黄金の手
迸る黄金が蔓延る怪物どもを貫き、立ち向かう人間達を守っていく。
「ふふ、本当に私に触れるつもり?」
そして、それを齎している金色の髪の魔法少女……金枝に向けて敵が殺到するが、金枝は黄金を操ってそれらを捌き、至近距離まで接近した者には自分からその手で触れていく。
「『黄金の手』」
ピシリと、瞬く間に金枝の触れた箇所から黄金が広がっていく。金枝を傷付けることも出来ずに黄金と化した怪物達は、もう二度と自ら動くことはない。
「ほら、どんどんお仲間さんが減っちゃうわぁ」
妖艶に笑みを見せる金枝。その背がピシリと黄金で覆われると、そこに狼の爪が突き刺さり、黄金の防護は砕け散った。
「あら、危ないわねぇ」
「防いでんじゃねーよ。クソッタレ」
そこに立っていたのは、仮面を着けた黒い髪の男。突き出された腕は黒い獣毛に覆われた狼の腕だった。
「ガァ……狩り殺してやるよ。人間」
「ふふ、ワンちゃんが吠えても可愛らしいだけよぉ?」
男の眼がぎょろりと金枝を睨む。その体が膨れ上がるように筋肉が膨張し、黒い獣毛が全身に広がっていく。
「ただの獣と思って侮ってろや……真の恐怖を見せてやるよ」
「失礼ねぇ、侮ってなんか無いわぁ」
金枝の言葉は嘘では無く、目の前の獣を警戒しているからこその挑発であった。
「継承者、狼狽のフォボス」
仮面の男の仮面が、変形する顔に押されて剥がれ落ちる。そこにあったのは黒狼の頭であった。
「ふふ、ごめんなさいね。私は名乗れないの」
「構いやしねぇ。さっさと死にさえすりゃな」
迸る黄金に、飛び掛かる黒狼。宙を舞う水流の如く四方八方から迫る黄金に、黒狼は四つ足で駆け抜けてそれらを避けながら金枝に向かって行く。
「捕らえたァッ!!」
「どうかしら」
笑う金枝の体から黄金が溢れ出し、バケツを被ったように黒狼の体を覆い尽くす。
「舐めてんじゃねぇぞ、コラ」
ピシリと黒狼の体を覆った黄金に亀裂が入り、黒い瘴気と共にそれが吹き飛ばされた。
「俺にビビりもしねェってことは、テメェも普通じゃねえんだろうが……別に、俺は一対一に拘る質じゃねぇぜ?」
「ッ!」
背後から飛び掛かったのは、フォボスとは別の人狼。研究会が生み出した怪人の一体だろう。金枝は自身の足元から黄金を噴出させ、高所まで自分を押し上げることで人狼の刃を回避するが、そこに放たれた疾風の矢が金枝の肩に突き刺さった。
「これだから、直接戦闘ってのは苦手なのよぉ……本当、嫌になるわぁ」
肩に刺さってなお回転しながら肉を抉ろうとしていた疾風を纏う矢だが、その途中でピシリと黄金化され、金枝に摘ままれてポトリと地面に落とされた。
「さぁ、どうすんだァ? 助けに来たつもりが、自分達もピンチに陥ってちゃぁ世話ねぇなァッ!?」
「……」
金枝は黙りこくり、噴出したまま硬化した黄金の足場から周囲の状況を観察する。味方を守りながら戦っていたお陰か、全体の戦況としては五分くらいまでは戻せている。
(だけどぉ、ここで私が死んじゃったら……終わりよねぇ)
冷静に思考する金枝だが、このまま生き残り続けるのは難しいとも考えていた。魔法少女の衣装による能力の封印を解き放ち、全力を出すことも考えるが……そうなれば、結局ここの人間達を守るという目標も達成出来ずに終わるだろう。
「どうしたァ!? 黙ってたって、待ってはやんないぜェ!?」
地面を蹴り飛ばし、金枝の眼前まで跳躍した黒狼がその凶爪を振るう。回避も間に合わず、防御も足りない。そう判断した金枝は一か八か手を伸ばし、黒狼の爪にその細指で触れた。
「ッ!!」
「『黄金の手』」
金枝の指が裂けるよりも先に、ピシリと黒狼の爪が黄金化し、その場に固まる。黄金はそのまま黒狼の指から手へ、手から腕へと広がっていく。瞬く間に。
「ガァッ!!」
しかし、黒狼は黄金化が全身に広がるより先にその腕を自ら斬り落とすことで黄金の像と化すことを回避した。
「ざけやがって……クソガキが」
「そう簡単に私に触れられると思わないことねぇ」
飽くまで余裕を持っているように笑った金枝に黒狼はじりじりと下がって睨み付けるが、金枝の内心は焦燥で一杯になっていた。
(今の速度で何度も来られたら、正直言って勝ち目が無いわぁ……雪也君が来るまでは、警戒させて時間を稼がないと)
金枝は考えながらも、黄金を後ろ側に迸らせ、さっきの矢を撃った敵を貫いた。その間に足場をよじ登ってきた人狼が金枝に手を伸ばすも、足場から飛び出した無数の棘が人狼の体を滅多刺しにして地面に落とした。
しかし、その間も金枝は視線を黒狼から一瞬たりとも離さない。
「厄介な相手だぜ、クソが……だが、いつまでもこうして見合ってる気はねェよ」
そう言うと、黒狼は金枝の足場となっている黄金を狼の爪で斬り裂き、破壊した。支えを失い、倒れる黄金の足場から金枝は壁まで跳び、その壁から再び黄金の足場を伸ばした。
「逃げられると思ってんじゃねェ」
黒狼は爪を金枝に向けて振るうと、瘴気によって構成された黒い斬撃を飛ばした。黄金を盾にするも防がなかった金枝は、足場から飛び降りてまた別の足場を作ろうとする。
「雑魚がァ」
しかし、その隙を目掛けて飛び込んで来た黒狼が、凄まじい速度で爪を振り下ろした。金枝は何とかその手で黒狼の爪に触れようとするも、爪は綺麗に金枝の手を避け、金枝の脇腹辺りを容赦なく斬り裂いた。
「いッ……!」
「テェよなァ!? 怖ェか、俺が――――」
笑いながら再び鉤爪を振るおうとする黒狼を、飛来した氷の塊が吹き飛ばした。
「遅くなってすみません。敵は、僕が制圧します」
凄まじい冷気を放っている扉の向こうから現れたのは、青白い髪の青年……氷野雪也だった。




