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彼について相手の会社へ行く。
流暢な英語で相手の会社と会話を行っていく、トラブルはあったが文化の違いもあったみたいで、何とか解決出来た。会議の後に食事に誘われて3人で向かった。
相手の社長と湊くんが握手を交わした。A国で有名な
特産のワインがグラスに注がれていく。もちろん私の
グラスにも入っている。いつもなら礼儀として一口は口にするが……今は妊娠している…でも断るわけには……私はどうしたらいいのかわからずかたまっていた。
それに、気づいた小浦秘書長が言う。「松井さん苦手でも1口は飲まないと」小浦秘書長は私が苦手で飲まないのだと思ったんだろう。でもトラブルが解決したのに礼儀をかいてはいけないと咎めてきた。
グラスを持つ手が震える。飲まずに唇に少し触れるだけにしようか……目をつむってグラスを持っていこうとしていた手がふと軽くなった。見ると湊くんが自然と私のグラスのお酒を飲んでいた。
流暢な英語で言う。「彼女にぶどうジュースを持ってきてくれ」目があった。今まで見たこともない笑顔で笑っていた。
胸がきゅと鳴る。本当の意味で私に向けた笑顔ではない事は分かっていたが、嬉しくて顔がニヤけてきた。こんな顔を見せるわけにはいかないと思い、下を向いて気持ちを整える。不意に左手に温かい温もりが感じられた。湊くんの指が私の左手を優しく包んでいた。
まるで私を大切にしているような……そんな温かい気持ちになっていった。
恥ずかしくなり、湊くんの顔を見れず下を向いていた。私は髪をハーフアップにしていたが、耳元には後れ毛が垂れていた。湊くんは私のその髪を耳にかけて指で私の耳たぶを2回触った。彼は耳たぶを触るのが好きなのか結婚前もたまに私の耳たぶを触る時があった。くすぐったい様な胸がザワザワしてきた……
すると、耳元で小声で彼が言う。低い……でも……優しさを含む様な声色だった。
「乃杏ここの料理は美味しいから沢山食べときなよ。」目を彼に向けると、ニコッと笑っていた。胸が高鳴る。顔も赤くなっていく、頬に彼の息がかかってキスされたような気分になってきた。
「はい…」小声で答えた。
もう一度ちらっと見ると……彼はまた流暢な英語で相手の社長と提携の件で話していた。嬉しそうに笑っている。
ウェイトレスがぶどうジュースを持ってきてくれた。
私はそのジュースを、1口飲む。ほのかに苦味の味が口腔内に充満する。
私はお酒が苦手だった。このグラス1杯も飲めば酔ってしまう位だった。新人の時は本当に飲めなくて一口で吐き出してしまう位だった。代わりにジュースを、持ってきてくれて、その度に湊くんが内緒で飲んでくれていた。
元々好きだったのに更に好きになってしまった。
向こうの秘書のジェームスさんが私に笑顔で話しかけてきた。
「ノア!お酒ダメなの?」お国柄か下の名前でグイグイくる。私もタメ口で会話をしていく。
「そうなの!苦手でごめんね」
「気にしなくていいよ!このフリッタ食べてみて!美味しいよ」口に持ってきてくれたので口を開けて食べた。ソースが口についてしまった。
「ごめん……」ナフキンで口をふくと、ジェームスさんが言った。
「本当にノアは綺麗だね。吸い込まれるよ。この唇とかキスしたくなる」どう反応していいのかわからずニコッと微笑んで「綺麗だなんてありがとう」と答える。「彼氏いるの?」かなり飲んでいたのか今日はグイグイ質問してくる。
「彼氏はいません」答えるといきなりハグをしてきた。私は固まってしまった。
「ノアの彼氏に立候補させてくれないか?」舐めるように私の顔……特に唇を見てくる。私の中の危険信号が点滅していく。
もう1人の秘書も言った。「ジェームスは男前だし、付き合ってみたらどう?」はやし立ててくる。
どうしたらいいのか分からない。小浦秘書長は近くにいなかった。
不意に顔を反対側に向けられ、ジェームスさんの顔……唇が近づいていた。
「いやっ」涙が出そうになってきた。好きじゃない人となんて……手で隠そうとしたが、片手で両手を掴まれる。ぎゅっと目をつむる。
大きな手が私の肩を掴み、引き離された。
「離せ」ドスの効いた声が響く。
「ミナトすまない。」相手の社長が謝っている。
「今回の事はしっかり対処する」私の手を引いて小浦秘書長の所へ行って言った。「小浦くん、松井さんがあの男にセクハラを受けた、向こうと話し合ってきてくれ、俺は松井さんを連れてホテルに戻る」
「承知しました。」小浦秘書長は深々と礼をし、相手の社長と話をしだした。
タクシーでホテルまで帰る。道中で体が震えだす。いきなり怖くなってきた。湊くんが来なかったらって思うと……涙が出てくる。私の肩を優しく撫でてくれた。
「乃杏……なにも心配しなくて大丈夫だ。」
優しい眼差しだった。離れないとだめなのに……私は本当に彼から離れられるのかな?
「はい。社長……ありがとうございます。」
ホテルに着いた。タクシーから降りる時に足に力が入らずよろけてしまった。
流れるように湊くんが私を横抱きにして歩いた。
恥ずかして……体が熱くなった。きっと顔は真っ赤だと思う。
部屋について湊くんがポケットから鍵を取り出した。ピットかざして解除しようとした時に、あの人の声が聞こえた。スイーツの様な甘ったるい声……
「湊さん、戻ってきたの?」
湊くんが振り返って私を抱っこしてるのを見て一瞬笑顔が歪んだが、すぐに元の美しい顔に戻った。
「松井さんの体調が悪いから帰ってきた。」
「松井さん大丈夫?湊さん、ご飯ちゃんと食べてないんじゃないの?下のレストランで何か食べましょう?松井さんにはルームサービスを頼んだらどうかしら?」私の顔色を確認してくれる。何かを言おうとしているので、私はそれを遮って言う。
「社長、ありがとうございます。寝たら大丈夫だと思いますので後は自分で何とかします。」
納得していない顔をしていたが、私を降ろして言った。
「何かあれば俺に連絡してくれ、希美ちゃん行こうか」加賀屋さんを手招きし、二人で並んでエレベーターに乗って降りていった。
本当にお似合いの2人だなと思った。私には絶対出せない雰囲気がそこにはあった。
自分の部屋に入り、バスタブにお湯をはり湯船に浸かった。疲れが一気に抜けていくような気がした。
「はぁ……今日は色々あって疲れちゃった。」
お風呂上がってからベットに横になった。
妊娠4ヶ月目に入ってから服がキツくなってしまったので、寝巻きはノースリーブのワンピースで寝ていた。眠気が脳を充満していく。
気づいたら隣に温かい温もりがあった。見ると湊くんが私を抱きしめて眠っていた。シャワーを浴びたのか少し髪が濡れている様な気がする。
湊くんが……きっと夢だろうなって思った。湊くんは加賀屋さんといるはずだもん。でも……今だけ……
頬にキスをする。湊くんの目があいた。
「体調大丈夫か?」優しく微笑んでいた。夢の湊くんはよく笑ってくれる。私がしたのと同じように頬に
キスをしてくれた。
「大好き」口から自然と出ていた。夢なら全部言える。「俺も好きだよ」彼も私の言って欲しい言葉を紡いでくれる。
ぎゅっと抱きしめた。「ずっと一緒にいて欲しい。加賀屋さんの所に行かないで」懇願した。
「分かった。乃杏のそばにいるよ」優しく抱擁してくれた。ぐっすり眠れた。
隣のシングを触ったがやっぱり冷たかった。夢でもいい。彼に愛されたかった。一度……一瞬でもいいから無茶苦茶に愛されたかった。
夢が続いたらいいのに……永遠に……




