491.落ちカカオ拾いとルーヴィーのチョコレート工場
カカオ木霊 Lv.95
属性:闇
状態:ドロップ率増加 (イベント)
……なるほど。そうきたか。
「運営さん、木はとりあえず全部木霊にしておけばいいと思ってません?」
いやね、ダンジョン入口で難易度選択があった時点でもしかしてとは思ったんだよ。これは戦闘だなと。それでもまだ、カカオの実を収穫しながら邪魔をしてくる魔物と戦うのかなと思っていた。
だけど現実はこうだった。そうだ、九津堂はプレイヤーにツッコミをさせるのが大好きなのだ。
なに、カカオ木霊って。桜から梅に松ときて、もはや定型ネタになってる?
「これだけだとボケなのか手抜きなのかいまいちわかりませんが……まあ、九津堂のことだからボケでしょうね。戦闘も使い回しだと楽なんですけど……」
「わあ!? 実を投げてきたの!?」
「っとと……これモーション違いますね」
〈変な信頼がある〉
〈まあ九津堂だし……〉
〈みんな九津堂のこと芸人だと思ってる〉
〈!?〉
〈見事なクイックスローだ〉
〈なんで反応できるんだよ!!〉
〈※彼女はこれ初見です〉
〈異能力すぎるだろ〉
ひとまず他の木霊系と同じように相対してみたんだけど、危険な行動がひとつ。なんとこのカカオ木霊、かなり短いモーションで自らの果実を投擲してくる。咄嗟に《ソードガード》で打ち落としたけど、周りを見るにこれはどうやらかなりの高威力らしい。
中距離ならなんとか見てから間に合う速度ではあるけど、人によっては難しいかもしれない。幸いそれ以外に強烈な攻撃はないから、常に警戒しながら戦うことになるか。……ちなみに難易度が上がるほどモーションが速くなるそうだ。
ところで……この投げてきたカカオの実、打ち落としても消滅しない。そのまま物体として残るということは、DCOにおいてはこれはアイテムであるということになる。拾ってみるとインベントリに押し込むことができてしまって、中で《カカオマス》と《ココアバター》、そして《ココアパウダー》に分かれた。
そしてカカオ木霊のほうは、元の位置にすぐに新しい身が生えてきた。……あれ、もしかしてこれって。
「もう一回投げてきたの!」
「これ、倒さずとも繰り返し収穫できるパターンでは……?」
「このモーションと弾速に反応できたらな!?」
〈だからなんで捌けるんだよ〉
〈あれ?〉
〈これはまさか〉
〈無限収穫編だ〉
〈かわいそう〉
〈攻撃のために作った実を受け止められて拾われてる……〉
〈よく言った〉
〈できたら苦労しないのよ〉
〈でもトップ勢はみんな苦労してないのよ〉
〈こわ〉
投げてくる。叩き落とす。また生えてくる。……ああ、そんなことしたら。倒さずにこれを繰り返して実を収穫するしかなくなってしまうじゃないか。
倒してもドロップはするようだけど、効率は大幅に落ちる。このカカオ木霊のドロップは実だけだから、こうなってしまえばもう倒す必要すらない。このままどんどん実を落としてもらおう。
……と思っていたら、十回目で実が再生しなくなった。仕方ない、倒して次に行こう。こうなると倒しても実を落とさないけど、倒さないと同じ場所に次のカカオ木霊が来ないから。
しばらく狩って、ひとまず小休止。報酬に足りなければ後からまた狩るけど、撮れ高的にはもう充分かな。あんまり強くなかったし。
〈はい人外発言〉
〈言うと思った〉
〈トップ勢にとってはなぁ!!〉
「ただ、今回ここで集める素材はカカオだけではありません」
というわけで、素材その二。どういうわけかそのあたりを徘徊している牛から牛乳を拝借する。……手搾りしているのに滅菌の必要がなさそうなこととか、普通にうろうろしていることには突っ込まないでおこう。カカオだってインベントリに入れるだけで工程の前半がスキップされていたし。
牛乳は名前の通りミルクチョコレートやミルクココアには使われる。これは普段から出回っているんだけど、これまでダンジョン内で用意しているのは普段通りの牛乳需要を邪魔しないためかな。あくまでダンジョン素材だけでイベントが完結するようになっていそうだ。
ということは、当然。チョコレートには大量に使うこれもある。
テンサイコロリン Lv,95
属性:光
状態:ドロップ率増加 (イベント)
「うわぁ……イベントMobって感じしますね。色違いだ……」
「行動は……レベル80以上にしたタンコロリンとおんなじなの」
「これ期間終わってからもダンジョンで出せたりしないかな……」
〈なんか見たことあるようなの出てきた〉
〈甜菜かぁ〉
〈まあ砂糖もあるわな〉
〈行動もどっかの柿と同じと〉
〈うわ悪いこと考えてる〉
甜菜、つまり砂糖だ。カカオそのものはそれはもう苦いから、チョコレートの甘さはだいたいこれ。他の用途の砂糖が欠乏しないように、これを倒せば手に入るようになっていた。
行動パターンはほぼ全く同レベルのタンコロリンと同じで……名前も、そして大まかな見た目も同じ。違うのは色と葉くらいだ。つまり私としては特に苦労することはない。木霊もタンコロリンも、それはもう慣れ親しんできたからね。
ここまで露骨にイベント限定感のあるMobは初めてなんだけど、これはイベント期間外もダンジョンに出現させられるのかな。……まあ、砂糖は普段そのあたりの採取ポイントに自生している甜菜を採ったり《農業》で育てたりしているから、あくまで入手方法が増えるだけだけど。
問題はカカオのほうだ。それができるかどうかで、普段からもっとチョコを食べられるかが決まるから。これまではやや貴重品だったのだ。
「まあ、これなら困ることもありませんね。どんどん狩っていきましょう」
「おー、なの」
さておき、砂糖も確保。充分量手に入ったらひとまず材料調達を終えて、次は加工の時間だ。
というわけで、移動してカット明け。
「まあ、街ならどこでもいいです。期間中、各街に専用のイベントエリアが用意されています」
「ダンジョン自体、人類圏内の全ての街に置きましたからね!」
「これは呼び出しを受けたからわざわざこのタイミングで街を移動した人気者の姿なの」
〈さすがっすお嬢〉
〈ちゃんと振り回されてるのおもろい〉
〈編集点作ったな今〉
〈紗那様待ちきれなかったんだね……〉
〈奥にもう一人逃げ切れなかったのがいるぞ〉
まあ、私はちょっとどこでやるか迷ったんだ。精霊全体の総本山じみているのはザダクロだけど、あそこでやったらまず間違いなく一挙手一投足に大観衆から歓声があがってやりづらくて仕方ない。別に示し合わせてもいないけど、あそこで精霊は誰一人やっていない。わかりきっているから。
夜王都はただギルドハウスがあるだけだし、他に私と密接な関係がある地方都市はない。そうなると昼王都か今いた昼界最前線の《鎮丘》になるんだけど、正直どちらでもよかった。そこに紗那さんが声をかけてきたところだ。
そんな紗那さんはというと、自分で企画したバレンタインイベントが待ちきれなすぎて特に仲のいい来訪者を数人呼び立てていた。自分の発案と行動が楽しませられているかを見たかった、というのも話としては成立するけど、まあ十中八九真っ先にプレゼントが欲しいんだろうね。
わざわざ王城内の庭園に不似合いな洋風装置をいくつも置いて招待してきたのがその証拠だ。同じ空間には同じく彼女に目をつけられたどこぞの量子猫ライバーもいるし。
「まずは第一段階、《粉砕》ですね。チョコレートの基礎作りです」
「これ、もうチョコレートに見えるの」
「見えるだけで別物だよ。まだ混ざってないから苦いし、食感もザラザラのはず」
まあ、さすがに私も食べたことはない。まず取り出して、アイリウスが反応してきたのは《カカオマス》だ。これはカカオから取れるチョコレートの原型だ。
実の中にあるカカオ豆を取り出して、ローストしてから胚乳だけを取り出す。皮と胚芽を取り除く、いわば籾を白米にするような作業だ。これをした後の、胚乳をすり潰してペースト状にしたものがカカオマスである。
だけど、これはまだ食べられたものではない。まだまだすり潰しが粗くてあのチョコレートの食感ではないし、何よりものすごく苦い。カカオ90%以上のチョコレートを食べたことがあれば味の想像くらいはつくかもしれないけど。
「ここに必要になるのが、こちら。牛乳、砂糖、それからココアバター。これはカカオに含まれる脂肪分ですね」
「つまりチョコレートって、カカオのときより脂が多いの?」
「それでまろやかにするの。こっちのココアパウダーは、ココアバターを取り出した残りを細かくしたものだよ。飲み物にしたりする」
〈ルヴィアちゃんのチョコレート工房〉
〈全部教えてくれるの助かる〉
〈じゃあドロップは一部がもう分かれてたのか〉
圧搾、つまりカカオマスを搾ってココアバターを取り出す工程も本当は必要なんだけど、今回は省略してくれた。ちなみにこのココアバターはホワイトチョコの主原料でもある……というか、あれは普通のチョコからカカオマスを抜いたものだ。厳密にはチョコレートなのかな、あれって。
というわけで、まずはこの原料たちを混ぜる。全てまとめて装置に投入して、合わせながら細かく砕いていくのだ。
「という作業をするところなんですけど……そのための装置が、これ」
「丸太みたいなの」
……もちろん、現実のこの工程を行う機械はこんな形ではない。これこそが今回のイベントのゲーム要素だ。
丸太のような形と大きさの、金属製の謎の装置。これこそがここでの最初のミニゲームだった。




