492.剣撃アイリウス任せも対策済。無念
さて、では《粉砕》なんだけど……ミニゲームということで、現実における作り方とは全くの別物となる。
まずは筒状の装置の上のほうにある投入口を開いて、そこから材料を入れていく。カカオマス、ココアバター、砂糖、それから牛乳だ。
入れ終えたら投入口を閉じて、魔道具スイッチオン。───と同時に、剣を構える。
「では、いざ!」
「ちょいやー、なの!」
〈スタート!〉
〈おお綺麗な初動コンボ!〉
〈クロニクルクエストのときに見たやつだ〉
〈やっぱお嬢DPSヤバいよなぁ〉
〈いや待て待て待て〉
〈何いきなり殴りだしてんの!?〉
〈粉砕ですけど……〉
〈だんだん装置がサンドバッグに見えてきたな〉
《クアトロ・ホーリーランス》と並行した《バックフロント》から《キックダウン》、《ジャックナイフ》に繋ぎつつ《トリプル・リーフエッジ+》。錐揉み回転からの《ショルダーフォール》で決めて、詠唱時間の都合で《クアトロ・シーリングフォール》を絡めるため《ラピッドスラッシュ》まで繋ぐ。
雫戦のときに使ったコンボの改良系だ。今のところ私にとっては、《エッジラッシュ》や《ペイン》系魔術を除けば最も火力効率がいい。上手く通せる場面は多くないんだけど。
……何をしているのかというと、これこそが《粉砕》のミニゲームなのだ。その正体は単純、これはDPSチェックである。装置が起動している一定時間内に与えられた攻撃に応じて細かく粉砕して混ぜることができて、チョコが滑らかになる。
ではなぜ《エッジラッシュ》を使わないのかというと、なんとこの装置は一定時間ノックバックさせずにいると稼働が止まってしまうそうなのだ。ノックバックが一切存在しない攻撃はほとんどないから、これは完全に対策されている。
《ペイン》もそうだ。こちらはスリップダメージそのものが計算されない仕様になっていて、《状態異常魔術》あたりも腐ってしまっている。ズルはできないようにされているものだ。
「つまり、『当てにくいけど高火力』系は止められちゃってると。まあ無理もないよね、動かないものへのDPSチェックだし……」
「何度見てもすごいですよねぇ、剣と魔術の舞踏! わたしは弓だからできてもあんまり旨味がありませんけど、憧れちゃいます」
「あはは……ヒトニスさんに呼び出されて流派三つ認定された人はやっぱり違うなぁ」
「え、なんですかその話! 気になります!」
〈さすがにヌルゲーになりすぎるしなぁ〉
〈さすがにペイン撃ってるだけはつまらんししゃーない〉
〈エッジラッシュは……そりゃね〉
〈判定あったら装置壊れちゃう〉
〈ついに紗那様に憧れられてしまった〉
〈ああ、お嬢がどんどん人外に……〉
〈ヒトニス認定シールつき(三枚)〉
〈それみゃーこが言うんか〉
〈おっ知らなかったん〉
〈知られてなかったのにバレてしまったか……〉
さすがに全力攻撃中は喋れないから、都が代わりに伝えてくれる。つまりはこれがミニゲームであるために、プレイングの差があまりにも出なくなる要素が排除されたわけだ。クールタイムが空ける度に《ペイン》を撃ち続けるだけとか、もはや作業だし……それでは「外から衝撃を与えて粉砕」というイメージにもそぐわない。
このおかげで「どう効率的に高火力を出し続けるか」というゲーム性とプレイングが生まれているし、見た目も派手になって配信映えもする。さらには街中でやっているおかげでMPが自動回復するから普段と少し違う特別感、というか特殊ルール感もあって面白かった。
そんなことをしている間に、紗那さんまで食いついてきてしまった。もちろん誰にでもはできないことをしている自覚があるけど、あの強烈なロングレンジ矢文を決めた紗那さんに本気で憧れられてしまうとなんだか居心地が悪い。隣の芝は青いのだろうか。
というか、私としてはあの速度でトップ勢に順応した挙句、円月輪のエキスパートまで駆け上がった古宮都に見上げられるのは納得いかない。何を常人面しているのだこの子は。
「……ふう。実戦コンボとしてはこんな感じかな。このイベント用にチューニングすればもう少し伸びるかもしれないけど……」
「こわ。何このDPSお化け」
「あ、チョコも出てきたの! うんうん、いい感じなの!」
「おお……! これは美味しくなりそうですね!」
〈圧巻だった〉
〈もしかして今の超有用資料か?〉
〈片手剣コンボの部分だけなら活かせるかも〉
〈切り抜き班ー!〉
〈みゃーこドン引きで草〉
〈チューニング……?〉
〈まだ上がるのかこの怪物〉
〈紗那様まだ液体ですよ〉
せっかくだから実戦で使いうるコンボは片っ端からやってみた。やっていることは普段の案山子と同じだけど、せっかくだからそこはついでだ。難易度低めのものもいくつか混ざっているから、控えているであろう切り抜き班に出動してもらおう。
まあ、とはいえチューニングはいいかな。あくまでチョコレート作りの一環のミニゲームだし、普段の考え方を捨ててまでそこまで考えるほどではない。実戦で使わないものには理由があるのだ。
さて、これで粉砕の工程が完了。チョコレートが滑らかになった。それはもう、たぶん必要以上に。
「次のミニゲーム、精錬。材料をしっかり混ぜて均一にしつつ、練り上げて香りを出す工程ですね」
「ここを回して混ぜながら、ボタンが光ったら押すの。今度はけっこう単純なの」
〈なんかちゃんとチョコ作ってるな……〉
〈内容はともかく工程は踏んでるからツッコミづらい〉
〈QTEか〉
〈シンプルだ〉
〈まあミニゲームだし〉
二日間しかないイベントだからね、辛辣な言い方をすれば三日で飽きるミニゲームでも楽しめる。戦闘は別であるし、あくまで気分転換というか物珍しさ優先だ。
実際には長時間しっかり練り上げてチョコレート独特の香りを引き出す工程なんだけど、今回はかなり簡略化されている。実際に行うのはシンプルなQTEだ。報酬が食べ物の品質、つまり味である以上、単にクリアというだけでなく操作が速ければ速いほどよくなる可能性もあるけど。
粉砕を終えたチョコレートをさっきとは別の装置に流し込んで、片手で回転式のハンドルを握る。これは操作中なるべく一定速度で回し続けるのが鍵だ。
そしてもう片手で、装置側面に並ぶボタンが光る度に押していく。こちらはなるべく素早く、ただし正確に。
「と、見ての通りで……これ、実はけっこう難しいです」
「うん、難しいよね。……難しいんだよ?」
「なんでカメラに念押しするの」
〈見ての通りで?〉
〈難しいんだろうけど難しそうに見えない〉
〈ほんとに難しいんですか?〉
〈はい〉
〈難しい……のかなぁ〉
〈別にみゃーこも難しそうにしてなかったんだよなぁ〉
あんまり信じてもらえていないようだけど、ちゃんと難易度は高い。ただ攻撃していればよかった粉砕よりよほど。
というのも、左右の手で要求されることが違いすぎるのだ。回すと押すという動作の違いはもちろん、左は一定の速度で、右はなるべく速くという速度の違いも混乱しやすい。左脳と右脳で別の処理を行う必要がある。
……まあ、得意分野だ。言うまでもなく。だから私のプレイングで信じてもらえないのは実のところ無理もない。
「……だめだ、上手すぎ」
「処置なしみたいな扱いされた……」
「でもルヴィア、ほんとに上手すぎるの。こんなの見てるだけで目が回ってくるの」
〈難しいことはわかってきた〉
〈なんでできてるんだこれ〉
〈おかしくないこれ?〉
〈お嬢って両利きだったりする?〉
左手は一定のリズムを覚えて、それに任せておく。そちらの意識は多少優先度を下げておいて、やはりしっかり考えるのは右手のボタンだ。光ったら反応して押す、次が光ったら押す、の繰り返し。
気分はさながら動体視力テスト。これはVR空間だから試されているのは反射神経のほうだけど。
「……よし、こんな感じかな」
「知ってるルヴィアちゃん? ここの数字、一番左の桁が5なだけでハイスコアなんだよ?」
「わお、大幅更新なの」
「まだ早い時間だからね、こういうのが上手い人が詰めてないだけだよ」
〈こわ……〉
〈けっこう自信あったのに桁一つ超えられました〉
〈やっぱおかしいよこの子〉
〈本当にそうか?〉
〈お嬢の場合そうなこともあるしそうじゃないこともある〉
どうやら現時点でのハイスコアは出たらしい。まあまだまだ時間はあるし、そのうち誰かが抜くだろう。私がこういうので出したハイスコア、半分以上は結局抜かれるものだし。
チョコ作りミニゲームも順調、残る工程はふたつだ。ここから先は現実でやったことがある人も多いものだね。




