稽古の是非
何人か生きていた奴らの治療を行った俺は、そのまま話を聞く為に七里の下に戻っていた。
「……なるほどな」
一から十まで話を聞いたが、大した話は無かった。分かったのは、突然現れて突然暴れ出した謎の大迷惑野郎ってことくらいだ。後は、ソロモンの騒動の時よりもかなり強くなってるって話もあったな。
「そうだ。これはアイツ本人の話では無いんだが……周りに、雑魚みたいな奴らもうじゃうじゃ居たな」
「雑魚?」
「あぁ、魔物みたいな化け物が周りを囲むように居たんだよ。俺は相手しなかったが、途中で連れて来た奴らは相手してた筈だぜ」
「……そうか」
薄々、そんな気はしていたが……研究会絡みの可能性が高いな。
「あと、これはお前だから言うんだが……何故か、こんな事態にも関わらず一級のハンターが一人も来れなかった。何故か、な」
「あぁ……」
そういうことか。つまり、協会の会長が関与してるって話だな。そうなると、更に研究会が絡んでいる可能性は高くなる。
「そういえば、お前はどうやって助けに来たんだ? 嬢ちゃんと知り合いみたいだが、助けでも呼ばれたのか?」
「そんな感じだな」
実際、御日に渡していた術符から飛んできたからな。同じようなもんだろう。
「正直……私、死ぬかと思ってた」
「そりゃ、俺もだな。あのまま行けばいつかは耐えきれねぇだろうなとは思ってた。が、まさか大当たりを引けるとは思わなかったぜ。一級が来ても、ちょっとは苦労することになりそうだと思ってたからな」
「鍛え直せ」
俺が七里に言うと、七里は苦笑しながら頭の後ろを掻いた。
「ハッ、手厳しいなぁ! なら、稽古でもつけてくれんのかよ?」
「ッ、私も稽古つけて欲しい」
「稽古か……」
御日は兎も角、七里か。心証は勿論悪くないんだが、ある程度立場がある大人に技術を伝えるってのはちょっと怖い。御日にも闘気の基本をちょっと教えたくらいだしな。他の誰かにも技術を教えた覚えは無い。
強いて言うなら、蘆屋と協力して天式を作り上げる時に戦闘術式の情報が渡ったくらいのものだ。あれも、そう簡単には流用は出来ないだろう。
「俺が教えた内容を口外しないなら、まぁやっても良いが」
「! 良いの?」
「自分で言っといて何だが、マジで良いとは思わなかったぜ」
そこまで言うなら今から無しにしたって良いんだぞ。
「軽くで良いならな」
「何でも良いぜ。ちょっとでも強くなれるってんなら、それだけで儲け物だからな」
「私は、軽くじゃない方が良い」
御日、お前には霧生っていう師が居るだろう。アイツも寂しがるぞ。
「まぁ、今度な。今日は色々忙しいだろ。特に七里は」
「……だな」
七里は周囲の崩壊したビル群を見回し、溜息を吐いた。その惨状について報告する責任があるのは、協会の職員という肩書を持つ七里に他ならないだろう。
「後は、俺も帰って色々と考えることがある。また呼ぶから待っててくれ」
「おう、頼んだぜ……はぁ」
七里は俺に笑って頷いた後、周辺の惨状を見てもう一度深い溜息を吐いた。
♢
帰宅した俺は、使い魔達を集めて会議を開いていた。と言っても、絵面はリビングでテーブルを囲んで座っているだけだが。
「……と、そういう感じだ」
「まさか、異界に行っている間にミミちゃんがそんな事態になっているとは……一生の不覚です」
「ステラ、もし配信を見てたら派手に登場して助けるつもりだったんじゃないでしょうね?」
肩を落としたステラを、メイアがじろっと睨んだ。
「いえ、流石の私もマスターの使い魔の一体としてそこまでの愚行は犯しませんよ。仮面を着けた謎の美女として登場する予定です」
「何で仮面を着けてるのに美女だって分かるのよ」
「カァ、その口振りだと、顔は隠してても自己顕示欲は満たすつもりだろ」
前にもちょっと目立ち過ぎてペナルティを与えたんだが、どうやら懲りていないらしいな。
「私の話は良いとして、マスターは結局どうしたいんですか? そのレッドマンの件は分かりましたが、それをきっかけに方針を変える予定があるとか」
嫌な雰囲気を感じ取ったのか、ステラは白々しい顔で話を変えた。
「変わんねぇだろ。そもそも、なんかヤベェのが東京のど真ん中で暴れ散らしてるらしいって報告はしたが、そん時は特に反応も無かったからな」
「そうね。東京なら何もしなくてもどうにかなるって話だったもの」
「……いや、変えるつもりだ」
二人の予想を裏切り、俺は方針の変更を口に出した。
「ふむ」
「マジか」
「変えるというのは、どのように?」
メイアの問いに、俺は一言で答えた。
「研究会には、嫌がらせ程度に攻撃する」
「……何ですか、それ」
俺の答えに、ステラが眉を顰めて言った。




