採用決定と契約書
さて、突然降って湧いた『エルネスティーネ問題』をどうするか悩んでいたが、一人では答えが出なかったので皆と相談することにした。特に、ヘルミーナの意見を聞いておきたい。
「ということで、皆さんの意見を聞きたいのですが……ぶっちゃけ、どう思います?」
ヘルミーナたちに向き合い話し掛ける。皆も困惑しているようで複雑な表情で顔を見合わせていた。
「まぁ、ヘルミーナが一番接する機会が多いわけだし、ヘルミーナの意見を聞くのが良いんじゃないか?」
そうアメリアが言うと、カミラとセラフィの二人も頷いた。因みに俺もヘルミーナの意見が重要だと考えている。
「そうは言ってもねぇ。貴族のお嬢様を使うだなんて不敬にもほどがあるわよ。何かあって不敬罪だって言われたら堪らないし……」
それはそうだ。例え知らなかったと言っても、平民が貴族を働かせるなんて、この世界ではあり得ないことだった。
「あぁ、それは心配しなくても良い。エルネスティーネ様はむしろ平民として扱われることを希望されている。口調や態度も普通に接してもらえればそれで構わないとのことだ」
ハーゲンが横から口を挟んでそんなことを言ってきたが、とはいえ、実際に接する者としてはなかなか割り切れるものではない。だがヘルミーナは驚く答えを出した。
「そうなのですね。それなら問題ありません。エルネスティーネ様を貴族のお嬢様としては扱わず、一従業員として扱って良いのでしたら、お預かりしても問題ありません」
「おぉ、流石は名工アレクシスのお孫さんだ、なかなか腹が据わっているな! ハルト、それで問題ないか?」
ふむ。ヘルミーナがそれで良いと言うなら、俺も別に何を言うつもりもないが……。一つだけ気がかりがあったので、それだけハーゲンに確認する。
「ヘルミーナさんがそう仰るなら、私からは特には。ただ、一点だけ確認させて下さい。エルネスティーネ様のご実家、ヒルデブラント子爵家の方にはうちで働かれることは伝えて頂けるのですよね?」
そう、魔導具店は貴族の顧客も多い。偶然、ヒルデブラント子爵家の者に見つかって不敬罪を言われても困る。それにエルネスティーネを知る者がそれを言ってきても同じく困るのだ。
「あぁ、それは心配しなくても良い。当然私からヒルデブラント子爵家には連絡を取るし、子爵家の者がエルネスティーネ様を見掛けても、他人の振りをすることになるだろう。それに、エルネスティーネ様を知る者が現れたとしても、私に言ってもらえれば、子爵家を通して話を付けて頂けるように話しておこう」
「なるほど、ヒルデブラント子爵家とハーゲンさんが責任とって下さるなら問題ありませんね?」
ハーゲンはこころなしか弱気な感じではあったが「うむ」と頷いてくれたので、この件は何かあったらハーゲンに丸投げしてしまおうと五人で確かめ合った。
「それじゃあ、エルネスティーネ様のことはそれで良いとして。ヘルミーナさん的には他に気になった方はおられましたか?」
ヘルミーナにそう話を振ると、即答だった。
「一人目のベンノさんね。あの人なら私が留守にしていてもお店を任せても大丈夫だと思うわ。信頼できそうな人柄だと感じたのだけど、ハルトはどう思う?」
「そうですね、確かにあの人なら大丈夫だと思いますよ。それに、ご経験からしても私たちが求めているポジションと合ってますし、問題ないでしょう」
ベンノのステータスを鑑定していたが、気になるところは特になかった。というか、店員として申し分ないスキル構成だと思う。
『名前:ベンノ・ローマン
種族:人間族(男性) 年齢:57歳 職業:店員候補
所属:アルターヴァルト王国
称号:なし
能力:C(筋力:C、敏捷:C、知力:B、胆力:B、幸運:D)
体力:1,340/1,340
魔力:290/290
特技︰交渉術:Lv8、話術:Lv6、計算術:Lv6、筆記述:Lv5、整理整頓、礼儀作法、生活魔法
状態:健康
備考:身長:176cm、体重:65kg』
「では、ベンノさんは決定で。あと、私から提案なんですが、ビアンカさんとカイさんのお二人も採用したいのですが、いかがでしょうか?」
そう、あの二人の姉弟。特に弟のカイのステータスを見て、この子はきっとお店で役に立ってくれるのではと感じたのだ。
『名前:ビアンカ・カペル
種族:人間族(女性) 年齢:15歳 職業:店員候補
所属:アルターヴァルト王国
称号:なし
能力:D(筋力:D、敏捷:D、知力:C、胆力:C、幸運:D)
体力:500/500
魔力:220/220
特技︰接客術:Lv2、料理:Lv2、整理整頓、礼儀作法、生活魔法
状態:健康
備考:身長:148cm、体重:42kg(B:80、W:52、H:81)』
『名前:カイ・カペル
種族:人間族(男性) 年齢:15歳 職業:店員候補
所属:アルターヴァルト王国
称号:なし
能力:C(筋力:C、敏捷:C、知力:C、胆力:C、幸運:D)
体力:1,110/1,110
魔力:350/350
特技︰錬金術:Lv3、接客術:Lv1、発想力、礼儀作法、生活魔法
状態:健康
備考:身長:170cm、体重:55kg』
カイのスキルに錬金術を見つけたときに、ヘルミーナと一緒に魔導具の開発や制作を任せられるスタッフとして役立ちそうだと思ったのだ。それだけでなく、『発想力』というひらめきを得やすくなる、レアなスキルも併せ持っていた。どちらかというと現実的な考え方のヘルミーナの良い刺激になるのではと感じたのだ。
そんな二人のステータスを思い出しながら、これから先のことを考えると少し楽しみになってきていたのだが、不意にヘルミーナの声で現実に戻された。
「はぁ、アンタのことだから(鑑定眼で)何か分かったんでしょうけど、後でちゃんと説明しなさいよ。あの二人を雇うことには特に反対しないわ」
「はい! ありがとうございます。ちゃんと後で説明しますから。それでは、ベンノさん、エルネスティーネさん、ビアンカさん、それにカイさんの四名を雇いたいと思います。ハーゲンさん、よろしいですか?」
「あぁ、問題ない。となると、うちはオイゲンを雇うか……。おっと、そうだ。雇用契約書を用意しないとな! 今回の契約書はエルネスティーネ様の件もあるし、俺が用意してやろう」
そう言って手元の呼び鈴を鳴らして使用人に契約書を持ってこさせた。この前の契約書とは違い、普通の羊皮紙のように見えたのだが、ハーゲンに聞くと、これもただの紙ではないらしい。
「ふふ、これも歴とした魔導具さ。昨日のとは効果が少し違うがな。具体的に説明すると、昨日の契約書は何かを行ったことでペナルティが発生していたが、今回のは何かをさせない、つまり制限を掛けることができる魔導具だ。例えば、店のお金を取らない、店で得た情報を漏らさない、といったな。ハルトの魔導具店は二人の王子に認められた御用錬金術師の店だ。これからも『神の試練』のような新しい魔導具を創り出していくんだろうが、恐らく他の錬金術師や貴族、富豪や商人たちに常に情報を狙われる状況になるだろう。だから、そんなことにならないように予め制限を掛けておくのだ。分かったか?」
なるほどなぁ。横領についてはそもそも論外だが、確かに今後創る物の情報が外に出てしまうのはよろしくない。守秘義務を意識していてもポロッと口に出してしまうこともあるだろうし、こういう制限を掛けられるのなら、雇主としてはありがたい。ついでに、魔道具店のセキュリティも帰ったら見直そう。
そんなことを考えていると契約書をまとめていたハーゲンが困ったような顔を俺たちに向けてきた。
「そういえば聞いてなかったが、お前たちの魔導具店の名前は何と言うんだ? 契約書に必要なんだが……」
「え? えぇっと、ヘルミーナさん?」
「えっ、私? いや、ハルト考えてなかったの?」
また一つ新たな問題が見つかった……。そう、俺たちの魔導具店の名前を全く考えていなかったのだ。
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