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第27話 海の上の反撃

 追撃船との距離が縮まっていく。


 奴隷船の甲板では、ルナの指示で仲間たちが動いていた。


「戦えない者は船底へ。入口はラウガたちが守れ」


「任せろ」


 ラウガが狼族と闘技場から来た者たちを連れ、船底へ続く階段の前に立つ。


 昨日解放された二十七人と三人の子供も、その奥へ下がった。


「船員は持ち場を離れるな。船を止めれば、向こうの好きにされる」


 レグルが叫ぶ。


「弓は俺たちが止める!」


 ルナ、ガオン、ボルグたちが、追撃船に近い側へ集まる。


 シノは帆柱の足場から相手の動きを見ていた。


 チリは船縁の陰で、縄を切るための刃物を握っている。


 タダノは甲板の中央へ立った。


「矢が来るよ!」


 追撃船から、最初の矢が放たれた。


 空を覆うほどではない。


 だが、船の上には逃げる場所が少ない。


 タダノが両腕を広げる。


 胸と腹へ矢が刺さった。


 肩を抜けた一本が、後ろの甲板へ落ちる。


 ガチケモたちはタダノの身体を壁にして伏せた。


「次が来ます!」


 シノが叫ぶ。


「右から!」


「船首を振れ!」


 レグルの指示で舵が動く。


 奴隷船の向きが変わった。


 二度目の矢は帆に刺さり、多くが海へ落ちた。


 タダノが身体から矢を抜く。


 穴の開いた服の下で、傷が塞がっていく。


「また着替えが必要ですね」


 シノが上から言った。


「今、それを言うの?」


「今だからです」


 追撃船がさらに近づく。


 甲板にいるのは、船員と兵士を合わせて三十人ほど。


 先頭の兵士たちが、鉤のついた縄を構えていた。


「来るっス!」


 投げられた鉤が船縁へ引っかかる。


 二本。


 三本。


 両方の船が縄でつながれた。


「まだ切るな!」


 ルナがチリを止める。


 追撃船から板が渡される。


 剣と槍を持った兵士が、奴隷船へ乗り込んできた。


「逃亡奴隷を捕らえろ!」


「抵抗する獣は殺していい!」


 最初の槍を、タダノが胸で受けた。


 柄を掴み、後ろへ通さない。


 兵士が槍を引こうとする。


 動かない。


「今だ!」


 ルナがタダノの横を抜けた。


 爪が兵士の喉へ入る。


 ガオンは渡し板を越えた二人目を掴み、その身体を追撃船へ投げ返した。


 後ろから来た兵士を巻き込み、三人が甲板へ倒れる。


 ボルグたちが、別の板から来る兵士を押し返す。


 船底へ走ろうとしたニンゲンは、ラウガに止められた。


「そこから先へは行かせん」


 ラウガの牙が、兵士の腕へ食い込む。


 槍が落ちる。


 狼族たちが一斉に飛びかかった。


 昨日まで奴隷倉庫へ閉じ込められていた者も、階段の奥から戦いを見ている。


 首輪はない。


 命令されて戦う必要もない。


 それでも、戦える者が一人、また一人と前へ出た。


「武器をくれ」


 倉庫で最初に首輪を外した犬族の女が言った。


「子供たちは、奥の者に任せた」


 ラウガは床へ落ちた剣を蹴って渡す。


「無理はするな」


「逃げるだけのために、自由になったんじゃない」


 犬族の女が剣を拾った。


 ほかの者たちも、倒れた兵士の槍を取る。


 追撃船から乗り込んできたニンゲンが、逆に囲まれた。


「船を離せ!」


 追撃船の船長が叫んだ。


「縄を切れ! 一度離れる!」


 ニンゲンの船員が、二隻をつなぐ縄へ刃物を振り下ろそうとする。


「左の縄です!」


 シノの声が飛ぶ。


 背中の翼が風を打った。


 レグルが奴隷船から飛び立つ。


 両腕で短い刃物を構え、追撃船の甲板へ降りた。


 縄を切ろうとしていた船員を蹴り倒す。


「俺たちへ投げた縄だ。勝手に外すな」


 ほかの解放された船員たちも動いた。


 鉤縄を引き、二隻をさらに近づける。


 自分たちを檻として運んでいた船を、今は自分たちの意思で操っている。


「向こうへ渡る!」


 ルナが命じた。


「逃がせば、次の追手を連れてくる。ここで倒す!」


 ガオンが最初に板を渡った。


 追撃船の兵士が槍を並べる。


 タダノがその前へ出た。


 穂先が身体へ刺さる。


 何本刺さっても、前へ進む。


 ガオンたちは、タダノが作った隙間から甲板へ入った。


 ルナとボルグが続く。


 倉庫から解放された者たちも、自分で選んで板を渡る。


 追撃船の上で、ニンゲンの声が悲鳴へ変わった。


     ◇


 最後まで立っていたのは、追撃船の船長だった。


 折れた剣を握り、船尾まで追い詰められている。


「来るな、獣ども!」


 船長の前にはレグルがいた。


「この船は王国のものだ!」


「船を動かしてきたのは誰だ」


「奴隷は黙って従え!」


 船長が剣を振り上げる。


 レグルは翼で身体を浮かせた。


 刃の上を越え、両足で船長の胸を蹴る。


 ニンゲンの身体が船縁を越えた。


 海へ落ちる。


 助ける者はいなかった。


 しばらく水面に手が見えていたが、やがて波の下へ消えた。


 追撃船にいたニンゲンは、すべて倒れた。


「怪我をした者を集めて!」


 タダノが叫ぶ。


 戦いを終えたガチケモたちが、負傷者を奴隷船へ運ぶ。


 深い傷から先に、タダノが塞いでいく。


 ニンゲンを倒したのは、ルナたちだった。


 タダノは、また傷を治す側へ戻っていた。


 追撃船は、帆と船縁を傷つけられている。


 舵にも刃が入っていた。


「すぐに別の船員を乗せて動かすのは難しい」


 レグルが船の状態を確かめる。


「だが、捨てるほどではない。港を作れたら直せる」


「連れていけるのか」


 ルナが尋ねる。


「太い綱でつなぐ。風を受けないよう帆を畳めば、牽引できる」


 追撃船に残っていた食料、水、武器が奴隷船へ移された。


 使える帆布や縄も運ぶ。


 二本の太い綱が、奴隷船の船尾と追撃船の船首をつないだ。


 再び帆が張られる。


 奴隷船が動き出すと、追撃船もその後ろからついてきた。


「二隻になったっス!」


 チリが振り返る。


「直せば、もっとたくさんの同胞を運べるっスよ」


 甲板で声が上がった。


 レグルが翼を広げ、ほかの船員たちも腕を上げる。


 倉庫から解放された者たちも加わった。


 三人の子供が、船底から顔を出す。


 兎族の子供がタダノの脚へ抱きついた。


 その時だった。


 海の遠くで、雷のような音が鳴った。


 晴れた空に雲はない。


 レグルが振り返る。


「伏せろ!」


 黒い塊が、海面の上を飛んできた。


 奴隷船の頭上を越える。


 後ろから牽引していた追撃船へ直撃した。


 木材が砕け、炎と水しぶきが上がる。


 勝利の声が、一瞬で消えた。


 さらに遠い海の上に、黒い帆が見えた。


 港にいた、大砲の軍船だった。


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