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第14話 【閑話】王都の動揺と、迫り来る討伐の影

第14話 【閑話】王都の動揺と、迫り来る討伐の影

【閑話】

ルミナス王国の心臓部、王都ルミナリス。

白亜の尖塔が立ち並ぶ美しい街並みとは裏腹に、王城の奥深くにある貴族会議室は、かつてないほどの騒然たる空気に包まれていた。

「……信じられん。グラニテ丘陵の私兵団が全滅し、中継都市ロックフォールが、たった一つの『商会』に占拠されただと!?」

円卓を囲む大貴族の一人が、信じられないものを見る目で報告書を叩きつけた。

その正面に座る恰幅の良い初老の男――ロックフォールを直轄領としていた強硬派の大貴族、ヴォランド侯爵は、顔を赤黒く染めてワナワナと震えている。

「占拠などという生ぬるいものではない! 奴らは我が領地を不法に占拠し、あろうことか『国営の街道整備事業』などとほざいて、巨大な石畳の道を勝手に敷きやがったのだ! しかも、私の貴重な財産である亜人の奴隷たちを解放し、労働力として奪い去った……。これは明確な反逆! 王国への宣戦布告である!」

ヴォランド侯爵の怒声が響き渡る。

しかし、会議室の片隅で冷静に報告書を読み込んでいた軍務卿が、冷や水を浴びせるように口を開いた。

「侯爵殿。報告によれば、その『安全第一商会』を名乗る組織の背後には、左遷された財務官アルベルトがついており、彼らは『侯爵の不法な関税徴収と奴隷労働の証拠』を、王国の監査局に大量に送りつけてきているようですぞ。法的に見れば、反逆しているのはむしろ侯爵殿の方になりかねませんが」

「ぐっ……! あ、あの若造の財務官め! 左遷先で野垂れ死んだかと思えば、こんな得体の知れない商人を引き連れて戻ってきおって……!」

ヴォランド侯爵は歯軋りをした。彼が築き上げてきた不正の証拠は、トウヤの持つ『魔導監視網』とアルベルトの政治力によって完璧に裏付けられており、言い逃れのできない状況に追い込まれていた。

「問題は、法の解釈ではありません」

円卓の最奥に座る、豪奢な鎧を纏った男が低く重い声を発した。ルミナス王国近衛騎士団の団長、レオンハルトである。

「問題は、彼らの『軍事力』と『技術力』です。報告によれば、グラニテ丘陵の入り口を塞いでいた数百の私兵団は、傷一つなく『簀巻き』にされて街まで送り返されたとのこと。さらに……彼らは、ガランド帝国軍の武具を再利用した巨大な『魔導重機』なるものを数十台運用し、その後ろには『三万』に及ぶ屈強な労働者を従えていると」

「さ、三万の労働者だと!? 辺境の商会が、どこからそんな人員を集めたというのだ!」

レオンハルト団長は、眉間を深く揉み込んだ。

「……ガランド帝国軍の先遣隊三万が、国境の防衛都市アイギス付近で突引として消息を絶った、という情報があります。もし、その『三万の労働者』が帝国兵の捕虜なのだとすれば……あの防衛都市は、すでに帝国の軍勢を退け、その兵力を丸ごと飲み込んだという計算になります」

会議室に、水を打ったような静寂が落ちた。

一介の商会が、軍事国家ガランド帝国の正規軍三万を無傷で制圧し、さらに大貴族の私兵団を赤子のように捻り潰し、異常な速度で王都へ向かう街道を建設している。

国家間の力関係や種族間の軋轢が物語の背景に存在し、主人公たちの選択がやがて世界の均衡に影響を与えていく。王都の貴族たちは今、その世界の均衡が根本から崩れ去ろうとしていることに気づき始めていた。

「だ、だからと言って、このまま奴らを野放しにしておくわけにはいかん! 奴らの造る『絶対安全街道』とやらが王都に繋がれば、我々の物流網の利権はすべてあの得体の知れない商人に奪い取られるぞ!」

ヴォランド侯爵が血走った目で叫ぶ。

「レオンハルト団長! 今すぐ近衛騎士団の精鋭を出撃させろ! そして、あの無法な商会を叩き潰し、私の街と利権を取り戻すのだ!」

レオンハルトは深い溜息をついた。近衛騎士団の団長として、王都に迫る未知の勢力を放置することはできない。それが、たとえ法的に正当な理由(インフラ整備)を掲げていたとしても、だ。

「……承知いたしました。近衛騎士団第一・第二大隊、計五千の精鋭を率いて出撃します。ただの商人などではなく、一個の『国家』と見なして全力で鎮圧に当たります」

かくして、王都の腐敗を象徴する大貴族の保身と、未知の勢力に対する王国の危機感が合致し、ルミナス王国最強の武力である近衛騎士団が出陣することとなった。

――一方、その頃。王都から数十キロ離れた、安全第一商会の巨大な建設現場(スーパーハイウェイ工事の最前線)。

「トウヤ様! この区間の測量と、岩盤の整地、完了いたしました! ロックフォールからの物資補給ラインも完璧に機能しています!」

狐人族の天才建築家フェルスが、真新しい測量計を片手にトウヤの元へ駆け寄ってきた。彼女の尻尾は、誇らしげにピンと立っている。

「素晴らしいペースだ、フェルス。君の設計図のおかげで、無駄な地形の迂回が極限まで減ったよ。三万の労働者たちも、すっかり作業に慣れてきたみたいだな」

トウヤが前線の様子を眺めると、現場監督のユリウスの的確な指示のもと、元帝国兵の労働者たちが魔導重機と魔法を組み合わせた見事な連携で、巨大な石畳の道を次々と敷き詰めていた。

『本当の強さは仲間との絆から生まれる』。その言葉通り、トウヤの集めた優秀な仲間たち――レオンの物資調達、ゴランの技術、アルベルトの法務、エララの防衛、そしてユリウスとフェルスの現場指揮――が完全に噛み合い、彼らのインフラ網は世界最速のペースで完成に近づきつつあった。

「トウヤ会長、シルフィから上空偵察の報告が入りました」

アルベルトが、魔導通信機を手に緊張した面持ちで歩み寄ってくる。

「王都の城門が開き、ルミナス王国最強の武力である『近衛騎士団』が出撃したとのこと。数は約五千。精鋭中の精鋭が、一直線に我々の建設現場に向かっています。……やはり、ヴォランド侯爵が動きましたか」

「五千か。帝国軍の三万に比べれば少ないが、精鋭の騎士となるとまた違った厄介さがあるな」

トウヤは『コーヒー』を飲み干し、空間に投影したホログラムマップに騎士団の進行ルートを重ね合わせた。

「アルベルトさん。彼らを『不法侵入者』として処理する法的根拠は完璧だね?」

「はい。こちらは王都の監査局に正規の手続きで事業計画を提出済みです。何の通達もなく武力を行使してくるのであれば、それは『王国のインフラ事業に対するテロ行為』と見なすことが可能です」

「完璧だ。それじゃあ、彼らには俺たちの造った『絶対安全街道』の、もう一つの機能……『絶対防衛線』としての真の恐ろしさを体験してもらおうか」

トウヤは目を細め、前世で培った「クレーム対応と徹底したマニュアル」の精神を、異世界の戦闘に適用するための準備を始めた。

ゲームのようなステータス表示がある異世界に転移した商人 にとって、騎士団の襲来など、事業計画における『想定内のトラブル』に過ぎない。

「ユリウス、フェルス! 労働者部隊を後方の安全地帯に退避させろ! ゴランさんの用意した『アレ』を起動する。……王都の騎士団様を、手厚くおもてなししようじゃないか」

王国の心臓部たる王都ルミナリスへ向けて、最後の物理的な障害が迫る。

死んでもやり直せる『リトライ』の力 を懐に忍ばせた万能の商人は、圧倒的なインフラと徹底的な防衛システムを武器に、ルミナス王国最強の騎士団との真っ向勝負(という名の一方的な制圧戦)の火蓋を切ろうとしていた。

【現在のステータス状況】

名前:トウヤ

年齢:18

職業:商人 / 冒険者(ランクS)※特例中の特例により最高位へ

レベル:32

体力:180/180

魔力:98,000/100,000 (大規模な地盤操作により微小消費・自動回復中)

固有スキル:『リトライ(発動可能)』

魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)

取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握

【仲間・後援者の状況】

・ミア(獣人の少女):ロックフォール支部にて、後方支援と炊き出しの指揮を継続。

・レオン(人間の商人):セルリア〜ロックフォール間の物流を完璧に掌握し、莫大な利益を上げ続ける。

・ゴラン(ドワーフの技師):迎撃用の特殊魔導兵器(非致死性)の最終調整を完了。

・アルベルト(人間の文官):王都監査局との連絡を密にし、近衛騎士団の行動を法的に孤立させる裏工作を完了。

・シルフィ(エルフの護衛):上空から近衛騎士団の動向を秒単位でトウヤに報告中。

・ユリウス(人間の元帝国将校):労働者三万の安全確保と避難誘導を迅速に完了。

・フェルス(狐人族の建築家):トウヤの防衛システムの地形的な連動性を計算し、迎撃陣形を設計。

・エララ(人間の騎士):アイギス国境守備から一部の精鋭を率い、トウヤの護衛(という名目の見学)に駆けつける。

・インフラ状況:セルリア〜ロックフォール〜王都近郊まで「絶対安全街道」開通。ロックフォール中継拠点完全稼働。

・資金:金貨2800枚(街道沿いの宿場町の整備による先行投資で微減したが、回収の目処は立っている)

トウヤの指示が下ると、建設現場は一瞬にして「要塞」としての顔を見せ始めた。

完成したばかりの白く輝く石畳の街道が、かすかな魔力の光を放ち始める。フェルスの緻密な設計により、ただの道だったそれは、周囲の地形の魔力を吸い上げて稼働する巨大な魔法陣の一部へと変貌していた。

「トウヤ様、地形の魔力連結、完了しました! これで街道上の『罠』は、トウヤ様の魔力を介さずとも自動で発動し続けます!」

「ありがとう、フェルス。これで俺は全体指揮に専念できる。……ゴランさん、『スタン・バリケード』の展開を頼む」

「ガハハハ! 任せとけ! 騎士団の連中、俺様の打った魔導具で痺れ上がらせてやるぜ!」

ゴランが操作盤のレバーを引くと、街道の前方に並べられた金属製のバリケードが青白い放電を帯び始めた。致死性はないものの、触れれば巨大な魔獣ですら一瞬で気を失うほどの強力な麻痺属性の魔力場である。魔物・モンスターは資源であり脅威でもある存在として描かれるこの世界 において、対人戦闘にここまで大掛かりで「死なせない」ためのトラップを用意する者はトウヤしかいない。

「トウヤ会長、近衛騎士団の先鋒部隊が視界に入りました! 騎兵約千、凄まじい速度で突撃してきます!」

前線に立つエララが、緊張した声で報告を上げる。

地響きと共に、白銀の鎧を纏った王国最強の騎士たちが、砂塵を巻き上げて突進してくる。彼らの先頭には、近衛騎士団長レオンハルトの姿があった。

「止まれ、無法者ども! 我らルミナス王国近衛騎士団なり! 直ちに武装を解除し、建設作業を中止せよ!」

レオンハルトの怒声が響き渡るが、トウヤは拡声魔導具を通じて冷静に言い返した。

「お断りします、レオンハルト団長。我々は正当な許可を得た事業を行っています。武力行使による妨害は、王国へのテロ行為と見なして迎撃しますよ」

「……問答無用! 突撃ィィィッ!!」

レオンハルトの号令と共に、千の騎兵が怒涛の勢いで『絶対安全街道』へと踏み込んだ。

その瞬間。

『警告。敵対的侵入者を検知。絶対防衛モードに移行します』

機械的なアナウンスと共に、騎士たちが踏み込んだ石畳の表面がスライムのように液状化した。

「なっ!? なんだこの道は……馬の足が、沈む……!?」

泥濘マッド・トラップの魔法か!? 否、魔力など感じないぞ!」

トウヤの『錬金術』によって物質の性質を書き換えられた石畳は、一瞬にして底なし沼のような粘着性を帯び、突撃の勢いを完全に殺した。

「慌てるな! 魔法部隊、前方の障害物を爆砕しろ!」

後方から魔法部隊が炎の槍を放つが、それらは街道の上空に自動展開された『不可視の防壁』に弾き返され、空中で虚しく四散した。

「物理的な突撃も、魔法による遠距離攻撃も通用しないだと……? これが、奴らの造った『道』の力か……!」

レオンハルトが驚愕に目を見開く中、トウヤは静かに右手を下ろした。

「さて、お引き取り願おうか。……『スタン・ウェーブ』、起動」

ゴランの設置したバリケードから、目に見えない麻痺の波動が放たれた。それは泥濘に足を取られて身動きが取れない騎士たちを次々と飲み込み、白目を剥いて気絶させていく。

剣も魔法も交えることなく、ただ「道を通ろうとしただけ」で、王国最強の騎士団の先鋒が次々と無力化されていく。これが、万能の商人が仲間と共に築き上げた「絶対的な安全圏」の暴力的なまでの防衛力であった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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