5―3 魚の夢2
「これがあっしがここへ来るまでの話です。っけ、なんだか恥ずかしいや。でもこれで許してくれますか?
ってユズ、アルの旦那も泣くなよ!なんか照れくさいじゃねえか。」
源が話終わって二人を見ると譲は目に涙を溜めて「源かわいそー」とアルベルトにしがみついており、アルベルトにいたっては鼻水をたらしながら声をあげて「オイオイ」と泣いていた。
「源!そんな、そんな事情があったとは、このアルベルトまったく知りませんでしたぞ!水臭い、水臭いですぞ!」
「だから照れくさいっていってんじゃねえかい。でもこれであっしの焦る気持ちも許してくれるってことですねえ。」
そう源が言うと、「ちーっん」と鼻をかみアルベルトがしっかりと言った。
「それとこれとは話が別ですぞ。急がば回れ!と昔から言うでしょうに。それに源も知ってるでしょうに、ここでの変化は睡眠時に一番訪れるのですぞ!」
「へ?」
それを聞いた源が間の抜けた声をあげた。
「睡眠時に変化が一番訪れる?ってなにかい?寝ないと「神様の忘れ物」の効果がないってことかい?」
アルベルトが「まさか」と言う顔をしながらうなずくと
「えっ、じゃあ、あっしのあの死ぬ気の特訓は…。」
源は絶句した。
「まさか知らないとは思いませんでしたよ。だって源はユズにこの島についてのルールを説明してたじゃないですか?だから当然ほかのルールも知ってるものかと思ってましたよ」
源はまだ口を開いたままだ。
「だ、大丈夫だよ源!特訓はきっと無駄じゃない、そうだよね、アル?」
「そ、そうですね、多分睡眠時間の長短はそれほど変化には影響しないかもしれません…ね。けど、鳥類の間では、この島の睡眠は寝始めに疲れをとる効果があり、十分に疲れがとれた後に、変化が訪れるとも聞きました、つまり過ぎた特訓と少ない睡眠時間では…。」
アルベルトが最後まで喋るまえに譲がアルベルトの胸を肘打ちした。
「…。」
沈黙が数秒あった後、その場を取り繕うようにアルベルトが
「と、とにかく今後は夜中の特訓はなしにしましょう」
と今更とも思える当たり前の提案をし、3人もとりあえず、そう納得した。
その日の特訓はそこで終わり今日も、いや今日こそ3人とも眠ることにした。源はいつものように海に飛び込むと
「今日良く寝たら今までの分、まとめて変化しないかな?」
と挨拶代わりに未練の言葉を言った。アルベルトと譲が二人で
「無理。」
断ち切るようにと答えると、源は悔しそうに「おやすみ。」っと悲しげに寝床へついていった。アルベルトと譲はゲストハウスで今日の源の話を振り返った。
「源、本当にかわいそうでしたね?」
今夜もそうアルベルトから話し掛けてきた。
「うん、でもまとめて変化はやっぱりしないよね。」
譲は少し笑いをこらえながら言った。しかし、アルベルトのかわいそうと言う意味はそうではなく、源のここへ来た理由についてだった。その後二人で窓辺にうつり、大きな月を眺めながら家族と離れ離れの源の気持ちを想像してみた。お互い涙が出そうなところで譲がふっと思い出して
「アル、前言ってたよね、源やアルのすべきことは自分を作るのに必要なことだって。源にとって家族と会うのがそうだってこと?」
と尋ねた。
「全てがそのためではないでしょうが、ある意味そうでしょうね、源は家族に会うためにここに来たのですからね。」
「そうだよね?でも自分を作るってどう言うこと?」
視線を月からアルベルトに移しながら譲が再び訊いた。
「そうですねいろんな物が今の『自分』を作っていると私は思います。いろんな出来事や考え方、他人から受ける影響というのもあるかもしれませんね。そういったものの中で一番大事なのは信念を持つことだと私は思います。ユズは『信念』って分かりますか?これだけは譲れないもの、これだけは守らなくてはいけないもののことですぞ。源、いや、紳士にとっても『家族を守る』というのは絶対の信念だと私は思いますぞ。そんな思いもあり源はトンネルが崩れて直すのが不可能とわかっていても『家族に会う』ことを諦めなかったのでしょう。もちろん家族に会いたいという思いもあるのでしょうがね。
どうです?譲はトンネルが崩れたら諦めるのが源だと思いますか?やっぱり無駄と知りながらも岩に頭突きをするのが源だと思いませんか?」
「うん、源が諦めて、しゅんっとしちゃってるのは想像できない。」
「そうでしょう!でも誰もがそんなに強くはないのですよ。自分の力を超える大きな壁の前に無力さを思い知りただ立ち尽くしてなにも出来ない、そんなことの方が多いのが現実なんです。ですから、源が源らしくあるためにもここへ来たそう考えることもできるんでじゃないでしょうかね。」
アルベルトは譲の方を見ながらそれでいてまるで自分に語り掛けるようにゆっくりと話した。
「源が源らしくあるために?源は源だけど、源らしくするのも、源らしくないことするのもできるってこと?」
譲は困惑して首をひねりながら見上げるようにアルベルトに質問した。アルベルトは、はっとしたように目を一度大きくして、もう一度譲を見つめてやさしく言った。
「ほっほほー、なんだか難しい言い方になってしまいましたね。そうですね、ユズの好きなウルトラライダーで話をしましょう。ウルトラライダーはみんなを守るため怪獣と戦うのでしたよね?もし、ウルトラライダーがみんなを見捨てて怪獣があばれるのを岩の陰で隠れてみてるとしたら、ユズはどう思いますか?」
「ウルトラライダーはそんなこと絶対しないよ!そんなことするのは絶対ニセモノだよ」
譲は何を言ってるの当たり前だよという顔で答えた。そんな譲の回答を知っていたかのようにアルベルトは質問を続けた。
「では怪獣がウルトラライダーの2倍以上大きかったらどうですか?絶対に勝てないほど強そうな怪獣でしたらどうですか?」
譲もこれに即答した。
「ウルトラライダーは絶対に僕らを見捨てないもん、それがウルトラライダーだもん。」
「そうでしょう、それがウルトラライダーらしいということで、みんなを見捨てないのがきっとウルトラライダーの信念なのでしょう。しかし、どんなつわものでも命をかけての戦いには勇気がいります。それが自分より強い相手ならなおのことです。きっとウルトラライダーだって逃げ出したい気持ちをもっているのでしょう、けどウルトラライダーらしくするために勇気を振り絞って戦っているのですぞ。」
アルベルトはわかりますかな?という表情で譲を見た。
「ウルトラライダーが怪獣を怖がってるの?そんなことあるの。」
譲はまだ納得がいかなかった。しかしゆっくりともう一度考えるとウルトラライダーが怪獣にやられているシーンが思い出された。そしてあんな思いをして怖くないはずがないと思った。譲の表情から少しは納得した様子をみたアルベルトは付け加えて言った。
「しかし、考えれば考えるほどウルトラライダー殿は今時めずらしき、英傑ですな~。命をかけ恐怖と戦いながらもみんなを守る。一度お目にかかってみたいものです。」
アルベルトの言葉を譲は頭の中で反芻した。そして悩んでいた顔から一転して明るい顔になりアルベルトに叫ぶようにいった。
「アル、僕ねウルトラライダーのどこが好きか分かった気がするよ!」
「そうですか、よかったですね。ユズのここへ来たわけも少しずつ解明に向かってますね。」
アルベルトもうれしそうに答えた。アルベルトの笑顔をみて譲は頭の中のモヤモヤが晴れ、急に眠気に襲われまた今日も眠りについた。




