5―魚の夢
譲は和也が帰宅する1時間ほど前に智美に
「早くアルと源に会うんだ!おやすみ、ママ」
と言うなり布団に入って目を閉じた。智美が笑って
「いってらっしゃい」
と言うころには既に譲は目を閉じ、夢の世界を通過して、「神様の忘れ物」へと辿り着いていた。譲はゆっくりと目を開け、ゲストハウスの天井が映ると「よし、ついたぞ!」と飛び起き、二人が待っている南海岸の特訓場まで走った。今日も「神様の忘れ物」は快晴だ。譲が特訓場につくと源の空飛ぶ訓練が行われていた。
「ただいま~」
譲は大声で二人に挨拶した。空からアルベルトが
「おかえりユズ、今日は早いですね」
と返事をした。源は海へ落下中。譲は
「アル達に会うために早寝したんだ」
と笑顔で答えた。視線を海に落とすと源がちょうど海から上がってきた。その源の顔をみて譲は声をあげた。
「どうしたの、その顔!」
海から表れた源の顔には大きな青あざがあり、見ている方が痛くなるほど腫れ上がっている。なにがあったのかの譲の問いに源は答えず、アルベルトが答えた。
「聞いてください、ユズ。源はどうやら毎晩、我々に『おやすみ』を言った後、一人で特訓をしていたようですよ。内緒とはなんとも水臭い。それで夜の暗闇で良く見えずに岩場に飛び降りてしまってあの顔になったみたいですよ」
「本当なの?源」
と問い詰めるように聞く譲に源はそっけなく
「そうだ」
とだけ答えた。譲は心から心配して
「良く見せてよ。 ひどーい、すごく腫れてるよ。源、僕のママがね言ってたけど、良く寝ないと強くなれないんだよ」
源は無言で譲の方すら見ない。それを見てアルベルトが続けた。
「本当にそうですよ、休息なく特訓しても非効率ですよ。それどころか今回のように怪我をしてしまい、空を飛ぶどころではなくなりますよ」
二人の言葉にもまたまた無言の源に譲とアルベルトが
「源、聞いてる?」
と言うと。
「うるさい!それでも俺は早く飛べるようにならなくてはいけないんだ!」
と源が叫ぶように言った。いきなりの「うるさい」との言葉にびっくりした譲だがなんとか消え入りそうな声で
「なんでそんな言い方するの?怖いよ源。それにねやっぱり駄目だよ、無理のしすぎは」
と言ったが、源は
「あーうるさい。さあ、さっさと特訓を続けよ。アル、早く空へあげてくれ!」
とますます声を荒らげて言い譲に背を向けてしまった。しかし、いくら源が海の方をみてアルベルトが空へ運ぶのを待っていても、一向にアルベルトの動く気配が感じられないので源が、
「アル、早くしてくれよ!」
と振り返ると、そこには眉を吊り上げ、鬼の形相で源をにらみつけているアルベルトがいた。アルベルトは眉を吊り上げたまま、腕を組み、ズンズンと源に向かい歩きながら言った。
「なんたる、なんたる言いぐさ。源、昨日あなたがここで『三人でこの島を卒業しよう』と言い出したのですぞ、なのになんですか?ユズの心配しての言葉に『うるさい』ですと?源の言う『三人で卒業』というのは、バラバラにただ島を出て行くと言うことですか?私はてっきり、3人で助け合い卒業する、3人の心を合わせて協力して頑張ると言う意味かとおもっていたのにがっがりです」
アルベルトはそう言いながら源の目の前まで行きそこで「どしん」と座り込んだ。譲もそれを見て「僕も同じだよ」と言わんばかりに源の目の前まで行き
「がっかりだよ」
と言うと座り込んだ。それを見て源は肩を落として
「ふう、やれやれ俺が悪かったよ。すまない。本当は自分が悪いのは知っていたよ、でも怪我をしたこともあってバツが悪いというか恥ずかしくてな。あ~すまない、許してくれよ」
といい源もその場で腰を下ろした。それから源は何も言わない二人に向かって
「やい、意地悪だな。もう謝ったぞ、…一体どうしたら許してくれるんだ?」
と聞いた。譲とアルベルトは目配せしながら互いの意志を確認し
「なぜ、そんなに急いでいるのか?なぜ源は空を飛びたいか教えてほしい」
と言った。
「わかったよ」
そう言うと源は話始めた。




