第23話 奴隷倉庫
倉庫の扉が、内側の横木ごと外れた。
大きな音が夜の港へ響く。
「何だ!」
中にいた兵士が振り返った。
ボルグは壊れた扉を押しのけ、そのまま倉庫へ入る。
ルナと十二人が続いた。
タダノは、全員の後ろにいる。
中の見張りは四人。
二人が槍を構え、残る二人が腰の剣へ手を伸ばす。
「侵入者だ!」
兵士が叫んだ。
正面と左右の見張りにも聞こえる。
すぐに六人が駆けつける。
「入口を塞げ!」
ルナは仲間へ命じる。
「タダノを檻まで通せ!」
兵士の槍がボルグへ向けられる。
ボルグが両腕で柄を挟み、穂先を止めた。
別の槍が横から突き出される。
タダノが間へ入った。
穂先が脇腹へ刺さる。
タダノは槍を身体へ残したまま、兵士の腕を掴んだ。
「今!」
ルナが低い姿勢で走る。
兵士の足を払い、床へ倒した。
後ろから来た牛族が、その上へ飛びかかる。
タダノは槍を抜き、倉庫の奥へ進んだ。
傷が塞がり始める。
倉庫の奥には、鉄格子で区切られた二つの大部屋があった。
中にいるのは二十七人。
二十四人の大人と、三人の子供。
狼族。
犬族。
兎族。
猫族。
ほかにも、いくつもの種族がいる。
全員の首に、隷属の首輪がついていた。
「鍵はどこ?」
タダノが周囲を見る。
「あった!」
牛族が、見張りの机の横に掛けられていた鍵束を取った。
いくつもある鍵を順に試し、最初の錠を開ける。
続けて、隣の扉も開いた。
二つの檻の扉が開く。
「首輪を外すから、こっちへ来て」
すぐに動く者はいなかった。
檻を開けたのは牛族だが、首輪へ手を伸ばしているのはニンゲンだ。
タダノは中へ入らず、扉の外で待った。
「無理に来なくていいよ。でも、港から逃げるなら、今しかない」
最初に動いたのは、犬族の女だった。
三人の子供を背中へ隠しながら、タダノの前へ来る。
「本当に、命令しないのか」
「うん」
「首輪を外したあとも?」
「何をするかは、自分で決めて」
犬族はタダノを見た。
倉庫の入口では、ルナたちが兵士と戦っている。
白い狼族。
大柄な熊族。
牛族と、ほかの仲間たち。
首輪をつけた者は一人もいない。
「外してくれ」
犬族が顎を上げた。
タダノが首輪を掴む。
留め具が壊れ、鉄の輪が床へ落ちた。
犬族は自分の喉へ触れる。
倉庫の兵士が怒鳴った。
「獣ども! 檻から出るな!」
首輪は締まらない。
犬族は振り返り、檻の中へ手を伸ばした。
「来い。本当に外れた」
次の者が前へ出る。
タダノが首輪を外す。
一人。
また一人。
自由になった者は、檻の外へ出ていく。
戦える者は、入口へ向かう。
弱った者は、まだ首輪の残る者へ肩を貸す。
人数が増えるたび、倉庫の兵士たちは押し戻された。
外から来た見張りも、入口を越えられない。
「商品が逆らうな!」
兵士が剣を振るう。
首輪を外された猫族が腕を掴んだ。
犬族が背後から兵士へ飛びつく。
二人で床へ倒し、剣を奪った。
自分たちを閉じ込めていたニンゲンを、自分たちの手で倒す。
ルナは檻の前まで下がってきた兵士の胸へ爪を入れた。
兵士が倒れる。
「残りは」
ルナがタダノへ尋ねる。
「子供が三人」
檻の奥で、三人が身を寄せ合っていた。
一番小さな兎族の子供は、片手を胸へ抱えている。
手首に、鎖で擦れた傷があった。
タダノは子供たちの前で膝をついた。
「首輪、外してもいい?」
三人は答えなかった。
犬族の女が隣へ座る。
「このニンゲンは、私の首輪を外した。嫌なら触らせなくていい。でも、私は大丈夫だと思う」
兎族の子供が、おそるおそる顎を上げる。
タダノはゆっくり手を伸ばした。
首輪だけに触れる。
鉄の輪が外れた。
残る二人も、それを見て前へ出る。
三人分の首輪が床へ落ちた。
「手も痛いよね。治していい?」
兎族の子供がうなずく。
タダノが傷へ手を当てる。
赤く裂けていた皮膚が塞がっていく。
子供は自分の手首を何度も確かめた。
それから、タダノの袖を掴む。
隣にいた犬族と猫族の子供も、タダノの服の裾へ手を伸ばした。
三人にまとわりつかれ、タダノは少しだけ笑った。
それでも、頭を撫でようとはしない。
「これから船へ行く。あの犬族の人と一緒にいて」
子供たちは、すぐには手を放さなかった。
「タダノ」
ルナが呼ぶ。
「船に同胞が残っている」
「うん」
タダノは子供たちを見る。
犬族の女が、三人の手を取った。
「行ってこい。この子たちは私が連れていく」
子供たちはようやく服を放した。
「あとで、また会おう」
タダノが立ち上がる。
倉庫の兵士は、すでに全員倒されていた。
首輪を外された二十七人が、自分たちを閉じ込めていた檻の外に立っている。
「二階の灯りを消せ!」
ルナが命じる。
猫族が階段を駆け上がる。
窓の灯りが消えた。
船着き場へ送る合図だった。
◇
港の役所では、チリが棚から海図を引き出していた。
「これもっス。こっちもいるっス」
机の上には、巻かれた海図が六枚。
港周辺の水深を記した図。
沿岸の航路。
遠い島々の位置が描かれたものもある。
シノは窓から外を警戒していた。
役所にいた三人のニンゲンは、同行した狼族たちが倒している。
「船の記録もありました」
シノが机の紙を確認する。
「奴隷船には、首輪をつけられた船員が十八人。水と食料は、十日分以上積まれています」
「これなら、そのまま出られるっスね」
チリは別の書類を広げる。
「鎖の巻き上げ機は、北側の塔で止められるっス。役所に予備の鍵も――」
廊下から足音がした。
見張りの交代に来た兵士だった。
扉の前に倒れている役人を見つけ、顔色を変える。
「敵襲だ!」
シノが走る。
兵士は階段を飛び下り、外へ出た。
追いつく前に、壁へ下がっていた縄を引く。
港中に警鐘が響いた。
一度。
二度。
シノが兵士の背中へ飛びつく。
兵士を地面へ倒した時には、船着き場の篝火が次々に灯されていた。
「見つかったっス!」
チリが海図を革袋へ詰める。
「船へ行くっスよ!」
倉庫の二階から、灯りが消えた。
港の警鐘と、ルナの合図。
二つが同時に船着き場へ届く。
積まれた木箱の陰から、ガオンが立ち上がった。
「待つのは終わりだ」
奴隷船へ向かって走り出す。




