第24話 東の国境都市と、新たなインフラ計画
第24話 東の国境都市と、新たなインフラ計画
大樹海アルフヘイムとの間に「高架式エコ・ハイウェイ」が開通し、南の物流ルートが完全に確保されてから数週間。
ルミナス王国の王都ルミナリスにある『安全第一商会』の本部ビルでは、次なる大規模プロジェクトに向けた首脳陣の会議が開かれていた。
「西の港湾都市アクアリアからの海路、そして南のエルフの森からの陸路。どちらも商会の予想をはるかに上回る利益を叩き出しています。特に、エルフの森から直送される『世界樹の朝露』を使用した最高級ポーションは、各国の王侯貴族からの予約が数年先まで埋まっている状態です」
長机に広げられた莫大な数字が書き込まれた羊皮紙を指し示しながら、人間の商人レオンが興奮を隠しきれない声で報告する。
「まさに金の生るインフラだな。だが、利益が出ているからといって現状に満足するつもりはない。俺たちの目標は、あくまで世界中の全ての脅威を取り除き、完全な『絶対安全圏』を創り上げることだ」
上座に座るトウヤは、手元のマグカップから立ち昇るコーヒーの香りを楽しみながら、静かに、しかし力強く言った。
「次なる目標は、いよいよ東……世界の経済と物流の中心である『東の大陸』ですね、トウヤ様」
護衛のエルフ、シルフィがトウヤの背後に立ちながら真剣な眼差しを向ける。
「ああ。だが、東の大陸へ向かうには、まずルミナス王国の東の国境を越えなければならない。レオンさん、現在の東の国境の状況はどうなっている?」
レオンは表情を引き締め、別の地図をテーブルに広げた。
「ルミナス王国の東端に位置する『東方貿易都市オスト』。かつては東の大陸へと続く陸路の玄関口として栄えていましたが、現在の状況は最悪と言っていいでしょう。ガランド帝国が東の大陸との間に『大防壁』を築いて物流を独占しようと企んでおり、さらに国境付近の街道には、帝国の息がかかった盗賊団や、凶暴化した魔獣が我が物顔で跋扈しています」
「つまり、オストの街は完全に孤立し、インフラが崩壊している状態というわけか」
トウヤは顎に手を当てて思考を巡らせた。
「その通りです。街の治安は地に落ち、領主も半分諦めているという噂です。まともな商人は寄り付かず、物価は高騰し、スラム街が際限なく広がっているとか」
「なるほど。それは『安全第一』とは対極にある、最悪の環境だな。……だが、俺たちにとっては絶好のビジネスチャンス(開拓地)だ」
トウヤの言葉に、同席していたドワーフの技師ゴランと、狐人族の建築家フェルスがニヤリと笑った。
「ゲハハハ! トウヤの旦那がそう言うってことは、またドデカイ工事が始まるってことだな! 俺の重機部隊の出番か!」
「東の地形データを分析し、どのようなインフラが最適か、すぐに設計図を引き始めます!」
「頼もしいね。でも、まずは現地の情報収集と地盤作りが先だ。大部隊を動かす前に、俺たちでオストの街へ向かい、現状を直接確認しよう。……ミア、出発の準備を頼む」
「はい、トウヤ様! お弁当と非常食、ポーションの準備は完璧です!」
獣人の少女ミアが元気に返事をする。
「それと、今回はもう一人、現地の案内に詳しい人材を連れて行きたい。ユリウス、例の『新入社員』を呼んできてくれ」
トウヤの指示を受け、元帝国将校のユリウスが部屋を出て、しばらくして一人の男を連れて戻ってきた。
それは、南のエルフの森でトウヤに捕縛され、地下の魔力バッテリーで強制労働をさせられていたはずの、帝国軍特務魔術部隊の元隊長・ガリウスであった。
彼はかつての傲慢な態度は見る影もなく、商会のロゴが入った清潔な作業着を身にまとい、すっかり毒気の抜けた顔をしている。
「お呼びでしょうか、トウヤ会長。このガリウス、命に代えても会長の『安全第一』の理念に尽くす所存であります!」
ガリウスは深々と、そして見事な角度でお辞儀をした。
「……すっかり洗脳……いや、更生したみたいだな。労働環境はどうだい、ガリウス」
「はっ! 帝国のブラックな軍務とは比べ物にならないほどの天国です! 一日八時間労働の徹底、週休二日制、栄養満点の食事に、魔力消費後の手厚いケア! これほどの福利厚生を用意していただけるなら、私は一生、商会のバッテリーとして魔力を搾り取られても構いません!」
涙ながらに語るガリウスを見て、シルフィが(人間って怖い……)と内心で呟いたのは言うまでもない。
「それは重畳。ガリウス、君は帝国の特務部隊として、東の国境付近の裏事情にも詳しいだろう? 今回のオスト視察に、案内役として同行してほしい」
「承知いたしました! 帝国の小賢しい裏工作など、私が全て洗いざらい吐き出してみせます!」
かくして、トウヤ、シルフィ、ミア、そして更生した元帝国兵のガリウスを加えた一行は、新たなインフラ構築の舞台となる東の国境都市オストへと向けて出発することとなった。
王都から東へ続く街道は、最初は石畳で整備されていたものの、数日も進むとすぐに荒れ果てた土の道へと変わった。
道の両脇には放置された馬車の残骸や、魔獣に襲われた痕跡が点在しており、この地域の治安の悪さを物語っている。
「ひどい道ですね……。これでは荷馬車がすぐに壊れてしまいますし、雨が降れば泥沼です」
漆黒の魔導輸送車の後部座席から窓の外を見て、ミアが顔をしかめる。
運転席のトウヤは、ハンドルを握りながら『空間把握』のスキルで周囲の状況を常にスキャンしていた。
「街道の維持管理が行き届いていない証拠だな。インフラの崩壊は、そのまま国家の衰退に直結する。帝国の連中は、物理的な攻撃よりも先に、こうやって国の血流(物流)を止めることで、ジワジワと王国を首を絞めているんだ」
「おっしゃる通りです、会長。ゼノン様の……いや、あのゼノンめは、東の国境沿いの盗賊団に魔導具を横流しし、商人を襲わせて意図的に物流を麻痺させているのです」
助手席に座るガリウスが、かつての上司を吐き捨てるように言った。
その時、トウヤの『空間把握』スキルが、数キロ先の前方での争いを感知した。
「……噂をすれば、だな。前方の森の入り口で、商人の馬車が盗賊団と魔獣の混成部隊に襲われている」
「魔獣と盗賊が一緒に、ですか?」シルフィが眉をひそめる。
「帝国の調教魔法だろう。ガリウス、お前の古巣のやり方だな?」
「はっ! お恥ずかしい限りです! すぐに私が制圧してまいりましょうか!?」
「いや、俺たちの商品の『お披露目』も兼ねる。行くぞ」
トウヤがアクセルを踏み込むと、魔導輸送車は凄まじい加速で荒れた街道を土煙を上げて疾走した。
数分後、視界に飛び込んできたのは、ひっくり返った大型の幌馬車と、それを守るようにして剣を振るう数名の護衛、そして彼らを絶望的な数で取り囲む数十人の盗賊団と、鎖に繋がれた数頭の凶暴な四ツ目狼であった。
「ヒャッハー! 諦めな、商会の連中! 命が惜しけりゃ、積荷の魔石と食料を全部置いていきな!」
盗賊の頭目が下品な笑い声を上げる。
護衛の傭兵たちはすでに満身創痍であり、馬車の影で震えている若い商人――豪奢な服を着た、しかし泥だらけの亜人(猫人族)の青年の顔には、死の絶望が浮かんでいた。
「もうダメニャ……。こんな辺境のルートを選んだのが間違いだったニャ……」
猫人族の商人が目を閉じた、その瞬間だった。
『――安全第一商会、業務執行の時間だ』
空から響くような拡声器の声と共に、漆黒の魔導輸送車が盗賊団のど真ん中に猛スピードで突っ込んできた。
「なっ、なんだあの黒い鉄の塊は!?」
盗賊たちが驚愕して道を開ける中、輸送車は急ブレーキでピタリと停止し、中からトウヤたちが降り立った。
「やあ、お困りのようだね。俺たちは王都の『安全第一商会』の者だ。……そこの盗賊諸君。公道での不法な通行妨害と恐喝は、我が商会のインフラ規約に対する重大な違反行為だ。直ちに武器を捨てて投降しろ。さもなくば……『物理的』に排除する」
トウヤの静かな、しかし絶対的な威圧感を伴う宣言に、盗賊たちは一瞬怯んだものの、すぐに嘲笑を浮かべた。
「ハッ! どこかのボッチャン商人が、正義の味方気取りかよ! やっちまえ! 狼ども、あの鉄の車ごと噛み砕け!」
頭目の指示で、狂暴なブラッド・ウルフたちが一斉にトウヤに向けて飛びかかってきた。
しかし、トウヤはポケットから手を出そうともしない。
「シルフィ、ガリウス。害虫駆除を」
「承知いたしました」
「ははっ! 会長のご命令とあらば!」
シルフィが目にも留まらぬ速さで弓を引き絞り、風の魔力を纏った矢を放つ。矢はブラッド・ウルフたちの四肢を正確に射抜き、彼らを一瞬にして地面に縫い付けた。
さらに、元帝国精鋭のガリウスが前に進み出た。
「帝国の下劣な犬共めが! 会長の偉大なるインフラ構想の邪魔をするなど、万死に値する!」
ガリウスが杖を振るうと、盗賊たちの足元の土が突如として沼のように泥濘化し、彼らの動きを完全に封じ込めた。
「な、なんだこいつら!? 魔法使いだと!?」
「ひぃぃっ! 足が抜けない!」
パニックに陥る盗賊団に対し、トウヤはゆっくりと歩み寄り、指を鳴らした。
「『超重力領域』」
ドスゥゥゥゥンッ!!
不可視の重力の圧が盗賊団全体にのしかかり、彼らは悲鳴を上げる間もなく地面に這いつくばり、全員が白目を剥いて気絶した。
戦闘開始から数十秒。圧倒的な制圧劇であった。
「……す、すごいニャ……。あんな大人数の盗賊を一瞬で……」
馬車の影に隠れていた猫人族の商人が、信じられないものを見る目でトウヤを見上げている。
「怪我はないか? 護衛の人たちには、これを使ってくれ」
トウヤは空間収納から『最高級ポーション』を取り出し、青年に手渡した。
「こ、これは……王都で噂になっている、どんな傷でも一瞬で治すという幻のポーション!? そ、そんな高価なものを……!」
「構わない。怪我人を放置するのは『安全第一』に反するからね」
青年が慌てて護衛たちにポーションを飲ませると、彼らの深い傷は瞬く間に塞がり、体力が完全に回復した。
「おお……痛みが消えたぞ!」
「信じられねえ、アンタら、命の恩人だ……!」
護衛たちがトウヤたちに深く頭を下げる。
「助かったニャ。オイラは東方貿易都市オストを拠点にしている商人、ニャルロと言うニャ。東の大陸から仕入れた香辛料を王都に運ぼうとしたんだけど、道がこんな有様で……」
猫人族のニャルロは、泥だらけの服を払いながら深々と一礼した。
「俺は安全第一商会代表のトウヤだ。オストを拠点にしている商人なら、ちょうどいい。俺たちもオストに向かっているところなんだが、現地の状況を詳しく聞かせてもらえないか?」
ニャルロは悲痛な表情でため息をついた。
「オストはもう終わりニャ。領主のバルド卿は帝国からの賄賂漬けで、街の防衛予算をネコババしてるニャ。街の壁は崩れかけ、スラム街には難民が溢れ、商人は盗賊に怯えてまともな商売ができない状態ニャ。オイラも、これが最後の行商のつもりだったニャ……」
「なるほど。腐敗した領主と、崩壊したインフラ、そして帝国の介入か。典型的な末期症状だな」
トウヤは顎を撫でながら、不敵な笑みを浮かべた。
「ニャルロ。もし俺が、オストの街のインフラを一日で完全に修復し、盗賊や魔獣が絶対に近づけない『絶対安全圏』を作り上げると言ったら、お前は我が商会の下請けとして、東の大陸とのパイプ役を担ってくれるか?」
「い、一日でインフラを修復!? そんな魔法みたいなこと……いや、恩人のトウヤ様が言うなら……でも、領主が黙ってないニャ!」
「腐敗した領主の排除も含めて、全て俺の『仕事』だ。……さあ、急いでオストへ向かおう。最悪な環境を最高の市場にリフォームする、地盤作りの始まりだ」
トウヤは気絶した盗賊たちを『アイテムボックス』に放り込む(後で労働力として使うため)と、ニャルロたちを促して魔導輸送車に乗せた。
数時間後、一行はついに東方貿易都市オストの城壁が見える丘に到達した。
しかし、かつて東の玄関口として栄えたというその街は、城壁のあちこが崩れ落ち、街の中からは黒い煙が立ち上るという、まさにスラムのような惨状を呈していた。
「ひどい……。王国の街が、こんなに荒れ果てているなんて……」
ミアが悲しそうにつぶやく。
「帝国の陰謀とはいえ、これを見過ごしてきた王国の怠慢でもあるな。……だが、今日でそれも終わりだ」
トウヤは丘の上から街を見下ろし、両手を大きく広げた。
万能の商人の頭脳には、すでにこの街を再生し、自らの物流網の中枢に組み込むための完璧な青写真が描かれていた。
「『拠点再構築』、ならびに『防衛結界展開』――発動!」
トウヤから放たれた規格外の魔力が、夕暮れの空を黄金色に染め上げ、オストの街全体を包み込んだ。
死んでもやり直せる『リトライ』の禁術を使うまでもなく、彼のインフラ構築魔法は、腐敗と絶望に沈む街を物理的・概念的に塗り替えていく。
東の開拓に向けた壮大な地盤作りが、今、圧倒的なスケールで幕を開けたのであった。
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【現在のステータス状況】
名前:トウヤ
年齢:18
職業:商人 / 冒険者(ランクS)
レベル:53 (盗賊団の制圧、およびオストへの大規模魔法発動により上昇)
体力:340/340
魔力:82,000/100,000 (拠点再構築、防衛結界展開により消費・自動回復中)
固有スキル:『リトライ(発動可能)』
魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)
取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握
【仲間・後援者の状況】
・ミア(獣人の少女):一行の健康管理と食料供給を担当。荒れたオストの街を見て、炊き出しの決意を固める。
・シルフィ(エルフの護衛):トウヤの絶対的な武力として、周囲の警戒を怠らず任務を遂行中。
・ガリウス(人間の元帝国兵):【新規同行者】元帝国特務魔術部隊長。トウヤの力と労働環境に心酔し、商会の忠実な手駒として暗躍する。
・ニャルロ(猫人族の商人):【新規仲間候補】東の大陸にコネクションを持つ行商人。トウヤに命を救われ、その規格外の力に驚愕している。
・レオン、ゴラン、フェルス:王都本部にて、オスト開拓の連絡を受け、後続の重機部隊と資材輸送の準備を進める。
・インフラ状況:王都〜オスト間の街道の完全整備を計画中。オストの街の『拠点再構築』を開始。
・資金:金貨19,000枚(盗賊団の拠点から没収した資産により増加)
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