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どうやって別館に行こうかな?
いきなりいくのもおかしいし、いいきっかけがないかな…と考えてたら…加賀屋希美が言った。
「実はおじい様とおばあ様にもお土産買ってきているんです」俺はニヤッと笑った。実際には少し口角を上げているだけ…初めてこの女に感謝した。
別館に着くと、祖父母、妹、のんちゃんが談笑していた。
ズキューンという矢印が心臓に刺さった。
何?!あの格好!オーバーオールにニットとか…最高の組み合わせじゃん。近くにふわふわの帽子もあった。あんな可愛い格好が似合うのはのんちゃんだけだと思う。
加賀屋希美が喋る。俺の心が冷える。声も嫌悪感が…
そして母親も…2人とも消えてくれ…のんちゃんの顔が引きつってるだろ?
涼子が辛辣な言葉を投げかけている。
涼子は母親の事が苦手…いや…嫌い…うーん…大嫌いだった。あれはだめ、これもだめ、小さい頃から色々言われていたし、加賀屋希美を溺愛していたから涼子はそんな母親を幼いころから無視していた。
俺はこんな冷めた性格だったし、不憫に思った祖父母が代わりに溺愛していた。
そんな涼子は大きくなるにつれて祖父母以外に味方を付けた。
それが父親だ…父親は涼子を溺愛はしてなかったが、「パパ大好き♡」と何度も可愛い顔をして甘える娘に接するうちにもうメロメロになっていた。
母親は昔から父親が好きで…頼み込んで結婚出来たからいまでも父親に頭が上がらない。
母親が涼子に辛く当たるたびに涼子の味方をしていた。
「パパ、早くつれて帰って」と言われて従わないわけがない。父親にとって嫁に嫌われても生きていけるが…娘に嫌われたら生きていけないからだ。
加賀屋希美も母親がつれていった。ますます俺は笑いそうになった。邪魔者がどんどんいなくなったからだ。
俺が出ていなかないのをみて涼子が眉をひそめていた。「お兄ちゃん出ていけ」心の声が聞こえてくるようだが…出ていかない。
一緒にご飯を食べると言う。
はぁ?!という顔を涼子がしている。ちらっとのんちゃんの顔を見る。驚いているが嫌がっている様子はなかった。あと一押しの様な気がする。俺は社長に就任して忙しくて、おばあちゃんが「なかなか別館に来ないわね」と言っていたのを思い出し、
「おばあちゃんが前に会いに来て欲しいと言ってた」と理由を付けた。
優しいのんちゃんは「せっかく会いに来てくれたのだから」と涼子をなだめていた。さすが…俺の奥さん。
おばあちゃんも一緒に食べようと言ってくれたので俺はここで食事を取れる権利をもぎ取った。
涼子が希美ちゃんと一緒に食べたらと言っていたが…仕事でもないのに…自分の好きな1人と食事がしたいから母さんが呼んだんだと言った。
携帯が揺れている。母親から電話がかかってきた。
無視をする。
祖父母が苦手だし、さっき涼子からも帰れと言われた手前、別館に来ることは出来ないんだろう…
子供の頃から思っていたが…別館の料理は本当においしい。自然と口角が上がる…隣に座っているのんちゃんを横目で見ると相変わらず可愛い頬が膨らんでもきゅもきゅと食べていた。
…可愛い…たまらない。その頬っぺたに吸い付きたい衝動をなんとか抑え込む。自分の料理に視線を戻す。
のんちゃんは自分の皿の数が皆より多い事を驚いていた。俺がのんちゃんをつれて行く度、使用人に親切にしていた。そんなのんちゃんを別館の使用人達は好んでいた。料理長は特にのんちゃんを可愛がっていた。
この間の出張の時に悪阻のような症状があったから、前もって、のんちゃんの料理は薄味にするように料理長に伝えていたので食べやすかったみたいだ。
のんちゃんが喜んでくれてほんとうに良かった♡
次の料理が運ばれてきた…生ハムメロンだった。
のんちゃんは生ハムやローストビーフが苦手だった。ステーキもしっかり加熱したものを好んで食べる。後、メロンは少しアレルギーがある。中学の時に痒くなるの…と言っていた。
それに今は妊娠しているから食べてはいけない食材だった。
俺は涼子に言った。涼子は謝っていた。のんちゃんは私が言わなかったのがいけなかったからと庇っていた。本当に優しい…その後も料理が運ばれてくる。
食後のコーヒーとのんちゃんが買ってきた和菓子の盛り合わせだった。
ほろ苦いコーヒーによく合う味だった。流石のんちゃん…本当にパーフェクトな妻だ。のんちゃんの欠点を、探す方が難しい位だ…という欠点なんてあるのか?俺が思いを巡らしていると、おじいちゃんに声をかけられた。
「湊、最近仕事はどうだ?」
「上手くいってますよ」笑って話をする。祖父も社長時代は優秀だった。父親に跡を譲ってからも会長職で会社に残って欲しいと部下達から言われて10年ほど残っていた。
体調を崩して会長職を退いてからも祖父を頼ってくる部下が沢山いたほどだ…人望も熱かった。
そんな祖父だ…俺の気持ちなんて、見抜いてたんだろう…俺の耳元でコソッと言った。
「乃杏も湊の事を好きだと思うから頑張りなさい」
俺はじっと祖父を見据えた。
「頑張ります。」
久しぶりに心からの笑顔だったと思う。
後…もう少し、もう少ししたら気持ちが届くような気がする。
談笑も終わり、俺はのんちゃんを送って行くことにした。
「乃杏送っていくよ」というと「はい」とほんのり赤くなった頬で頷いていた。
助手席にのんちゃんを乗せて車走らせる。ふと俺達が良く、会っていた公園が見えた。久しぶりにあの店のアイスが食べたくなった。
駐車場に車を停めて公園に入ると懐かしい匂いがした。あの頃の思い出が蘇ってきた。
アイス屋に行くとあの頃と同じおばさんがいた。
「あら?あなた前によく買いに来てくれた子だよね?」おばさんは俺を覚えていた。店の前にいるのんちゃんを見て笑顔になる。「あの時ののんちゃんも一緒にいるじゃない!良かったわね」のんちゃんの事も覚えていた。嬉しくなって言う。
「念願叶って結婚できたんです」
「まぁ!良かったわね!いつものアイスこれだったわね!次は子供も一緒に連れて来てね」
「はい」
店を出てのんちゃんをつれてオレンジ色のベンチに座る。
あの頃よく食べていた味…俺の初恋…青春の味
セリフも言ってみる。のんちゃんが苦しそうに頭を抑えている、
記憶が戻りつつあるのかも…俺は淡い期待をした…
早く思い出して欲しい…でも無理は禁物だった。
のんちゃんが苦しむ事はしたくない…自然に治った方が良い。16年も待ったんだ…待てるだろ?焦るな
心に言い聞かせた。
向こうから空港で出会った男とまた違う男が来た。
養護施設で一緒に育ったお兄さんと弟だった。
本当にのんちゃんの事を心配していた。
のんちゃんの味方がいっぱいいてほんとうに良かった。
帰り際お兄さんが言った。
「君ってみなちゃん?」
「え?!」
「やっぱりそうか…あの頃は俺達も園から卒業してしまっていなくて…寂しそうにしてたんだ。でも…君に会えてから嬉しそうだった。記憶をなくしているけど心の奥底では覚えてると思うから諦めないでね。これからも、のあをよろしく。君も俺にとってはのあ同様に可愛い弟だよ。何かあれば兄さんを頼ってくれ」
さすが…のんちゃんのお兄さんだった。
心が温まる。
帰ろうとするのんちゃんを家に誘った。
こらからが勝負だ…
俺とのんちゃんが元通り…いやもっとラブラブになれるかは…
俺の心臓はドキドキしていた。
ハンドルを握る手が汗ばんでいくのを感じていた。




