15♡
蘭子さんは地団駄を踏んで私を睨んできた。
「あなたのせいよ!この孤児が!」みなくんが私の耳を塞ぎながら怒っている。
「いい加減にしろ!俺が好きなのは乃杏だ。加賀屋希美の事なんて何とも思ってない!」
「あなたはずっと希美ちゃんを好きだったじゃない!」
「好きだったのはあなただろ?仕事に支障がでるから帰ってくれ」
大きくないが威圧感のある低い声が廊下に響く。
このフロアは秘書課の人間しかいないから問題はないが……やっぱりプライベートな事を会社で出すのはいかがなものか……
後ろの方から声が聞こえてきた。
「お母さん何してるのよ!恥ずかしい」涼子ちゃんが顔を真っ赤にしている。
「お前はもう会社にくるな」今は理事になっているお義父さんも涼子ちゃんの横に立っていた。
「あなた……湊が」涙を目に溜めている。
「会社でする事?家でしてよ……全く」母親に対して嫌悪感をあらわにしている。
「涼子!母親に向かってなんなの!これだから……可愛くないのよ……」わなわな震えている。
「だから?会社は仕事をする所よ!お母さんや加賀屋さんみたいに男に色目を使う所じゃないの……恥を晒す前に帰ってください。」さすがみなくんの妹……冷淡な顔で言い放つ。涼子ちゃんの隣にいたお義父さんも帰れと手を振っていた。
蘭子さんと廊下の先で立っていた加賀屋さんも渋々会社から出ていった。
みなくんは涼子ちゃん達に振り向いて言う。
「涼子、ありがとうな」
「私はお兄ちゃんの為にしたんじゃないわ。お義姉さんの為にしたの!やっぱり私のお義姉さんには乃杏さんじゃないとね♡」ウィンクして私を見てくる。
「涼子ちゃん」
「みんなも悪かったね……お詫びに差し入れをしておく」みなくんは秘書課の皆に飲み物とスイーツの差し入れをした。皆喜んで食べていた。
絵里ちゃんと栞ちゃんは「もっと社長、喧嘩したらいいのに」と冗談まで言っていた。
仕事が終わり、駐車場へ向かっている時にみなくんが言った。
「のんちゃん本当にごめんね。全く気にしなくていいからね。」申し訳なさそうに言う。
「ううん。大丈夫!みなくんのこと大好きだよ」
みなくんの愛は十分すぎる位つたわっているだから……大丈夫だよ!
私たちは家に帰ってきて抱きしめあった。
どうしても愛を伝えたかった。
「みなくん、私はあなたがこの世の誰より愛してる。だからあなたを大切にしていきたい。これからも私をあなたの奥さんでいさせてください」
「もちろんだよ。俺こそのんちゃんの夫でいさせてください。」
私たちは深く深く愛し合った。お互いの気持ちを再確認する様に愛し合った。
私の事をありのまま好きでいてくれるみなくんに本当に感謝している。
私がこうして笑っていられるのは彼のお陰でだと思う。孤児である事は変えることは出来ないけど、私は私なりに頑張ってきたつもり……
他の人に恥ずべきことはないと分かってはいるけど……
ああ言われるたびに胸が張り裂けそうな気がしてくる。どうしようもない事だと分かっているけど……
私が私を認めなかったら誰が認めてくれるの?って思ってた。まさか大好きな彼が認めてくれる……この現実に酔いしれたい。明日からまた頑張れる活力を貰ったような気がする。
「のんちゃん♡君は凄いよ。いつも頑張ってて……俺はそんな君に力を貰ってるんだ」
私の頭を撫ぜながら彼がそう言ってくれた。
「私も、みなくんの愛で力貰ってる。今日はまもってくれてありがとう。ありのままの私を愛してくれてありがとう。」涙が止まらない……嬉し涙なのに……何故か胸が苦しくなるんだろう?
あぁ……そっか、私は不安だったんだ。
もしかしたらみなくんが離れていっちゃうかもってずっと思ってたから……
親の愛を知らない私が本当に家族を持って幸せになれるのか……不安で不安で押しつぶされそうだったのかも……
「みなくん……私、本当は不安だったの……親の愛を知らない私が本当にいい母親になれるのか……不安なの」涙がぽろぽろ出てくる。私の涙を優しく手で拭いながら彼が言う。
「俺も不安だよ。俺は両親揃ってるけど、愛された記憶があまりないから……でものんちゃんと出会って暗かった俺の世界が明るくなったよ。のんちゃんの笑顔は俺に頑張ろうって思わせてくれるんだ。だから……のんちゃん。自信もって!のんちゃんが俺を幸せにしてくれた様に……俺と一緒にこの子を幸せにして行こう。俺たちは家族なんだから……もし不安になったら今日みたいに抱きしめて思っていることを言い合おうよ……喧嘩もする時もあるかも、しれないけど……すぐに仲直り出来るようにお互いに努力しよう」
ニコッと笑ったみなくん……あれ?この眩しい太陽の様な笑顔見た事ある……でも思い出せないよ……大事な事なのに……なんで?思い出せないんだろう。
思い出したい……心の声が言う。
早く思い出してよって……でも……もやがかかってる。
どうしたらいいのか……分からないよ
「のんちゃん?大丈夫?」みなくんが心配してくれる。
「うん……前もあったんだけど……記憶が不鮮明な時があって……私とみなくんって大学以前に会ったことある?」みなくんの表情が一瞬変わった。
「うん?どうかな……」歯切れが悪い返答だった。
きっと会ったことがあるんだと思う……だけど……内緒にしてるって事は……何かあるのかも……
次の日も一緒に会社に行った。
みなくんは会議があって出かけている。蘭子さんと加賀屋さんがやってきた。
「あなた……湊と別れなさい。希美ちゃんこそが高科家の若奥様なのよ!」蘭子さんがじりじりと詰め寄ってきた。加賀屋さんも言う
「お義母さん、湊さんはこの女に騙されてるのかも……?」
「いい加減にしなさい。あなたは5年間人の物を奪っていい思いをしてきたでしょ?元の持ち主に返しなさい。」
肩をどんと叩かれる。壁に当たって痛くなってきた
。この子だけは守らないと……それだけ考えていた。
どん!よろめいた。後ろに倒れ込む。
どうしよう……この子を失う訳には……
倒れなかった。
涼子ちゃんが支えてくれた。
「あんた達いい加減にしなさいよ。お母さん、いや!おばさん。パパとおじいちゃんに連絡したから!」
「涼子!またあなたは親に向かって」
「何が親よ!いつも私とお兄ちゃんの事無視してたくせに!こういう時だけ親ずらしないでよね?後、加賀屋さん……お兄ちゃんが相手にしないからってうちの大事なお義姉さんをいじめるの辞めてくださらない?」
「な?!」
警備員をつれて、お義父さんがやってきた。
「蘭子。いい加減にしろ!もうお前は高科家の人間じゃない。会社から出禁にする。」
「どういうこと?」
「離婚するからだ……これにサインしろ。書かなければ1文無しで追い出す。」
なんでよーと泣きながらしがみついて無視をされていた。あんなに私の前で威張っていた姿はどこにもなかった。




