商品の説明、突然の試用?
多少(?)のハプニングはあったが、四人とも契約書に目を通し、署名してくれたのでホッとする。それと同時に彼らを雇用する側としては、しっかり利益を出していかなければならないと改めて決意した。
とはいえ、本当にやっていけるのかしら。ちょっと心配だなぁ……。
最後に、雇用する側の俺がそれぞれの契約書に署名すると、契約書が淡く輝いて複製された。つまり、俺と四人がそれぞれ保存する分だろう。
「さぁ、これで契約は締結された。皆、それぞれ契約書の控えを大切に持っておくように。これが無ければ、契約に付随する諸々の手続きができなくなるからな! では、ハルト。これで店員の件も片付いたな!」
「はい! 何から何まで、本当にハーゲンさんにはお世話になりました! また何かありましたら、よろしくお願い致します」
「なに、気にするな。もし何かあれば何時でも相談にくるといい。代わりに、俺もハルトに相談することもあるかも知れないしな! こういうのは、持ちつ持たれつってやつよ。これからもよろしく頼む!」
そう二人で言うと自然と互いに手を差し出してシェイクハンド……つまり、昨日と同じ流れだった。うん、何となく分かる。俺はハーゲンと気が合うんだろうなぁ。これからも長い付き合いになりそうだ。
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こうして、雇用契約を終えた後、四人を連れてハーゲンの屋敷から俺たちの屋敷、というか『アサヒナ魔道具店』まで戻ってきた。
彼らがうちの店で働き始めるまでには、彼らの引っ越しなど、もう少し準備の期間が必要だったが、先に店舗と従業員寮について説明しておこうと思ったのだ。
「さぁさぁ、皆さん着きましたよ。ここがアサヒナ魔導具店の店舗兼従業員寮です。早速中に入りましょうか」
俺の掛け声と共に扉を開けてアメリアたちとベンノたち四人が魔導具店に次々と入ると、壁に備え付けられた明かりのスイッチをオンにする。すると、店内の明かりが一斉に付き、外よりも明るくなる。
「「「「…………」」」」
急に九人も人が入ったせいか、部屋の中が少し暑くなってきたのでエアコンを冷房にして室温を整えることにした。
そんなことをしながらベンノたちの様子を見ていたのだが、まだ慣れていない為か、緊張しているのか、黙って店の中を見回っているようだった。
ただ、いつまでも四人を立たせているのも申し訳ないので、二階に皆で上がり応接室に入ってもらい、ソファーに腰掛けてこれからのことを一つずつ説明することにした。
「さて、先ほど見て頂いた通り、この建物の一階が主に皆さんに働いて頂く職場です。といっても、まだ何も準備ができていないので申し訳無いのですが……。まぁ、それはさておき、我々が売る物をご説明しますので、しっかりと覚えてくださいね」
俺は四人に向けて話し掛けながら、アイテムボックスから初級から上級までの各種回復薬を店のカウンターに並べて見せた。
「まずはこちらの回復薬ですが、初級から上級までの三つをレギュラー商品としてお店で販売します。ただし、私が創る回復薬は品質が高く、効能が市販の回復薬よりも優れている為、価格は高めに設定しています。つまり……
・初級回復薬は大銀貨七枚と銀貨五枚
・中級回復薬は金貨四枚と大銀貨五枚
・上級回復薬は金板三枚と金貨六枚
……になります。客から価格について問い合わせがあるか知れませんが、回復薬については安売りするつもりはありませんので、うちの価格が高いと言う客には無理に買って頂く必要はありません。遠慮なく、『他所で買え』と伝えて下さいね」
そう、うちはそこらの魔導具店や冒険者ギルドで売っているような低品質の物は売るつもりは無いのだ。皆にもその意識を持ってもらわないと。
「さて、ここまでで何か質問はありますか?」
すると、ベンノが挙手する。ふむ、店主にしっかり質問できる点は好印象だ。
「アサヒナ様の創られる回復薬が高品質であると言うことですが、具体的にどのような効果が見込めるのでしょうか。幾ら品が良い物だと言っても、どのように効果があるのか分かりませんので……」
なるほど、確かにそれはそうだろう。自分たちが売るものがどのように優れているのか知らなければ、客に説明ができないだけでなく、客からも信用されない。
そこで俺は効果を見せようとナイフを貸して欲しいとアメリアたちにお願いしたのだが……。
「「「絶対ダメっ!」」」
「主様、自傷行為はお止め下さい!」
えぇっ!? ちょっと過保護すぎやしないか?
皆に止められてしまい、俺自身が試すことはできなかった。
ただ、効果の確認はしてもらわないと客に説明できないとアメリアたちに説得を続けた結果、ベンノ自身が傷を作って効果を調べると言い出してくれたので助かった。
アメリアから小型のナイフを受け取ると、それをベンノに手渡す。回復薬の効果を調べるだけならナイフで指先を少し切るだけで良かったのだが、何を思ったのか、ベンノは手の甲にナイフを突き刺したのだ。
「「「「えっ!?」」」」
「……ぅぐぅっ」
「お、おいベンノ!?」
ベンノの手からは鮮血がテーブルに滴り落ちる。
俺はすぐにナイフを抜いて初級回復薬をベンノの手の甲へと振り掛けた。すると、すぐに液体が傷口に浸透して弾けると、ナイフが刺さっていた傷口はもう分からないほどには回復している。念の為、残りはベンノに飲むように伝えて、テーブルに残ったベンノの血を拭く為の布巾をカミラに持ってきてもらうよう頼んだ。
「ベンノ! いきなり何てことをするんだ! 指先を少し切るだけで充分だったんだぞ!? それを、手の甲からナイフを突き刺すなんて、骨や腱まで切る大怪我じゃないか! 何でそんなことをしたんだ!?」
「ぼ、冒険者たちは切り傷程度で高価な回復薬を使うことはまずございません。行動ができなくなる、戦闘ができなくなるなどの局面に立たされて、初めて回復薬を使うということがほとんどです。そのような場面で本当に役立つ回復薬かどうかを調べるには、ある程度深い傷が必要と思い、先ほどのようなまねをしてしまいました。誠に申し訳ありません……」
そのように理由を述べると、ベンノは深く頭を下げた。
まぁ、言ってることは分かるんだけど、いきなり手の甲にナイフをぶっ刺すようなことはやめてもらいたい。これは、雇用条件をまとめる際に改めて書いておいたほうが良いかもなぁ。
「理由は分かったが、今後自傷行為はしないように。それで、効果のほどは分かったのかな?」
「はい、この回復薬はあり得ない早さで効果を発揮し、それだけでなく効能も抜群に良く、切断した骨や腱も元の通りに戻っており、この通り全く問題ありません。このような回復薬は初めてです。これは、アサヒナ様が付けられた価格以上の価値があると思います! これなら、自信を持ってお客様にお勧めできますぞ、なぁ皆?」
ベンノがそう言うとビアンカとカイ、それにエルネスティーネの三人も同意した。この三人もベンノの行為には驚いていたようだったが、それ以上に回復薬の効果に驚いていたので、ベンノの言葉も素直に同意できたのだろう。
「さて、回復薬はそんなところだ。一応、特級回復薬も創れるんだけど、これはレギュラー商品ではなくて、完全受注生産という形にしようと思う。カウンターの奥に『特級回復薬がご入用のお客様は店員にご相談ください』と書いた紙でも貼っておこう」
「「「「…………」」」」
「あれ? 皆どうしたんだ?」
「……あの、アサヒナ様は特級回復薬も創られるのですか……?」
「あぁ、そのことか。問題なく創れるよ。ねぇ、ヘルミーナさん?」
ヘルミーナが肩をすくめるような仕草をしながら答える。
「そうね、ハルトが特級回復薬を創れるのは確認済みよ。ま、それ位できて当然、と思ってもらったほうが良いのかもしれないわね。何せ、ハルトは二人の王子様から御用錬金術師に指定されるくらいには優れた錬金術師なんだし」
そうヘルミーナが話すと、ベンノたちも同意するように頷いた。
まぁ、確かにそうなのかも知れないが、ヘルミーナに褒めてもらったように感じて、何だかむず痒い気持ちになった。でも、悪い気はしない。
「それじゃ、『アサヒナ魔導具店』の主力商品(予定)について説明しようと思うんだけど、心の準備は良いかな?」
四人が少し緊張しているのを感じながら、アイテムボックスから魔導カード『神の試練』のカードパック、遊技マットを取り出すと、ベンノたちに説明を進めることにした。
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