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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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凍て付く大広間

 ピシリ、モーモスの足が凍り付き、鋭く尖った氷柱がそこに放たれる。転移を発動しようとしたモーモスだが、足に絡み付いた氷の拘束がそれを阻んでいることに気付いた。


「なッ」


「何してんの?」


 大広間に現れたアイテールは飛来する氷柱を叩き落とし、視線すら向けずにモーモスに尋ねた。


「同じ継承者(フィリウス・ディー)の筈なのに、どうしてここまで能力に差が出来ちゃったんだろうなぁ……ハァ」


「ッ、ふざけるなよ小僧めが! 貴様のような――――」


 アイテールが腕を一閃すると、凍て付きが広がっているモーモスの身体から頭が切り離され、宙を舞う。アイテールはその額を弾き、外まで転移させた。


「うだうだ言ってると、こうやって雑に飛ばしちゃうよ?」


「ッ、分かったわよ……」


 アパテ―は内心から滲み出る苛立ちを表情に出しながらも、転移によってその場から消えた。それを見送ったデイモスは雪也に向き直り、短く言葉を告げる。


「フォボスの借りは必ず返す」


「行かせな……ッ!」


 デイモスが転移するのを止めようとした雪也だが、眼前に現れたアイテールの蹴りを避ける為に体を仰け反らせた。


「捕まえたッ!」


「いや、ハズレだよ」


 雪也は仰け反った体勢のままアイテールの足を掴み、一瞬にして氷漬けにした。が、既にアイテールの足は自らによって切断されており、アイテール本体は全くの無事だった。


「『銀の腕(アガートラーム)』」


「『黄金の手(ミダスタッチ)』」


 そこに、巨大な銀の腕と触手のようにうねる黄金が迫る。しかし、アイテールは転移によって軽くそれを回避し、館の出口側に立った。


「っと、そんなの当たる訳ないじゃん」


「クソ……どいつもこいつもひゅんひゅん飛び回ってズルいわッ!」


 悔しさを隠すことも無く叫ぶ銀子と、沈黙してアイテールを睨む金枝。雪也はまだ諦めておらず、氷柱を自身の周囲に浮かべるが……


「あはは、じゃあまたね!」


「待てッ!」


 転移によってその場から消え去ったアイテールの後を追うように飛来した氷柱が、誰も居ない空間を突っ切って壁を貫いた。


「……逃げられました、ね」


 悔恨の表情で呟く雪也に、銀子と金枝は頷く。


「でも、助かったわ。正直、私達だけじゃ危なかったし」


「そうねぇ。あと少し遅ければ、どんなことになっていたか分からないわぁ」


「すみません。もう少し早く来れたら良かったんですけど……アイツの権能を食らってしまったみたいで、冷静さを欠いてミスりました」


 雪也が言うと、金枝は首を振った。


「別に、責めるつもりで言った訳じゃないわぁ。それに、私だってベストな動きは出来なかったもの。強そうな相手の一人でも不意打ちで持っていけたら良かったんだけれど」


「私もよ……でも、転移能力はズルいわよッ! 何よアイツら、逃げてばっかりで情けないわッ!」


「ですね。転移能力は攻防一体ですから。長距離での移動まで可能かは分かりませんが、視界内程度の範囲だったとしても、詠唱も無しに好き勝手転移されるのは厄介です」


 口々に文句を言っていた雪也達だが、話が終わるのを待っていたらしい執事服の男……安治に気が付いた。


「あ、すみません。ちょっとお話があってここを訪ねたんですけど、襲われてたみたいだったので勝手に助太刀しました」


「えぇ、誠にありがとうございます。まさか、一級のハンターである雪也様と魔法少女と巷で騒がれているお二方が今日という日に訪ねて来て下さるとは、正に不幸中の幸いと言いましょうか……兎に角、感謝しかありません」


 流麗な動作で頭を下げる安治だが、その体のあちこちから血が流れ、執事服すらも既にボロボロの状態だ。


「本来であれば丁重にお迎えして礼をさせて頂きたいところなのですが、今ばかりは怪我人の治療を優先させて頂ければ幸いです」


「勿論です。というか、僕達にも手伝わせて下さい。僕は大して出来ることも無いんですが、この子達なら治療も手伝える筈です」


 雪也がそう言うと、安治の視線が二人に向いた。


「任せなさいっ! 怪我を治すのは得意よ! あと、病気を治すのはもっと得意よ!」


「正直、私はもう出来ることはないんだけれどぉ? 今、この状態が私に出来る最大限の処置だもの」


 そう言って金枝が目線で示したのは、そこら中に転がっている黄金の像だ。金枝の能力によって黄金化させられた護衛達は、殆どが重傷を負っているか瀕死の状態であった。だが、黄金化によって固定された肉体は付けられた傷が悪化することも回復することも無い。


「一人ずつ黄金化を解いて、この子が治していくわぁ。貴方達は黄金化していない軽傷の人達の処置をしてあげなさい」


「分かりました。貴方の腕を信じさせて頂きましょう」


「ふっ、確かに私は誰よりも信頼出来る腕の持ち主よ」


 銀子が自信ありげに笑ったところで、一人の男が開いたままの扉から入ってきた。


「まさか、入って直ぐの部屋が完全に凍り付いているとは思わなかったよ。雪也君」


 苦笑しながら雪也に話しかけた男は、その表情を不敵な笑みに切り替えて安治の方を見た。


「お初にお目にかかる。私の名は西北島羽……所謂、天才発明家だ。一応、アポは取ろうとしたんだが断られてしまってね。こうして本物を引き連れて再び交渉のテーブルに着きに来た次第だよ」


 西北島羽は、その紳士然とした格好に似つかわしい優雅な動作で礼をした。

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