血みどろの景
魔科学研究会の所有する施設の内の一つであるそこは、地下深くに造られた違法な研究所だった。
「ほれ、試作品。見て見ろよ」
「んー……なるほどなるほど。そういう構造ねぇ」
「構造じゃなくて、性能を見て欲しかったんだけどな。お前の仕事はそれを活かすことだろ?」
「活かす為にも、一から十まで知っておいて損はないでしょ?」
開けた空間で話す二人の男は、この研究所で働く研究者だ。その内の片方の男が手渡したのは、小型の球体だ。青く金属光沢を放つそれの正体を二人は知っている。
「ていうか、性能を見るって? ここで試して大丈夫なの?」
「言ったろ? 試作品だって。効果範囲はそう広くないから安心しろ」
「なるほどね。そういう……」
男は頷きながら、その手に持った球体を軽く弄る。
「アレで試せば良いってことね?」
そう言った男の視線の先には、金属製の案山子のようなものが立っていた。屑鉄を集めて作られただけの物体だが、破壊しようと思えばそれなりの労力はかかるだろう。
「そうだ。やり方は分かるよな?」
「勿論。このくらい、見ただけで分かるさ」
「俺がバリアは張ってやるから、さっさと投げろよ」
「はいはい、んじゃ行くよ」
透明な障壁が展開されたのを確認した後、男は青い金属の球体を屑鉄の案山子の方へと放り投げた。それは鈍い青色の光を放つと、その光の中に案山子を呑み込み……数秒後、案山子の姿はその場から消えていた。
「うし、完璧だな」
「凄いね、これは……分解と吸収、そして発散。なるほど、規模を大きくすることも難しくないって訳だ」
「そういうことだ」
感心する男に、もう一人の男は軽く頷くと、開けた部屋の地面を確かめ、抉れていることを確認すると機械を操作し、幾つかのスイッチを押した。
「ほら、行くぞ。修復は勝手に終わるからな」
「はいはい、分かったよ」
爆発の跡を観察していた男だったが、特に調べられるものも無いと判断したのかあっさりと立ち上がり、もう一人の男と共に部屋を出た。
「ッ!? 誰だお前は……?」
「ん、何言って……んん?」
部屋の外、扉の前に立っていたのは笠を被った黒い鎧の小柄な武者。その顔や手足も黒い布が覆い尽くし、武者の肌は見えない。
「僕とて、話を待つ程度の礼節は持ち合わせている。だがしかし、ここから先は切捨御免」
武者はちゃきりと刀を抜き放ち、二人の男に向けた。
「……どうすんだ」
「どうするもこうするも、ここまで侵入されてる以上……逃げてどうにかなるとは思えないよね」
問われた男は懐から小型の銃を取り出して構えた。残った男は一歩後ろに後退る。
「さっきの奴を使う」
「ッ! もう一個持ってたんだね」
「あぁ、一応な。まさか、いきなり実戦で試すことになるとは思わなかったが」
「了解。僕が動きを止めて見せるよ」
刀を構えたまま動かない武者に、小型の銃を持った男はその引き金を引いた。
「遅い」
放たれたのは弾丸、ではなく電撃だ。しかし、武者はそれを予期していたかのように動き、空中に拡散する電撃を跳んで回避し、そのまま銃を持つ男の前に降り立った。
「ッ! くっそぉおおおッ!!」
更に一発、電撃を放とうとする男だったが、銃を真っ二つに斬り裂かれてその目論見は破綻し、はやけくそになって武者へと組み付こうとした。
「無駄としか、言う他なし」
武者はそのまま男の体を左右に分け、地面に倒れた死体の間を通って奥で小型の球体を構える男の方へと歩き始める。
「ぐッ、喰らいやがれえぇええええッッ!!」
男は球体を操作した後、武者に向けてその球体を投げつけた。青色の金属光沢を放つそれは、空中でただの光沢ではない青い光を放出した。
「確かに、目を見張る威力。されど……」
「ッ!?」
青い光に呑まれた筈の武者。しかし、響いた声に男は目を見開く。
「遅い」
「がァッ!?」
いつの間にか背後に立っていた武者が、男の背を貫いた。
「ぐッ、てめ、ェ……なにも、ん……だ……」
流れ出す血を抑えながら、息も絶え絶えに言葉を紡ぐ男。しかし、武者は冷酷にも男の首を斬り落とすだけだった。
「悪に名乗る名など、ない」
物言わぬ死体にそう告げた後、武者は刀から血を払い、鞘に納めてその場を去った。




