警察側
西園寺達から情報を伝えられた警察は既に戦力を整えていた。提供された情報の裏取りも済ませ、一般市民に対する襲撃や拉致、その被害者に対する非道な実験などから、重大な犯罪組織であることが認められた魔科学研究会は、警察による制圧の対象になっている。
「はぁ……何でこんな案件に俺が顔出さなきゃいけないんすかね」
「赤咫尾巡査部長の経歴から考えれば別に不自然でも無いですけどね。まぁ、ただ……」
デスクの前で溜息を吐く赤咫尾の横で、章野が視線を滑らせる。
「ん、どうかしました?」
視線の先に居た白雪は、素知らぬ顔で章野に振り返った。
「いえ、貴方の影響もあるだろうという話です」
「んー?」
「実際、今回の件は白雪にも深くかかわってることっすからねぇ……」
赤咫尾が言うと、白雪は納得したように頷いた。
「あー、確かに私の生産者だもんね!」
「生産者って……言い方があるでしょう」
「でも、お父さんとかお母さんって言うのも違うでしょ? 私もあの人達が家族なんて思いたくないし」
「……深く関わっているからこそ、関わらせたくなかったんすけどね」
赤咫尾が言うと、白雪はにやりと笑った。
「心配しなくても大丈夫! 私、ちゃんと今回で決着を付けるぞって覚悟してるからね!」
「……怖かったら、いつでも言って良いんすからね。頑張れば、どうにか出来なくもないとは思うんで」
「ダメだよ! リーダーが頑張るって、そういうことでしょ?」
「まぁ、そうなるっすね。それ以外に方法があるかっていうと、怪しいっすから」
二人が話していると、章野が口元に指を一本立てた。
「誰か、近付いて来ますよ」
章野の言葉に二人が黙り、耳を澄ませると、こつこつと階段を上って来る音が聞こえた。
「……二人っすね」
眉を顰めて呟いた赤咫尾。直後、開いたガラス製の扉から警察の制服を着た凛々しい顔立ちの女と、カジュアルな服装の少女が現れた。
「こんにちはー」
軽く手を振った少女。その視線は白雪に向いている。
「あ、華凜ちゃん!」
「お菓子買ってきましたよ、白雪さん」
にこりと笑った少女……花房華凜の手には、小さな紙袋が握られていた。
「さっすがー! 話が分かるぅ、華凜ちゃん!」
「少しずつでも、あの時の償いはしたいですからね」
「むぅ、そう言われるとちょっと食べづらくなるじゃん! それに、私は気にしてないってば! あんなの、アイツらが全部悪いんだからね!」
「そういう訳には行かないですよ……」
小さく言葉を返す華凜を見た後、赤咫尾は隣の女に視線を向けた。
「それで、これはどういう話っすか? 凛空さん」
「簡単に言えば、彼女はそこに居る白雪天慧と同じような扱いとなることになった」
「……つまり、警察で色々と責任を持つってことっすか?」
「そうだ。本人がその力を悪用する可能性に加え、他者に操られる可能性なども考慮して、彼女を野放しにすることは大いに危険があると判断された。故に、花房華凜も白雪天慧と同じく警察所属としてその能力を管理されることになった」
凛空と呼ばれた女がそう言ったのを聞くと、白雪は意外そうに首を傾げた。
「そうなの? 華凜ちゃんは、そういうの嫌うと思ってたけど」
「嫌ってるとかでどうこうなる話ではないんじゃないんですか?」
「んー、華凜ちゃんの力なら、無理やり逃げ出したりも出来そうだけど」
「実際、そういう選択肢もあったかも知れませんけど」
白雪の疑問に花房は答えた。
「でも、私がやらかしちゃった分の贖罪はしなきゃいけないと思ったので。お母さんにも、怒られましたし」
「あぁ、言っておくが警察所属と言っても白雪天慧と同じように常に地域課として勤務する訳では無いぞ。所属としては同じく赤咫尾、お前の下に就くことになるが」
「俺はいつから問題児係になったんすかねぇ……」
「その上に居る私も似たようなものだ。諦めろ」
溜息を吐く赤咫尾に、凛空も遠くを見るような目で返した。
「にしても、先に色々と話を通すくらいあっても良かったんじゃないんすか? いきなり連れて来て、はい今日からねって、変じゃないっすか?」
「緊急で決まったことではあるからな。なにせ、彼女はこの魔科学研究会の制圧にも加わることになっている」
「……戦力として利用する為に、緊急で警察に仕立て上げたってことっすか」
冷たい目で言う赤咫尾に、凛空は首を振った。
「その狙いはあっただろうがな。一応、命の関わるような事案については本人が参加するか選択出来るようになっている」
「そうです。寧ろ、私が自分から志願したんです」
「なんでそんなことを……?」
章野が尋ねると、華凜の視線が白雪に動いた。
「白雪さんも参加する話だって聞いたので、少しでも借りを返せるならと思って……」
「えぇー!? そんな、私の為なんて……」
「それに、白雪さんの隣で並んで戦えるのも楽しそうだなと思ったので」
にやりと笑った華凜に、白雪も笑みを浮かべた。
「そっちが本音なら良いんだけどね?」
「どっちも本音ですよ」
ふぅん、と白雪は息を吐き、頷いた。
「ま、全員纏めて私が守ってあげるよ! 敵も全部、私がバッタバッタ薙ぎ倒してあげるからねっ!」
「私だって負けてませんよ? あれから、更に強くなってますからね! 私も!」
「……実際、この二人が居れば余裕な気はしますけどね」
「まぁ、そうっすね……あんまり気負わずに行くっすか」
「お前は気負ってくれよ。この二人の活躍で味方に被害が出れば、責任を負うのはお前と私だからな」
胸を張り合う二人を前に章野と赤咫尾は力を抜き、凛空が釘を刺した。




