第17話 西への旅路と、海風の吹く廃村の再起
第17話 西への旅路と、海風の吹く廃村の再起
王都ルミナリスから西へ。
かつては王都と海を結ぶ重要な交易路であったその街道は、現在では魔物の脅威と野盗の跳梁跋扈により、完全に寂れ果てていた。
しかし今、その荒れ果てた道を、漆黒の流線型をした魔導輸送車が、砂塵を巻き上げながら猛スピードで駆け抜けていた。
「王都を出発して数時間で、もうこんなに景色が変わるのですね……。西部の気候は温暖だと聞いていましたが、海風のせいか少し肌寒く感じます」
後部座席で窓の外を眺めながら、獣人の少女ミアが尻尾を揺らして呟いた。
彼女の手には、王都の厨房で持たせてもらった温かい紅茶の入った水筒が握られている。
「そうだね。王都周辺の平原を抜けると、西側は塩害と強風の影響で土地が痩せているんだ。それに加えて……」
運転席でハンドルを握るトウヤが、フロントガラスの向こうに広がる荒涼とした景色に目を細める。
「港湾都市アクアリアの機能が停止しているせいで、海産物や海外からの輸入品が途絶え、この街道沿いの宿場町も軒並み廃墟になりかけているらしい」
助手席で地図を広げていたエルフの護衛シルフィが、凛とした声で補足した。
「アルベルト様からいただいた最新の報告書によれば、港湾都市アクアリアの周辺海域には『海竜』が棲み着き、漁船や商船を次々と沈めているとのことです。さらに、その混乱に乗じて『黒鮫海賊団』と名乗る武装集団が沿岸部の村々を略奪して回っていると。……帝国が裏で糸を引いている可能性も否定できません」
「海竜に海賊か。王都の貴族たちは自分たちの利権争いに夢中で、辺境の海のことなんて放置状態だったわけだ。まあ、おかげで俺たちが『インフラ整備』という名目で合法的に介入できる隙ができたわけだけどね」
トウヤは、ゲームのようなステータスが存在する異世界へ商人として転移して以来、常に「安全第一のスローライフ」を求めてきた。
しかし、彼が求める「安全」とは、単に自分が引きこもることではない。彼の周囲の環境、物流、そして関わる人々の生活基盤そのものを底上げし、誰もが安心して暮らせる絶対的な経済圏を築き上げることこそが、真のスローライフへの道だと確信しているのだ。
「まずは、アクアリアの手前にある『潮騒の村マレ』を拠点にする。そこはかつて、優秀な造船技術を持った船大工たちが集まる活気ある漁村だったらしい。海賊どもに荒らされているなら、俺たちの手で『防衛』と『復興』を行って、港湾都市へ乗り込むための地盤を作る」
魔導輸送車がさらに進み、潮の香りが色濃くなってきた頃。
トウヤの持つ『空間把握』スキルが、前方の異常を感知した。
「……どうやら、早速歓迎されているみたいだな」
「トウヤ様、前方の村から黒煙が上がっています! そして、数十人の武装した男たちが村人を襲っているようです!」
エルフの優れた視力で状況を捉えたシルフィが、即座に弓に手をかけた。
「黒鮫海賊団の末端だろうね。ミア、シートベルトをしっかり締めておいて。少し揺れるよ」
トウヤはアクセルペダルを床まで踏み込んだ。
魔導エンジンの出力が限界まで跳ね上がり、数十トンの質量を持つ漆黒の車体が、弾丸のような速度で村へと突進していく。
――潮騒の村マレ。
かつて美しかった白壁の家々は破壊され、網や漁船が燃やされていた。
「ひゃははは! 食い物は全部船に積め! 抵抗する奴は海の藻屑にしてやる!」
眼帯をした海賊の男が、下品な笑い声を上げながら村の広場で松明を振り回している。彼らの周囲には、恐怖に震えながら身を寄せ合う村人たちと、血を流して倒れている数人の自警団の若者たちがいた。
「くそっ……! 誰か、妹たちを連れて逃げてくれ……!」
自警団のリーダーらしき人間の青年が、折れたモリを杖代わりに立ち上がり、海賊たちを睨みつける。彼の体は傷だらけで、もはや戦える状態ではなかった。
「威勢がいいのはお前だけだぜ、カイト。お前もあの忌まわしい『半魚人』と一緒に、海竜の餌にしてやるよ!」
海賊が巨大な曲刀を振り上げ、カイトと呼ばれた青年の首を刎ねようとした――その瞬間である。
キィィィィィンッ!!!
鼓膜を劈くような魔力駆動音と共に、海賊たちの真横の空間を「黒い鉄の塊」が凄まじい速度で通り抜けた。
ドゴォォォォンッ!!
突風と衝撃波が巻き起こり、カイトに刃を向けていた海賊をはじめ、広場にいた数十人の海賊たちが、まるで木の葉のように空高く吹き飛ばされた。
「な、なんだぁっ!?」
「何が起きた! 大砲でも撃ち込まれたのか!?」
パニックに陥る海賊たちの前に、静かに停車した魔導輸送車のドアが開き、トウヤが優雅に降り立った。
「やあ、海の荒くれ者さんたち。ここは『安全第一商会』の提携予定地なんだけど、少し騒がしすぎるんじゃないかな?」
「き、貴様は何者だ! そのふざけた鉄の馬車は……魔法使いか!」
生き残っていた海賊たちが、一斉に武器を構えてトウヤを取り囲む。
「シルフィ、村人の保護を。ミアは怪我人の手当てを頼む」
「承知いたしました!」
「はいっ、トウヤ様!」
シルフィが神速の身のこなしで村人たちの前に立ち塞がり、牽制の矢を放つ。ミアは急いでアイテムボックスからポーションを取り出し、倒れているカイトたちに振りかけ始めた。
「小僧一人で俺たち海賊団に勝てると思うなよ! ぶっ殺せ!」
海賊たちが怒号と共にトウヤに襲い掛かる。
しかし、トウヤはポケットに手を入れたまま、小さくため息をついた。
「俺は商人だからね、野蛮な殺し合いは好きじゃない。……『超重力領域』、ならびに『武装解除』」
ドォォォォォォンッ!!
一瞬にして、村の広場全体に通常の数十倍の重力場が発生した。
「ぎゃあああっ!?」
「か、体が……っ!」
海賊たちはカエルのように地面に這いつくばり、彼らが手にしていた曲刀や斧は、見えない力で空中に巻き上げられ、次々とトウヤの足元に金属の山を築いていく。
わずか数秒。流血すらなく、村を襲っていた海賊たちは完全に無力化された。
「さて、法的な手続きは後回しにして、まずは君たちの船とアジトの場所を聞かせてもらおうか」
トウヤが冷酷な商人の笑みを浮かべて這いつくばる海賊たちを見下ろしていると、背後からポーションで傷を癒やしたカイトが、信じられないものを見る目で歩み寄ってきた。
「あ、あんた……一体……。魔法使いなのか? それとも王都の騎士団……?」
「俺はトウヤ。しがない商人さ。怪我が治ったなら良かった。君がこの村の自警団のリーダーかな?」
カイトは慌てて姿勢を正し、深く頭を下げた。
「俺はカイト。このマレの村で船大工と漁師をやっている。……恩人になんて礼を言えばいいか分からない。あんたがいなかったら、俺たちは皆殺しにされていた」
「気にするな。俺はこの村にビジネスの拠点を作りに来たんだ。ところで、カイト。さっき海賊たちが『半魚人』と言っていたが、それはどういうことだ?」
トウヤの問いに、カイトは少し躊躇するような表情を見せた後、広場の隅にある古びた小屋を指差した。
「……俺たちの村が海賊に狙われたのは、ただの略奪目的じゃない。あいつらは、俺が匿っていた『ルリア』を奪いに来たんだ」
「ルリア?」
「ああ。彼女は……海の奥深くに住む、セイレーン(水棲亜人)の少女だ」
カイトの案内で小屋の中に入ると、そこには薄暗い部屋の隅で、巨大な水桶の中に身を隠すように震えている少女がいた。
透き通るような青い髪に、耳の裏には美しいヒレ。下半身は魚のようにも見えるが、陸上では人間の足に変化する特殊な種族らしい。彼女の瞳には、強い恐怖と警戒心が宿っていた。
「大丈夫だ、ルリア。この人たちは俺たちを助けてくれた恩人だ」
カイトが優しく声をかけると、ルリアは恐る恐る顔を上げた。
「ルリアは数週間前、海竜に襲われて怪我をして海岸に打ち上げられていたところを、俺が助けたんだ。彼女の種族・セイレーンには、特殊な『歌声』で海竜の怒りを鎮め、操る力があるという伝説がある。黒鮫海賊団の奴らは、その力に目をつけ、ルリアを利用して海竜を兵器として操ろうとしているんだ」
「なるほど。海竜の脅威を背景にして港湾都市の物流を止め、自分たちだけが海を支配する。いかにも悪党が考えそうなことだ。……ひょっとすると、その計画を裏で支援しているのは、ガランド帝国かもしれないな」
トウヤはルリアの前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
ゲームのようなステータスが存在する異世界において、彼女のような希少な亜人は、資源として搾取されるか、脅威として迫害される運命にある。
「ルリア。君は、自分の力で海竜を鎮めることができるのか?」
ルリアは怯えながらも、小さく頷いた。
「……はい。でも、今の海竜様は……何者かによって『黒い呪い』をかけられていて、正気を失っています。私の歌声でも、一時的に動きを止めることしか……」
「呪い、ね。やはり人為的な裏工作か」
トウヤは納得したように頷き、立ち上がった。
「カイト、ルリア。君たちの事情はよく分かった。俺の商会が、この村の復興と防衛を丸抱えしよう。そして、海竜の呪いを解き、海賊どもを完全に殲滅する」
「そ、そんなことができるのか!? 相手は何百人もの海賊と、巨大な海竜だぞ!」
カイトが驚愕の声を上げるが、トウヤはニヤリと笑った。
「俺を誰だと思っている? 安全第一の物流網を構築するためなら、海竜だろうが海賊だろうが、すべて『合法的に』排除・利用させてもらう。……その代わり、カイト。君の船大工としての技術と操船の腕、そしてルリアの海の知識を、俺の商会の『水上物流部門』のために貸してほしい。本当の強さは仲間との絆から生まれる、だからね」
トウヤの差し出した手に、カイトは少しの迷いも見せず、強く握り返した。
「あんたのその力と、俺たちを助けてくれた恩義……一生かけても返しきれない。俺でよければ、いくらでもこき使ってくれ! 商会の船だろうが何だろうが、最高のものを造ってやる!」
ルリアも水桶から出て、人間の足で立ち上がると、トウヤに向かって深くお辞儀をした。
「わ、私も……海を元の平和な姿に戻せるのなら……トウヤ様のために、歌います!」
新たな仲間、優秀な船大工とセイレーンの少女を手に入れた瞬間だった。
「よし、契約成立だ。それじゃあ、まずはこのボロボロの村を、俺たちの『前線基地』に作り変えるぞ」
トウヤは村の中央広場に出ると、両手を天に掲げ、万能魔法の力を解放した。
「『土魔法・絶対城壁』、村の外周に展開。さらに『水魔法・浄化』『錬金術・建築修復』!」
ズゴゴゴゴォォォォッ!!
大地が鳴動し、海賊に破壊された村の外周に、アイギスと同じ白銀のミスリルアーマーでコーティングされた巨大な防壁が瞬く間にそびえ立った。
さらに、燃やされていた家々は魔法の光に包まれ、より強固で清潔な石造りの家へと一瞬にして修復されていく。
破壊された漁港の桟橋も、強靭な岩盤と特殊合金によって再構築され、大型船が何隻も停泊できる近代的な巨大港へと姿を変えた。
「な、なんだこれは……!? 魔法で、村が……城になっちまった……!」
カイトと村人たちは、目の前で起きた神の如き奇跡に言葉を失い、ただへたり込むことしかできなかった。
「これがトウヤ様の『安全第一』のやり方です。さあ、皆さんも怪我を治して、温かいご飯を食べましょう!」
ミアが荷台から大量の食料を下ろし、村人たちに炊き出しを始める。
シルフィは完成した城壁の上へ飛び乗り、上空と海上の警戒体制を完璧に整えた。
数時間後、完全に要塞化されたマレの村で、トウヤは捕縛した海賊の幹部を『尋問』していた。
「さて、黒鮫海賊団の諸君。君たちの本拠地の場所と、海竜に呪いをかけた魔術師の正体について、詳しく教えてもらおうか」
重力魔法と自白魔法のコンボにより、海賊はあっさりと口を割った。
「ひぃぃっ! し、知らねえ! 俺たちはただ、黒いローブを着た不気味な男に雇われただけだ! そいつが海竜を狂わせる『呪いの杭』を海底に打ち込んで……俺たちの本拠地は、アクアリアの沖合にある『骸骨島』だ!」
「黒いローブの男……。ガランド帝国の宮廷魔術師あたりが濃厚だな」
トウヤは顎を撫でた。
帝国の暗躍。海竜の呪い。そして、港湾都市の完全封鎖。
状況は複雑に絡み合っているが、トウヤのやるべきことは一つしかない。
「カイト。明日の朝、俺の『全魔法創造』と君の船大工の技術を合わせて、海竜と海賊を同時にぶっ飛ばせる『最高の商船(軍艦)』を造るぞ。ゴランさんが王都で造っている水陸両用重機のパーツも、魔導通信機でこっちに転送させる」
「お、おう! まかせておけ! 俺の技術のすべてを注ぎ込んでやる!」
西の海を制するための地盤は、確固たるものとなった。
時間を操る禁術『リトライ』を持つ万能の商人は、新たな仲間と共に、荒れ狂う海と帝国の陰謀を真っ向から粉砕し、絶対安全なシーレーンを切り拓くための準備を完璧に整えたのである。
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【現在のステータス状況】
名前:トウヤ
年齢:18
職業:商人 / 冒険者(ランクS)
レベル:37 (海賊団先鋒の無力化とマレ村の復興により上昇)
体力:210/210
魔力:93,000/100,000 (絶対城壁展開・建築修復等により消費・自動回復中)
固有スキル:『リトライ(発動可能)』
魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)
取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握
【仲間・後援者の状況】
・ミア(獣人の少女):マレ村にて炊き出しと村人のケアを担当。村の子供たちから大人気に。
・レオン(人間の商人):王都にて商会本部を統括。マレ村への復興資材を魔導通信経由で手配中。
・ゴラン(ドワーフの技師):王都の地下工房から、船の動力となる新型魔導エンジンの設計図をトウヤに送信。
・アルベルト(人間の文官):王都から港湾都市アクアリアの行政へ、トウヤの法的権限を示す通達を発出。
・シルフィ(エルフの護衛):マレ村の絶対城壁にて上空と海上の警戒任務。
・カイト(人間の青年):【新規加入(水上物流・操船担当)】マレ村の自警団リーダーにして優秀な船大工。トウヤに命を救われ、商会の水上部門の要となる。
・ルリア(セイレーンの少女):【新規加入(海竜対策・水上案内役)】海竜の怒りを鎮める歌声を持つ水棲亜人。海賊から救われ、トウヤに絶対の忠誠を誓う。
・インフラ状況:王都〜マレ村間の「絶対安全街道」拡張工事中。マレ村防衛拠点(要塞港)完成。
・資金:金貨5800枚(海賊から没収した略奪品を資金に変換)
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