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神様の忘れ物  作者: k2k2
3/14

第三話 再会

3―第二夜 再会

 和也と智美が話しこんでいるすぐ横の部屋で、譲は眠りに落ちていきました。


 譲が眠りの淵へ辿り着き、目を開けるとそこは昨夜のゲストハウスの干し草のベットでした。

 譲は驚き飛び起きました。そしてすぐに木の机の上にメモがあるのに気づきました。

 メモはアルベルトが譲に宛てて書いたもので「おはようユズ!源と昨日の海岸で特訓をしている。目覚めたのなら是非応援にきてくれ。 君の親友 アルベルトより」と書いてありました。

 譲はメモをひったくるように手に取り、そのまま一目散にアルベルト達のいる海岸へ走りだしました。走りながら譲は確かめるように空を見ました。昨夜と同じく熱い太陽がカンカンと照ています。譲は本当にまたアルベルトや源に会えるのだと、期待と不安で興奮しています。足にもっと早く、もっと早くと命令し、必死に海岸を目指しました。

 昨日と同じ海岸に到着すると、アルベルトと源の二人が特訓をしていました。 

 今日は源が空を飛ぶための特訓をしているようです。アルベルトが源を上空へ運び、そこから源を海へ落とし擬似的な飛行感覚を味わわせているのです。譲はそんな二人を発見するとすぐに

「ア~ル~!げ~ん~!」

 と大きな声で呼びました。すると二人もすぐに振り向き

「ユズ!」

 と大声で返してきました。

 アルベルトは嬉しそうに大きな翼を振っています。すると、源を掴んでいた足からすっかり意識が離れてしまい、源を空中へ落としてしまいました。そんなことは知らない源は、なんの覚悟もなく、背鰭がある分重たい頭の上を下にと逆さまへコロンとひっくり返りました。そしてアルベルトと源が「あれ?」と気づくと同時に譲が「落ちてるよ!」と叫びました。

 しかし、時すでに遅くさすがのアルベルトも源を再びキャッチすることもできず、源においては受身すらとれず、腹打ちならず後頭部を激しく海面へたたきつけ、大きな水柱が海面に上がりました。

 ざぶぶぶん!

真面目なアルベルトが目を真ん丸くして、口をあけています。まさに鳩が豆鉄砲を食らった顔という表情です。源が腹を上にして海面に浮かんできました。それからゆっくり反転して水面から顔を出して、「アル~」と恨めしそうな声をだしました。

「ぶわははは、アルの顔。それに源の落ちる格好ったら、ぶははっは」

 それを見ていた譲が声をあげて笑っています。本当に楽しそうです。


「本当だな、アルのあの顔、がっははは」

「源の落ち方こそ芸術的でしたよ、うはははは」


 それから源、アルも大笑いしました。


「おかえり、ユズ」譲も「ただいま」とにこにこの笑顔で再会ができました。


 二人はすぐに譲のいる砂浜までかけつけ、それからアルベルトが「やはり戻ってきてくれましたね」といいました。

 二人の話では譲は昨日眠っている間に消えてしまったそうです。


 この島にくる人間達はみな、ゲストハウスで眠りにつくと消えていなくなり、そしてまたゲストハウスからひょっこりと戻ってくるのだそうです。

 ただ、中には戻って来ない者もいる、そうアルベルトは説明をしてくれました。そこまで話すと源が急に真面目な顔になり、譲に一本指を立て話はじめました。

「ユズよ、よく聞け。おまえがこの島に戻ってこれるのは20日間だけだ。今までの人間どもも1日目に戻らなかった奴以外は皆20日間だけこの島に戻ってこれたって話だ。せっかく友になれたのに悲しい話だが覚悟しておくことだ」

 譲がやはり悲しそうな顔をしてしまったのを見て源は付け加えて話しをしました。「いや、譲20日間ってのは長いものだぞ。それに人間以外の生き物にだってこの島は特別でな、すべきことがあるものでないと滞在が許されねえってんだ。俺や、アルのすべきことはユズの知ってのとおり『空を飛ぶこと』と、『海を泳ぐこと』だ。だからせめて俺達もユズのいる20日でそのすべきことを出来るようにするから、そんなに落ち込むな」

 源が譲の肩を優しく叩いているのを、横に見ながらアルベルトが言いました。

「源、あなたはまだ水面から上手く飛びあがることもできないのですよ、そんな安請け合いして大丈夫なんですか?」

「なあに、20日間ってのはそれくらい長いってことよ、アルはできねーってのかい?」

「あんですって?誰にものを言っていると思っているのですか?源、このアルベルトにとってそんなことは問題にすらなりませんよ」

 二人のやり取りを見ていた譲が心配して「本当に大丈夫なの?二人とも」と弱々しい声で思わず尋ねました。

 アルベルトは口元を優しく緩めながら譲を見ると、一変して真剣な顔になり右の翼を三人の真ん中で高々と掲げながら大きな声で宣誓し始めました。

「このアルベルト、20日後、3人でそろってこの島を卒業することを誓う!」

 源もなかなかいいこというじゃないかといいながら

「あっしも誓うぜ!」

 と言い、右のヒレ(手)をアルベルトの翼に重ねた。気づくと譲の心はこれからくる「別れ」の悲しみより、二人のすべきことへの「挑戦」への関心が大きくなり、自然と元気をとりもどしてた。そして、「僕も手伝う!」と背伸びをしながら右手を突き上げ、3人の手を合わせました。

「僕たちは3人そろって、この島を卒業することを誓います」

 1羽と1尾と一人は声を揃えて、空に向かって宣誓しました。

「ユズ、この島にくるものには、例え人間でもすべきことがあって来ているように私は思います。あなたもなにかの為に来たのかもしれませんね?」

 と手を下ろした後にアルベルトは言いました。


「すべきこと」

 譲は小さく口の中で反芻してみました。しかし譲には「すべきこと」というものがなにかわかりませんでした。だからまず二人を応援することにしました。

 

 譲が二人を応援したいことを伝えると。まず始めにアルベルトが言いました。

「それでは、ユズに手伝ってもらうために、まず空を飛ぶということがどんなことか知ってもらおうかな?」

 そして大きな両翼を広げ、バサっと一振りし、アルベルトはその場で垂直に浮き上がりました。それから両足で器用に譲を掴むと、もう一度、今度はすばやく羽ばたいて、一瞬にしてやしの木より高く舞い上がりました。

「どうですか?空はなかなかいいところでしょう?」

 アルベルトが上手に空中で羽ばたきしながら尋ねます。譲はファミリーパークの空飛ぶゾウに乗る時のように下で見送る源を見つめて「すごいや、ゾウより全然早いや!」と叫びました。

 やしの木よりさらに高い位置でアルベルトは譲を背中に乗せるために一度譲を落とすと、急降下して背中で譲をキャッチしました。アルベルトはさすがに恐怖の叫び声を上げていた譲に

「急に落としてもうしわけない、怖かったですか?」

 と形だけのようですが謝りました。

 しかし、譲は意外にも「うん、でもすごく楽しい!」と大興奮の回答を返しました。それを聞いたアルベルトは少し驚いたように顔をし、「なかなかですな」そう呟きました。

 それからアルベルトはさらに高度をあげ、島の全景が眼下に表れました。この島はアーモンドナッツのような形をしています。

 島の南、アーモンドナッツのお尻にあたる場所が今、源の待っている海岸であり、ゲストハウスはその東にあります。島の中ほどは森になっていて、多くの木が茂っています。真ん中より少し北側には高い壁のような山があり、それより北、アーモンドナッツで言うところのとがった頭の部分は氷に覆われいて、白くなっています。

 それに気づいた譲がアルベルトに北の氷について聞くと

「それでは」

 とひとこと言い、アルベルトは島の中心の森をひとっ飛びして北側の海岸に降り立ちました。

「ここは氷の岬と呼んでいるところですよ。源の話では、この岬に直接冷たい海流が打ち付けられているため、この一帯だけ氷で覆われているそうです」

 それからアルベルトは5キロほど北にある大きな氷を指差し説明を加えた。

「あれは氷の大地と言いまして時折流れてくる流氷がたまってできているのですよ。行ってみますか?」

 譲が「もちろん」と答える前にアルベルトは譲を乗せたまま飛びあがっりました。今度は先ほどのようには高度をとらず、海面ぎりぎりを飛びます。譲は水飛沫を浴びながらも

「すごい!すごい!」

 と怖がりもせず喜びます。

 アルベルトの「ユズ、怖くないのですか?」の問いにも「全然、すごく早くて、すごく楽しいよ!」とはしゃいで返しました。こんな乗り物はファミリーパークには絶対ありません。ひょっとしたらディズニーランドにもないかもしれません。

「それではこんなのはどうですか?」

 そう言うとアルベルトは再び高度をあげ、そこから元ブルー大空騎士団隊長のアクロバット飛行が始まりました。

 先ほどまでアルベルトがいかに気を使って飛んでいたのかすぐにわかりました。急上昇に急降下、きりもみ飛行に宙返り、どちらが上かわからないぐらいにぐるぐる、くるくると大空狭しと飛びまわりました。さすがの譲も怖くなって叫び声をあげましたが、決して目は閉じませんでした。怖いけど楽しいのです。目に飛び込んでくる景色、流れてくる雲や風を少しでも多く感じていたくてアルベルトにしがみつきながらも心を外に全開に開いていました。アルベルトは肩に掴まる譲の手に力がこもっているのに気づきやっとスピードを落としました。

「いやいや、すまなかった、少々やりすぎたようですね?」

 今度は本当にすまなさそうに言いましたが、譲は声を裏返しながらも

「だ、大丈夫、もっとやってよ!」

 と返しました。そんな譲の元気な依頼に応えアルベルトは「では、とっておきのを最後に!」とひとこと言うと再び急上昇をはじめました。

 今までの中で一番高く、息苦しささえ感じるほどの上空まで上がり、そこで一度停止しました。そこでは重力が一瞬なくなったかのように、アルベルトは羽ばたきを一度もせずその場でゆっくりと体の向きを180度変え

「ユズ、しっかりつかまっているのですよ!」

 と言いました。

 すると忘れていた重力が一気にアルベルト達に襲いかかり、地球へと引きずり落とされ、海面へ向かいどんどん加速していきます。

 海面へ一直線に加速する中でアルベルトは「まだまだですよ!」ともうひと羽ばたきし、さらにスピードをあげました。

 さすがの譲も目をつぶってしまいました。

 二人はまるで空から放たれた、イカヅチのように海へ突き刺さろうとしていました。

 アルベルトはくちばしが海面に触れる瞬間に上方へ向き、直角に方向転換を成功させました。その少し遅れて、海面に衝撃で隕石でも打ち込まれたかのような大きなクレーターのような波紋が出来ました。それをアルベルトが突き破るように飛び、そのアルベルトの軌跡には飛行機雲のように波がたちました。

 譲は降りかかる滴に気づき目を開ると「すごいー虹だ!」と声をあげました。

 アルベルトのあげた水飛沫と太陽で虹が譲のすぐ近くに作られていたのす。

 アルベルトは海面ぎりぎりから高度を少しあげ、やっとスピードを落とすと「どうでしたか?ジェット機アルの乗り心地は?」と聞いてきました。さすがのアルベルトも全身で息をしています。

 譲は興奮しながら「すごい!すごい!」と答えゲラゲラと笑い出した。もう怖くて、面白しろくて仕方ありません。

「びゅーんてして、どっかあんっとして、ばしゃあだね!げははは」

 譲があまりにも楽しそうに笑うので、釣られてアルベルトも「そうですか、ばあしゃあですか!それはよかった!わははは」笑います。

 そんな二人の笑いが収まる前にアルベルトは氷の島へと到着しました。

 そこは本当に氷しかない世界で、アルベルトは冷たそうに、そしてすべらないよう気をつけながら着地しました。

「ここは本当に寒いでしょ、私達は少々羽目をはずしすぎて濡れてしまいましたから、ここはやはり見るだけにして源のところに早く帰りましょう、いいですかな?」

 アルベルトは濡れた前髪を拭きながら譲に提案しました。

 譲はアルベルトの背中の上からキョロキョロと周りを見渡して本当に氷以外何もなく冷たいところだと感じると、少し怖くなり「うん、早く源のところに帰ろうよ」と答えました。


 源の待つ島の南海岸までの帰り道は行きと違いゆっくりと話ながら帰りました。太陽の光がキラキラとしているし、風もすがすがしくとても気持ちいいねと二人は話しました。

 譲はくるくると廻ることしか出来ないゾウと違い、自由に飛べる気持ちよさ、そして今まで考えもしなかった空の広さに感動し「空を飛ぶってこんなにも気持ちがいいのか、源の気持ちがわかるよ。僕も空を飛びたい!」と心の底からそう言いました。


 程なくして二人は源の待つ南海岸へつきました。源は二人に駆け寄ると

「どうだった、ユズ?」

 と不安そうに聞きました。

 そんな源の顔に気づかずに譲はアルベルトから飛び降ると、

「すごいんだよ!一回転や急降下、まるでジェットコースターみたい!それに空は広くってどこにでもいけそうだよ!」

 と息継ぎさえ忘れて答えました。本当に嬉しそうなその答えを聞いた源は

「そうだろう、空はどこにでもつながっている、どこにだっていける。すごいだろう!」

 となぜか自慢げに言いました。

 それから

「よし、今度は俺の番だな、っとその前にアルすまねえが、風の実を採ってきてくれないか?」

 と提案し、アルベルトにお使いを頼みましだ。

 アルベルトは「すっかり忘れていましたよ。すぐとってきますよ、まっていてください」と言うと、風の実を採りに飛び立ちました。

 風の実はこの島の森の中心部に生えている木の頂点に実る実で、昼には風を吸い込み、夜には風を発生させる不思議な実だと源は譲に説明をしました。

 譲は「ふ~ん」と答えましたが、あまり理解できなかったようです。

 それを察した源が「つまりだ風の実をくわえていれば、海の中でも息ができるってことだ」と言い換えました。そうするとやっと、譲は「すごい!」と驚き目を輝かせました。

 そんなことを話している間にアルベルトは戻ってきました。

 そして「これで、楽しい冒険へいってきてくださいね」と譲に風の実を手渡します。


 「よし、いくぞ!」

 源が手を引き譲を海へと導いていきます。

 胸の高さまで水が来たところで源は「ユズ、風の実をくわえな、いいか、飲み込むんじゃねえぞ。それから俺の背鰭に掴まるんだ。」


「それ行くぞ、3,2,1」

 と言って源はザブンっと海の中へ潜りました。

 譲は少し恐ろしかったですが、源の住む世界を知りたい一心で背びれに掴まり「えい!」と続いて海へ潜りました。

 譲の目の前を空気の泡が湧き上がります。

 譲は思わず息を止めました。源に風の実の話を聞き本当に息が出来ると信じていたのでが、本能的にでしょうか?水の中という想いが頭に強く働き息を吸うことが出来なくなってしまいました。

 このままでは溺れてしまう!そう思う譲の泡の向こうで源が振り向くと、強面の源がにっこり笑い「大丈夫だ、ユズ。ゆっくりと口で息を吸ってみな」と言いました。

 そう言われて譲は頷きますがやっぱり水中で息を吸うことができません。 どうしよう?という顔をしている譲の手をとり、源はもう一度レクチャーしてくれました。

「大丈夫だ、ユズ。ゆっくりと口で息を吸うんだ。ほら、ゆっくりと」

 そう言われて、譲は恐々と息を吸いこんでみましだ。

「ようし、いいぞ!次は鼻から息を吐くんだ、いいかゆっくりだぞ」

 譲は源に言われるままに鼻から息をブクブクと吐き出しました。

 2、3回源に言われるままに息を吸ったり、吐いたりを繰り返した譲は(コツは風の実を歯で上手に咥えること)だと気づきました。

 落ち着きを取り戻した譲は源に「もう大丈夫だよ!」と言いました。

 譲が喋ると同時に口から空気の泡がゴボゴボと上がります。それを見た源はあわてて、「落ち着け譲!大丈夫だからな!」と心配しましたが、当の譲は「あっはははは」  ブクブクブと 大笑いしています。

 それをみて源がしみじみと「ユズ、肝が座ってきたな!」と言いました。

 それを聞いた譲は

「肝ってなに?」  ブクブクブク

「ぶわははは」  ブクブクブク

 とまた自分で吐き出した空気の泡で大笑いしています。

 しかたがないなっという顔をしながら源は「ユズは明るくなったと言う意味だ」と言い、「本当に初めて見た時からは想像できないくらい逞しくなったな」っと呟きました。

「ついて来い!」

 源はそう言うと、今度はハッピの裾を譲に掴ませました。


 源に捕まりながら譲は、海の世界は、空と比べて少し「暗い」と感じました。しかし、その「暗さ」は恐怖を作り出すものではなく、安らぎを与えてくれているようです。

 また、海の中では空で味わった風を切るような飛行感覚とは違う、水の浮力からくるフワフワとした、それでいて包まれているような、やさしい浮遊感をあるなと譲は感じていました。

 源がゆっくり進みながら「水の中は気持ちがいいだろう!」と聞いてきます。

「うん!」  ブクブク

「ぶへへへへ」 ブウブクブク

 譲は答えながら、また自分の泡でひと笑いしました。


「それ、もう少ししたらこの世界から抜ける海流に乗るからしっかりつかまれ!」

 と源は前を向きながら譲に注意を促し、譲の手をしっかりと掴みました。 

 譲は「この世界から抜ける?」と思わず聞き返しました。

 この世界から抜けるとはどういう意味なのだろう、この世界ってどういう意味?と譲は疑問をぶつけました。

 源は長い話になるがな、と説明をはじめました。

「この島は人間のユズにとって不思議なように、あっしら、魚や鳥にも大変不思議なんでぇ。他種族との会話が出来るようになったり、歩けるようになったり、なぜここではそれが出来るようになるのかは、わからねぇがあっし達の間ではこの不思議な世界を「神様の忘れ物」と呼んでいる。

 なぜ、そう呼んでいるかって?それは、この世界がなかなか見つけにくいし神様でさえも忘れてってしまったってといわれてやがるからだる。

 そしてその見つけにくい理由っていうのはな!この世界が大変ちいせぇい、狭めぇ閉じられた空間でやがるからだ。

 海はとてつもねぇ流れの速い海流に囲まれ、例え泳ぎの得意な魚でもその流れに逆らってこの世界の外から泳いで中へ入ることはできねぇし、また空も乱気流が取り巻き、厚い雷雲に覆われいやがって、やはり中へ入ることはできないてんだ。

 ただあっしの知る限りでは、2つだけ外の世界からの入り口がありやがるんだ。

 一つは海中の洞窟、あっしはそこから来た。

 ただその洞窟を行くのも簡単じゃねぇえんだぞ。迷路のような道や途中水のない場所を飛び越えていかなくてはいけねぇえんだ。

 なかなか「神様の忘れ物」には辿り着けねえって寸法だ。

 それで、もう一つの入り口ってのは、空にあるようだぜ。なんでも嵐と嵐がぶつかった時にできやがる、無風のトンネルってのをくぐってこなくちゃならねぇって話だ。

 よほどの空の熟練者でないと到達できねえだろうな」

 譲は源の話の半分ほどしか理解できませんでしたが、「神様の忘れ物」の特別な存在を改めて意識しました。そしてなぜ自分がここへ来ることが出来たのか?アルベルトが前に言った譲のすべきこととはなにか?についてまyた考えました。

 

 一体どうして僕がこんなところにこれたのだろう?

 

 しかし、答えが出る前、譲の意識は海へもどされました。それだけ海の世界は刺激的だったのです。

 海流に乗ると源はゆっくりと譲の手を離した。

「ユズ、海の中にはこんなに流れがいっぱいあるんだぞ!てやんでぇ!知ってやがったか?」

「すごいね、楽チンだ!」

 譲は源に教わったわけでもないのに上手に浮力を調整して水中遊泳を楽しんでいます。

 二人は水中を源の提案で上を見て流れることにした。きれいな水のカーテン越しに見る太陽は、空と違いやさしく滲んで輝いていました。

 フワフワ流されていると「よし、一度水面にでるぞ」と言うと、源は譲の手をとり水面へ向かい浮上しました。

 水面から顔を出して島の方を振り返ると、二人は島から随分と離れていました。海岸にいるはずのアルベルトを見つけることが出来ないほど沖に流されていました。

「どうだ、想像以上に遠くに来てるだろう?海流ってのは意外と早いもんなんでやがるからね」

 源は言いながら、今度は後ろを見るように譲の肩を叩い手知らせました。


「そして、こっから先の海は今までとは別もの。さっきとは比べ物にならねぇえぐれいの早い海流渦巻く、荒海でぇえい。どうだ、水面から見ればよくわかるだろ?」

 源の言うとおり、海面に線こそないがここから先は全く海流の異なる海でした。まるで鳴門のように海流が渦巻いていて見るからに荒海でした。


「すごいね」

 譲は渦巻きを見つめながらつぶやきました。

「さすがにこの先は危険でぇい、さあ、島へもどるぞ」

 源は言うと、二人でまた海中へと戻りました。

 源は譲に尾びれ(足)に掴まるよう言い、今度は少しスピードを上げて泳ぎ始めました。

 源は海底に向かい泳ぎました。少しづつ暗くなりますが、不思議と怖さは感じません。しばらく潜ると源はワカメの密集地に着き、譲へ振り返るとアルベルトの真似をして「ユズ、ともに戦わん!でやがるな」とわざとらしく言いました。

 譲も「おう、ともに戦わん!だね」と笑顔で答えました。

 それから二人はワカメの間を縫うように進みます。

「うげ~ぬめぬめ」

「か、絡み付く~」

 二人でふざけあい、大笑いをしました。

 そして一本ワカメを抜き取りアルベルトへの土産に持ち帰ることとしました。

 その後も二人は大きな岩と岩で出来た洞窟をくぐったり、わざと海流に逆らって泳いだりして帰りました。

 海はアルベルトの想像どおり冒険の宝庫だと譲は素直に思いました。


 間もなくして二人はアルベルトの待つ南の海岸へ戻りました。

 アルベルトは譲達を見るなり、やはり「どうでしたか?」と目を輝かせながら尋ねてきました。

 譲は右手でブイサインを作りながら「すごいよ、海は冒険だらけだよ!」と答えました。

それから「はい、とってきた財宝あげる」といたずらっぽく笑いアルベルトに先ほど採ってきたワカメを差し出しました。

「ざ、財宝ですか?」

 一瞬目を輝かせたアルベルトでしたがワカメを見ると「な、なんですかこのおぞましい、緑色の物体は!」と叫び声をあげました。

 譲と源が二人で笑いをこらえながら、「これが海の魔物ワカメだよ」と教えると「なるほど、ワカメは厄介なものですね。このぬめぬめ。しかし、これしきのことではこのアルベルトを冒険から遠ざけることはできませんぞ!」と言うとアルベルトはワカメをかぷっとひと噛みしました。


もぐもぐ、ごっくん。


「いや」アルベルトは目を見開きながら続けます、「このワカメ外見の醜悪さにだまされましたが、なかなかいけるものですね。

もぐもぐ、ごっくん。

 ほっほっほー、早速、海の魔物も克服しました、さすが私。だれも私の冒険は止められないようですね」そう言うと得意げに笑いました。

 譲と源はそれを見ると、「すごい!よくやった」と喜び合いました。


 その後3人はこれからの特訓の計画について話し合いました。

 アルベルトはすでにかなり泳げるようになっていようでした。ただ羽毛が空気を多く確保してしまうため体が浮いてしって、上手く潜ることができないそうです。そのため、とりあえずは潜る練習と息を長く止める練習をしようと決めました。

 そして源は猛特訓の成果で空で息をする方法を独自で編み出したそうです。しかし、空を飛ぶこと自体がまだまったく出来ない状態でした。

 20日間という限られた時間の中でそれぞれが成功を掴むため時間の割り振りを決め直すのが必要だとアルベルトが提案しました。

 今まで一日交代で特訓をしていたのですが、進行状況から考えてアルベルトが1日特訓したら源が2日するというようにしようと言う内容でした。

 しかし、それでは申し訳がないと源が言い出し、せめてお互い毎日特訓できるよにしようっと1日の内の特訓時間をアルベルトが1に対して源が2でするようにと決めました。

 そこまで話したところでアルベルトが「今日はここまでにして、そろそろ寝ることとしましょうか?」と切り出し、3人は寝床に向かいました。


 まず源が海に飛びこみ「また明日な!それじゃあ、おやすみ、アル、ユズ!」と言い海中へ消えていきました。

 その後、アルベルトと譲は昨日と同様にゲストハウスに入りそれぞれの寝床につきました。

 譲はまた一人で月明かりを眺めて眠るのだと思い、干し草のベットに潜りこみましたが、今日は昨夜と違いアルベルトが話かけてきました。

「今日はよく、帰って来てくれましたね、ユズ。

 昨日は夜になったとたんにもう帰ってこないかもなんて考え出してしまい、ユズと喋るのがつらくなってしまったものですから少々素っ気なくしてしまってすみませんでした。初めての夜は怖かったでしょうに。

 そうそう、ユズは気づかなかったでしょうけど、あの源も同じだったのですよ。その証拠に昨日は「また明日!」って言わなかったのに今日はうれしそうにまた明日ですって、意外と神経質な面もあるのですね、あの源にも」

 譲は笑いながら「僕もね、今日会えてすごくうれしい!本当にもう会えないかもなんて考えて昨日家で泣いちゃったんだ。でもなんで帰って来れてのかは、正直わかんないんだ」と言いました。

「やはりユズにもここでやるべきことがあるのでしょうかね?私達のように海を冒険したいとか、空を飛びたいとか。そうだ、ユズの夢はなんですか?」

 そういわれて譲はお昼に和也達に同じように質問されたことを思い出しながら「違うかもしれないけど、ウルトラライダー」と少し小さな声で答えました。

「うるとららいだあ?それはなんですか?」

 アルベルトは首をかしげました。譲はまた答えを間違えたと思いうなだれましたが、アルベルトが「売る虎?ライター?虎ではなさそうですね?」っと見当違いなことをつぶやき始めたので譲は、今回は答えを間違えたのではなかったのだと安心してアルベルトにウルトラライダーについて説明しました。

「ウルトラライダーは変身ヒーローで地球を悪者から守っているんだ。大きな、大きな怪獣を相手に戦うの!ウルトラライダーはこの島のどの木より大きくてね、アルベルトと同じくらい早く飛べて、そんですごく、すごく強いんだよ!」

「ほっほー。それはすばらしい。してユズはそのウルトラライダー殿のどこが一番好きなのですかな?」

「一番?全部だよ、僕はウルトラライダーの全部が好きなの」

 アルベルトは少し困った顔をしました。

「う~ん、そういう意味ではなくてですね。ユズはウルトラライダー本人になりたいのですか?ウルトラライダーのどこかに惹かれているのではないのですか?」

 そう言われて譲も少し困った顔になり「ううん。僕はウルトラライダーになりたいの」と答え、そして続けて「そんなのはダメかな?」と聞いみました。

 アルベルトは天井の梁から窓の枠に飛び移ると「ユズ、世の中にダメなことなどはないのですよ。」優しく諭すような声で言いました。

「ただね、考えてみてください。例えばユズの友達のだれかが、ユズのことが大好きでね。ある日「僕は譲になる」なんて言い出したら、どうですか?ユズのママやパパ、友達、そしてユズも困ってしまいませんか?それにユズになった友達も今までの自分を全部捨ててしまうことになってしまいますよ。う~ん、言っていること分かりますかな?少し難しい話ですかな?」

 暗闇の中ですが、譲にはアルベルトの優しい顔が見えるような気がしました。

「ううん、わかるよ。でもそうしたら僕はどうしたらいいのかな?」

 譲はアルベルトと自分の心に聞くように答えました。

「僕はウルトラライダーのどこが一番すきなのかな?」っと。

かっこいいところ?いつも怪獣を倒すところ?

「まずはどんな自分になりたいか?自分を決めてみることです。私や源のすべきことも自分を作るために必要なことなのですよ」

「なんだか難しいね。よくわかんないや」

 譲は素直に答えました。

「そうですね、難しいことですね。だからすぐに答えがでなくてもいいと私は思います。ゆっくり考えていけばいいと思いますよ。とりあえずユズ!明日からは私達の応援をしてくださいね」

 アルベルトが勇気付けるよう話し掛けけてくれます。

 譲は「うん、もちろん。だけど僕もアルや源みたいになにかに頑張りたいな」そういいながら譲はあくびをしました。

 なんだか急に眠気に襲われます。譲が眠りに落ちていくのに気がついたアルベルトは「おやすみ、ユズ。また戻ってきてくださいよ」と慌てて言いました。

 譲は返事をするより早く眠りに落ちて行きました。譲はまた元の世界に帰っていくのでしょう。

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