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アサヒナ魔導具店

 さて、ハーゲンの言葉で気付いた『魔導具店の名前を考えてなかった問題』を解決しないと契約書を用意できないのだ。


 それにしても、魔導具店の名前なんてすっかり忘れてたな。んー、ヘルミーナが店長で考えてたから、ヘルミーナに投げるか……。


「えっと、ヘルミーナさんが店長さんのお店なので、ヘルミーナさんの好きな名前にして頂いていいですよ」


「え、そんなの聞いてないわよ!?」


 突然何を言い出すのか? といったような驚きに満ちた顔でこちらを見てきたが、あれ? 言ってなかったっけ?


「まぁ、それは良いとして何か良さそうな名前はないでしょうか……。そうだ! 『ヘルミーナ魔導具店』なんてどうです?」


「ちょっと、何サラッと流してんのよ! はぁ。もう、仕方がないわね……なら、私が決めるわ! そうね、『アサヒナ魔導具店』よ! こういうのはひねった名前よりもストレートな名前のほうが良いって決まってんのよ!」


「おお、良いじゃん!」


「ハルトの家名なら分かりやすい!」


「主様の名前が付いたお店、素晴らしいです!」


 おいおい、と思ったがヘルミーナの提案も悪くない気がしてきた。


 アサヒナ魔導具店。安直な気もするが意外と馴染むというか、しっくりくるというか。俺が言うのも何だけど、これで良いのかもしれないな。


「では、『アサヒナ魔導具店』で決まり、っと。ハーゲンさん、それでお願いできますか?」


 ようやく決まった魔道具店の名前をハーゲンに伝えて契約書の作成を進めてもらう。ハーゲンも流石に慣れた手付きでスラスラと内容をまとめていった。


「さぁ、できたぞ! 一応内容の確認をしてくれ」


 そう言いながらハーゲンが書きたての契約書を差し出してきた。内容をざっと確認すると、主に業務上の注意と、制限される事象を書き上げたものになっているようだ。どちらかというと、雇用契約書というよりは業務委託契約書に近い。


 主な内容は以下の通りだ。

 ・本契約において、店主であるハルト・アサヒナを『甲』、契約者を『乙』と記し、以下の双方は甲及び乙それぞれの署名を持って締結する。

 ・本契約を締結した場合、乙は甲が望む成果に対して、信頼を失うことの無いよう注意して労働する。

 ・本契約を締結した場合、乙は甲の同意を得ない限り、業務を他者へ再委託することはできない。

 ただし、事故や病気、その他災害など甲が業務遂行ができないと判断した場合はその限りでは無い。

 ・アサヒナ魔導具店においての勤務時間、休日、報酬、福利厚生を含む各種条件は甲と乙が個別に契約する。

 ・本契約を締結した場合、乙は甲が用意する情報、金銭、備品を、甲が望む成果や、甲が業務遂行に必要と判断する場合において、甲が許可する場合のみ自由に使用することが出来る。

 ・乙がアサヒナ魔導具店で知り得た情報は他者に漏らさない。

 ・乙がアサヒナ魔導具店の金銭を勝手に持ち出さない。また、勝手に使用してはならない。

 ・乙がアサヒナ魔導具店内の備品を勝手に店外に持ち出さない。

 ・甲の意向により契約の解除が申し出された場合は、これを優先して履行する。

 ・乙が契約の解除を希望する場合は、甲に申し出ることができる。甲が契約の解除に応じない場合は、第三者であるハーゲン・プライスに上訴することができる。ハーゲン・プライスの判断により得た結果に不服の場合は、王国法廷に上訴し裁定する。


 雇用する者に対して制限を課す契約書ということもあってか、内容としては雇用する側にかなり有利な内容となっている。つまり、雇用する側次第ではとんでもなくブラックな労働環境になるようだ。


 唯一の救いが最後の条項だが、これも第三者が雇用する側と繋がっている場合はほとんど意味が無い条文となる……。この世界の持つ者と持たざる者の差は非常に大きいようだ。


 ただ、あえてこの条件に対して、生前の知識を元に変更を加えるつもりは今のところない。何故なら、まだ自分の立場も危うい状況で風習や仕来りに楯突いても、成果を残せるものではないのだ。もし、本気で変更するなら、もっと大きな力を持ってからでなければ難しいと言えよう。


 そんなことを考えつつ、契約書の内容自体には(雇用する側としては)なんの問題も無かったのでハーゲンにその旨を伝えると、早速呼び鈴を使って四人を再度この部屋に呼ぶようだった。


 四人がここに戻ってくるまでに、ハーゲンに気になっていたことを確認する。


「ハーゲンさん、一つお伺いしたいのですが……王都で一般的な店員の給料ってどれ位なんでしょうか?」


 そう、四人も雇うとなると毎月どれ位の費用が必要になるのか気になる。いや、ヘルミーナを含めると五人だ。生前の知識なら、少なくとも額面で二十万、五人で百万……。つまり、毎月金貨二枚ずつ、合計十枚は最低必要になると思ったからだ。


「そうだなぁ、契約者の立場にもよるだろうが、店の幹部で大体金貨五から六枚、店員で二から三枚といったところではないか? ただ、王都から離れるともう少し少ないだろうな」


 となると、だ。


 ヘルミーナには店長ということで毎月八から十枚、ベンノには五から六枚、エルネスティーネとビアンカ、カイには二枚ずつ、最大で合計二十二枚の金貨が毎月必要となる。更に、魔導具店の運営や開発、研究にも費用は掛かるだろうし、毎月金貨百枚程度は売り上げないと店舗運営できないぞ……。


 カードパックと遊技マットに遊技台は俺が創造から創り出しているから、材料費や工賃が発生しないから良かったが、それは俺に依存しているということで、この状態が続くのも健全ではない。


 やはり、ヘルミーナやカイだけで創ることができる魔導具も考えて売り出さないといけないだろう。


 うーん、と頭を悩ませていると扉がノックされ、再び四人の店員候補たちが現れた。先ほどまでよりも晴れやかな表情を見せているのは、自分たちが無事に先行に合格したからなのかもしれない。とはいえ、これから契約書に署名するということもあってか、やはりまだ固さは残っていた。


「おう、お前たちよくきたな! 早速だが、お前たち四人がこの度開店する『アサヒナ魔導具店』の店員として選ばれた! これより契約を執り行うが、その前に改めて『アサヒナ魔導具店』の店主であるハルト・アサヒナ殿から言葉をもらう。では、ハルト、頼む」


 おいおい、えらく突然だなぁ……。少々緊張するが、今朝の顔合わせでは特に名乗らなかったし、改めて挨拶はしておいたほうがいいな。


「それでは、改めて。この度王都に開店することとなった『アサヒナ魔導具店』の店主で錬金術師のハルト・アサヒナです。売り出すものが回復薬と新規に開発した魔導具だけなんですが、これから王都全域に、そして王国全体に広めていこうと考えているのでよろしくお願いします」


 そう言って、四人に頭を下げた。


「「「「…………」」」」


 だが残念なことに四人からは何のリアクションもない……。


 あれ、もしかして、何か変なことを言ったかな……。そう思って恐る恐る四人の顔を見るが驚いているのか、戸惑っているのか。何とも判断できない顔をしていた。


 アメリアたちのほうを見ても、四人と同じような表情をしている。何が何だか分からない俺はもう一度ヘルミーナに視線を向けると、ため息を付いて、その理由を教えてくれた。


「はぁ……。ハルトや私たちはもう慣れたけど、成人もしていない子供が錬金術師だっていうことは普通はあり得ないことなのよ。それに、店主でもあるなんて信じられないことだから」


「でも、親から受け継いだってケースもあるのでは?」


「その場合、普通は後見人がいるから。少なくてもハルトの様な子供が店主をしているっていうケースは無いわよ」


「そうなんですか……。皆さん、安心してください! これでもちゃんとした錬金術師ですし、お店も、皆さんの寮も用意できていますから!」


「そうだぞっ! お前たちは、物凄く運が良い! 何故なら、ハルトはアルターヴァルト王国の二人の王子、リーンハルト殿下とパトリック殿下の御用錬金術師でもあるのだからな! 業務で王城へ登城する機会もあるかもしれん。このような機会は今後ないかもしれないぞ!」


「「「「……えええええっ!?」」」」


 少し興奮しながらハーゲンが言い放つと、少し遅れながら、ようやく四人の契約者が反応してくれた。まぁ、契約もこれからなんだけど、本当にこの人たちに仕事を任せられるのか、少し心配になってきたのだが……。


 そんな俺の心配事は見事にスルーされて、ハーゲンが契約書の内容を四人に確認を進めることとなった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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