竜の爪、彷徨う闇。
宙を舞う無数の首。その中心で佇むメイアは、不敵に微笑んでいた。
「ッ! 何なんですかッ、その力はァ!?」
「察しが悪いのね。ヒントは沢山あった筈よ」
メイアの首に走った線は一瞬で塞がり、アルコルの言葉にメイアは溜息を吐いた。
「幾ら数だけ揃えても、全く意味なんて無いわ」
「数だけだと……!? 僕らが苦労して生み出した実験体にさぁ、良くもそんな暴言が吐けますよねェ!?」
アルコルがメイアの背後に現れた。その片腕は、未だに傷痕が赤く燃えて再生していない。残った片腕で青い炎の剣を振るうアルコル。しかし、その速度はさっきよりも上だ。
「無駄よ」
「ッ!」
振り下ろされた青い炎の剣を燃える骨の刀で受け止めるメイア。メイアはそのまま炎の剣を弾き上げ、アルコルのもう片腕を斬り落とそうとするが、アルコルは青い炎に包まれてその場から消えた。
「でも、意外ね。ここから逃げ出しはしないのかしら?」
「ッ、そんなの無意味だって分かってるだろう……! どうせ、この施設自体からは脱出不可なんですよッ! だったら、戦力の有利な場所で戦うのは当たり前だろッ!?」
そう叫ぶアルコルだが、改造生物達はさっきのメイアの攻撃を警戒して動けずにいる。
「ふふ、そうね。ほら、さっきの力は使わないであげるからかかって来なさい」
「……行けッ!」
敵の言葉を信じることは出来ず、足踏みしていた改造生物達だが、アルコルの命令によって動き出す。先頭に居た蜥蜴のような皮膚をした者が、両手を伸ばしてその長い爪で襲い掛かろうとする。
「遅いわ」
その爪がメイアに触れることは無く、蜥蜴人間の首は斬り落とされた。しかし、そこに続けて大量の改造生物達が雪崩れ込んでくる。
「『紅蓮武装・竜血爪』」
メイアの体から滲み出した血が刀を持っていない方の腕を覆い、巨大な爪を形作った。その表面には魔術紋が刻まれている。
「散りなさい」
四方八方から雪崩れ込んで来た改造生物達を、竜を思わせる巨大な血の爪が纏めて吹き飛ばした。
「遠距離からだ……遠くから攻撃するぞッ!」
「ふふ、そう簡単に行くと思う?」
距離を取ろうとする改造生物達だが、メイアの姿が血の煙となって消えると、その集団の中に現れた。
「『彷徨いの闇』」
現れると同時に、メイアから八つの闇が放たれた。無形のそれは空中を泳ぐように彷徨いながら、触れるもの全てを喰らっていく。
「は、離れろッ! 闇に触れるなッ!」
「ふふ、逃がさないわ」
雲の子を散らすように闇から逃れようとする者達を、背後からメイアが襲い掛かり、一体ずつ狩って行く。
「好き勝手してんじゃ、ねェ」
そのメイアの背に鋭い爪で斬りかかったのは、獅子の頭をした大柄な男だった。その全身からは黄金色の獣毛が生え、仄かに魔力の光を放っている。
「オレの部隊を相手に、好き勝手しやがって、よォ」
「ッ、その割にはずーっと隠れてたのね?」
メイアは咄嗟に振り返りながら巨大な血の爪で獅子の爪を防ぐ。背後からの奇襲にも関わらず爪を弾かれた男は、警戒心を露わにしつつ後退る。
「もしかして、臆病なのかしら? ネコ科だものね」
「テメェ……クソ舐めてんじゃ、ねェ」
獅子の頭をした男は、鋭く伸びた獅子の爪に魔力を流した。すると、その爪が激しく光りながら電光を纏う。
「クソな目覚め方をさせられたから、なァ。オレは調子が戻るまで待ってただけだ、ぜェ……つまり、オレ達は既に万全って訳だよ」
「その間に、貴方の部隊は沢山死んだわよ? 調子が悪いなんて言い訳せずに、戦ったら良いんじゃないかしら。貴方は、仲間を犠牲に自分を守っただけよ」
「ッ!! うっせぇ、よォ……! ぶち殺してやるッ!!」
獅子の体が、膨れ上がるように大きくなる。その皮膚も黄土色に染まり、更に獅子としての特徴が増した。
「ふふ、少しは楽しめそうじゃない。でも、そうなったら……」
メイアは振り下ろされた電光を纏う爪を後ろに飛んで回避し、そのまま背から翼を生やして宙へと浮き上がった。
「木っ端が邪魔ね」
メイアの体から、無数の血の線が伸びる。それらは高速で改造生物達の体を貫いていき、内部に侵食していく。
「ゥ、ぉぁ……!」
「ぐ、ぅ……ッ!?」
次々に、改造生物達を貫いていく血の線。そして、それに内部を侵された者達は蕩けたような目でメイアを見上げ始める。
「テメェ、オレの部隊に何をしやがった……ッ!」
「さぁ?」
宙に浮いたまま笑いかけるメイアに、獅子は全身から雷光を発しながら飛び掛かった。




