の枠組みすら超える巨大な存在へと成長していく。

「トウヤ様。オストの街の関税収入と、東の大陸との第一陣の貿易利益の計算が終わりました。……驚かないでくださいね。王国の国家予算の数パーセントに匹敵する額が、たった数日で動いています」

王都から魔導通信で連絡を入れてきたレオンが、少し引きつった声で報告する。

「上出来だ。その利益は全て、次のインフラ投資と従業員の福利厚生に回してくれ。金は溜め込むより、循環させてこそ価値を生むからね」

トウヤは商人の顔で答えた。

彼がゲームのようなステータスが存在する異世界へ転移した時、ブラック企業での過労死という前世の経験から、彼が求めたのは「安全第一」と「スローライフ」だった。

しかし、その目的を達成するために彼が構築しているシステムは、すでに一個人の商会の枠を完全に逸脱し、世界を救済する巨大な装置へと変貌を遂げている。

「さて、東の地盤も固まった。次は帝国が築いたという、東の大陸への物流を阻む『大防壁』の視察と解体工事だな。……忙しくなるぞ、皆」

トウヤの言葉に、シルフィ、ミア、ニャルロ、そしてガリウスが力強く頷いた。

万能魔法と規格外のスキル、そして仲間たちとの絆を武器に、トウヤの異世界開拓はさらなる高みへと進んでいく。

狂乱する帝国を尻目に、絶対安全な経済圏は、留まることなく世界を覆い尽くそうとしていた。

【現在のステータス状況】

名前:トウヤ

年齢:18

職業:商人 / 冒険者(ランクS)

レベル:55 (オスト領主及び帝国工作員の制圧、街の完全掌握により上昇)

体力:350/350

魔力:95,000/100,000 (インフラ維持のため微量消費中・自動回復)

固有スキル:『リトライ(発動可能)』

魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)

取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握

【仲間・後援者の状況】

・ミア(獣人の少女):オストにて商人や元スラム住民への炊き出しと健康管理を指揮。女神のように慕われる。

・シルフィ(エルフの護衛):東の国境での不穏な動きに備え、防衛部隊の再編成と訓練を行う。

・ガリウス(人間の元帝国兵):帝国の内情や暗号を全て商会に提供し、東方防衛戦の参謀として活躍中。

・ニャルロ(猫人族の商人):【正式加入(後援者・支部長)】オスト支部長に就任。東の大陸との貿易実務を取り仕切る。

・レオン、ゴラン、フェルス:王都本部から、オストに続く街道の「超高速エコ・ハイウェイ化」の設計と資材調達を急ピッチで進める。

・バルド卿及び帝国工作員:【捕虜(労働力)】商会のインフラ整備における重労働部門へ配置転換。安全で健康的な労働を強制される。

・インフラ状況:東方貿易都市オストの「拠点再構築」完了。「絶対反射結界」稼働。東西南の主要物流ルート確立。

・資金:金貨35,000枚(オストの横領資産回収、および東の大陸との貿易爆発により莫大な富を築く)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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