掌握完了
情報管理室に辿り着いたステラは、コンピューターの前に座る男を首筋に触れただけで気絶させると、男を横に退けて自分が代わりに椅子に座った。
「ふむ……流石にセキュリティは厳重ですね。デジタルの面では」
画面を睨み付けながらも、部屋の中には苦労せず入り込めたことを思い出し、ステラはそう付け加えた。
「とは言え、私の前では無意味ですが」
無表情のままステラはコンピューターに直接接続し、内部からデータベースにアクセスした。すると、五分も経たずにステラは立ち上がった。
「掌握は完了です。ここまで簡単なら、ここを抑えてから行動させる方が吉でしたね」
ステラの薄灰色の瞳に青白い光が浮かび、現世を視覚的に捉えると同時にこの施設全体のシステムを俯瞰する。
「一先ず、外部への連絡は全て遮断しておきますか。それと、この施設の出口もロックしておきましょう」
言いながら歩き、情報管理室を出るステラは最後に扉の鍵を閉め、その場から消え去った。
♢
魔法陣が光り輝き、そこから一人の男が現れる。青髪の、少年と言っても違和感の無いような若い男だ。
「ただいまーっと、んん? なんか妙な雰囲気がしますねぇ」
青髪の男は背伸びをしてから、眉を顰めて周囲をぐるりと見る。
「なんだろな……不穏、ですよねぇ」
男は首を傾げながらも、部屋の外へと歩いて行く。それから暫くしてある部屋の前に辿り着いた。
「どうもー」
その部屋の扉の前には黒い革の服を身に纏った一人の男が立っており、その男は青髪の男が手を上げて挨拶しても動く気配も、言葉を返す気配もない。
「あの、どういうつもりですか? 僕のこと、忘れてるなんて有り得ないよねぇ?」
「……はい。ですが、今は中に誰も入れるなとの命を仰せつかっていまして」
「は? それって、監査役である僕よりも上からの命令ってこと?」
「はい。アルコル様よりも上の――――ッ!」
アルコル、そう呼ばれた男はその指先を黒い服の男の首筋に突きつけた。
「それって、誰ですか? 答えて、くれますよね?」
「……」
アルコルの言葉に口を閉じた男。その首筋に突きつけられた指先が動くより先に、男はアルコルへと手を伸ばすが……
「おっそいですよ」
アルコルは片手で男の手を掴み、そのまま首筋に突き立てた指先を進ませた。
「がッ!?」
「まさか、殺すなんて~……とか、思ってないよね? いや、命令違反は死ですよ」
アルコルは男の息の根が止まったのを見届けると、その場に捨てて扉に手を掛けた。所長室、そう書かれた扉は認証を受けるとあっさりと開き、誰も居ない部屋の中を明らかにした。
「えっ、誰も居ない……? だったら、なんで態々……」
中に人が居ないのに、扉を守っていた男。アルコルはその不自然さに眉を顰めた。
「いや、寧ろ誰も居ないことを悟られたくなかった、とかですかね?」
すると、アルコルは何かを思いついたように懐から機器を取り出し、電話を掛けようとする。
「……あーあ、やっぱり」
それが繋がらないことを確認したアルコルは機器を懐に戻し、溜息を吐いた。しかし、その表情には笑みが浮かんでいる。
「面白いことになって来たじゃん。良いですよ、どこの誰だか知りませんけど」
アルコルは上を見上げ、呟いた。
「相手してやりますよ」
青い炎が足元から巻き上がると、その姿はそこから消えた。
♢
研究施設の地下深くには、大量の人員が詰め込まれていた。それは、兵士であり実験体。生物であり兵器であった。
「先ずは、相手が何かを確かめるより……こっちの戦力をしっかりと確保しておくことですね」
アルコルはそう呟き、地下の奥で作業をしている男に声をかけた。
「アルコル様ですか。どうなさいました?」
「ん? どうなさいましたって、敵襲ですよ敵襲。外部との通信が遮断されてるし、なんか洗脳されてそうな奴もいるし、明らかに襲撃受けてるでしょ?」
「ッ、そのようなことに……なるほど、それで彼らを使いたいという話ですね?」
そう言って、男は周囲を見た。そこには、人が丸々入る程の大きなカプセルが大量に並んでおり、内部には概ね人型の姿をした様々な生物がそれぞれ入っている。
「その通りですよ。という訳で、さっさと出して貰えるかな?」
「えぇ、勿論です」
頷いた後、男は機械を操作しようとするが……途中で眉を顰め、冷や汗を流し始めた。
「……ねぇ、何やってるの?」
「いえ、それが……何故か、機械が命令を受け付けて無くて、ですね……普通なら、この操作でカプセルが開く筈なんですが……な、何故でしょうか」
「何故でしょうかって、僕に聞かれても分かる訳ないじゃん。そもそもさ、それが君の仕事ですよね? そこで何で僕に聞いて来るのかな」
「ッ、それはそうなんですが……でも、動かないんですよっ!」
溜息を吐き、苛立たし気に男を睨み付けたアルコルは、自身もその機械を操作しようと試みる。しかし、確かに機械は命令を受け付けず、カプセルが開くことは無い。
「……まさか」
アルコルがその可能性に思い至った瞬間、背後に血の煙が立ち昇る。
「ッ!」
アルコルがその気配に振り返ると、そこには黄金色の髪に赤い目をした少女が立っていた。
「誰だよ、君」
「あら、見えるの? やっと敵らしい敵と会えたわね」
不敵な笑みを浮かべる少女の周囲には、まだ血の煙が燻ぶっていた。




