ワクワク! 潜入ミッション!
繁華街から少し離れた場所に建てられた、大きめの建物。興梼研究所と門の前に銘板が貼り付けられたその場所は、使い魔達の調べによれば魔科学研究会の所有する施設の一つだ。
「カァ、意外とオープンにやってるもんだよな」
「他の場所も全てそうと言う訳ではありません。ただ、魔科学研究会という団体自体は公式のものですので、表向きに存在する研究所というのも必要なのでしょう。実際、ここでは世間的にも問題無い研究しかしていないようですから」
「だから、中に居る人達も悪人だけじゃないってことね」
その施設の方に歩いて行くのは、銀色の長髪にライトグレーの瞳の美女、黄金色の髪に真紅の目の美少女、そしてカラスだ。
結局、使い魔達と老日はそれぞれ一つの研究施設を潰すことになった。施設が一つだろうが二つだろうが、使い魔達が居れば老日が陰陽道を試すまでも無く終わってしまう可能性が高いという結論になったからだ。
「なぁ、センサーがあるぞ」
「この程度なら、何も問題ありません」
「ふふ、流石ね」
監視カメラが睨み、門番も立つ門を、二人と一匹は喋りながら素通りしていった。彼らの姿はステラに与えられた悪魔の権能により不可視となっており、お互いのみがその姿を見ることが出来る状態となっている。その声や気配すらも、周囲に伝わることは無い。
「さて、早く奥に向かいましょう」
「ここの地下にゲートがあるんだよな。別の拠点に繋がってるっていう」
「そうよ。そっちが本命。ただ、部外者には起動できない仕組みがあるみたいね」
「それで、ここのトップをとっ捕まえる必要があるって話か」
彼らの目的は、この施設の地下に隠された転移陣を使い、その先にある裏の研究施設へと向かうこと。しかし、その為には関係者による魔術的な許可が必要になる。
「それが一番手っ取り早そうだと考えています。ただ、他に研究会の裏まで関与している者が見つかれば、それでも問題ありません」
自動ドアを通り、エントランスを抜けると、平然とエレベーターに乗る二人と一匹。到着したのは、この施設の最上階である四階だ。
「カァ、楽なもんだな」
研究員らしき男とすれ違いながら、カラスはメイアの肩の上で鳴く。
「そうね。悪魔の権能、使ってみれば便利だわ」
「えぇ、ですが悪魔に感謝するのも癪なので、ここはマスターに感謝しておきましょう」
彼らが使う悪魔の権能。それは、ソロモンの討伐時に老日が魔剣バルバリウスに閉じ込めた六体の悪魔の力だ。それぞれ二つずつの権能を与えられた彼らは、それを今までも十分に使ってきた。
「カァ、最近は態々使うようなことも無かったけどな」
カラスがそう口にすると同時に、廊下の奥の扉まで辿り着いた。
「っと、ここに居るんだったな?」
「えぇ、流石に魔術的なセキュリティがかかっているようですが……どうします?」
「待ち伏せしても良いけれど……時間をかけすぎても主様に面目が立たないわ」
扉の前で止まった二人。カラスがメイアの肩の上からステラの顔を覗き込む。
「何だ。ステラでも解除できないのか?」
「いえ、解除自体は可能ですが……結局、セキュリティが解除されたという事実はバレてしまいますね」
「だったら、適当に一人捕まえて扉を開けさせるのが早そうね」
メイアの提案に、ステラとカラスは頷いた。
「そうですね。多少のリスクはありますが、私も賛成です」
「カァ、丁度向こうに一人歩いてるぜ」
カラスが顎をしゃくった先には、若い研究員の男が一人歩いていた。
「可哀想だけれど、彼に手伝ってもらいましょう」
「そうですね。私がやりましょう」
「あら、私がやっても良いのよ?」
「こんなことで血を吸われるのも可哀想でしょう」
そう言うと、ステラはエレベーター近くの部屋に入ろうとしていた男の肩を掴んだ。
「え、なに……ぅ」
若い男は目を見開き、それから突然元の表情に戻った。
『所長室を尋ねて下さい。用件は、怪しまれないように研究に関することを話すこと』
男の脳内に直接命令を下したステラは、若い男と並んで所長室の扉の前まで戻った。
「ステラ。一つ言っておくけれど、私は血を吸ったり流したりせずとも、目を合わせれば軽い支配くらい出来るわ」
「そうなんですね。しかし、目を合わせる必要がある時点で不可視化を解かなければならないので、今回は不適合ですね」
「……別に、ここにはカメラも無いんだし良いじゃない」
「念には念を、ですよ」
「おーい、お前ら。もう開いてんぞ?」
二人が話している間にステラの支配を受けた男は既に所長室に入っていたが、その時に閉まろうとしていた扉をカラスが爪を挟んで止めていた。
「そのようですね」
「ありがとね、カラス」
「お前らなぁ……」
扉の間に爪を挟んだまま、カラスは溜息を吐いて二人を睨んだ。




