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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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試練

 ♦……side:???




 想像以上の苦戦だ。いや、想像以上のというよりも……想像すらしていなかった苦戦と言っても良いだろう。


「まさか、よりにもよって……彼が、自分から現れるとはね」


 氷漬け。研究会の中そう呼ばれている彼は、世間一般では氷雪、氷の王子と洒落た名前で呼ばれているらしい。当然だろう。彼は、この研究会出身でありながら一級ハンターを務めているのだから。


「そして、彼らだ……いやぁ、苛立ちよりも先に感慨深さが湧いて来るよ」


 元は研究会のメンバーであった、西北島羽。そして、彼が携わっていた神智学研究の実験対象である二人……神の力を紙片より授かりし子らだ。


「最高だ。最高じゃないか。実に面白い、これが運命か。あぁ、命が惜しい。誰一人として殺したくないぞ。困った。益々、屋敷を丸ごと潰す訳にはいかなくなった。しかし、エリスとアイテールが居ればどうとでもなると考えていたのは間違いだったか。あぁ、何とも愚かな選択だった。悪い癖だ。目的の達成と実験をいつも同時に行おうとしてしまうのは」


 だが、問題はない。レッドマンの陽動は思ったよりも上手く行っているし、追加の戦力も送れている筈だ。


『報告です』


「何かな?」


 通信機から声がしたので言葉を返すと、ジジジと不安定な音が響いた。


「何だ……?」


 まさか、機械の調子が悪いのか。通信機に触れようとした私は、そこから響いた声に伸ばしていた手を止めた。



『――――やぁ、久しぶりじゃないか。筆頭』



 聞き覚えのある声だ。それは、確かに私が自ずから組織へと勧誘した研究者の一人……


「西北、島羽」


『そうだとも。また君と話すことになるとは……思わなかったと言えば、嘘になるね。いつかは、決着をつけようと考えていた』


「そうか。まさか、またこうして話すことになるとは……私は、思っても居なかったよ」


 西北島羽及び、二人の神子の捜索。その手間が省けたと思えば、ここまで喜ばしいことは無い。だが……


「何故、私と会話しようと思ったのかな?」


『いやぁ、ただ私は君と久し振りに話をしようと思っただけさ。他意なんて無いとも』


 嘘だ。この男が私に対して深い憎悪を持っていることは理解している。こうして、和やかに過去を懐かしむことだけが目的である筈がない。


「通信の妨害。そして……私の気を引いておく為、だろう?」


『……』


 つまり、今現在……有利である筈だった戦況は、寧ろ私達が不利を背負っていると考えられる。向こうからすれば、時間さえ稼げば勝ちの状況。通信は遮断され、恐らくだが屋敷へと繋がる転移陣も無効化されていると考えるべきだろう。


「成程、流石に驚いた。用意周到と言えるような計画で無かったことは事実だが、まさか防がれてしまうとはね……私も、運が悪い」


 いや、運が悪いで片付けてしまうことほど愚かなことは無い。これは、運命だ。そして、試練だろう。これから幾度も訪れるであろう、試練。その初めが、きっとこれだ。


『筆頭。私は、君の名前すら知らないが』


「ん、あぁ、そうだね……私の名前は、誰にも教えていないさ」


 やけに真剣みを増した彼の声に、私は眉を顰めた。


『ここで、宣戦布告させて貰おう。私は、何があろうと……必ず、魔科学研究会を潰してみせる』


「ふふ、そうか。やってみると良い。どうせ、何れは世界と戦うことになるんだ。前菜(オードブル)程度には楽しませてくれよ?」


『世界と戦う、か。正に大言壮語だ。この私達すら捕らえることも出来ずに居て、ね』


 ぷつりと、通信が途絶えた音が聞こえた。向こうから切ってきたのだろう。


「言い逃げとは、卑怯じゃないか……まぁ、良いさ」


 其方から向かってくると言うのなら、ここで無理をする必要もない。


「合流されている以上、既に増援を要請されている可能性も低くない」


 ここで勝負に出るのは、愚策と言えるだろう。転移陣を破壊されているならば、こちらの増援を送るにも時間がかかる。そして、今は決戦の時には早い。まだ、完全な準備は出来ていないからだ。


「ここは、退かせて貰うとしよう」


 今回はお互い痛み分けだ。次を楽しみにさせて貰おうか。

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