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第22話 港を奪う

 港町の外壁から離れた森で、ルナは地面へ港の形を描いた。


 中央に奴隷倉庫。


 その先に船着き場と奴隷船。


 海へ出るための門には、鎖を動かす塔がある。


 少し離れた場所に、海図を保管する港の役所。


「倉庫だけを襲えば、船が逃げる」


 ルナは言った。


「船を先に奪えば、倉庫の者を別の場所へ移される。警鐘が鳴れば、鎖も上がる」


「全部、同時に押さえるしかないっスね」


 チリが地面の線を見る。


「でも、首輪を外せるのはタダノだけっスよ」


「最初に倉庫へ行く」


 ルナはタダノを見る。


「倉庫の首輪を外したら、船へ向かえ。道は私たちが開ける」


「うん」


「船では、ガオンとラウガが待つ」


 ガオンが腕を組む。


「俺たちは、先に船を奪わないのか」


「船へ近づく。だが、タダノが来るまで首輪の者たちを戦いへ巻き込むな」


「ニンゲンだけを倒せばいいんだな」


「できるならな」


 船の上は狭い。


 首輪をつけられたガチケモが、命令で盾にされる可能性もある。


 船を沈めてもいけない。


 ガオンの力だけでは解決できない場所だった。


 ラウガがガオンを見る。


「船へ上がったあとは、俺の合図を待て。帆柱も舵も壊すな」


「どれが帆柱だ」


「一番高い棒だ」


「分かった。あれは壊さない」


「ほかも勝手に壊すな」


「必要なら壊す」


 ラウガが短く息を吐いた。


 ルナは地面に描いた港の役所を指す。


「チリとシノは、四人連れてここへ入れ。海図と船の記録を探せ」


「鎖の塔についても調べるっス」


 チリが答える。


「役所なら、巻き上げ機の修理記録か鍵があるはずっスよ」


「見張りの交代は把握しています」


 シノが言った。


「裏手の屋根から入れます。役所の中にいるニンゲンは、夜なら三人です」


「見つかるな。警鐘を止められるなら止めろ」


「承知しました」


 残る二十四人は、街の外で待つ。


 戦えない者と荷物を守り、倉庫が開いたあとに港へ入る役目だ。


 解放した者たちを船まで運ぶため、荷車も残す。


「街へ入る道は」


 ルナが牛族へ尋ねる。


「外壁の下に、雨水を流す穴がある」


 牛族が答えた。


「俺が港にいた頃、詰まった泥を掻き出させられた。今の時期なら水は少ない。一人ずつなら通れる」


「出口はどこだ」


「倉庫裏の資材置き場だ」


 そこからなら、三つの組に分かれられる。


 倉庫へ向かう道。


 船着き場へ向かう道。


 役所の裏へ続く道。


「合図は倉庫の灯りだ」


 ルナは言った。


「倉庫を押さえたら、二階の灯りを消す。それを見て、船へ入れ」


「役所から見えるっス」


 チリがうなずく。


「自分たちも、その時に海図を持って船へ向かうっスよ」


「警鐘が先に鳴った時は」


 ラウガが尋ねる。


「待たずに動け。倉庫と船へ同時に入る」


 ルナは全員を見回した。


「目的は、ニンゲンを倒すことではない。囚われている同胞を全員船へ乗せ、港を出ることだ」


 誰も異論を口にしなかった。


 日が沈むまで身体を休める。


 暗くなると、ルナたちは港町の外壁へ向かった。


     ◇


 外壁の下にある排水路は、獣臭と腐った魚の臭いが残っていた。


 チリが鼻を押さえる。


「シノ、大丈夫っスか」


「大丈夫ではありません」


 シノは即答した。


 足元の泥を避けようとしているが、通路は狭い。


 白い尾を持ち上げても、壁の汚れまでは避けられなかった。


 先頭の牛族が、錆びた鉄格子へ手をかける。


 格子は外側から細い鎖で留められていた。


 チリが隙間から腕を伸ばす。


「少し待つっス」


 針金を差し込み、錠の中を探る。


 小さな音がして、鎖が緩んだ。


「開いたっス」


 牛族が格子を持ち上げる。


 一人ずつ、資材置き場へ出た。


 積まれた木箱と樽が、外からの視線を隠している。


 港の灯りは多くない。


 船着き場の篝火。


 兵士が持つ灯り。


 奴隷倉庫の二階にある窓。


 海には、船の影が並んでいた。


 最も近くにあるのが奴隷船だ。


 その奥には、黒い軍船が見える。


「ここから分かれる」


 ルナが声を落とす。


 ガオンとラウガたちは、木箱の間を抜けて船着き場へ向かう。


 チリとシノたちは、役所のある高台へ進む。


 ガオンたちは、奴隷船に近い荷物置き場へ身を隠した。


 船の甲板には、首輪をつけられたガチケモが並ばされている。


 槍を持つ兵士と、剣を下げた船員もいた。


「今なら上がれる」


 ガオンが船を見た。


「まだだ」


 ラウガが止める。


「首輪の者が前へ出されている。タダノが来るまで待て」


「待っている間に、船が出たらどうする」


「綱はつながれたままだ。帆も畳まれている。すぐには出ない」


 ガオンは不満そうに拳を握った。


 それでも、船へ飛び移ろうとはしなかった。


 役所へ向かったシノは、建物の裏に積まれた木箱を足場にして屋根へ上がった。


 チリと四人も続く。


 屋根にある小さな換気窓から、中の臭いと音を確かめる。


「三人です」


 シノが囁く。


「一人は二階。二人は下にいます」


「予定通りっスね」


 チリが窓の留め具へ針金を入れる。


「海図を取って、倉庫の合図を待つっス」


 二組がそれぞれの場所へ着いたあと、ルナたちも動いた。


 ルナ、タダノ、ボルグと十二人は、牛族の案内で奴隷倉庫の裏へ回った。


 倉庫の周囲を歩く見張りは八人。


 正面に二人。


 左右に二人ずつ。


 残る二人が裏手を往復している。


 シノから聞いた通りだった。


 ルナは物陰から、二人の足音を聞く。


 一人が倉庫の角を曲がった。


 もう一人が、少し遅れて続く。


「ボルグ」


 ルナが囁く。


 ボルグが前へ出た。


 角を曲がってきた兵士の口を塞ぎ、暗がりへ引き込む。


 ルナは後ろの兵士へ飛びついた。


 声を上げる前に喉を押さえる。


 二人の身体が地面へ倒れた。


 倉庫の裏口には、太い横木が渡されている。


 牛族が小声で説明する。


「内側から閉めてある。俺たちは荷を運ぶ時、ここから入れられた」


「壊せるか」


 ルナがボルグを見る。


「音が出る」


「かまわない。壊したら、一気に入る」


 ルナは仲間たちを見る。


「中の首輪はタダノが外す。私たちは道を開ける」


 ボルグが扉へ両手を当てた。


 倉庫の中から、小さな咳が聞こえた。


 子供の声だった。


 ルナの爪が土へ食い込む。


「やれ」


 ボルグが扉へ肩をぶつけた。


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